46話 この世ならざる場所と繋がっている寮です
生徒会室の掃除を終えて、学生寮に帰ってくる。
食堂のほうから楽しげな声が聞こえてきた。
様子を覗くと立石さんはまだいるみたいで会長と談話している。
「あ、鈴木くん! 立石さんも夕食食べていくって。作ってあげて」
「いいのかなあ。それ」
「いいのいいの」
人には規則にうるさいのに、自分では破るのか。
会長が僕に耳打ちした。
「こはる荘に入るかもよ」
「なんだって!」
会長とも話したことがある。
こはる荘はともかく稼働率が悪い。
ぼろぼろだしね。
「このままだと廃止にさせられちゃうかもって言ってたじゃない」
「まあ先輩が卒業したら三人になりますしね。そして木野先輩が卒業したり、僕と美夕さんだけ……」
いつ廃止されてもおかしくなさそうだ。
「立石さん、一人暮らしいいなあって言ってたから気に入れば寮生になるかもよ」
「じゃあ腕をふるいますか」
寮生になればさすがに友達になれるだろう。
「異世界人たちが来ないようにしといてよ」
「そうですね。わかりました」
自分の部屋に戻る。
「ご主人さま、おかえりなさい!」
「ただいま~」
白スライムのシズクが出迎えてくれる。
「今日はさ。うちのクラスの立石さんがお客様として寮に来てるんだ」
「それはおもてなししなければ」
シズクはおもてなしという言葉にハマっている。
「でも日本にはモンスターがいないって話したろ」
「はい! トオル様の服になって学校に行った時もいませんでした」
「だからモンスターや異世界人をみたらびっくりしちゃうと思うんだ」
「わかりました! 部屋に隠れていればいいんですね」
「うん。ごめんね。せっかくおもてなししてくれようとしたのに」
「いいんです! 寮の仲間になってくれるといいですね!」
シズクは賢い。
すぐに理解してくれた。
しかし、すぐ理解してくれない人?もいる。
僕は美夕さんの部屋に行った。
「美夕さん美夕さん!」
ガチャリとドアが開く。
「どうしたの?」
「マミマミさんいる?」
「真神の間にいるんじゃないかな」
マミマミさんはニホンオオカミの神、真神……と本人が言っている。
真神の間とはダンジョンのなかの森の空間だ。
「そっか。じゃあ美夕さんの押し入れのドア開けなければマミマミさんは寮に来れないね」
「どうしたの?」
「ウチのクラスの立石さんが寮で夕食を食べるんだよ」
「ええっ?」
「上手くいけば寮の稼働率が上がるかも」
「なるほど」
「じゃあ、僕は夕飯作ってくるね」
「うん」
美夕さんと別れてキッチンに行く。
既に木野先輩がいた。
木野先輩は二年生の先輩だ。
ダンジョンで勝手にキノコを栽培していたキノコオタクだ。
髪型までキノコカットにしなくてもいいのに。
「やあ、鈴木氏」
「木野先輩。今日はお客様が来ます」
「お、お客様でござるか?」
「ウチのクラスの生徒で」
「あ~今、食堂で会長と話している女生徒?」
「です。僕のクラスの立石さんっていうんだけど、一人暮らしに憧れているって」
「おお。ならひょっとして寮の仲間に?」
「ええ」
木野先輩がダンジョン栽培したキノコを切りはじめる。
普段より三割増しで気合が入っている。
よーし僕も作りますか。
先輩のマッシュルームもあるから、今日はビーフシチューにしよう。
◆◆◆
「わ~すっごい美味しい!」
「ありがとう」
立石さんが僕のビーフシチューをスプーンでしきりに口に入れていた。
「このビーフシチュー鈴木くんが作ったの!?」
ちょっと照れるので誤魔化す。
「木野先輩が手伝ってくれたんだよ」
「ほとんど鈴木氏でござるよ」
「鈴木くんのご飯はいつも美味しいよ」
木野先輩も会長も褒めてくれる。
美夕さんもうんうんと頷いている。
美夕さんもうんうんと頷いている。
「ところで会長と立石さんって知り合いだったの?」
「うん。私、ジョナデリアでバイトしてるんだけど六乃宮先輩はバイトでも先輩なの」
そういうことか。
それにしても会長はカラオケのバイトもしていたぞ。
お嬢様なのに一体いくつ掛け持ちしてるんだ。
「私友達がいないから寮の仲間が羨ましいなあ」
立石さんの言葉に寮生の全員がピクリと反応した。
「わ、私は?」
会長が聞いた。
「先輩は先輩じゃないですか。友達とは違いますよ~」
「そ、そう……」
会長は明らかに凹んでいる。
「僕は?」
「鈴木くんは男の子じゃない」
そ、そうですよね。
どうやらこの寮で生活してるものは友達ができないという呪いにかかるようだ。
やっぱお祓いしてもらおうか。
あれ?
「狐神さんは友達じゃないの?」
立石さんと狐神さんがいつも一緒にいるのは有名な話だ。
友達ではないんだろうか。
「私は友達になりたいんだけどいつも寺と神社のことで喧嘩になっちゃって」
なるほどね。
素直になれないってわけだ。
「お父さんは破~!ってできるけど私は寺生まれなのに霊感なんか全然無くて。でも狐神さんに対抗しちゃうんだよね」
「まるで狐神さんは本当に霊感あるみたいな口ぶりだね。この寮に霊なんていないことわかったでしょ?」
「そうね~幽霊がいそうな気配なんて全然ないね~」
僕や会長が深くうんうんと頷く。
困らされてるのは幽霊ではなく、異世界人だ。
「でも狐神さんは明日の天気とか地震とか当てるんだよ?」
「へ~」
女子高生のゲームみたいなもんじゃないだろうか。
それを立石さんが信じているのだ。
こはる荘の悪い噂が立つから止めてもらおう。
「狐神さん、学生寮はこの世ならざる場所と繋がっているって言ってたよ」
「え? 幽霊じゃないの?」
「私は幽霊のことかと思ったけど」
そういえば立石さんは幽霊と言っていたが、狐神さんは幽霊とは一言も言ってない。
この世ならざる場所って異世界のことなのか?
まさかな……。
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