45話 寺生まれのTさん
立石さんに右腕を掴まれ、狐神さんに左腕を掴まれる。
二人が左右に僕を引っ張り出した。
これは両手に花というやつではないだろうか。
可愛い子二人から引っ張られるのは悪くない。
女の子の力なら痛くないだろうし……って、痛ててててててててて。
立石さんは痛くないが、狐神さんは普通にめっちゃ痛いんですけど。
左手側に倒れてしまいそうだ。
僕はダンジョンでレベル上げして体力テストでも好成績を取ったのに何故?
「わ、わかりました。寺と神社に助けてもらいますから」
行けばいいんだろう行けば。
早く離して。
「寺が先~」
「神社だ~」
痛たたたたたた。
「ジャンケンして!」
二人が思いついたようにパッと腕を話す。
左腕の狐神さんのほうに引っ張られないように耐えていたから右腕の立石さんのほうに倒れ込むのをなんとか耐える。
「「ジャンケーン、ポン!」」
「「アイコーデショ」」
もうアイコが5回ほど続いている。
仲がいいんだか悪いんだか。
「やったー勝った! 寺の勝ちだ!」
10回以上のアイコ合戦の果てに勝利したのは立石さんらしい。
「寺が勝ったわけじゃない」
「寺の力が霊との戦いという運命をもぎ取ったのよ」
霊なんかいないし、運命ってジャンケンじゃないか。
「どうせ寮の問題は寺では解決できない。せいぜい気をつけなさい」
「ふふふ。狐神さんがまた負け惜しみを」
立石さんは満足そうだ。
こはる荘の問題は寺でも神社でも解決できないと思うけどね。
あの問題児たちに言うことをきかすのはどうしたらいいんだろうか。
「じゃあ鈴木くん。放課後は私に付き合ってね」
「はいはい。え?」
付き合って?
そういう意味じゃないと思うが、ともかく一緒にいるってことだよな。
それってこんな可愛い子と友達になれるかもしれないじゃないか。
ついに僕もクラスメートに友達ができるのか?
ちょっと変わってるけど。
◆◆◆
放課後、立石さんと狐神さんが僕の席の前に来た。
「どうしてアナタまで来るの?」
「ふっ。お手並み拝見と思ったけど、見る価値も無さそうだな帰る」
狐神さんは自分の机に戻って教科書をかばんに詰める。
帰る準備をはじめた。
なんだかマミマミさんと話し方が似ている気もする。
あんなに時代がかった言葉ではないけど雰囲気とか行動とか。
「か、帰るの~?」
「そう言ってるでしょ」
狐神さんはスタスタと去って行った。
ジャンケンに勝った立石さんと残される。
「で、どうするの?」
取り憑いた霊を払うってどうするつもりなんだろう。
「そ、そうね。まずは寮に行かないのとね」
「え?」
「なに?」
「いや別に」
寮に来るのか?
寮の幽霊に取り憑かれていると言われているのだから、当然の流れだけど。
異世界人たちのとばったりなんてことはないだろうか。
……大丈夫か。
異世界人たちだって日本のエリアに勝手には入りこんで来ないだろう。
多分、きっと。
僕は立石さんと寮に向かって歩く。
教室を出て廊下に、そして玄関へ。
ずっと無言だった。
正直、気まずい。
「さあこーい。ピッチャー」
校舎を出るとまだ日が昇っていて野球部が活動していた。
「そういえば立石さんの部活ってなに? 僕は入ってないんだけど」
「え? あ、部活って言った? 帰宅部」
「そうなんだ。僕と同じだね」
「そうね」
会話は一瞬で終わった。
おかしいな。
コミュニケーションには相手との共通項を探せば盛り上がるとネットには書いてあったんだけど。
帰宅部談義が盛り上がらなかった。
それどころか立石さんの声はどうも重苦しい。
こはる荘は学園の敷地の端にある。
すぐに着いた。
「しょ、瘴気が凄い」
「瘴気? そんなの出てる?」
ただ古くて外観が汚れてるだけだと思うけど。
中はちょんと綺麗にしている。
「中の構造はどうなってるの?」
「どうなってるのって言われても。食堂、キッチン、洗濯室、浴室、寮生の個室があって」
ついでにマミマミさんが寝ている森のダンジョンがあったり、きのこを栽培しているダンジョンもある。
「個室? 鈴木くんの部屋には行かないから」
最初から頼んでないのに。
大体、僕の部屋に入ったら少なくともシズクがいる。
むじろ絶対入れたくなくない。
「それでいいよ。じゃあ行こうか」
「待って。すぐに入るのは危険よ」
危険もなにも僕は毎日ここで生活してるんだけど。
「どうするのさ?」
「とにかくちょっと待って」
「なにを待つのさ」
「えっと、その霊に対抗できる気を……」
「気???」
「いいから。ためるから待って」
世の中には自分が想像もつかないものもある。
異世界やダンジョンだってこの寮に来るまで存在を信じていなかった。
あるのか? 気も。
………………。
…………。
……。
「あの……気、たまった?」
「ちょっと話しかけるから集中できない」
「ご、ごめん」
どう見ても目をつぶって棒立ちしてるだけに見えるんだけど。
でも邪魔しないようにするか。
日が少し陰ってきた。
「30分ぐらい経ったよ」
「早く言ってよ」
「え?」
「ちょっと暗くなってきてさらに怖くなってるじゃないの」
「えええええ」
除霊をする人が怖がってどうする。
っていうか微妙に震えてるけど、もう初夏だぞ。
ひょっとして怖かったのか?
「早く入って帰ろう。鈴木くん、先に行って」
立石さんは僕の方に手を乗せて押しはじめた。
助けてくれるんじゃないの?
僕は盾なのか? 盾なのか?
「あれ? あやめちゃん、鈴木くん、どうしたの?」
急に声をかけられ振り返ると会長がいた。
あやめ? ああ、立石さんの名前か。
「六乃宮先輩! どうしたんですか? こんなところで」
え? 立石さんって会長と知り合いなのか。
「だって私、ここの寮生だもん」
「えええ~先輩はこんなところに住んでいるんですか! 幽霊が出るって噂ですよ」
噂? あんな確信のように幽霊が出るって言っていたのに?
「幽霊? 幽霊なんか出ないわよ」
「私も鈴木くんもピンピンしてるじゃない」
「でも鈴木くん凄いクマで。狐神さんも寮は危ないって言っていたし」
会長が僕の顔を見る。
「あ~鈴木くんは毎晩毎晩いかがわしいことをしているから」
「ちょっとその言い方は誤解されるって」
「そんなことより生徒会室の掃除はどうしたの?」
立石さんと狐神さんの幽霊騒ぎで完全に忘れていた。
「忘れてました。すぐ行ってきます!」
「夕食もあるんだから急ぎなさい」
走って生徒会室に戻る。
それにしても会長と立石さんはどこで知り合ったんだろう。
会長も全然友達いないのになあ。
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