42話 ストロングバースト(ストリーム)!
トンスキホーテから帰ってきた僕と美夕さんは買ってきたものをマミマミさんとシズクに見せる。
「こ、これはなんだ?」
ふふふ。マミマミさんはこんなものは見たこともないだろう。
「これこそ秘密兵器! ストロングバースト!」
「ストロングバースト?」
「まあ見てください」
要は水鉄砲の商品名なのだが、水鉄砲と言ってもマミマミさんにはわからないだろう。
ストロングバーストの給水タンクにドクペを注いでいく。
準備完了!
僕はタンク容量5・8リットルの巨大水鉄砲を抱えて、ダンジョンにつながる鉄の扉の前に立った。
「行きますよ!」
「お、おう」
「は、はい!」
マミマミさんとシズクが緊張した面持ちで僕を見ている。
僕と美夕さんには確信がある。
今度は鉄のドアを全開放した。
辺り一面のお化けキノコが一斉にこちらを向く。
「今だ!」
お化けキノコたちより、やや斜め上に照準を定めてトリガーを引いた。
ストロングバーストから噴射されたドクペのレーザーが一瞬でお化けキノコの群れを枯らしていく。
お化けキノコたちは数の力に頼ってもまったく近寄れなかった。
むしろドア付近から半円状にお化けキノコを溶け枯らして陣地を獲得していく。
「おぉぉぉぉ!」
「うわぁ~~~!」
マミマミさんとシズクが言葉にならない感嘆の声をあげていた。
「ふふふ。まだまだ~!」
ストロングバーストの照準をさらに上にしてドクペを空中で散らし一気に狩っていく。
百匹以上は間違いなくやったかなというところで、一旦部屋に戻って鉄のドアを閉める。
「やったね」
「うん。これなら安全にいくらでも倒せるね。安心したよ」
美夕さんは感想を言ってくれたけど、シズクとマミマミさんは目を見開いて固まっている。
「どうしたの?」
「ワ、ワシにもやらせてくれ!」
「わ、私も少しだけやりたいです!」
な、なんだそういうことか。
「わかったわかった。でも僕がレベルを上げてからね」
二人が思いっきり首を縦に上下させている。
「ドクペの原液だとお金がかかるし、レッドドックみたいに薄めても大丈夫なんじゃないかな。この調子なら苗床にもっとレッドドックをかけてお化けキノコを増やしたほうがいいかも」
まだまだ調整する必要がありそうだ。
ベストな調整をするのはかなりの時間がかかった。
ドクペの最適な濃度が15%であることを発見したり、苗床にもう一度レッドドックをかけたり。
完全なお化けキノコ狩りのルーチンを完成させたのはお昼を挟んで午後二時ぐらいになってしまった。
だが、見事に無双状態だ。
「す、すっげー! ワシにもやらせろ!」
「ご主人様、すごい! 私もやりたいです」
シズクとマミマミさんは何度見ても感動するようだ。
「遊びでやっているんじゃないんだよ。僕のレベルが上がったらね。ん? おおおおお!」
ルーチンが完成して三往復目、お化けキノコ撃破の数は一千近く、ついに体から力が溢れる感覚が起きる。
「や、やった! ついにレベルが上がったぞ!」
レベルが上がったことを叫ぶと、開け放っているドアのほうから歓声があがる。
僕はそのままキノコが発生する苗床もストロングバーストで枯れさせた。
残ったキノコも掃除していく。
「なにをしているの?」
美夕さんの声が後ろから聞こえる。
キノコの苗床まで破壊したから驚いたのだろう。
「ダンジョン側のこの部屋にゲートを作るんだよ。よし!」
お化けキノコを一匹残らず掃討した。
「後はスキルでゲートを作って、と……」
ちょっと不安だったが、異世界側のゲートは作ることができた。
「よし! 美夕さん、すぐに学校側からゲートをつないでくるから」
美夕さんには後ろを向いてもらってすぐに学生服に着替える。
「よし、じゃあ学校に行ってきます」
「う、うん。頑張ってね」
こはる荘は学校の敷地の端にある。
グラウンドを横切って校舎に入る。
廊下に着くとちょうどクラスメイトが教室から出るところだった。
間にあわなかったか……。
ほとんど話したこともない稲岸くんが驚いて話しかけてきた。
「す、鈴木、どうしたんだよ?」
「ちょ、ちょっと寝坊しちゃってさ」
「そりゃ見事な寝坊だなあ。今日の学校はもう終わっちゃったぞ」
「え? 早くない?」
「体力テストがスムーズにいったみたいでさ」
「た、体力テスト……終わっちゃったのか」
苦労してレベルを上げたのに。
でも、これでいい。美夕さんがこはる荘から出ていかなくて済んだなら一番だ。
単純に冒険も楽しかったし、おかげで寮生のみんなや異世界のモンスターや冒険者とも仲よくなれた。
プライスレスさ……。
「げ、元気出せよ」
いいこともあったと無理やり自分を納得させたが、やはり落ち込んだ顔をしていたのだろう。
稲岸くんが慰めてくれる。
「今日休んだお前と美夕さんには別の日に受けさせるって先生が言っていたような」
「ホ、ホント?」
「え? ああ……確か」
や、やった!
まだ体力テストが受けられるかもしれない。
「稲岸くん! ありがとう!」
「お、おう」
お礼を言って稲岸くんと別れる。
とりあえず今は人に見られずに移動できるゲートを学校に作ろう。
場所については候補がある。
僕は校舎の階段を駆け上がった。
そしてある部屋の前に着いた。
「生徒会室。ここ、ここ」
生徒会室は閉まっていた。
ウチの学校は生徒会長が副会長や会計や庶務を指名する制度になっている。
今年度、あの会長はまだ誰も指名していないから、この部屋を使うのは六乃宮姫子会長だけなのだ。
鍵は彼女が持っている。
「あれ? 鈴木くん、こんなところでどうしたの?」
「会長! 生徒会室に入れてください!」
「え? あっ。ひょっとして鈴木くん……生徒会役員になってくれるの? 助かるわ!」
会長は訳のわからないことを言っている。
僕も唐突だったかもしれない。
「いや、そうじゃなくて。美夕さんを助けるためなんです。とにかく生徒会室に入れてください!」
「な、なにか、相談があるのね」
少し誤解はされたけど、生徒会室には入れてくれた。
「そ、それで相談って?」
生徒会室は外から見られることもなく、急に誰かが入ってくることもなさそうだ。
「見ていてください」
寮生で会長だけが仲間外れというのも可哀想だったからちょうどいい。
会長もシズクや美夕さんのことを話せば、きっと協力してくれる。
生徒会室の壁にドアを作って開いた。
「な、なに? え? 何処ここ? レイちゃん?」
「ひ、姫子先輩? トオルくん、生徒会室につないだの?」
◆ ◆ ◆
その日の夜、僕の部屋はぎゅうぎゅう詰めになっていた。
マミマミさんとシズクはストロングバーストで遊んでいる。
木野先輩は二人のためにドクペに水を混ぜている。
暇だったから遊びにきたというディートとリアが畳の感触に驚いている。
そして僕と美夕さんは会長に説明を続けていた。
「大体、理解したわ。話を聞いただけじゃ信じられなかったけど、見せられたら信じるしかないし」
「今まで隠していてすいませんでした」
「そうね。鈴木くんはこはる荘の管理人なのに、いろいろルール違反していたみたいだし」
「ううう。でも僕たち以外の人に話さないでください。公になったら寮がなくなってしまいます」
もし、こんなことが公になったら大変なことになる。
少なくともこはる荘はなくなってしまうだろう。
「言うわけないでしょ。こはる荘がなくなったらレイちゃんだって学校にも行けなくなって困るでしょ」
「よかった。ひょっとして会長は大金持ちだからこんな寮なくなったって構わないかもしれないと」
「ひどいわね! 私だってアナタたちがいるこはる荘がなくなったら悲しいわよ!」
会長はルールには厳格な人だけど、冷たい人ではないことは知っていた。
ところが、急に会長ににらまれてしまう。
「ところで真神さんやディートさんやアリアさんの格好はなんなの!?」
マミマミさんとディートとリアがなんのことだろうと首をひねる。
僕は会長のいいたいことがすぐにわかった。
「服がエッチ過ぎます!」
Yシャツにパンツという三人がぶ~ぶ~と文句をいう。
マミマミさんは裸Yシャツが気に入っていて、ディートとリアはそのマミマミさんの格好を日本人の服装かと思って真似をしている。
っていうか僕が提供できる服がYシャツしかなかったからね。
「こはる荘は遊び場じゃないのよ。さすがにカオスすぎ!」
僕は会長が帰ってから、もう一台ストロングバーストを購入して彼女たちと水のかけあいをしようかなどと考えている。
「管理人として同意します。僕が注意しておきますので……」
「まあ、いいわ。ちょうど夕飯時だし、みんなでご飯にしましょう」
「あ、いいですね」
会長は思ったよりも頭が柔らかいようだ。
僕は夕飯を用意しようと立ち上がった。
「夕飯を食べながら、私がみんなに日本の常識を教えるわ」
ううう。会長……大丈夫かな。
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