41話 最後の鍵
「一進一退かな~。集団にやられちゃって時間をロスしてしまうのが大きいなあ」
マミマミさんに回復してもらい、シズクが作ってくれた遅い朝ご飯を食べながら、現状を話した。
「それでもオオムカデを一匹一匹狩るのよりは、はるかに効率がいいだろう」
マミマミさんが励ましてくれる。
「ホント、私のためにありがとうね」
「それはレベルが上がってからでいいよ」
時間は午前十時。学校はもうはじまっている。
木野先輩は学校に行っている。
そして美夕さんは今日も快晴なので学校に行けなかった。
進級するための出席日数はまた一歩削られてしまった。
一刻も早くダンジョンと学校をつなげるゲートを作らなければならない。
「最初はひょっとしたら午前中でいけるかもと思ったんだけどなあ」
お化けキノコ集団にやられてしまう時間が大きなロスになっていた。
マミマミさんが助けてくれるからなんとかなってはいるけど、助けてもらったり、回復したりと、時間をロスしてしまう。
「お化けキノコの数が多すぎるんじゃない?」
美夕さんが心配してくれる。
狩り続けられて、なおかつ集団でやられないぐらいの量に、お化けキノコを調整できればということだろう。
「でも調整が難しいんだよね」
そもそも苗床からキノコが出てくる量は、木野先輩が逃げ回りながら調整してくれたものだった。
今、こうやって休憩している最中にも苗床からはポコポコと新しいお化けキノコが生まれている。
「そっか。じゃあせめてこれを飲んで」
美夕さんが差し出したのはピラクルだった。
「え?」
「敏捷が上昇するから」
「あ~そっか。ありがとう」
美夕さんはいろいろな飲み物の効果をメモってくれていたのだ。
「ワシもジュース飲みたい。持ってきてくれ」
美夕さんは実験の飲み残しや余ったジュースを僕の部屋の冷蔵庫にいくつか移してくれていたようだ。
マミマミさんの前にコーラ、いちごオーレ、ゲットレイダー、ドクターペティーなどの飲み物が置かれる。
どんな効果があるんだろうとふと気になった。
「美夕さん。ちょっとメモを見せてもらってもいい?」
「うん。いいよ」
僕はピラクルを飲みながらメモを見せてもらうことにした。
メモにはそれぞれの飲み物の効果が綺麗にまとまっている。
「コーラは解毒剤と。これは知っている。いちごオーレは体力を上げるのか」
他の飲み物もすべてまとめてあるようだ。
かなり大変だったろうな。自分で飲まなきゃ調べられないし、一口ずつでも、この量を飲むのは大変だぞ。
感謝しながら、読み進める。
午前ティーは植物の成長促進効果で、ゲットレイダーはなんの効果もなし、ドクターペティーはキノコを枯れさせる。
ん? キノコを枯れさせる?
僕はマミマミさんのほうを振り向いた。
今まさにドクターペティーを飲もうとしていた。
「日本のジュースはどれも美味いな。これも飲もっと」
「ストオオオオップ!!!」
「うお、なんだ。急に大きな声をあげおってからに」
僕はマミマミさんが持っているドクペのペットボトルを手に取った。
「これだ! これでいけるかも!」
「なんだ? 返せ!」
僕はペットボトルを思いっきり振ってお化けキノコがあふれるダンジョンの部屋につながる鉄のドアを開けた。
炭酸が吹き出る勢いを使って、お化けキノコたちにドクペをぶちまける。
「あ~なにをするんだ~。え?」
マミマミさんの不満の声が途中から驚きに変わっていた。
こちらに殺到してきたお化けキノコがシュシュシュと消えるように小さくなっていったのだから。
鉄のドアをゆっくりと閉めた。
「一瞬で五匹以上はやっつけたな」
「その飲み物は……ひょっとしてキノコの苗床をダメにした?」
マミマミさんも気がついたようだ。
「当たり!」
「か、考えたなあ……」
マミマミさんが感心する。
「トオルくん。ビックリした。そっかドクペか」
「さすがご主人様です!」
美夕さんとシズクも驚いたようだ。
僕自身も驚いている。
しかし、僕はさらにみんなを驚かせる方法を思いついている。
「ドクペはトンスキホーテで売っていたんだっけ。さっそく買いに行こう」
「ドクペ以外にも買うものがあるよ!」
美夕さんはドクペだけを買おうとしているようだが、アレを買えば、もっと効率よくお化けキノコを狩れるはずだ。