40話 増殖には成功したが
「ダメか。コンビニで有名そうなのはほとんど試したぞ」
しかし、キノコの成長促進効果がある飲料は見つからなかった。
「もう午前二時になっちゃったね」
明日は学校があるのに木野先輩もつきあってくれている。
「トオルくん、木野くん、私のためにごめんなさい。マーちゃんもシズクちゃんも。今日はこれぐらいにしない?」
「いや一日だって無駄にできないよ」
「でも……正直、明日は学校でしょ? トオルくんは体力テストでいい結果を出すために頑張ってたんだし、もう寝たほうが」
「ど、どうしてそれを?」
「頭を打って倒れた時に言っていたよ。努力家なんだね」
ど、努力家と受け取ってくれたか。
まあ友達が欲しいからという理由は知られてないだろうしね。
それはともかく……。
体力テストなんかより、美夕さんがこはる荘にいられることのほうが大事だ。
一日でも早くダンジョンと学校をゲートでつなぎたい。
運がよければ、明日から雨の日が続いて、美夕さんが学校に行けるかもしれない。
その間にお化けキノコでレベルを上げれば、問題は解決する。
でもそんな可能性は低いし、明日の天気は生憎の晴れという予報だ。
「僕はレベルアップに費やさないといけないから、学校は休むつもりだよ。美夕さんは曇りや雨だったら絶対学校に行ってね」
僕がそう言うと木野先輩も学校に行くまではギリギリまでつきあうと言ってくれた。
シズクもマミマミさんも最後まで手伝ってくれるらしい。
「ありがと」
美夕さんがまた涙を拭う。
「みんながそこまでしてくれるなら考えがあるんだけど」
「なにかいい考えがあるの?」
「いい考えってほどのことじゃないんだけどトンスキホーテに行ったらいいんじゃない?」
「あ~なるほど」
確かに総合ディスカウントショップのトンスキホーテなら取り扱っている商品も多い。
見たことのないような商品を扱っている場合もある。今ならまだ営業時間内だ。
「ともかく行ってみよう」
一時間後、また大量のややマニアックな飲料が揃った。
ナポレオン黄帝液、ゲットレイダー、ドクターペティー、モンスターエネルギー、レッドドックetc。
ナポレオン黄帝液。高いのから安いのまである。安いのを買ってきたがダメ。
ゲットレイダー。二十六世紀はおバカだらけになってしまうというアメリカ映画では、水の代わりに畑作に使われていたスポーツドリンク。ひょっとしたらと思ったけど映画と同じくダメ。
ドクターペティー。正直あまり美味い飲料とは言えないが、好きな人には中毒性もあるらしくいろんなアニメでネタ的に使われる。キノコにはどうか?
「うお。逆に枯れはじめたぞ!? 苗床が一個死んだかも……最悪だな」
他のいろいろなドリンクも使ったが、ことごとくダメだった。
辺りには空になったペットボトルやら缶やら瓶が転がり出す。
全滅かもしれない。ほとんどかあるいは全部調べたと思う。
「キノコ栽培作戦は方針変更かもな」
美夕さんは散らかったゴミを片づけはじめた。
午前五時。みんなもさすがに疲れはじめてきている。
「トオルくん、これまだ入っているよ」
「うん。ホントだ。レッドドックか」
飲みすぎるとやばいことになるとかいうドリンクか。
締切に追われた漫画家とかが缶にストローをさして飲んでいるようなイメージだ。
「僕が飲もうかな」
苗床もよく見ずに適当にかける。
「トオルくん!」「ご主人様」「トオル」「鈴木氏」
みんなが僕を呼ぶ。
「どうしたの? わぶっ」
なにかに突き飛ばされる。
「いってー! な、なんだこれは!?」
キノコ部屋中にお化けキノコが溢れ返ってきた。
お化けキノコはそんなに強くないが、木野先輩やシズクはレベル1のままかもしれない。
「わっわっわ」
「きゃー」
大混乱に陥ったが、マミマミさんがすぐにお化けキノコを倒していく。
僕も金属バットで三匹ほど倒す。
「はぁはぁ。やったね。ついに見つけた。キノコの成長促進効果があるのはレッドドックだ!」
みんなもうなずく。
「よし、それじゃあキノコの栽培は僕の部屋とつながっているダンジョン部屋でやろう。部屋が広いし、二十四時間戦える!」
◆ ◆ ◆
苗床を移し終え、レッドドックも箱買いしてきた。
時間は午前六時三十分。
今は木野先輩がレッドドックを薄めて使えないか、どうやったら効率よくお化けキノコを増やせるか研究している。
シズクは僕の代わりに朝ご飯を作ってくれる。しばらくはシズクにご飯を作ってもらうことになるだろう。
僕はお化けキノコ狩りに備えて自分の部屋で休憩していた。
木野先輩と護衛のマミマミさんが僕の部屋に戻ってきて鉄のドアを閉める。
「レッドドックの原液よりも10%ほどに薄めたほうが長くゆっくり苗床からお化けキノコが出てくるから安全みたいだ」
「そうですか」
「少しだけドア開けてみて。お化けキノコだらけになっているよ」
そっとドアを開けて、すぐに閉める。
ダンジョンの部屋は本当にお化けキノコだらけになっていた。
「後はガンガンお化けキノコ狩りをしてレベルを上げるだけだ!」
こはる荘の仲間は絶対に守る!
石のブロックの床が見えないほどお化けキノコに埋め尽くされたダンジョンの部屋に飛び込む。
これが無双か!
レベル3、4でも楽に勝てたお化けキノコなのでレベル9まで成長している今はサクサクと狩れる。
MIZUMOの金属バットのおかげもあるかもしれない。
入って五分ほどしか経っていないが十匹以上は倒したと思う。
体力テストは午後からだ。
ひょっとして間にあうんじゃないだろうか。
そんなことを考えていると後ろから体当たりを一発貰ってしまう。
「うぐっ。うわあああああああ」
一回でも体当たりを受けてしまうと、お化けキノコは数が膨大なので一斉に攻撃されてしまう。体勢を立て直せない。
マミマミさんが周囲のお化けキノコを切り刻んで、僕を部屋まで運んでドアを閉める。
「よく周りを見ないと危険だぞ」
「す、すいません」
マミマミさんが回復魔法をかけてくれる。
「じゃあまた行ってきます」
「おう!」
また鉄の扉を開ける。
「うおおおおおおおお! うわあああああああ!」
一匹倒したところで、また集中攻撃を受けてしまう。
やはり一度でも攻撃を受けると体勢を立て直す間もない。
あまりにも数が多すぎるのだ。
「いてててて!」
「大丈夫か?」
バラバラになったお化けキノコが降ってくる。
どうやらマミマミさんがまた助け舟を出してくれたようだ。
周囲のお化けキノコが消え去って立ち上がれる。
「レイコのためだ。頑張ってくれ!」
返事をする暇もない。僕はまたお化けキノコに立ち向かうことでその言葉に応えた。