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39話 キノコ大作戦

 ダンジョンのキノコ部屋に僕と美夕さん、シズクとマミマミさん、木野先輩が集まった。


「というわけで木野先輩には申し訳ないんですが」


 この作戦は木野先輩にも無理を頼まないといけなかった。


 断られても何度でも頼み込むつもりだった。


「キノコは世界を救う」


「は?」


「鈴木氏。キノコ・セイブス・ザ・ワールドでござる。食糧問題、環境問題、経済問題、人種問題といった難題すらキノコは解決するのに」


 そ、そうなんだろうか。


「女の子の一人も救えずになんのキノコでござるか!」


 やはり木野先輩の言っていることはまったくわからないが、キノコ愛もここまでくるとなにかカッコいい気もする。


「提供するでござる! 動くキノコの苗床のすべてを!」


「ありがとうございます!」


 これで僕はお化けキノコを栽培してレベルを上げる作戦の一歩を踏み出したぞ!


「この作戦の要は絶え間ないモンスターの供給です」


 モンスターを倒しての経験値稼ぎは、そのほとんどが広大なダンジョンでモンスターを探すことに終始する。


 ゲームと違ってモンスターが次々に湧いてくるなどということはない。


 なので周囲のモンスターを狩ってしまうとモンスターが他の場所から移動してくるのを待つか探しに行かなければならない。


 それだったら経験値の少ないモンスターでも絶え間なく狩ったほうがはるかに効率的だ。


「まあ正しいが、それをどうやるんだ? そんなことができるなら誰も苦労せんわ」


 マミマミさんの質問にあるものを取り出す。


「これです!」


 マミマミさんに世界樹の子供の根っこのオガクズを固めた苗床を見せる。


 苗床にクリーム色のキノコがびっしり生えていた。


 本当に小さいキノコまで入れれば、一つの苗床で数百個はあるんじゃないだろうか?


 苗床も木野先輩が一生懸命作ったものが二十個以上ある。


「なんだそれ?」


「お化けキノコの苗床ですよ。この小さいキノコがお化けキノコになるんです。つまりモンスターの養殖というか人工栽培です」


「人工栽培!? そんなことできるのか? 聞いたことないぞ」


 異世界ではモンスター同士も命をかけて生存競争をしているようだし、人間もモンスターに襲われて命を落とす。


 それをわざわざ増やそうなんて誰もしないだろう。


「この一個一個がレベル上げの時に倒していたお化けキノコになるんですよ」


「ホントか? ならすぐに潰していけ。レベルが上がれば学校とやらにゲートを作れてレイコが引っ越ししなくて済むんだろう?」


 マミマミさんは本当に美夕さんが好きらしいな。


 マミマミさんのためにも絶対に学校をやめさせたくない。


 ただ……。


「真神さん。単純にキノコのままで潰してもダメなんでござる。小生は食べるためや間引きのためや調査のたびにもう何千本と苗床から抜きましたけど一回もレベルアップした感覚がないでござる」


 木野先輩が僕の言いたいことを言ってくれた。


「多分、成長して苗床から離れて、自ら動き出すようになるまでレベルアップするための経験値は手に入らないのでは?」


「なら意味ないではないか」


 マミマミさんの言うことももっともだ。


 みんなも心配そうな顔をしている。


「そこでこれです」


 僕は自信満々に午前ティーを取り出した。


「なんだ、それは?」


「真神の間の下草を伸ばした飲み物ですよ」


 以前、午前ティーをマミマミさんが住む森にこぼしたところ、下草がニョキニョキと異様な速さで伸びて腰ほどの背丈になったことがある。


 それを見ている美夕さん、シズク、マミマミさんが明るい顔になった。


「うんうん。すごい速さで伸びたよね」


「ありましたね! そんなことも!」


「あったな。なるほど。お前のやろうとしていることがわかったぞ」


「キノコも植物です。こいつをキノコにかければ!」


 僕はさっそく苗床の一部に午前ティーをかけてみた。


 なにも起きない。


「え? おかしいな。もっとかけてみるか」


 いきなり何十匹もお化けキノコが出てきたら大変だと、少ししかかけなかったしな。


 今度はドバドバとかける。


 けれども、やはりなにも起きなかった。


「ど、どうしてだ?」


「ちょ、ちょっとなにをしてるんでござるか?」


 僕がキノコがダンジョンの雑草のようにニョキニョキ伸びないことに動揺していると、木野先輩がなにをしているのかと聞いてきた。


 そういえば、木野先輩はその状況を見ていない。


「実はこんなことがありまして――」


 午前ティーが草をニョキニョキと成長させたことを説明する。


「なるほど……しかし、キノコというか菌類は植物ではないのでござる」


「そ、そうなの?」


「詳しい話はしないけど、動かないから植物って考えがちでござるが、植物のように光合成をして生存に必要な有機物を合成せずに、他の生物が作った有機物を利用しているという点においては動物にちか……」


 木野先輩の話はまだまだ続きそうだ。


 今は時間がない。


「わ、わかりました。ともかくキノコは植物じゃないのか」


「うん。そうでござるよ。鈴木氏」


「だから午前ティーも効かない……」


 いきなり暗雲が立ち込める。


「でも午前ティーはダンジョンの植物を成長させたんだから、ダンジョンの菌類が成長する飲料があってもおかしくないよな」


 簡単には諦められない。


「よし! とりあえず寮にある飲料を全部持ってこよう!」


「「「お~!」」」


 寮にあった飲料をキノコ部屋に持ってきて調べていく。


 緑茶、牛乳、オレンジジュース、コーラ、そして午前ティー。


「どれもキノコには効果ないみたいだね」


 コーラには解毒効果があって、午前ティーには植物の成長促進効果があることがわかっている。


 少し飲んだりもしてみたが、緑茶、牛乳、オレンジジュースはなんの効果かもわからない。なにも効果がない飲料もあるのだろうか。


 だが、ともかくキノコの成長促進効果はない。


「もっといろいろな飲料を試してみるしかないね。とりあえずコンビニでいろいろ買ってみるよ」


 もっといろいろな飲料を試してみようということになった。


 コンビニに走って、またキノコ部屋に戻ってくる。


「りんごジュース、烏龍茶、麦茶、缶コーヒー、いちごオーレ、オイッスお茶……」


「あははは。鈴木氏、オイッスお茶ってさっき調べた緑茶ではござらんか。緑茶ならもう調べたよ」


 確かにオイッスお茶は佐藤園という会社のロングセラーの緑茶ブランドだ。つまりただの緑茶。


 なにか引っかかる気もしたが、今は時間が惜しい。


「そうですね。とにかく調べていこう」


 しかし、数十分後。


「ダメだ! どれもキノコの成長促進効果はない!」


 数えてみると二十種類もの飲料を調べたが、キノコの成長促進効果があるものはない。


 他の効果はもう調べなかった。


「それにしてもコンビニってところはいろんな飲み物があるんだな~」


「これでもコンビニのすべての飲料の十分の一もないですよ」


 マミマミさんが感心する。


「ほ、本当か!? 行ってみたいのう!」


「こ、今度にして」


 今は美夕さんのために時間を使いたい。


 ただでさえ、時間がかかっているのに手掛かりすらない。


「コンビニに売ってない飲料やお酒が当たりだったらどうしよう……」


 それでも諦めたくない。もう一度コンビニに行こうと立ち上がった時だった。


「トオルくん。飲料についてステータスに変化がないかってことも調べていたんだけどね。オイッスお茶が……」


 美夕さんが小さい声で言った。


「オイッスお茶? ステータスに変化もなかったでしょ?」


 緑茶は既に調べている。確かステータスの変化もなかったはずだ。


 だから緑茶であるオイッスお茶は調べる必要がないと捨て置いた商品だ。


「それが魔力の上昇効果があったみたいなの」


 え? 緑茶がないのにオイッスお茶にはステータス上昇効果があるのか?


 オイッスお茶を飲んでステータスを見る。


 【魔 力】50/60(+10上昇中)


「ホ、ホントだ。緑茶の時はなんの変化もなかったのに」


 どういうことだろうか。


「ふむ。同じ鋼の剣でも攻撃力が変わることはよくあるぞ」


 マミマミさんがつぶやく。


「どういうことですか?」


「人間の冒険者ならもっと詳しいと思うが、要は名匠が精魂を込めて作ったのとか、魔法のエンチャントを帯びたものは特別な力を持つことがある」


「な、なるほど。メーカーのブランド品だからか。日本で売るために一生懸命作ったものには特別な力が宿るのかも」


 思えば、今まで特別な効果があったものは、午前ティー、コーラ、オイッスお茶だ。


 金属バットも有名スポーツ用品メーカーのMIZUMOだ。


 美夕さんの黒ストッキングのメーカーは知らないけど。


「有名な商品ブランドになっている飲料のほうが確率は高そうだね」


 みんながうなずく。


「ところで美夕さんはどうしてステータスの変化までチェックしてたの?」


 美夕さんが恥ずかしそうに顔を伏せる。


「もし私がいなくなってもトオルくんのダンジョン探索に役に立つかなとメモっといたの」


 みんながニヤニヤと僕を見る。


「あ、ありがとう。でも今は美夕さんが引っ越ししなくてもいいように頑張ろう。よし、有名な商品ブランドになっている飲料を買ってこよう」

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