表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/69

38話 もっと思い出を作るために

 美夕さんは僕の手の上に手を置いて、僕の顔を覗き込んだ。


 その目は先ほどの楽し気な雰囲気と違って、なんだか寂し気で悲しそうな色をしているように思えた。


「そ、そんなに急がなくても。カラオケだってまた行けるし」


 美夕さんが目を伏せて首を横に振る。


「私、トオルくんに、ううん、みんなに話さないといけないことがあるの」


「話さないといけないこと?」


 まだ、言っていなかったことが他にもあったのか。


 内容はわからないけどいい予感はしない。


「また留年しそうなの」


「な、なんだって? あ、ひょっとして晴れの日は学校に行けないの?」


 驚いたけれど、理由としてはわかる。


 美夕さんは陽の光が苦手で、晴れの日は学校を休み、出席日数が足りなくなって留年してしまったのだ。


「朝に曇っていて、放課後に晴れたらどうしていたの?」


「朝に学校にいければ、放課後は陽が落ちるまで待って帰っていたよ。ともかく、また留年するぐらいなら、お父さんが学校やめて家に帰ってこいって」


 既に留年しているのだから、ご両親が心配するのは無理もない。


 ただでさえ、女の子の一人暮らしなのだ。


 また留年してしまうなら一人暮らしも学校もやめろというほうが自然だろう。


「で、でも抗議しようよ。美夕さんは成績もいいんでしょ」


「いくら成績がよくても無理かな。実は今学期も晴れの日が多くて、もう危険な水域なんだ」


「危険水域って?」


「後七日休んだら終わり」


「七日……」


 単純に日数を考えれば絶望的だ。


 雨や曇りの日のほうが少ない。


 はじまって一ヶ月と二週間で後七日になってしまったのは、ほとんど登校できなかったからだろう。


 しかし、僕がいれば!


「ゲートの力でダンジョンと学校を結びつければいいじゃないか。そしたら晴れの日でも関係ないだろ」


「マーちゃんに聞いたでしょ。レベル10の話」


 美夕さんが言ったのはレベル9から10になるのはさらに急激にレベルが上がりにくくなるということだった。


 それまでの10倍かかってもおかしくないらしい。


 僕は自分より強いオオムカデやオオネズミを強力な武器とバックアップ体制で倒しているが、それでも五時間ほどの時間を費やした。


 そうなると一日八~九時間オオムカデを狩って五日後、ひょっとしたらデッドエンドになってしまう七日ぐらいかかってしまうのではないかという感覚だ。


「ならしばらく学校を休んで寝る以外、オオムカデやオオネズミを狩りまくればさ」


「ダ、ダメ! そんなことしたらトオルくん死んじゃうよ! 後ろでマーちゃんが見ていてくれても危ない状況が何回もあったじゃない」


 美夕さんの言う通りだ。


 それを一日十数時間もやったら集中力が続くわけがない。


 確かに死んでしまってもおかしくない……。


「私、もう諦めちゃったの」


「諦めたって?」


「本当はトオルくんにカラオケ店にゲートをつながないで、学校につないでって言えばよかったでしょ?」


 それは確かにそうだ。


「最初はカラオケも間にあわないかなって思っていたから、学校につないでもらえばいいって気がつかなかったってのもあるんだけど……」


「ひょっとしてそれを最後の思い出にしようと?」


「ううん。正確には違うわ。お馬鹿な話なんだけど、トオルくんの歓迎会にどうしても行きたかったから言えなかったの……」


 途中から美夕さんは学校にゲートをつなげればいいとも気がついていた。


 それでも歓迎会にどうしても行きたかったのだ。


 でも、それを責められるだろうか?


 あのてるてる坊主の数。


 今までも何度も何度も行けなかったことがあったに違いない。


「私ってホント馬鹿だよね」


「僕の歓迎会にきてくれたのに馬鹿なんて言えないよ」


「う、うん。ありがとね」


 笑顔で言うと、美夕さんが泣き笑いでお礼を言った。


「それにカラオケ会も行って、進級もできればいいじゃないか!」


「え?」


「学校はやめなくても済むかもしれない。できるかどうかはわからないけど、レベルを上げる方法はあるんだ」


「む、無理だよ。死んだらどうするの!?」


 美夕さんは多分僕がオオムカデでレベルアップをするつもりだと思っている。


「さっきも言ったけどオオムカデなんかと戦っていたら死んじゃうよ」


「いや、オオムカデとは戦わない。それより安全だと思うよ」


 この方法はオオムカデと戦うわけではない。


「ホ、ホント?」


 顔を上げた美夕さんの瞳には希望の光が宿っている気がした。やっぱり、本当は学校をやめたり、寮を出たいわけではないのだ。


「みんなの協力がいるし、大変だけど、最後まで諦めないで欲しいんだ。僕も美夕さんと一緒に学生生活を過ごしたいよ」


「ありがとう。私も諦めないことにしたよ!」


「よし、やろう!」


 そしたら作戦開始だ。この作戦は準備のほうが大変かもしれない。


「まずはみんなで木野先輩のキノコ部屋に集まろう。美夕さんはマミマミさんを連れてきて。僕はシズクを連れてくるから」


「え? キノコ部屋に行くの?」


「この作戦は木野先輩が育てているキノコが鍵なんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ