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34話 謎の不参加

「ご主人様! おはようございます!」


「シズク。おはよ~」


 天気予報通りの快晴だ。


 窓の外の青い空からは陽光が燦々と照り注いでいる。


 今日は僕を歓迎してくれるカラオケ会がある。


 レベルアップによって明日の体力テストは学年トップでもおかしくない。


 新しいスキルは便利だし、美夕さんとは……まだ、会ったらちょっと恥ずかしいかもしれないが、なにもかも上手くいっている。絶好調だ。


 友達がいないこと以外は!!!


「今日もみんなのために美味しい朝ご飯を作りますか」


「はい! さすがご主人様です!」


 素早く準備をして食堂に向かう。


「今日は多めに作っちゃおうかな~」


 包丁とフライパンをふるう手も軽い。


 ベーコンエッグを作っていると木野先輩がやってきた。


「おはよ、鈴木氏。いい天気だね~」


「おはようございます! ですね~!」


 木野先輩がダンジョンで作ったのだろうマッシュルームを刻み出す。


「サラダに入れると美味しいんだよねえ。鈴木氏のにも入れようか?」


「ありがとうございます。そういえばこはる荘のメンバーでカラオケとかよく行くんですか?」


「いや、はじめてだから小生も楽しみでござる」


 はじめてだったのか。


「そもそも会長や美夕氏と気軽に話せるようになったのは、鈴木氏がきてからでござる」


「ええ? そうだったんですか?」


「うん。だから、鈴木氏には感謝しているでござるよ。ありがとう」


 仲いいのかと思っていた。


 確かにマッシュルームカットでキノコオタクなんて人は女性には嫌われるかもしれない。


 すごくいい人なんだけどね。


「おはよー」


 会長がやってきた。


「あ、おはようございます」


「おはようございます」


「二人とも昨日はよく眠れた?」


 僕も先輩もよく眠れたと答える。


 僕はレベルアップも順調だったので本当にぐっすり眠れた。


 木野先輩はダンジョンの部屋でキノコの世話を深夜までしていたに違いない。


「ところでカラオケは何時から行くんですか?」


 時間を知らなかったので会長に聞いてみた。


「料金が高くなる夜時間になるのが午後七時からだから、それまではフリードリンクでいくらでも使えるわ」


「それじゃあ朝ご飯をた~くさん食べて、食べ終わったらすぐ行きませんか? 夕食の時間を早めにすれば、お昼は食べなくてもいいですよね」


 みんなで行けば食事の時間だって自由にできる。


「いいわね。でもお昼にポテトとかピザとか出してもらいましょ。無料でね」


「会長。バイト先にあんまり無茶言ったら可哀想ですよ」


 三人で笑う。


 料理ができたので、みんなとテーブルに並べる。


 会長が食べようとするのを木野先輩が止めた。


「今日は美夕氏がきてから四人で食べようでござる」


「そうね。レイちゃんを待ちましょう」


 こはる荘の朝ご飯は時間をあわせないでセルフスタイルで食べている。


 今日は休日だし、みんなで遊びに行くのだから一緒に食べてもいい。


 木野先輩はやっぱりいい人だ。


「日本に約三千種、世界には二万種のキノコに名称がつけられているんですが、実はそれでもキノコ全体の一割にも満たないと言われているんでござるよ」


 美夕さんはなかなかこなかった。


 はじめはキノコ講座を少しは聞いていた会長も、もうまったく聞いていない。


「つまり、実に90%以上のキノコが正体不明。ミステリアスだと思わんでござらぬか?」


「え、えぇ」


 木野先輩の熱い講義はもっぱら僕のほうに向けられている。


 美夕さんはまだこない。


「さすがにお腹減ったわね」


 そろそろ普段だったら朝食が終わりの時間だ。


「呼んできましょうか?」


 会長が立とうとした時、美夕さんがやってきた。


「あ、レイちゃんおはよう。お腹減っちゃったよ」


 美夕さんは僕とテーブルを挟んで向かいの席に座ってなにかを言った。


 髪留めで顔は出ているので口の動きで挨拶と謝罪をしたのがわかるが、いつもよりさらに声が小さいのか聞こえなかった。


 どうしたんだろ?


 昨日のことがあったから気になるだけかもしれないけど、元気がないように見える。


「今日は朝食もみんなで食べようって美夕氏のことを待っていたんだ。とりあえず食べようよ」


「そうね。いただきます」


 木野先輩と会長が食べはじめる。


 美夕さんと目があう。


 なにか訴えかけているような気がするが、それがなんなのかはわからなかった。


「そうそう。レイちゃん、朝ご飯食べ終えたらすぐカラオケね。お昼は向こうで軽食をつまもうって話になったから、朝はここで一杯食べときましょ」


「でも鈴木氏のご飯は美味しいからと食べすぎると歌えなくなってしまうからご注意でござるぞ~。ははは」


 会長と木野先輩が明るくカラオケの話をしたが、美夕さんは顔を下に向けたまま固まっていた。


 やっぱりおかしい。


「み、美夕氏、ど、どうしたんでござるか?」


 木野先輩が聞いても、美夕さんはしばらくは答えなかったが、やっと口が動いた。


「ごめんなさい。私は歓迎会に行けません」


「どうして!?」


 会長が叫ぶ。


 美夕さんの様子から行けないんじゃないかなとなんとなく感じていたけど、僕も会長と同じ思いだった。

 てるてる坊主だってあんなに作っていたのに。


「頑張ったんですけど……」


「体調でも悪いの? 学校を休むことも多いし……」


 美夕さんが首を左右にフルフルと振った。


「じゃあなんで?」


 長い沈黙。


「ごめんなさい」


 重苦しい時間が過ぎた後に、美夕さんはやっとそれだけ言った。


「もう好きにしなよ! 鈴木くんとキノコは10分後に玄関に集合ね」


 会長は怒りながら食堂を出ていった。


 続いて美夕さんも、もう一度「ごめん」と言い残して出ていった。


「美夕氏、心配でござるな」


 木野先輩がつぶやいた。


「鈴木氏はカラオケが終わったら話を聞いてあげなよ。美夕氏は鈴木氏を頼っていると思うよ」


「はい。ありがとうございます」


「うんうん。本当はカラオケの前に話を聞いてあげられればいいんだけどね」


 木野先輩の言う通りだと思う。


 さきに話を聞ければ、問題が解決して、美夕さんがカラオケに行ける可能性だってあるだろう。


 会長だっていつまでも根に持つタイプではないと思う。後からでもカラオケにきたり、いや理由を話すだけでも、すぐに怒りを収めてくれるに違いない。


「でも、すぐに行こうって会長と決めちゃったんですよね」


「そうだね~主賓である鈴木氏が遅れたら会長もまた怒っちゃうしね。カラオケの後で聞くしかないんじゃないかな」


 カラオケの後で……か……。


 いや、やっぱり美夕さんがカラオケに参加できなきゃ、ダメじゃないか。


 僕は美夕さんにもきてもらいたい。


 美夕さんだって、なにか行けない理由があるから行かないだけで、きっと行きたかったはずなんだ。


 なにかいい方法はないだろうか。


「そうだ! 先輩! 頼みがあるんです!」


「な、なに?」

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