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33話 都会の星空

 す、すぐにシズクはいなくなって二人っきりになると思うけど、誤解されて嫌われないかな……。


 美夕さんの部屋を出る。


 廊下で主に会長に見つからないように二人で僕の部屋に行く。


 無事、僕の部屋に到着した。


「おかえりなさいませ、ご主人様! 美夕様、いらっしゃいませ!」


 シズクの元気な挨拶に美夕さんが笑う。


「ふふふ。シズクちゃんはいつも元気なのね」


「はい!」


「美夕さん、こっち」


 僕は和室に美夕さんをエスコートする。


「う、うん」


 そして押し入れを開けた。


 ふすまの向こうにあるのは折りたたんだ布団ではなく、石壁と鉄のドアだ。


「ダ、ダンジョンに行くの?」


「うん」


「でも、私、靴持ってこなかったし」


「安物だけど女の子用のスニーカー買ってあるんだ」


「そ、そうなんだ」


 美夕さんは結局スニーカーを履いて、ダンジョン側の部屋に入る。


 少し不満げな顔をされた。


 今から頼むこと大丈夫かな?


「美夕さん。ちょっと手を握って欲しいんだけど」


「て、手を握るっ? ど、どどどうして?」


「そ、その必要なことなんだ」


 手を伸ばすと美夕さんは無言で手を握ってくれた。


「もう! 貰った髪留めを外して髪で顔を隠したいよ」


 美夕さんの顔は真っ赤だった。色白なのでそれがよく目立つ。僕も赤いと思う。


 でも、手をつなぐことは必要な行為なのだ。


 手をつないで美夕さんとダンジョンを歩く。


 そして、あるドアの前に立った。


「え? なにこのドア」


「ふふふ」


「ダンジョンに続く鉄の扉は……アッチにあるし、トオルくんの部屋のドアは後ろだし」


 この新しいドアは僕のスキルで形成されたものなのだ。


 僕はドアスコープから向こうの様子を確認する。


 うん。誰もいなそうだ。


「何処につながっているの?」


 僕は美夕さんに答えずにシズクに言った。


「じゃあ、ちょっと出かけてくるから」


「はーい! ご主人様も美夕様もいってらっしゃい」


 ドアを開けると一見、自然豊かな森のような光景が目に入る。


 美夕さんと素早くドアをくぐって閉める。


「ここ……日本? 森かと思ったけど、見覚えが」


「うん。神社と隣接している公園の端っこだよ。人目につきにくいから」


「え? 神社と隣接している公園って立川のあの公園?」


「ほら見て」


 大きな木にできたドアを見せる。


 そして美夕さんの手を離す。


「噓、ドアが消えた」


 美夕さんには消えたように見えているけど、僕にはドアが見えている。


「どうも、これが僕の新しいスキルみたい」


「どういうこと?」


「多分、地球側の何処でも好きな場所と異世界側の何処でも好きな場所にゲートを作る能力だと思うんだよね」


「す、すごい」


「僕以外の人は体の何処かに触れていないと扉が見えなかったり、一度設置した場所は変えられなかったり、作る時は一度その場所に行かないといけないって不便もあるけどね。他にも便利なことがあるんだ」


「これだけでもすごいのにまだ便利なことがあるの?」


「ドアスコープで向こう側を覗くことができたり、レベルが1上がるごとに新しいドアを設置できる……ような気がするんだ。これはまだ上げてないから多分だけどね」


 ディートによれば、未知スキルはこういうことができるんじゃないかな~と思えることが、実際にできたりするらしい。


 ちょっと怪しい気もするけど。


「驚いた~トオルくんの管理人って実はすっごい【職 業】なんじゃないの?」


「あははは。とりあえず、ベンチに座ろっか?」


 ところが美夕さんは意外な場所を望んだ。


「ベンチよりも滑り台の隣にあるアスレチックにしない?」


 滑り台の隣にあったのは、大きな公園でたまに見かけるロープネットのようなアスレチックだった。


 ふちに座ることもできそうだ。


「うん! いいね!」


「行こ!」


 隣同士に座る。


「わーい!」


 美夕さんは後ろに倒れる。ハンモックのように横になることもできる。


 その様子を笑うと美夕さんは僕の手を摑む。


「トオルくんも……」


 手を引かれるままに僕も後ろに倒れた。


 美夕さんの手はそのまま僕の手を握っている。


 本当の美夕さんは活発な子なのかもしれない。


「星が綺麗だね~」


 彼女に言われて気づいた。


 仰向けになった僕たちには星の世界が広がっていた。


「雲一つないね」


 東京の郊外、立川の星空も悪くない。


「明日は快晴かな?」


「誰かが一生懸命てるてる坊主を作ってくれたからね。天気予報も降水確率0%だったし」


「……うん。私、頑張ってトオルくんの歓迎会行くよ」


 二人でなにも話さずに星を眺める。


 でも、沈黙が苦痛ではなかった。


 美夕さんが握った手の力を強めたり、指でなぞったりで会話してくれたからだ。


「今から言うのは、独り言ね」


「独り言?」


 美夕さんがいつもよりさらに小さい声を出す。


「例のよろしくの誤解の件、本当だったらよかったのに」


「なんていうか……嬉しいよ」


「ちぇーいつもみんな私の声を聞こえない聞こえないって言うのに」


 いつも大人びている美夕さんの子供っぽい口ぶりに笑ってしまう。


「笑った!」


「わ、笑ってないよ」


「噓!」


 美夕さんが手を離す。


「ちょっと宝物外すね……」


 そして髪留めを外しはじめる。


 なんで、と思った時だった。


 ロープネットのアスレチックの上で美夕さんが体をひるがえす。


 仰向けの僕の上にうつ伏せになった。


 ただ、僕の上に乗っていても、彼女の両手は伸ばされているから顔と顔の間には距離がある。


 長い黒髪が垂れ下がって顔と顔だけの空間になっていた。


「膝枕してくれた時もこんな感じだったよね」


「うん。でもあの時と違うことがあるよ」


「なに?」


「あの時はどうやっても顔と顔がくっつかなかったけど、今は私が伸ばしている腕を緩めたらくっついちゃうよ」


 美夕さんの二の腕に手を置く。


 少し腕が震えていた。


「そろそろ限界かも」


「楽にしたら」


「うん。甘えさせてもらおうかな。疲れちゃった」

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