28話 女性冒険者リアとディート
「そろそろ約束したお昼の時間だ。帰ろうか?」
「うん」
二人で笑いながら木の根をくぐって通路に出た時だった。
「ねえ。二人が話しているのはモンスター語よね?」
部屋を出た通路の左手から声をかけられる。
黒革の三角帽と黒革のマントを羽織った若い女性だった。
ファンタジーゲームの魔法使いのように見える。
「ど、どうして感知できなかったの?」
僕は動揺する美夕さんの腕を取って回れ右して逃げようとした。
ところが……。
「逃げないでください」
なんか女騎士って感じの人が両手を広げて道をふさいでいた。
先ほどの部屋に戻っても、ここ以外の出口はないので結局袋小路だ。
美夕さんを引き寄せつつ、どちらかの横を走り抜けられないかうかがう。
「どうして逃げようとするの?」
魔法使いっぽい人が聞いてくる。
カタコトだがちゃんと聞き取れる日本語を話していた。
彼女たちにとってはモンスター語か。
しかし、スキはない。
どうして美夕さんのスキルで感知できなかったかわかってきた。
この二人は今まで会った冒険者よりもはるかにレベルが上なんだ。
「アンタたち、用心棒ギルドとかいうヤツらじゃないのか?」
「あんなヤツらと一緒にしないでよ!」
「ち、違います」
違うのか? 反応にも噓くささはないが、僕は美夕さんを抱えている。
簡単に信用することはできない。
「どうして逃げようとするって聞いたな? こっちも聞きたい。どうして追ってくる?」
この冒険者たちは僕たちが部屋に隠れる原因になった二人の女性に間違いない。
だとしたら僕たちを追ってきている。
「話が聞きたいからよ」
「そうです」
話? なんの話かはわからないけど、そう言うなら……。
「話が聞きたいなら、武器を地面に置いてくれ」
「慎重なのね。いいわよ。アリア」
「はい」
女魔法使いと女騎士が、それぞれ杖と剣を置く。
信用してもいいのだろうか。
「私はディート。そっちの堅物そうなのがアリア。アナタたち名前は?」
「鈴木」
「え? すず……なに?」
異世界人にはスズキというのが発音し難いのかもしれない。
「トオルでもいいですよ」
「トールね」
「で、聞きたいことって?」
「モンスター語を話す男一人女二人の三人組パーティーを探しているの」
げっ。それ僕とシズクとマミマミさんじゃないか?
◆ ◆ ◆
「どうして、その三人を?」
「それは話せないわ」
どうして僕らを探していたのだろう。
それがわからないと、この人たちが敵なのか味方なのかわからない。
さらに誰から僕らのことを聞いたのだろうか。僕らのことを知っているのはダンさんとそのパーティー、ドルガスとそのパーティーか。
ってことは、やっぱりこの二人はドルガスの仲間って可能性もあるぞ。
「トール。その三人のこと知っているんじゃないの? 変な格好をした三人組で、やっぱりモンスター語で会話していたって聞いているわよ」
ぐっ。その中の一人がまさしく僕とバレるのも時間の問題だぞ。
そうだ!
「知っているよ。何処にいるかも知っている」
「本当?」
「ああ、用があるなら連れてくるからここで待っていてよ」
アリアと呼ばれた女性が、どうするという表情で、ディートと名乗った女性を見た。
「一緒に行くわ」
「場所は教えられない」
「何故?」
「冒険者なら商売上教えられないスポットもあるだろ」
あるといいな。そういうところ。
日本人の僕は冒険者に詳しいわけではない。
けれども冒険者は自分の得意としている狩場とか素材が収集できるスポットを持っているのではないだろうか。
もちろん、それは噓でマミマミさんを連れてくるだけだけど。
「まあ、あるわね」
よし!
「だから僕らが連れてくるから待っていてって」
「アナタたち逃げたでしょ。逃げる気じゃないの? 信用できないわ」
ふふふ。これも想定済みだ。
「なら、こうすればいい。僕はここでディートさんとアリアさんと待ちます。彼女、美夕さんが一人で連れてくる」
つまり、僕が人質になって、その間に美夕さんにマミマミさんを連れてきてもらうという作戦だ。
ディートとアリアが顔を見合わせる。
「いいわ」
僕を置いていけないよと目で訴える美夕さんに、こちらもマミマミさんを連れてきてと目で伝える。
マミマミさんがいれば、この二人がいくら熟練の冒険者でも楽に勝てる。
意図を理解した美夕さんがディートの横を走り去る。
「トール」
急にディートがニッコリと笑う。
「な、なに?」
不気味だ。
「自分が人質になって女の子を逃がすなんてやるわね」
「え? 人質ってやっぱり僕を痛めつけるのか?」
「やーね。そんなことしないわよ。純粋に褒めたのにひどい。ねぇ?」
ディートがアリアに聞く。
「はい。ちょっと感動しました。それに安心してください。私たち本当に悪者じゃないですから」
信じたいけど悪者は自分のことを悪者って言わないからな……。
「ま、とりあえず立ってないで座りましょ。私たちも座るから話しあいましょう」
どうせ僕の作戦はマミマミさんを待つだけだ。
時間稼ぎできるなら願ってもないと、素直に座ることにした。
彼女たちは僕に気を使ったのか自分の武器から少し離れたところに座った。
段々とそんなに悪い人たちでもないのではと思えてくる。
「ねえ。トールには信じられない話をするかもしれないけど聞いて欲しいの。私たちがアナタたちを追った理由も話すから」
「聞くよ。でも、さっきは三人を追っている理由を教えてくれなかったじゃない」
ディートはさっき、僕たちを追った理由を話せないと言った。
「今なら話してもさっきの女の子が三人を連れてくるでしょ。最悪、もしこなかったとしても、アナタという情報源もあるし」
「そう。それで聞いて欲しいっていうのは?」
やっぱり僕は人質らしいが、事情は話してくれそうだ。
「私たちは危険なモンスターを討伐しようとしているの」
「危険なモンスターの討伐?」
「そのモンスターは人間を騙すの。騙されている人にそれを言っても、魅了されてる時があるの」
なるほど。魅了されている僕がモンスターを匿うだろうと思ったってことか。
つまり美夕さんがそのモンスターを連れてくるだろう今なら話せるってことか。
え? ひょっとして。
「そのモンスターってどんな?」
「人に化けて、夜に本性を現して人を食らう……人狼よ」
人狼かぁ。気をつけないとな。
って、それやっぱマミマミさんじゃないのか?