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26話 次々に破られるパンツたち

「ふぁ~あ」


 あくびをしながら、まだ寝ている狼耳の美少女を見て思い出す。


 そうだ。朝の五時に寝て……。


「って今何時だ?」


 時計を見ると午前九時半だった。


「うわああああああ」


 寝過ごして朝ご飯を作れなかった。


 きっと会長が大激怒していることだろう。


「どうして目覚まし時計が鳴らなかったんだよ」


「ご主人様、起きられました?」


「あ、シズク」


 心音ミル姿のシズクが奥のミニキッチンから出てきた。


「おにぎりとお味噌汁とお新香も食堂から持ってきました」


 ひょっ、ひょっとして。


「朝ご飯はシズクが作ってくれたの?」


「差し出がましいかとも思ったのですが、ご主人様があまりにも気持ちよさそうに寝ていたので、私がトオル様の姿になって代わりに……」


 み、美夕さんや木野先輩には最悪バレてもいいとしても、会長にバレなかっただろうか。


 シズクがおにぎりとお味噌汁とお新香をお盆に乗せて持ってきた。


 見た目は普通に美味しそうだ。


「いただきます」


 おにぎりを一口食べて、お味噌汁を飲んでみる。


「美味しいよ!」


「ホントですか! よかった。心配だったんです」


「本当に僕が作ったおにぎりと変わらないよ」


「そんな、ご主人様が作ったおにぎりのほうが絶対美味しいです!」


 シズクが強く主張する。


「そ、そう?」


「おにぎりはご主人様がはじめて作ってくださったご飯です! すっごくすっごく美味しくて、すっごくすっごく感動しました」


 昔の異世界の人はなんて馬鹿なんだろう。


 シズクの仲間を売ったりするなんて。


 プライスレス、お金には代えられないと思うんだけどなあ。


「ところでなんで朝から心音ミルの姿してるの?」


「ご主人様は今日もダンジョンでレベル上げをなさると言っていましたから」


「あ、そうだったね」


「はい! 今日も頑張りましょ!」


 シズクが両手ガッツポーズをした。


 僕はずっとシズクと一緒にいるぞ。


「ふわ~なんだか美味そうな匂いがするな」


 マミマミさんもお味噌汁の匂いで起きたらしい。


「おはようございます」


「マミマミ様のおにぎりとお新香とお味噌汁もありますよ」


「おお! 偉いぞ! シズク!」


 マミマミさんは食事を終えると目を半分閉じながら言った。


「なんだか眠いの~」


「僕はもうスッキリしましたけど、四時間ぐらいしか寝てないですからね」


「ワシはここ数百年間、飯も食わずに寝てばかりいたから」


 そういえば、マミマミさんの真神の間での生活はそんな感じと言っていたな。


 あまり手伝ってもらうのも悪いか。


「なら、マミマミさんは寝ています?」


「トオルとシズクで大丈夫か?」


 考えていたことを話す。


「ダンジョンの地下四層なら僕でも倒せる敵しか出てこないから、木野先輩の部屋からダンジョンに行こうと思って」


「この部屋からではなく、あのキノコ頭の部屋からか! 確かにそれなら大丈夫だ。よく思いついたな」


「まあ僕はマミマミさんと違って弱いから工夫しないと」


「うむ。工夫はいいことだ。じゃあワシはここで寝ているから」


「え?」


 マミマミさんは僕の部屋で二度寝をはじめてしまった。


 美夕さんだって起きているだろうし、真神の間に戻るんじゃないのかよ。


「まあ、いいか」


「じゃあ、木野様の部屋からダンジョンに行きましょう!」


「あ、シズク。少しだけ留守番していてくれないかな。トンスキホーテで買い物してこようかと思って」


「トンスキホーテ?」


「アウトドアグッズから食料品とかいろいろあるんだ。マミマミさんがいないと照明の魔法もないからヘッドライトとか欲しいし、コーラもあるといいんじゃないかって」


 木野先輩の話によれば、コーラはキノコの毒を解毒したという。


 日本のグッズをいろいろ持っていってもいいかもしれない。


 それに特別買っておきたいものがある。



                 ◆   ◆   ◆



「ただいま~」


「おかえりなさい。ご主人様」


 トンスキホーテで買い物して部屋に帰ってくる。


「いろいろ買ってきたよ~。あれ? 美夕さんきていたんだ」


 美夕さんがマミマミさんの寝ている隣で正座している。


 和室のカーテンは閉まっていた。


 カーテンを開けようとすると美夕さんにカーテンごと手を摑まれる。


 美夕さんの息が耳元にかかる。


「マーちゃんが寝ているからカーテンは開けないで」


「え? あ、うん。そうだね」


「ところでトオルくん」


「なに?」


 美夕さんがマミマミさんの穿いているパンツを指差す。


 ボクサーパンツだ。


 す、すっかり忘れていた。


「どうしてマーちゃんが男物のパンツ穿いているの? トオルくんの?」


 美夕さんは問い詰めるような口調だ。


「じ、実はダンジョンでガラの悪い異世界人に会って。マミマミさんに巨狼の姿になってもらって追っ払ったんだ」


「その話はシズクちゃんから聞いたわ」


 美夕さんは昨日の冒険のあらましをシズクから聞いていたらしい。


「巨狼に変身した時に美夕さんのパンツを脱ぎ忘れてパンツが破けちゃった。んで寝る時にスースーするって、言うから」


「なるほど。それでトオルくんがパンツを貸したのね」


「破れたパンツにはちゃんとお墓作っておいたよ」


「お墓? パンツの?」


「あ、いや。ダンジョンの端に埋めただけだよ。間違って誰かの手に渡らないようにね」


 気にしすぎかもしれないが、日本の素材が異世界人の手に渡ったら大変なことになるかもしれない。


「そういうことだったんだ。ありがとう」


「うん。今日もこれからダンジョンに行こうと思っていてさ。でもマミマミさんは眠いって寝ちゃったんだ」


「ごめんね。迷惑? マーちゃんに言っとくね」


「いや、全然。お世話になっているし、一緒に冒険するのは楽しいよ。今日は無理そうだけどね」


 マミマミさんが蹴り飛ばした掛け布団をかけ直す。


「じゃあ、そろそろ木野先輩の部屋からダンジョンに行こうかな」


「ねぇ。私もダンジョンに行っていい?」


「もちろん!」


 美夕さんもダンジョンに行きたいという。いいに決まっている。


 美夕さんとシズクと連れ立って、木野先輩の部屋に向かった。



                 ◆   ◆   ◆



「木野先輩は行かないんですか?」


「行かないでござるよ。ダンジョンなんて」


 今、僕らは木野先輩の部屋とつながっているダンジョンの部屋にいた。


 マミマミさんが巨狼になってひっくり返した棚も直されて、びっしりとキノコの苗床が設置されている。


「レベルアップもできるのに」


「休みの日はキノコの世話や研究をしたいんでござる」


 木野先輩は早朝までキノコをいじっていたもんな。


 無理に誘うこともないか。


「ところでダンジョン探索って結構時間かかるんじゃないの? もう十一時だけど、お昼の時間に帰ってこれる?」


 休日は学校の学食も購買部もない。


 僕は寮のお昼を作りに帰らないといけない。


「軽くレベル上げするだけだから、ちょっとモンスター倒してすぐに帰ってきますよ」


「あの。私がお昼ご飯も作りましょうか?」


 心音ミル姿のシズクが手を上げた。


「え?」


「ひょっとして朝ご飯を作ってくれた鈴木氏ってシズク氏が変身していたの?」


 僕も驚いたが、もっと驚いたのは木野先輩だった。


「はい!」


「早朝までダンジョンを探索していたのに鈴木氏は元気だなあと思ったんだ。シズク氏だったのかあ」


 シズクはいつも元気だからなあ。


「木野先輩、シズクの朝ご飯はどうでした?」


「美味しかったよ。全然、気がつかなかった」


 一応、先輩に聞いてみたが、まったく気がつかなかったらしい。

 

「ちょうどいいや。お昼は少し遅くして、シズク氏の作ったご飯をここで食べよう。食べながら小生の育てているキノコの話をみんなにしてあげるでござる」


 先輩は自分のジャンルを人に話すのが大好きな人か。


 キノコの話はともかく、みんなでお昼ご飯を食べるのはいいかもしれない。


「でも、ちょっと待ってください。木野先輩や美夕さんはいいけど、会長だけこはる荘の食堂で食事させるわけにも」


「会長の休日はいつもアルバイトでお昼も帰ってこないよ。例のカラオケ屋さんでござる」


 大金持ちのお嬢様なのに休日はアルバイトに行っているのか。


 社会勉強のためとか言っていたけど、感心だなあ。


 とにかく会長はいないらしい。


「それなら、ここでお昼を食べるのもいいですね。マミマミさんも呼べるし」


「うわ~! みなさんと一緒にご飯を食べていいんですね!」


 シズクが喜ぶ。


 今までシズクは僕の部屋で隠れて食べていることが多かった。


「お昼は二時頃にしようか?」


 先輩が時間を決めてくれた。


「たっぷり二時間半はレベル上げできます」


「じゃあ午後二時にここで」


「はい!」


 僕と美夕さんでダンジョンに向かった。

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