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24話 キノコ馬鹿一代

「魔法の足跡のかかとの方向に歩けば帰れるけど、ここまでくるのに一時間ちょっとはかかっているよなあ」


 部屋に着くのは午前五時半ぐらいか。


 いやモンスターと戦わないようにすれば、もう少し早く部屋に帰れるだろうか。


 どちらにしろ、ほとんど寝る時間はないし、もう寄り道はできない。


「ご主人様! 見てください。あれ!」


 シズクが指差した方向を見る。


 右手の通路のちょっとした暗がりに鉄の扉があった。


「あれ? え? あれって……」


「ですよね……似ていますよね?」


 僕の部屋につながる鉄の扉にそっくりだった。


「早く帰りたいけど、ちょっと調べてみようか」


「はい!」


 美夕さんの水玉パンツの墓を作ってから、僕たちは鉄の扉の前に行った。


「うーん。近くで見ると増々そっくりだね」


「そうですね。細かい木の根が張って、ずっと開閉してないって感じですけど」


 シズクが言うように鉄の扉には根が張っていて開閉した形跡がない。


「ボタンもないぞ」


 壁に這う根の裏側にあるのかもしれないけどボタンもない。


「この手のダンジョン部屋の扉には三種類ある。ボタンが内側にしかついてないタイプ、ボタンが外側にしかついてないタイプ、ボタンが両側についているタイプだ」


 マミマミさんが教えてくれた。


「ということは、これは内側にしかついてないタイプですね。つまり、誰かが入って閉めたら、中の人が開け直すまで閉まったままってことか」


「そうなるな」


 え? そうすると僕の寮の部屋につながっているダンジョンの部屋はどうなっているのだろう。


 もし内側にしかボタンがついてないタイプだったら……。


「やばい! 最悪、帰れなくなるぞ!」


「ああ、それは大丈夫。トオルの部屋とつながっている鉄の扉はちゃんと両方ボタンがあったぞ」


「そうですか。よかった」


 しかし、そうすると、この扉だ。


 ずっと開閉していないということは入って閉めた人は、中で死んでしまったのだろうか。


「ひ~ひっひっ! い~い色だ! い~い艶だ!」


 不気味な声が扉の向こうから聞こえてくる。


「い、今の聞こえた?」


「はい!」


「おう」


 マミマミさんもシズクも美夕さんの小さな声が普通に聞き取れるぐらいだ。間違いなく聞こえただろう。


「開けろ~! 開けろ~!」


 マミマミさんが鉄の扉をドンドンと叩き出す。


 ちょ、ちょっと、やばい黒魔法使いとかいたらどうするんだと止めようとしたところ。


「ひっ! ひいっ! なんだ? なんですか?」


 おびえたような声が聞こえてくる。


 とりあえず、中にいる人物がすぐに怒って攻撃してくる黒魔法使いというセンはないようだ。


「開けろ~! 開けろ~!」


 マミマミさんは相変わらず、鉄の扉をドンドンと叩いている。


 なんだか僕も入りたくなってきた。


「開けと念じながらひらけゴマとか言ったら開いたりして」


 僕が軽い冗談を言った時だった。


 ずっと開閉していなかったと思われた鉄の扉が木の根を引き千切りながら上に開いていく。

 

「あ、開いた?」


 い、一体、中はどうなっているんだ。


 扉が目線の高さまで開く。


「な、なんだここ!?」


 キノコだ。ダンジョン部屋のいたるところに棚があってそこにキノコがびっしりと栽培されている。


 その真ん中でよく知っている人物が尻もちをついて目をつぶっていた。


「き、木野先輩?」


「あ、あれ? 鈴木氏?? 心音ミル??? この裸Yシャツの人誰?????」


 部屋の向こうに団地の玄関のような鉄のドアが見える。


 つまり。


「う、後ろのドアってこはる荘につながっているんですか?」


「当たり前じゃないか。ここは寮の倉庫なんだから」


 え? 先輩はここが寮の倉庫だと思っているのか。


「か、勝手に倉庫でキノコの栽培しちゃってごめんでござる。か、片づけるから」


 ま、まさか。毎晩ふるまってくれているキノコ料理のキノコは実家から送られてきたものじゃなくて、ダンジョンで栽培したものだったのか?


「ダ、ダンジョン? そんなに怒らないでよ鈴木氏。キノコはもう少ししたら、必ず片づけるからさ」


「いや怒ってないし、ホントなんですって。ってか押し入れの中が学生寮の倉庫になっているっておかしいじゃないですか」


「そう言われればそうだね。でもダンジョンになっているほうがおかしいじゃないか?」


 そりゃ、そうだけど。


「寮の倉庫なんでしょ。キノコの栽培に最適だったんだよ。ほら立川って地下の暗室で作るウドが名産ではござらんか」


「キノコのことは忘れて僕たちが入ってきた扉の向こうを見てくださいよ」


「ああ、あんなところに扉があるなんて気がつかなかったよ。ほら根っこが一杯張っているから隠れていてさ」


「いいから見てください」


「な、なんだこれ!」


 やっとダンジョンと理解してくれたか。


「す、すっごい倉庫でござるな。キノコの棚をいくらでも作れるぞ」


「いい加減、キノコから離れてくださいよ」


「それにしても鈴木氏。実はすっごいんでござるな。小生少し羨ましいでござる」


「すごいってなにが?」


 先輩が僕の耳に小声で話しかける。


「めちゃめちゃ可愛い彼女が二人もいて、コスプレさせているなんて。心音ミルにそっくりだよ。狼耳の人はなんのコスプレなの?」


 先輩はまだ理解してくれていないらしい。僕はシズクに言った。


「シズク。先輩の前でスライムに戻って」


「はーい!」


 心音ミルはどろんと溶けて、白いスライムになった。


 先輩が目を白黒させている。


 先生に報告されたりしてもマズい。


 やりたくないけど、ちょっと脅かしたほうがいいかもしれない。


「マミマミさん、狼の姿に」


「面倒だのう」


 マミマミさんがYシャツを脱いで巨狼の姿になる。


「うわあああああああ。キノコの棚が倒れるでござるううううう」


 木野先輩は驚く前にキノコの棚を心配している。


 筋金入りのキノコマニアだった。


「本当に異世界の漫画やゲームみたいなダンジョンだったんでござるな」


「はい。絶対に誰にも言わないでくださいよ」


「言わないでござるよ。その代わり」


 先輩のその代わりは予想できる。


「ここでキノコ栽培していてもいいかなあ?」


「いいですけど、その代わり内緒ですよ」


「ありがとうでござる。ダンジョンが公になったらキノコ栽培なんてできないような騒ぎになっちゃうからしないでござる」


 やっとダンジョンやシズクたちを内緒にして欲しいという話ができた。


 まあダンジョンの存在を信じてもらうまで時間がかかったけど、先輩の口は堅そうだ。キノコのために。

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