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22話 ダンジョンの冒険者たち

 また適当にモンスターを探しながら歩くと前方に部屋が見えてきた。


「ひ、人影だ」


 中にはランタンのような灯も見える。


「冒険者だな」


 マミマミさんが言う。


「ぼ、冒険者? 人影だけどなんらかのモンスターってことは?」


「ないな。匂いで確認した」


 マミマミさんがクンクンと鼻を鳴らす。


 なるほど。イヌ科の動物は鼻がいいと聞く。


「冒険者ってことは異世界人だよね」


「会ってみるか?」


「だ、大丈夫かな」


「大勇者クラスが三、四人までなら危険はない」


 大勇者ってなんだよ。


 でもまあ危険はないってことなら様子を見に行くことにする。


 部屋に近づくとなにやら水音が聞こえてきた。


 どうやら部屋の中心が噴水になっているようだ。


「ヨーミのダンジョンにはこのような水場がたまにある。冒険者の憩いの場だな。もちろんモンスターの憩いの場になっていることもある」


「なるほどね」


 この場所は冒険者の憩いの場になっているのだろう。


 部屋に入ると、かなり大きな部屋でいくつかの集団が固まって座っていた。


「うお。みんな冒険者っぽい」


 革鎧やローブなどそれっぽい格好をしている。


 パーカーにジーンズ、ディーバロイドの未来っぽいコスチューム、裸Yシャツは明らかに浮いている。

 かなりジロジロ見られてしまう。


 部屋の隅には丸太や岩のベンチがある。


 やはり一種の公共施設になっているようだ。


 僕たちも少し休憩しようということになった。


 三人で噴水の水を飲む。


「喉渇いていたから水が美味いなあ。それにテンション上がるよ」


「何故だ?」


 マミマミさんが聞いてきた。


「だって、まさか自分がこんなファンタジーな世界で冒険できるなんて思わなかったから」


「日本ではそういうゲームや漫画が流行っているらしいな。レイコに聞いた」


「こちらの世界には夢も希望もないですからね。それに比べて……」


 ダンジョンのある異世界では冒険者たちを見るだけでも胸躍る。


 ギルドなんかもあるかもしれない。


 ここにいる冒険者たちは仕事でヨーミのダンジョンにいるんだろうから、そういった人たちの相互扶助のための組合があってもおかしくない。


 ただ残念なことに女冒険者はあまり見かけなかった。


 いるにはいたけど、筋肉ムキムキで日本のゲームのように可愛らしくはない。


 そりゃそうだよね。


「ところで冒険者の人たちはどんな仕事をしているんだろう?」


 薬草採取、素材収集、ダンジョン調査、モンスターの討伐、ゲームだとそんな依頼を冒険者ギルドから受ける展開が多い。


「さあなあ。ダンジョンの知識があっても人間社会の知識はないんだ」


 マミマミさんには冒険者たちがどんな仕事をするためにダンジョンにきているのかわからないらしい。


「というかワシは人間が嫌いなんだ」


「え?」


 今まで仲よくやれていたと思っていたのに。


「トオルやレイコは好きだよ」


 ほっとはしたが、どうして人間が嫌いなのか気になった。


「どうして人間が嫌いなんですか?」


「人間は自分勝手だろう。だからワシは人間がこないヨーミのダンジョンの地下深くを住処とした」


「そんな……」


 否定したかったが難しい。


 ネットで調べたのだ。その昔、日本人はマミマミさんの種族を真神という神として祀った。


 真神はニホンオオカミであるともいう。


 ニホンオオカミは日本においては滅んでいる、とされている。


 もちろん、人間の影響も大きいだろう。


「白スライム族がダンジョンに隠れ住むようになった理由も聞いたのではないか?」


 マミマミさんも白スライムが人間に悪用された歴史を知っていた。


 僕はなにも反論できない。


 シズクが毅然とした声をあげた。


「トオル様はご主人様なのに私を友達にしてくれました! 悪い人じゃありません!」


「シズク……」


 マミマミさんが笑う。


「ふふふ。シズクの様子を見てトオルのことをいいヤツだとわかったのだ。ちょっとエッチだけどな」


「はい! 最高のご主人様です!」


 心音ミル姿のシズクがニッコリと笑う。


 シズクを友達にして本当によかったなと思っていると、顔に十字傷のおっさん冒険者が話しかけてきた。


「あ、あんたたち、質のいいポーションか回復薬を持っていないか?」


 日本語ではない。異世界の言語なのに言葉の意味が理解できる。


 テレパシーのような感覚だ。


 驚いているとマミマミさんの声もテレパシーのような感覚で聞こえた。


「これは〝共通言語〟というスキルだ。各国の言語に付与する」


 い、異世界のスキルはなんと便利なんだ。


 マミマミさんもおそらく共通言語スキルでおっさん冒険者に話しかけた。


「いきなり、なんだ?」


「す、すまん。俺はダンだ。あそこにいるパーティーのリーダーをしている」


「ほう。それで?」


「仲間が足の腱をオオアリに嚙み千切られた。早く質のいいポーションか回復薬で治療しなければ、アイツはもう冒険者としては終わりだ」


 ぞっとする。


 僕は先ほどオオアリにジーンズの足元をバッサリやられたところだ。


 ダンさんが指差したほうから確かにうめき声があがっていることに気づいた。


「パーティーに回復魔法を使える回復役を入れていないんですか?」


 ゲームだったら常識だ。


「モンスター語? なんて言ってる?」


 そ、そうか。日本語はモンスター語だったんだ。


 マミマミさんが翻訳してくれた。


「パーティーに回復魔法を使えるヤツいないのかって」


 それを聞いたダンさんが激昂する。


「いるわけないだろ! 回復魔法が使えるなら、なんで冒険者をやっている? 教会でも病院でも役所でも何処でも雇ってもらえるだろうが」


 僕はダンさんの今の話で冒険者のことがわかった。


 回復魔法というスキルを持っていれば、冒険者などあえてやる人もいない危険な職業なのだろう。


 マミマミさんは淡々と言った。


「回復魔法か。ワシはできるがな」


 そう。僕はマミマミさんが回復魔法を使えることを知っている。


 だからこそダンさんに回復役はいないのかと聞いたのだ。


 でも……。


「ホ、ホントか!? ありがたい。仲間に使ってやってくれ!」


「ちょっと待て。ワシは回復魔法をできるとは言ったが、使うとは言ってないぞ」


 そう。マミマミさんは人間が嫌いらしい。


 助けないかもしれない。


「そ、そんなっ! 礼は必ずするから頼む!」


「お前からの礼などいらん。ウチのパーティーのリーダーに頼め。リーダーに従う」


 え? ウチのパーティーのリーダー?


 マミマミさんの顔がこちらに向く。


「そりゃそうだよな。パーティーメンバーの魔力の残量なんかはリーダーが管理しているところもある。回復役の魔力は貴重だろうけどアンタ頼むよ」


 えええ!?


 今までマミマミさんにすがっていたダンさんが、今度は僕にすがってくる。


 マミマミさんの顔を見る。


「ワシはリーダーに従うぞ」


 僕の返事は決まっている。


「マミマミさん、頼みます。治してやってください」


「わかった、リーダーに従うよ。回復魔法使ってやる」


 ダンさんは大喜びで僕たちを案内する。


 マミマミさんが僕に小声で言った。


「これは貸しだ。シャンプーで頭洗ってもらうぞ。三回だからな」


「ははは。いいですよ」


「む。何故笑う」


 マミマミさんが治すのを嫌がっているフリをしているのに笑ってしまった。


 僕が治してくれって言うのは知っていて決めさせたくせに。


 マミマミさんはダンさんの仲間の傷をすぐに癒してしまった。


「は~ホントは人間の傷なんか治したくなかったんだがなあ。リーダーが頼むから」


 噓ばっかりだ。


 それに、いつ僕がパーティーのリーダーになったんだろうか。


「いいじゃないですか? 異世界のお金も貰ったし、それとなく情報も聞き出せたし」


 どうやらヨーミのダンジョンの地上には白スライム族が地上から姿を消した当時のままのフランシス王国があるらしい。


 また、この場所はヨーミのダンジョンの地下四層で、そこから僕の部屋とつながっている階層が地下五層ということもわかった。


「金はみーんなワシのものだからな」


「えー記念に少しは欲しいなあ」


 治したのはマミマミさんだけど、僕も一枚ぐらい欲しい。


 使うつもりはないけど、銀貨なのでファンタジー世界の気分に浸れる。


「マミマミさんはお金なんかなにに使うんですか?」


「ダンジョンの地上で人間から美味しい食材を買ってトオルに料理させる」


「ああ、いいですね。異世界の食材か」

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