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20話 寮に馴染む神狼

「神聖なる真神の間をBBQとやらの会場にしおって」


「やめますか? 肉は食べられなくなってしまいますけど」


「ぐぬううううう」


 マミマミさんに切り出してもらった石壁のブロックをかまどにして森の枯れ木に火をつけた。


 寮のキッチンで一番大きなフライパンをその上に置く。


 十分に熱してからスーパーで牛肉を買った時にゲットしておいた和牛の脂をしく。


「いい匂いがするぞ~」


「はい!」


 マミマミさんとシズクが興奮している。


 ふふふ。当たり前だ。脂だけは日本が誇る和牛だからな。


 よく筋切りして塩コショウをしておいたオオネズミの肉の塊を投下するとジューッといい音が立った。


 香りも悪くないし、肉汁も豊富だ。案外オオネズミの肉は悪くないのではないか。肉汁を使えば美味しいソースができそうだ。


「第一弾できたよ~」


「おおおおおおおお」


「うわああああああ!」


 中がレアであることを見せるために作ってもらった木の皿兼まな板の上に豪快に盛りつける。


 我ながら表面の焼き色と中のルビー色のコントラストがなんとも美味しそうだ。


「さあ、どうぞ」


「いただきます!」


 いただきますを言ったのはシズクだけだ。


 マミマミさんは肉をフォークで刺して既にガツガツと食べていた。


「美味い! すごく美味いぞ!」


「ホント美味しいです!」


 そんなに美味いと言ってくれるなら作った甲斐が……って。


 もうなくなりそうだ。2キロはありそうな肉の塊だったのに。


「もっと作ってくれ! 早く、早く!」


「私ももう少し食べたいです!」


 そんなに言うなら、このフライパンギリギリの大きさで分厚い肉にしてやる。今度の肉の塊は5キロを下るまい。


「早く、早く!」


 豪快に肉を焼いては切る。


「できたよ」


 第二弾が完成した。またマミマミさんとシズクがステーキを食べはじめた。


 さすがに5キロの肉はマミマミさんでもすぐには食べられない。


 それにマミマミさんのペースは落ちないが、シズクはお腹一杯になったようだ。


 どうせ肉は余っている。また、お代わりと言われる前に作っておくか。


 少し余裕を感じながら第三弾の肉の下処理をしていると、急にマミマミさんが、Yシャツとパンツを脱ぎはじめる。


「ええい。面倒だ!」


「な? ちょ、ちょっと」


 目を覆った手の指の間からマミマミさんを見ると白いお腹がポコッと少し膨れている。


 少女があんなに食べたらね……。マミマミさんは次第に大きくなっていく。巨狼の姿に戻るのか。


『レイコ、肉を口に投げてくれ』


 木の切り株に座ってなにか考え事をしていたような美夕さんが立ち上がる。


 美夕さんは巨狼に戻ったマミマミさんの口にポンポンとステーキ肉を入れていく。


 そりゃ反則だ。また急いで肉を焼かなければならない。




『少しは食ったな』


 少しだって? 20キロぐらい焼かされたぞ。次はフライパンじゃ無理だな。BBQ用の大きな鉄板を買っとくか。


 オオネズミの肉は少し食べてみたが、結構美味しかった。野趣あふれる風味のいい肉という感じだろうか。


 ちなみに自分の分はよーく焼いてウェルダンにした。


『ところでレイコは何処に行った?』


 美夕さんは長い食事の途中でお風呂に行ってしまった。


「お風呂に行きましたよ。お風呂の時間は決まっているから」


 肉を口に放り投げる仕事は、途中から美夕さんから心音ミル姿のシズクに代わっていた。


『ワシも風呂に入ろうかなあ』


「えー? マミマミさんは寮生じゃないんですよ。お風呂を毎日使うのは」


 それにまた僕がいる時に入ってくるつもりじゃないだろうな。


『今度は最初から水着を着て入ってやるから』


 やっぱり、そうなのかよ。まあいいか。


 僕は小さな声でシズクに言う。


「あのさ。昨日、話したスクール水着になれる?」


「はい! あの薄い本に描いてあった可愛いやつですね!」


 シズクはよくわかっていた。



                 ◆   ◆   ◆



「いや~いい湯だな~」


 狼耳と尻尾が生えた美少女がスクール水着を着てお風呂に入っている。


「今日は特別ですよ」


「昨日も入ったではないか。なんとかならんのか」


「そう言われてもなあ」


 でも確かに体も洗えないのは可哀想かもしれない。一応、女の子だし。


 どうしたらいいのか。


「ヨーミのダンジョンにも水浴びできる場所はあるんだが、真神の間からはちょっと遠くてな~」


 あるのかよ。


 なら、そっちでなんとかして欲しい。


「まあワガママばかり言ってないで、お前のレベルアップにもつきあってやるかな」


「え?」


 意外な申し出だ。


「あんなに美味い飯を食わせてくれて、こうして風呂にも入れてくれたんだしの。真神族はちゃんと恩を返すんだ」


 本音を言えば、一緒にお風呂に入ってくれるだけで、かなり恩を返してもらっているんだけど、さらに恩を返してくれるというならありがたい。


 明後日の日曜日はカラオケがあるから一日レベル上げすることはできない。


 けれど明日は土曜日で学校もない。少しぐらい夜更かししてもいいだろう。


「じゃあ、お風呂から出たらダンジョンに行きましょう!」


「今から行くのか?」


「寝る前にちょっと」


「仕方ないの。その代わりシャンプーとやらを使ってワシの頭を洗っておくれ」


「えええ?」


 マミマミさんがザパーと音を立てて湯船から出て、シャワーの前の椅子にどっかりと座った。狼耳少女の頭を洗うのか。


 しかし、これはこれで悪くないかも……。


「さあ早くしろ」


「は、はい」


 シャンプー液を狼耳がピンと立つ頭にかける。


「目を閉じていてくださいね」


「おう」


 泡立てるために少しだけシャワーのお湯もかける。


「優しくするんだぞ」


「え、えぇ」


 マミマミさんの頭が少しずつ泡立っていく。


「昨日は石鹼で洗ってしまったんだがな。お前やレイコのを見て気持ちよさそうだと思っていたのだ」


「どうですか?」


「いいの~とっても気持ちいいぞ~お前上手いな~」


「お褒めに預かりまして光栄です」


 洗ってもらうのもよかったが、洗うのも……悪くないッ!


「ひゃっひゃう!」


「!???」


「こ、こらっ! 耳は敏感なんだぞ! 優しく優しーくするんだ」


 見た目は少女、行動は子供、でも今の仕草は女の子っぽい……。


「ご、ごめん」


「うん、いいよ」


 もう恩はお釣りがくるほど返してもらっている。


 お風呂から出て、ダンジョンに向かう準備をする。


「よーし! ダンジョン探索を再開するか!」


「「お~!」」


 僕の掛け声に、心音ミル姿のシズクと裸Yシャツとその下にパンツの狼耳のマミマミさんが応えてくれる。


 士気も高い! 明日は学校が休みの土曜日だし、少しぐらい夜更かししてもいいだろう。


 体力テストがある月曜日までに、それなりにレベルを上げることができるだろう。

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