19話 BBQはダンジョンで
「ほとんどのモンスターが無理なんだな」
「ええ。その理解であっています」
マミマミさんとのディスコミュニケーションっぷりはひどかったが、段々と慣れてきた。
今はお化けバッタ、お化けキノコ、青スライムとは戦うことができ、それ以外の敵はすべて任せることができている。
「あ、ご主人様、左の通路にお化けキノコが!」
シズクが指差す。
「ホントだ。えいえい!」
お化けキノコを倒す。
もうお化けバッタや青スライムとあわせて二十匹ぐらい倒した。
そして、この体から力が溢れ出るような感覚。
間違いない。ついにレベルアップだ!
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【名 前】鈴木透
【種 族】人間
【年 齢】16
【職 業】管理人
【レベル】5/∞
【体 力】26/26
【魔 力】39/39
【攻撃力】125
【防御力】39
【筋 力】15
【知 力】26
【敏 捷】17
【スキル】成長限界無し ゲート管理LV1/10
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上がっている。上がっているぞ。レベルが1。それにあわせてステータスも。
握力にしてまた4キロ上がったことになる。レベル1の時から比べたら握力が16キロも上がっている。
しかし……。
「レベルが上がり難くなったような?」
確かレベル1からレベル2に上がった時は青スライム一匹で上がったと思ったけど。
「レベルは加速度的に上がり難くなるぞ」
マミマミさんが教えてくれた。
「そうなのか。薄々、感じてはいたけど」
まあ、現状のレベル5の段階で計算上握力56キロにもなる。
男子高校生の握力の平均が40キロほどだというのはネットで調べてある。
なら学年に力が強いヤツが揃っていたとしても、レベルを2ぐらい上げれば、握力だけなら貼り出されるんじゃないだろうか。
余裕と安全マージンを考えても、後4~5ぐらい上げれば十分だろう。
「いけるんじゃないか。明日からは土日だ。時間は十分にある」
僕は満足してもう一度ステータスを見てみる。
「ん? ってか【攻撃力】125!?」
「どうした?」
おかしいぞ。確かレベル4の時は【攻撃力】14しかなかったはずだが。
リアル握力に連動している【筋 力】ばかり見ていた。
ひょっとして。金属バットを地面に置いて、もう一度ステータスをチェックする。
【攻撃力】15!
つまり金属バットは……。
「こ、この金属バット、攻撃力が110もありますよ」
「昨日、別世界の物はアーティファクトとして珍重されている場合もあると言ったろう」
そ、そういうもんなんだ。
「それだけ攻撃力あるならオオムカデやオオネズミも倒せるんじゃないか?」
「無理無理、無理ですよ。仮に倒せたとしても、先に一回攻撃くらったら重症になってしまいますよ」
「そうだなあ。ワシも段々思い出してきたけど、オオムカデは毒も持ってた気がするしの」
「ど、毒あるのかよ。やっぱり危険だな」
とりあえずだ。
放課後の冒険はこんなものにしとくか。
学生寮の夕飯を用意しなくてはならない。
「じゃあ、僕は夕食を用意しなくてはいけないので、夕飯前の冒険はこれぐらいにしましょう」
「もうやめるのか~?」
「はい」
「じゃあ食材を持っていけ」
う、忘れていた。マミマミさんのご飯も作ると約束してたのだ。
青スライム、お化けキノコ、お化けバッタ、オオネズミにオオムカデ。
こんなもの食材って言えるだろうか。まあオオネズミは食べられるかもしれない。
肉そのものに毒がある哺乳類なんて聞いたことがないしな。
「ではオオネズミの肉だけ持って帰りますか。爪の斬撃で食べる肉っぽい形にできますかね? 僕もできるとは思うんですが、ちょっと慣れていなくて」
料理はできても、生きていた動物から肉を切り出したことなどない。
無駄が出ることに目をつむれば、できるとは思うけど、あまりやりたくはない。
「わかった。毒鑑定スキルも持っているから切り出した食材を鑑定してやろう」
「そんなのあるの? さすが異世界だなあ」
とりあえず食中毒で死ぬ心配はなさそうだ。
「じゃあ持ち帰ってゆっくり捌こう」
マミマミさんは片手で軽々と熊のような大きさのオオネズミを持ち上げる。
やはり神様の一族なのかもしれない。
開閉式の鉄の扉の前に着く。
「解体はここでしていってくれませんか?」
「なんで?」
「せっかく鉄の扉でモンスターを遮断できるなら、この内側は僕の第二の部屋にしようと思って。モンスターの解体は外でやってもらえると助かります」
「なるほど。賢いな。ゲームとか漫画を置こう。異世界の娯楽は最高だからな」
そうそう。そういうことだ。
ベッドやソファーを置いてもいいかもしれない。
「なら扉の部屋の外で解体するよ」
「ありがとうございます。シズクも一緒に待っていてくれるかな?」
「はい!」
二人を残して僕の部屋に戻った。
いつもより早めにキッチンに向かう。
洗濯籠を持った会長に鉢あわせる。
「あら、鈴木くん。今日は早いのね」
「あははは。会長に怒られたばかりですから」
「感心感心。アナタのおばあ様によろしくねと頼まれたけど、なんの心配もないわね」
寮生で三年の会長にも僕のことを頼んでおいてくれたんだろう。
「昔の人は礼儀正しくていいわね」
千春おばあちゃんは寮の仕事を事細かにノートに書いてくれていたし、家事などは昔からしていたので困ることはなかった。
それに千春おばあちゃんは学園の理事長とも昔からの知り合いらしいから、困ったことがあったら相談していいとも言われている。
「レイちゃんもキノコも頼まれたらしくてね」
「あ~」
「レイちゃんは大変なことを頼まれちゃったってアナタの写真をもらっていたわよ」
「えええ?」
「うん。わざわざ、千春おばあ様からもらったみたい。真面目な子ねえ」
僕は学生寮の管理人でもあるけど、寮生でもある。
おばあちゃんが先輩の寮生たちに孫をよろしくと言うのは普通だろう。
しかし、写真まで受け取るというのは少し行きすぎではないだろうか。
美夕さんはとても親切にしてくれるからありがたくはあるんだけど。
「あ~後、これは夕食時に話すわ」
会長は自分の部屋のほうに歩いていった。なんだろう?
キッチンに入ると木野先輩はもうきていて難しい顔でキノコの下処理をしていた。
「木野先輩」
「あ~鈴木氏」
「そのキノコ、なんですか?」
今日のキノコはまったく見たことがないキノコだった。
「ただのマッシュルームだよ。でも大きいだろ」
「マッシュルーム? マッシュルームってもっと小さいじゃないですか」
「日本では小さいサイズで出荷しているだけなんだ。成長するとこんなに大きくなるんだよ」
「ところで先輩は毎回キノコ料理をふるまってくれますけど、何処でそんないろいろなキノコを買ってくださっているんですか?」
こんな大きなマッシュルームは見たことがない。
立川はウドが特産品だったりする。東京とはいえ、農家も少しあるので、農家から直接買っているのだろうか。
「あ、いや、その。しょ、小生の実家は農家でね。キノコも栽培しているんだ」
「そうなんですね。いつもありがとうございます」
夕食作りも慣れてきて木野先輩と話しながらでも手早く作れるようになってきた。
揚げ出し茄子に鮭のムニエル、海藻サラダ……完成!
木野先輩の目を盗みながら、マミマミさん用の食事の調味料や調理器具も用意する。
「よし! バッチリだ!」
食堂のテーブルに食事を並べている頃会長がやってきた。
「今日も美味しそうね」
健啖家の会長は満足そうに席に座った。
しかし、美夕さんはなかなかやってこなかった。
夕食の時間は午後七時三十分と決まっていて、まだ少し時間があるとはいえ、そこは育ちざかりの高校生だ。並んだ食事を早く食べたいだろう。
「レイちゃん、遅いわね」
会長のつぶやきに、僕が呼んできましょうかと席を立とうとした時、美夕さんはやってきた。
「遅かったわね。レイちゃん、ひょっとして体調でも悪いの?」
会長が美夕さんに体調について聞いた。僕も少し気になっている。
美夕さんはダンジョンの探索に参加しなかったからだ。
フルフルと首を横に振る美夕さん。別に体調に異常はないようだ。
それならなにか用事があったんだろう。
「そう。よかった。ならいただきましょうか」
「いただきま~す」
会長の合図で夕食を食べはじめる。
「鈴木氏~。揚げ出し茄子、本当に美味いよ」
「あははは。そうですか。先輩のマッシュルームのソテーもキノコの味が濃厚で美味しいですね~」
「ホント、鈴木くんの料理は美味しいわ~」
木野先輩と料理を褒めあって、会長の機嫌がいいとそれに乗ってくれるのが、恒例になっている。
「ところで今度の日曜日なんだけどみんな空いている?」
会長が僕らに予定を聞いてきた。
僕はリアルレベル上げがあるが……。
「私がアルバイトしているカラオケ屋のアルバイトの特典で」
「え? 会長アルバイトしているんですか?」
会長の実家は超お金持ちで令嬢だと聞いている。
アルバイトなんてする必要があるんだろうか。
「庶民を学ぶ勉強の一環としてアルバイトしているのよ。悪い?」
やばい。せっかくご機嫌なのに。
「いえ、お金持ちなのにと思って。立派です」
まあ僕も働いているようなもんだけど。
「もう、話の腰を折らないで。でね、長くアルバイトしていた特典でカラオケをタダで楽しめるの」
「なるほど。そんな特典もあるんですね」
今はアルバイトを確保するのも大変みたいだからなあ。
「そこで日曜日、鈴木くんの歓迎会を兼ねてこはる荘のみんなでカラオケに行かない?」
そういうことか。
レベル上げもしたいけど、明日の土曜日に頑張れば目標になんとか届くかな。
それにせっかく会長が歓迎会を開いてくれて、みんなも乗り気なのだ。
「ありがとうございます! 楽しみです!」
もちろん笑顔でカラオケでの歓迎会を企画してくれたことやそれに参加してくれるみんなにお礼を言う。
レベル上げだってしたいけど、カラオケだって楽しみだ。
その時、美夕さんが会長のほうを向いた。
「え? レイちゃんは行けないかもしれないの? 用事あるの?」
どうも美夕さんと会長が話しているようだ。
会長は耳がいいのか、美夕さんと普通に会話できる。
美夕さんは行けないんだろうか。
「用事はない? なら行こうよ」
おかしいな。美夕さんはクラスメイトとカラオケに行ったと聞いた。
歌も上手いという噂だ。
用事もないなら、どうして行かないんだろうか?
「行きたいけど行けない? 言ってることがよくわからないわ」
会長の機嫌が悪くなってくる。
「いいじゃないですか。会長がカラオケに誘ってくれるなんて嬉しいなあ」
「そ、そう?」
「明後日の日曜日が楽しみです。嬉しいなあ」
「ふふふ。私も千春おばあ様からアナタのこと頼まれているからね。それぐらいしてあげるわよ」
会長と会話していると、美夕さんがご馳走様(僕もそれぐらいわかるようになった)をして席を立つ。
僕らも、しばらくしてから席を立った。
そして会長と木野先輩が食堂から出ていく。
僕は調理器具や調味料や野菜を持って美夕さんの部屋に行く。
会長が廊下にいないことを確認して美夕さんの部屋を小さくノックする。
「美夕さん。美夕さん」
美夕さんの部屋のドアがガチャリと開いた。
表情が見えないほど長い髪がかかっている頭が出てくる。
少し前の僕だったら驚いていただろうけど、もう慣れた。
「マミマミさんとシズクのご飯なんだけど、森でBBQをしてあげようかと思って。二人を呼んでくるので器材を置いてもらっていいですか?」
美夕さんがコクコクとうなずく。
ダンジョンの探索にもこなかったし、カラオケにも何故かこないようだけど、嫌がる様子もない。
ちょっと気になるけど、マミマミさんがお腹を減らしていると思う。
話は後で聞くことにしよう。