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18話 レベル上げが難しい

「ただいま~」


「おかえりなさいませ。ご主人様!」


「おお、帰ったか……ウノ!」


 狼耳と尻尾で未だにダブシャツの少女と白いスライムはウノをしていた。


 僕は二人がウノをしている和室に上がって鍵を持ったままふすまを開ける。


 出てきたのは冷たい石壁と鉄のドアだ。


「よし!」


 美夕さんの言う通りだ。鍵を持っているとふすまの中はダンジョンのゲートになる。


「ダンジョンに行きましょう」


「ダンジョン? どうして?」


 マミマミさんがどうしてダンジョンに行くのかと聞いてきた。


 シズクも言わないが、どうしてという顔をしている。


「レベルアップのためですよ」


 マミマミさんの強さは神話級なのだ。オオムカデごとき話にもならないだろう。


 ダンジョンを探索するなら彼女がいる今をおいて他にない。


「あ~レベルアップか。自分の能力を知りたいんだな」


 マミマミさんはレベルアップすると【職 業】管理人の能力も次第にわかっていくかもしれないと教えてくれた。


 本当の理由は体力テストだが。


「は、はい」


「でも、お前。今日は少し寝たほうがよくないか? 目の下のクマがすごいぞ」


「誰のせいでそうなったと思っているんですか」


「?」


 昨晩は結局一組しかない布団で寝た。


 マミマミさんはYシャツ一枚しか着ていないから、いろんなものがこぼれたり、めくれたり、足が飛んできたり、尻尾が生えているお尻で押されたりと、まったく寝られなかったのだ。


「とにかくダンジョンに行きましょう!」


 僕がそう言うとシズクはウノをやめてくれたが、マミマミさんは続けたいようだ。


「トオルも入って三人でウノを少しやってから行こうではないか」


 まあ、こんなこともあろうかと説得する方法も考えている。


「マミマミさんは昨日、こはる荘の食費にダメージを与えたと反省していましたよね」


「うっ」


「真神族として恩を返さねば、とも言っていましたよ」


「うぅ。わかったよう」


 マミマミさんの真神族としてのプライドをくすぐればざっとこんなもんだ。


「んじゃあ、美夕さんを呼んでこようかな」


 ダンジョンを探索するなら美夕さんもきたいだろう。


「私、美夕様を呼びに行ってきましょうか? ご主人様はご準備をなさっていてください」


 シズクがとんでもないことを言い出す。


「あ、ありがたいけど、会長や木野先輩に見つかったら」


 するとシズクは体の形を人型に変えていく。


 ぼ、僕? シズクは僕の姿になった。


「これで大丈夫ですね」


「な、なるほど」


「行ってきます」


 シズクは僕に変身して美夕さんを呼びに行った。


 短い距離だ。シズクなら大丈夫だろう。


 問題はこっちだ。


「マミマミさん。パンツぐらい穿いてください」


「別にいらないだろう」


「こっちがいるんですって。動き回るんだからいろいろ見えちゃうでしょ」


 金属バットや懐中電灯を整備しながら説得する。


「でも男物のパンツしかないだろ?」


「そのYシャツだって男物だよ」


「なんだ? ワシにお前のパンツをそんなに穿かせたいのか?」


「!」


 い、言われてみれば。


「ひょっとして自分のパンツをワシに穿かせて、また自分で穿く気か~ん~?」


 マミマミさんが後ろを向いてパンツを穿く演技をする。


 少女の姿なのに妙に色っぽい。本当は何千歳だからか。


 その時、僕の姿のシズクが帰ってくる。だが、美夕さんはいない。


「あ、あれ? 美夕さんは?」


「美夕様は今日はダンジョンには行かれないそうです」


「そ、そう」


 どうしたんだろう? なにか用事でもあるのだろうか。


「代わりに美夕様からこれを預かってきました」


 僕に変身したシズクはポケットから一枚のパンツを取り出した。


 白地にゴムの真ん中のところだけ黒いリボンのパンツ。


 美夕さんのだろう。


「マミマミ様にお届けしろと」


「チェ~」


 マミマミさんが不満そうだ。さすが美夕さんだ。


「シズク、穿かせろ」


「はい!」


 裸Yシャツのマミマミさんに、僕の姿のシズクがパンツを穿かせるのはかなり変な光景だった。


「シズクはまぎらわしいから僕の姿はやめよう」


「では心音ミルさんの姿になりますね!」


「いいね!」


 シズクが心音ミルの姿になる。


「よし、みんな! ダンジョンに行くぜ!」


「おー!」


「お~……」


 マミマミさんがローテンションだ。アメも与えるか。


 ダンジョンの鉄のドアを開けながら伝える。


「考えたんだけどさ。ダンジョンに美味しいモンスターっていないんですか?」


 僕の部屋とつながっているダンジョンは美夕さんの部屋とつながっているダンジョンと違って真っ暗だった。


 懐中電灯を照らしながらマミマミさんに話しかける。


「どういうことだ?」


「美味しいモンスターを狩ってくれれば僕が料理しますよ」


「なに?」


「食材代かからないから。料理しますよ」


 調味料代ぐらいなら、まあ寮費から出ても……。


「豚肉や牛肉に近い肉のモンスターならハンバーグやハンバーガーが作れるかも」


「それを先に言え!」


 マミマミさんもようやくやる気になってくれたようだ。


「しかし、薄暗いダンジョンだな。ワシの真神の間とはえらい違いだ」


「だから懐中電灯を」


 早くもマミマミさんが文句を言い出したかと思ったら。


「どれ。メガトーチ」


 マミマミさんがなにか言うとダンジョン内が全体的に明るくなる。


 まるで白熱灯のような暖色の光にダンジョン内が照らされる。


「な、なにこれ?」


「魔法に決まってるではないか」


「ま、まほー!?」


「神とも呼ばれるワシがこの程度の魔法もできないと思ったのか?」


「い、いや。そうじゃなくて。まさか魔法なんてあると思わなくて。いや、あるとは思っていたけど、実際に見ると……」


 ひょっとして僕もできるようになるのか。


「今度、教えてやる」


「マジですか!?」


「まあまあ今は食える魔物を狩ろう」


 た、確かに今はレベルアップが先だ。体力テストは近い。


「そ、そうですね。今は魔物を狩りましょう」


 魔法の灯りのおかげですぐにダンジョンの奥につながる扉の前に到着した。


「じゃあ押しますね」


「早く押せ」


「いや開けた瞬間モンスターがうわーってくるかもしれませんよ」


「大丈夫、大丈夫」


 ホントかな。


 だが彼女には確かに神の力の片鱗を感じさせる時がある。


 よ、よーし。鉄の扉を開閉するボタンを押した。音を立てながら扉が上がっていく。


「げっ」


 シズクの言った通りだった。


 扉が開ききると何体ものオオムカデが待ち構えていた。匂いに寄ってきていたのかもしれない。どれも人間を優に超える大きさだ。


「やばい!」


 扉を閉めるためにボタンをもう一度押そうとする。


 その手をマミマミさんに摑まれる。


「おいおい。せっかく開いた扉を閉めることもないだろ?」


「そ、そんなこと言っている場合じゃ」


 オオムカデがこちらのほうを向く。


 そして無数の足を動かしながらこちらに向かってくる。


「き、きたー!」


 もう扉を閉めても間にあわない。


「部屋まで逃げるぞ。早く!」


 ところがマミマミさんは胸をはって、まるで散歩でもするようにオオムカデのほうに歩く。


「ちょ、アホかー!」


「アホ? だーれがアホだ!」


「マミマミさんがアホ……え?」


 オオムカデたちの頭が胴体からポトリポトリと落ちはじめる。


「え、えええ?」


 結局、すべてのオオムカデの頭が地面に転がり、でかい胴体も動かなくなってしまった。


「ムカデも不味くはないが、それほどは美味くないんだよな」


「マミマミさんがやったの?」


「そうだ」


 マミマミさんが笑いながら中指から刀のような大きさの爪を伸ばす。


「伸縮自在だ。見えなかったのか」


 全然、見えなかった。強い。


 ゲームの初期、パーティーメンバーが弱い間、味方になってくれるつよーいお助けキャラのようだ。


 ん? オオムカデを倒してもレベルが上がった感じがまったくしないぞ。


「あ、あの~マミマミさん。僕、レベルアップした気がしないんですが」


「そりゃ、お前、戦ってないからじゃないか。オオムカデを倒したのもワシだし」


 ゲームで例えるならパーティーメンバーに経験値が振り分けられないタイプのゲームだったか。


 そりゃそうだよな。そっちのほうが現実に存在する世界っぽいし。


「僕、レベル上げたいんですけど」


「ならモンスターを倒すのが手っ取り早いぞ」


「あんなモンスターを倒せるわけがない。そうだ。もっと弱いモンスターを探そう」


 いたぞ。キノコのモンスターだ。背丈も股下ぐらい。


 動きも速くない。防御力も低そうだ。


 僕のレベルでも金属バットでいけるのではないだろうか。


「え?」


 さあ攻撃しようと思ったらキノコが縦にスライスされてしまう。


「お! 青スライムだ!」


 懐かしの青スライム。


 今度こそやるぞ……と思ったら、スライムはケーキのように八等分にカットされてしまった。


「ちょ、ちょっと。全然僕は倒せないんだけど」


「別にワシが倒してもいいじゃないか。キノコは食えるのかな」


「よくない。僕はレベル上げにここにきたんですよ」


「そうだったっけ? 食材集めかと思っていたぞ」


 マミマミさんが僕とシズクの後ろに下がる。


「じゃあ、お前がやれ。どうぞ」


 すると、ちょうど前方から無数の足を持つ巨大なムカデがやってきた。


「キャッ。ご主人様」


 心音ミル姿のシズクの手を取って、二人でマミマミさんの後ろに回る。


「オオムカデなんか無理だって。死んじゃうよ」


「レベルを上げたいんだろ? モンスターを倒さんと上がらんぞ」


 近寄ってきたオオムカデの頭が落ちる。


 マミマミさんは話しながら攻撃していた。


「お化けキノコとか青スライムとかにして」


「そんなに強さは変わらんぞ」


「変わりますって」


 マミマミさんは本当に強い。既にモンスターの死骸が足元に山と積まれている。


 しかし、強すぎるマミマミさんにとってはオオムカデも青スライムも強さの違いを感じられないようだ。


 初心者パーティーのお助けキャラとして向いているか疑問に思えてきた。


「では確認するぞ。オオムカデが無理で、お化けキノコと青スライムは倒せる。それでいいか?」


「はい。それでいいです」


 話しているとダンジョンの通路の陰から熊のような大きさのネズミが現れる。


「これはどっちだ?」


「これは無理なほううううううううう」

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