16話 最強のスキル?
ステータスを知ることができれば、どんなことに才能を発揮できるかわかるかもしれない。
これって地球人にとっちゃめちゃくちゃオイシくね。
無駄な努力ショートカットしまくりやん。ひょっとすると、とんでもない特殊スキルを持っているかもしれないぞ。
もっとも、ステータスの内容次第ではお先真っ暗な気分になる可能性もあるけど。
「ステータスはどうやって見ればいいのですか?」
『ん? それは……知らん。すまんな』
「知らない? どうして? ステータスという言葉は知っているのに!」
『自分のステータスをただ知るという行為などに興味はない。戦って相手より強いか弱いかだけだ。ただ、ステータスという言葉はかつて人間たちがよく使っていたぞ』
神級のモンスターっぽい考え方だ。
けど、今はステータスを知る方法がないということが残念だ。
うなだれていると美夕さんに肩をポンポンと叩かれた。振り向くと顔がすぐ近くにある。
「ステータスの見方、知っているよ」
な、なんだって?
そういえば美夕さんとは、まだレベルアップの話をしていない。
「ステータスってゲームとかに出てくるアレだよね?」
「そう! ゲームとかに出てくるアレだよ!」
意外だ。美夕さんもゲームするのか。
彼女だって女子高生なのだからゲームぐらいするか。
「んで、どうするの?」
「ダンジョンにいるなら、ステータス出てって心の中で思えば出てくるよ」
「そ、そんな簡単に?」
「うん。簡単だから私も気づいたの。やってみて。私もトオルくんのステータス知りたいな」
そ、それはなんとなく怖い。
美夕さんに人生の未来を暗示する超強力な通信簿を見られるようなものだ。
というか自分自身も見るのが怖いぞ。落ち着こう。
仮にどんなにダメな能力でも見たほうがいいに決まっているんだ。
もしダメでも、ダメなりに有効な対策がとれるのだから。
――ステータスオープン!
すると心の中にイメージとして数字や文字が浮かんでくる。
しかし、これは!?
数値が高いのか低いのかわからない。
そもそも意味がわからない部分も何ヶ所かあった。
「どうだった?」
「紙とペンないかな」
「あ、書こうってことか。取ってくるね」
美夕さんが自分の部屋のほうに戻る。
もちろん、美夕さんにステータスを見られるのは怖いが、自分一人ではとても理解できそうにない。
彼女やシズクや巨狼さんにも見てもらって一緒に考えてもらうことにした。
美夕さんがペンと紙を二組持って戻ってきた。
「私も教えてあげるね」
と、美夕さんもステータスを書きはじめた。どうやら、美夕さんもステータスを見せてくれるらしい。
比較できる対象があるのも助かるけど、それよりも美夕さんがステータスという究極の個人情報を見せてくれることに嬉しさを感じる。どうして美夕さんはここまで僕によくしてくれるのだろう?
気にはなったが、今はステータスを書くことにした。
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【名 前】鈴木透
【種 族】人間
【年 齢】16
【職 業】管理人
【レベル】4/∞
【体 力】23/23
【魔 力】36/36
【攻撃力】14
【防御力】39
【筋 力】14
【知 力】25
【敏 捷】16
【スキル】成長限界無し ゲート管理LV1/10
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心に浮かんだイメージを紙に書き写す。
しかし、書いてもやはり意味はわからなかった。
数値はそれほど高いようには思えないが、それはまだレベルが低いだけかもしれない。
重要なのは現在のステータスよりも潜在的な成長性だろう。
その意味では大当たりかもしれない。
なにしろレベルの分母が無限大なのだ。
成長限界無しというスキルが影響しているのだと思う。
「トオルくん、私も書けたよ」
美夕さんのステータスも書けたようだ。
自分のステータスを見せるのは恥ずかしいが、美夕さんのは正直見たい。
「交換する?」
「並べて見ようよ」
美夕さんは花の咲き乱れる野草の絨毯に、自分のステータスを書いた紙を置く。僕の紙も隣に置いた。
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【名 前】美夕麗子
【種 族】人間・吸血鬼
【年 齢】17
【職 業】斥候
【レベル】1/49
【体 力】20/20
【魔 力】59/59
【攻撃力】11
【防御力】242
【筋 力】11
【知 力】60(+10上昇中)
【敏 捷】61
【スキル】無音歩行LV1/10 敵感知LV1/10
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ど、どういうことだ?
僕のステータスもおかしい気がしたが、美夕さんのステータスもおかしい気がする。
美夕さんが僕も変に思ったところを指で触れた。
「はじめてステータスを見た時に思ったんだ。私って吸血鬼なのかな……」
声が少し震えている。
そう。美夕さんの【種 族】には人間の他に吸血鬼とも書かれていた。
美夕さんもきっと僕にステータスを見せるのにはためらいがあったはずだ。
それでも僕を信頼して見せてくれたのだろう。
「いや、吸血鬼には見えないよ」
「でも……」
巨狼さんが顔を近づけてきた。
『ほう。珍しいな。吸血鬼の血がすこーし混じっているのだろう』
「え? どういうこと?」
巨狼さんは日本語つまりモンスター語が読めるのか。
それより吸血鬼のことを知っているんだろうか。
『まだこの世界と日本の交流があった頃は、当たり前だが吸血鬼と日本人との交流もあったろうな。交配もできるし』
「というと美夕さんが吸血鬼というよりもご先祖様に吸血鬼がいたってこと?」
『そうだろう。先に人間と書いてあるではないか』
なるほど。少し安心した。
『レイコは血を吸いたくなったり、日光で火傷したりするか?』
「ないよ」
美夕さんが首を振る。
『ならなにも問題ないではないか』
「確かにそうね。でも……」
『レイコにしては歯切れが悪いな』
美夕さんが僕のほうに顔を向ける。なんだろう?
「吸血鬼なんてトオルくんに嫌われないかって……」
「ええぇ! 別にそんなことないよ」
「なら吸血鬼でも構わないか」
美夕さんが髪をかき上げてニッコリと笑う。
笑顔がまぶしい。素顔はとても幽霊のようだったとは思えない。というか幽霊じゃなくて吸血鬼の血を引いているんだっけ。
まあ、吸血鬼のことはわかったし、問題もなさそうだ。他にも気になることがある。
「この突出した防御力や知力の上昇はなんだろう?」
『ふむ。防御力も知力の上昇も服の効果だろう』
服? 美夕さんの服を見る。
「制服にストッキング。ひょっとして」
いろいろあったから僕も美夕さんもまだ着替えていない。
『黒い靴下はストッキングというのか。脱いでみろ』
美夕さんがコクコクとうなずく。
「えぇ?」
美夕さんが靴を脱ぎ捨ててから、それからスカートの中に手を入れる。ストッキングを脱ぎはじめた。パンツが見えるわけではないが、妙にエロい。
「防御力が22になっている」
生足になると美夕さんが言った。
「なぬ?」
元々242だから黒ストッキングは防御力220もあったのか?
『防御力はレベルアップしても増やせない。つまり、その黒い靴下の数値だろう。知力の上昇効果は上着だな』
このペラペラのストッキングにそんな防御力が。
制服には知力上昇の効果があるのか。
ストッキングの後光のまぶしさで、後ろに下がると足になにかが当たってしまう。
どうやらハンバーガーと一緒に持ってきた午前ティーを足で倒してしまったようだ。紅茶が流れ出す。
すると森の下草がニョキニョキと異様な速さで伸びて腰ほどの背丈になる。
「な、なんだこりゃ!」
『物やスキルは異なる世界に持っていくと特殊な効果を発揮する場合もあるのだ』
「黒ストッキングの防御力が高かったり、午前ティーが植物を成長させたりか」
『そうだ。異世界の物はアーティファクトとして珍重されている場合もあるぞ』
「そ、そうなんだ。アーティファクト」
午前ティーはともかくストッキングがアーティファクトとして珍重されるというのはどうも。
まあ、そんなことより自分のステータスを確認するか。
「僕のステータスも見て欲しいのですが。レベルの限界が無限なんだけど」
『ほう。珍しいな』
やっぱり、そうなのか。
「いくらでも成長できるなら! 最強のスキルだ!」
『まあ、そうとも言えんがな』
「え?」
『ははは。レベルは上がり難いぞ。最強になるには、そうだな』
なんだか暗雲が立ち込めてきた。
『最強になるには生きるか死ぬかの戦いを千年ほど毎日して経験を積むことだ』
そ、そんな。人間は千年も生きられない。
それに生きるか死ぬかの戦いを毎日していたらすぐに死んでしまう。
『まあレベルが上がりやすいモンスターもいるが、数は少ないし倒すのが難しいからレベルが上がりやすいのだ』
成長限界無しというスキルは超大器晩成型で、今のところ僕には宝の持ち腐れのようだ。
『むしろ気になるのはお前の職業のほうだ』
「え?」
巨狼さんが僕の職業である管理人を気にする。
『管理人、ゲート管理、まさかな』
「な、なにかあるんですか?」
『ひょっとすると』
「教えてください」
自分のステータスのことだ。とても気になる。
『この世界と日本の行き来を管理していた一族が管理人と呼ばれていたような』
「それってダンジョンの魔素を利用してこの世界と日本を行き来していたっていう?」
『そうだ。特別な力を持っていた』
特別な力……。本当だろうか。
「ステータスの数値はあんまり強そうじゃないですけど」
巨狼さんは目をつむって首を横に振った。
『いやわからん。さっきも言ったように我らモンスターはステータスのことには詳しくないのだ。やはりゲートの行き来を管理した一族とは違うかもな』
「そうですか」
ステータスの職業について詳しく知りたかったけど、これ以上のことはわかりそうになかった。
『レベルアップすれば、新しいスキルなども覚えていくだろう。そうすればわかることも増えるぞ』
「レベルアップできれば苦労はないんですが」
『ん? 何故、できんのだ?』
僕は自分の部屋から行けるダンジョンも美夕さんの部屋から行けるダンジョンも強力なモンスターがいて勝てそうにないことを話した。
『なるほどな。ならワシを連れて行け』
「えええ?」
連れて行けって神様の一種みたいな巨狼さんをか?
『ワシを連れて行ってこの辺の敵を狩れば一気にレベルが上がるぞ。瀕死にしてやるからトドメはお前がさせばいい』
「それって巻き込まれて死んだりしませんかね」
巨狼さんはこの階層でベヒーモスと戦ったとか言っていた。
フェンリルとかベヒーモスとか神話級のモンスターだ。
相手にされていなくても巻き込まれて死ぬことはあるんじゃないだろうか。
『確かに死ぬかもな。いやむしろ死ぬか。普通に死ぬな』
「そ、それは困りますよ」
『ならお前の部屋から行ける場所に行こう。オオムカデぐらいなら巻き込まれるような戦いなどにはならん』
「いや無理無理。ゲートを通れないですよ」
バスのような大きさの巨狼さんがあんなボロ寮にきたらすぐに崩壊するぞ。
「マーちゃんが女の子の姿になればいいよ」
急に美夕さんがおかしなことを言い出す。
「巨狼さんは男なんだから女の子の姿になんかなれるわけないよ」
『うん?』
「それにそろそろお風呂の時間が終わっちゃうよ。戻らないと」
スマホで時間を見ると午後九時三十分だった。こはる荘の風呂の時間は午後十時までと決められている。
『ほう風呂があるのか。ワシも入りたいな』
「無理ですって無理」
こはる荘を壊したら千春おばあちゃんに殺されてしまう。
とりあえず今日はお風呂に入るために解散しようという気になった。
巨狼さんが笑ったような気がしたが、僕は大して気にしなかった。