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14話 五十年も食べてなければ、お腹が減る

「フェンリル!」


 よくファンタジーのゲームに出てくる。元々は北欧神話の神様と戦ったモンスターのはずだ。最強の神様であるオーディンを倒したとか。


 神話がそのまま事実を伝えているわけではないと思うけど、巨狼さんの存在を考えるとその一部は本当の話だったのかもしれない。


『もっとも同族と思われたくないヤツだがな。人間にもいるだろう。ははははは』


 確かに人間にも同じ人間と思われたくない人がいる。


「それにしてもダンジョンにこんな場所があるんですね」


 ダンジョンの中のはずなのに、まるで外の森のようだ。


『ああ、天井に太陽ゴケが張りついている。まるで外のようだろ。ヨーミのダンジョンは魔素も濃いから栽培しやすい』


 なんだって!


 ヨーミのダンジョン!? 僕の部屋とつながっているダンジョンも、ヨーミのダンジョンとシズクは言っていた。


「ここもヨーミのダンジョンなんですか?」


『そうだ』


「僕の知っているヨーミのダンジョンはこんなところではないのですが」


 レンガのような石のブロックの壁で組み立てられている、もっと幾何学的な構造のダンジョンだった。


『お前もレイコもゲートから直接きたのだったな』


「どういうことですか?」


『日本とつながるダンジョンなら、それはヨーミのダンジョンだろう』


 巨狼さんの話によれば、ヨーミのダンジョンは地下百層を超える巨大ダンジョンで階層や場所によって姿をすっかり変えるらしい。


 つまり、まったく様相が違っても、僕の部屋のダンジョンと美夕さんの部屋のダンジョンは同じで何処かでつながっているだろうということだった。


「どういうことですか?」


『ヨーミのダンジョンは元々その濃い魔素を利用して、人間の一族が日本へのゲートを作った場所だ。数千年前から封印されていたがな』


「そ、そんな場所が立川だったとは……」


 ってか、そんなところがおばあちゃんの物件とつながってしまったのかよ。


 報告しないといけないが、千春おばあちゃんはフェンリルと同じぐらい恐ろしい。


 剣道やらなぎなたやら複数の謎の古武道が師範級の腕なのだ。レベルなんか百ぐらいあるんじゃなかろうか。


 そうだ! 忘れていた! レベルアップだ!


 せっかくヨーミのダンジョンの違う場所に出られたのだ。


 僕の部屋からだとオオムカデなど危険なモンスターもいるらしいけど、この階層なら平気かもしれない。


「すいません。この階層にはモンスターは出ますか?」


『そうだな。五、六十年ぐらい前にはベヒーモスが上の階層から迷い込んできたぞ。美味かったな。そういえば、あれ以来なにも食べてないな』


 突っ込みどころが多すぎる。


 これまたゲームでよく聞くモンスターのベヒーモスなのか?


 美味かったって食ったのか? 五、六十年、なにも食べていない?


「ベヒーモスってどれぐらいの大きさですか?」


 レベル上げには無理だとは思いつつも、万が一の期待を込めてとりあえずベヒーモスの強さに関することを聞いてみる。


『ワシの三倍ほどか。少しだけ苦労したな』


 お腹がキングサイズ以上の大きさのベッドになる狼さんの三倍かよ。


 少なくとも今は絶対に勝てない。


 レベルアップどころか確実に死んでしまう。


 そもそも神話に出てくるような狼さんが少しとはいえ苦戦しているのだ。


 美夕さんも教えてくれた。


「危ないからマーちゃんがいるこの広間から出ないほうがいいって」


『そうだ。この階層には人間が魔王と呼ぶヤツらと同じぐらいの強さのモンスターが普通に出る。個体数は少ないがな』


 せっかく新しいダンジョンの出入り口を見つけたが、僕の部屋からつながる階層のモンスターよりも強い。レベルアップする前に死んでしまうだろう。


「どうしたらいいんだろう」


『なにか困っているのか?』


 ポケットに入れていたスマホがブーブーと振動する。


「あ、そろそろ夕食を作らないといけない時間だ!」


 遅れると会長に怒られるのでアラームを設定していた。


「トオルくんの作るご飯は美味しいものね」


「はい! ご主人様のご飯はとっても美味しいです!」


「いやそんな。ふふふ」


 美夕さんとシズクに料理の腕を褒められる。密かに自信があるので悪い気はしない。


 ところが、巨狼さんがそれに食いついてしまった。


『ほう。そうなのか。ワシも食ってみたいものだな』


「え?」


 美夕さんが同意する。


「それいいわね。マーちゃんも食堂にきてもらったら?」


 いやいやいや。無理だろ。


 恐竜みたいなデカさの狼だよ。


「食堂が壊れちゃうよ」


 美夕さんは大丈夫だと思うと言うけど絶対にダメだ。


『なんとか頼む。もう五、六十年は食っていないのだ。そのワシの前でメシの話をしたのだぞ』


 五、六十年もなにも食べてないのは確かに可哀想だ。


「じゃあ……なにか作って持ってきます。いろいろ、ダンジョンのことを教えてもらいましたし」


『すまんな。美味かったらもっと教えてやるぞ』


 学友の食事を作るだけでも経験がある人は少ないと思うけど、まさか神様の料理まで作るハメになるとは。

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