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12話 ダンジョンの森

 そうすると呪いの生贄説が……。


 いや、でも本当に僕のことを……。


 その時だった。近くの部屋のドアがカチャカチャとなる。


 しまった。あそこは会長の部屋か!?


 僕が美夕さんの部屋に隠れこむと同時に声が聞こえた。


「レイちゃん、音が聞こえた気がしたけど、なにかあった?」


 美夕さんは廊下で玄関のドアを軽く閉める。


 僕は会話を聞き取ろうと薄暗い玄関で息を潜める。


「そう。ならいいのだけど」


 会長が納得して部屋に戻った音がする。


 美夕さんは僕のことを話さずに何でもないですとでも言ったのだろうか。


「僕のことを話さないということはやっぱり生贄だから隠したのか。健全な意味のほうなのか?」


 玄関のドアがカチャッと開く。美夕さんが入って来て部屋の照明のスイッチを入れてくれる。


 白色を基調にした女の子らしい部屋で生贄の線は一気に低下した。つい逆の期待を抱いてしまう。


「どうぞ。上がって」


 耳元でささやかれる。美夕さんに恐ろしさを感じなくなると、むしろ大人っぽい魅力を感じる。


 そういえば、学年で一つ年上だった。


 通された部屋は和室のはずなのにカーペットが敷かれたり、ベッドがセットされたり、ふすまに壁紙が貼られて洋室のようになっている。


 窓には白いカーテンが掛けられている。厚手で外からの光が入ってこない。外からも見えないだろう。


 やっぱり……。


 座る場所は二箇所あった。ベッドと学習椅子。美夕さんはベッドに座る。


 絵面だけで見ると顔を隠すほどの長髪の少女が無言で座っているのだが、今は彼女の素顔を知っているので、ただドキドキしている。


 学習椅子に座ろうとすると美夕さんが立ち上がって僕の肩を掴んでベッドに座らせた。


 そして隣に座った美夕さんは横から僕の首筋に顔を近づけてきた。


 やっぱりなのか!?


「椅子に座ったら耳元で話せないよ」


 え? 椅子は学習椅子でもちろん一人用だ。


 つまりベッドで並んで座らないと声の小さい美夕さんとは会話できないということか。


 どうやら生贄でも男女のアレでも無かったらしい。


「何か飲み物いる?」


「の、喉は乾いてないかな」


 でも可愛い女の子の部屋にあげてもらったことなどない。


「固まっちゃってどうしたの?」


「い、いえ」


 しかも、その女の子とベッドで並んで座ると、制服のスカートから見えるスラリとした黒ストッキングの脚が目に入ってしまう。


 顔を上げられないのでそればかり目に映る。


 こんな状況で固まらずにいられるか。


「トオルくんってすごいよね」


 美夕さんに耳元で急にすごいと言われて戸惑う。


「な、なにが?」


「寮の御飯作ってくれたり、掃除してくれたり」


「あ~そういうことか」


 他にも食材や生活消耗品の買い出しとか夜の点検とか施錠確認などもしている。


「諸事情あって子供の頃から親の代わりに家事をやっていたから」


 だらしない親でも美夕さんに尊敬される役には立ってくれたらしい。


「私にはできないよ……。すごいね」


「大したことないよ」


「トオルくん」


 美夕さんが僕の名前を耳元でささやく。


「な、なに?」


 これは世間では良いムードと言われているヤツではないだろうか?


「抱っこしていい?」


「えええ?」


 抱っこ? そういうプレイなのか?


「い、いいですけど」


「ホント?」


 美夕さんが手を伸ばした……ダンボールの中にあるシズクに。シズクを胸に抱きしめる。


「シズクちゃん可愛い~」


「ありがとうございます」


 シズクも嬉しそうにプルプルしている。


「そっちか」


「?」


 美夕さんはシズクを抱きながら不思議そうに首をひねっている。


 それにしても、僕はどうして部屋に呼ばれたんだろうか?


「シズクちゃんは小さくて可愛いわね」


 小さい? 僕が抱いていたスライムのイメージより少し大きいけど。


「結構、大きくない?」


「マーちゃんと比べたら全然小さいじゃない」


「マーちゃん?」


「こんなに大きいんだから」


 美夕さんは僕の部屋でもした手を広げるジェスチャーをした。


 あれはマーちゃんなるものの大きさを表現していたのだ。


 ともかく大きいということはわかったけれども、正体はまるでわからない。


「洞窟に行ってマーちゃんに会うよ」


 美夕さんはどうもダンジョンのことを洞窟と言っているフシがある。


 つまりマーちゃんってダンジョンにいるのか!?


 それよりも!


「美夕さんはダンジョンに入れるの?」


「ダンジョン? あ、洞窟のことね。トオルくんも入れるんじゃないの?」


「どうやって!?」


 僕とシズクは昨夜からダンジョンに入れていないことに困っているのだ。


「ふすまからでしょ」


 僕の部屋と同じだ。


 なら美夕さんの部屋のふすまを開ければダンジョンにつながる石壁と鉄の扉が現れるのか?


 またレベルアップやダンジョンの探検ができるのだろうか?


「ふすま開けていい?」


「え? いいけど……」


 またダンジョンを探索したい気持ちを抑えられない。


 壁紙を貼って洋室のように模様替えをしてある美夕さんの部屋のふすまを開ける。


 そこには綺麗に衣類収納ボックスが並んでいた。


 極ありふれた押入れの中だ。


「え? ダンジョンの扉がない」


 予想と反した結果の前に立ち尽くしているといつの間にか美夕さんが後ろに立っていた。


 耳元でささやかれる。


「これ忘れているでしょ」


 美夕さんがそう言って僕に何か固いものを手渡した。


「これは鍵? まさか」


 ふすまを一度閉じて開け直す。


「な!?」


 僕の目の前にあの石壁と鉄のドアが現れる。


 まさかこはる荘の部屋の鍵がダンジョンと日本を繋ぐ鍵なのか?


 そういえば初めてダンジョンに入った時は制服も着替えていないままだった。制服のなかに鍵が入っていたと思う。


 そしてダンジョンに入れなくなったのは、シズクとお風呂に入って部屋に戻った時だ。


 ダンジョンの扉が無くなった時、鍵は玄関のキーボックスに戻していた。


 つまり理由はわからないけど、こはる荘の部屋の鍵がダンジョンへの扉を開く文字通りの〝鍵〟になるということか。


「扉を開けても大丈夫?」


 美夕さんがコクコクとうなずく。


 彼女は鍵の事も知っているのだから何度も出入りしているのだろう。


 とりあえず、急にモンスターが襲ってきたりする心配はなさそうだと思い、安心して扉を開ける。


「ここは一体!?」


 美夕さんの部屋から入れるダンジョンの光景は、僕の部屋から入れるダンジョンの光景とはまったく違った。


 木々が覆い茂り、やわらかな陽光が差し込む森のような場所だった。


 ダンジョンにも関わらず、陽光のような光が降り注いでいるのだ。


 ただドアは自然岩のような岩壁にあるので、やはり巨大空間は洞窟内だろうと推測できる。


「美夕さんはここによく来ているの?」


 美夕さんはコクコクと首を縦に振る。


「危なくない?」


 美夕さんはブンブンと首を横に振る。


 彼女は少なくとも何回かここに来ていて、しかも安全と認識しているらしい。


「そっか。じゃあ行こうか」


 僕と美夕さんは寮の玄関から靴を持ってきて、シズクも連れて森のようなダンジョンを歩く。


 短い下草が生えていて歩きやすく、まるで林道をハイキングしているかのように錯覚してしまう。


「気持ちいいね。ダンジョンの中なのに森を散歩しているみたいだ」


「ホントですね~気持ちいです」


 美夕さんがコクコクとうなずき、シズクもそうですねと同意してくれる。


 しばらくすると次第に木々が開けていく。そして完全に開けた場所が見えてきた。


 木々は無くなり、太陽のものではない光が降り注ぎ、地面には野花が咲いている。おそらくこの空間の中心だろう。


 そこに巨大な狼が悠々と寝そべっていた。しまったと思う。あまりの大きさに近寄るまで何かわからなかった。


 人間が動物だった頃の原始の本能が教える。この狼はやばい。


 生物としての存在が高い山や大きな海といったような大自然を連想させるのだ。


 寝そべる狼の首は既にこちらを向いていて、ダンジョンに入った時から気が付かれているように思えた。


 不幸中の幸い、巨狼の様子は落ち着いていて威圧感は感じなかった。


 触らぬ神に祟りなし。静かに回れ右をして帰ろうとした。

7時に投稿するの忘れていました。

よろしくお願い申し上げます!

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[気になる点] >木々が覆い茂り、やわらかな陽光が差し込む森 木々が覆い、茂り なのか 木々が生い茂り の間違いなのか判断に苦しむw
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