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11話 経験が無いからわからない

「トオルくん。私の指、何本? ここは何処?」


「チョキで二本。学生寮の僕の部屋で一◯一号室です」


「大丈夫そう。よかったわね。シズクちゃん」


「はい!」


 安静にしていたほうがいいと、まだ美夕さんの膝枕のお世話になっていた。


 雷も鳴り止み、静かな部屋の中ではなんとか美夕さんの声も聞き取ることができる。


 畳の上で黒ストッキングの美少女から膝枕はされるのは心地良い。


 心地よいが……何で美夕さんはシズクと打ち解けているんだ?


 いや、打ち解けること自体は何もおかしくないか。


 二人、いや一人と一匹は僕の回復を願うという共通の目的を果たしたところなのだから。


 けど、普通は先に白スライムの存在自体に疑問を持つと思う。


「あの美夕さん。シズクのことを何ていうか……」


 美夕さんは僕がそう言っても不思議そうに首をかたむけた。


 どうも伝わらないらしい。


「不思議に思わないんですか?」


「シズクちゃんのこと? びっくりしたよ。でも、洞窟ならどんなモンスターがいても不思議じゃないでしょ?」


 美夕さんは笑顔を作ってシズクに手を置いて撫でる。


「み、美夕さんはダンジョンを知っているんですか?」


「やだ、トオルくん。洞窟に一緒に行こうって約束したじゃない。頭を打って忘れちゃったの?」


 た、確かに昨日の夕食の席で、そんな話をしたけど。


◆◆◆


 シズクを見ても、美夕さんが驚くことはなかった。


 彼女は洞窟にはどんなモンスターがいても不思議じゃないという。


 洞窟とは間違いなくあのダンジョンのことだろう。


 つまり、美夕さんは知っているのだ。


「トオルくん。痛みとかめまいとかない?」


「え? あああああ! す、すいません」


 僕は美夕さんの膝枕を受けていた。


 制服になってくれていたシズクは畳の上でスライムの姿に戻っていて、僕はTシャツとトランクスという下着姿だった。


 これではダンジョンの話をする以前の問題だ。


 跳ね起きてGパンとパーカーを着る。


「す、すいません! もう大丈夫です!」


 どうやら自分は玄関で気絶してから、和室に運ばれて寝かされていたようだ。


 黒髪で顔の隠れた幽霊スタイルの少女は静かに畳の上に正座している。


 僕も彼女の正面に向き合う形で正座する。


「……」


 距離ができたせいで美夕さんの声がまた聞こえなくなった。


 おそらく責められている思う。


「ご主人様、美夕様は良かったって安心されていますよ!」


「え? そうなのシズク?」


「はい!」


 美夕さんを見ると顔がコクコクと上下に動く。膝枕をしていたことは怒ってないようだ。


 よく考えれば僕がしたわけではないのだから、怒られるわけがないか。


「頭は大丈夫です。それよりダンジョンの話なんだけど」


 僕がダンジョンのことを聞くと美夕さんはなにか話しながら手を広げる。


 何か大きなものを表現しているようだが、大きいということ以外はサッパリわからない。


「美夕様、美夕様、お声が小さくてご主人様に聞こえてないみたいですよ」


 僕が指摘して良いことか悪いことなのかわからなかったことをシズクは堂々と話す。


 美夕さんが畳の上のシズクのほうを向いて固まった。


 これ、本人も気づいてないやつや。


「え? これでも結構大きな声を出している?」


 シズクは僕より聴覚が良いのか、どうにか聞き取れているようだ。


 そういえば、シズクは今までも何度か美夕さんの言葉を伝えてくれていた。


「はい、はい、なるほど。これ以上大きな声を出すと叫んでいるようで恥ずかしいのですか。それでしたらご主人様のお耳元でお話されては?」


 あれで大きな声を出しているつもりなのか?


 そんなことを考えていると美夕さんは正座のままススッと膝を詰めてくる。僕のすぐ真横に来た。


「ど、どうしたんですか?」


 今度は顔を近づけてきたので、つい仰け反ってしまう。女の子に馴れていない。ましてや美少女だ。顔が見えれば、だけど。


 ところが美夕さんは僕の後頭部に優しく手をのせて引き寄せてきた。


「これで聞こえる?」


 あ、そういうことか。


 理解すると同時に良い香りがする。


「う、うん」


「よかった。私に付いてきて」


「え?」


 美夕さんは立ち上がって、少しだけ玄関のほうに歩きこっちを振り向く。


 付いてきて、ということなのだろうか。


 シズクをダンボールに入れて美夕さんの後を付いていくことにした。


 寮の廊下に出て少し歩いて振り向く。


「付いていっているよ」


 美夕さんがスッスッスと歩いていく。


 相変わらず音を立てない。


「え? ここは美夕さんの部屋」


 ま、まさか……。


 部屋のドアを開けて中へどうぞというように彼女は立っている。


「えええええ? 美夕さんの部屋に入れってこと?」


 コクコクとうなずかれる。


 こ、これはどう解釈したら良い?


 何かの呪いの生贄にされるとかないよね。


 その危険の疑いは素顔を見てからかなり軽減されているが、美少女だからって本当に軽減していいのだろうか?


 あるいは……健全な若い男女の。いや不健全かもしれないけど男女のアレなのか。


 思えば彼女は何故か僕を下の名前でトオルくんと呼ぶ。しかも、顔を近づけられたり、膝枕をされたりと好意を感じないでもない。


 そうことなんだろうか。正直、経験がないからわからない。


 いや、ちょっと待ておかしいだろ。僕のようなクラスのぼっちで顔も普通ぐらい(だと思う)の目立たない男子へ、急に好意を抱くか?

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