0話 人間の友達はいないけどスライムの友達がいます。
高校生にとって友達は必要なのか?
そんなことを考えながら、僕は教室の一番後ろからクラスメイトたちの頭をぼーと眺めていた。
僕こと鈴木透は高校という友達を作るのに最適な環境にいるのに、〝クラス〟の友達が一人もいない。
だが、それがどうした!
――ふっふっふ。僕には友達がいるのだ。最高の〝スライム〟の友達が!
友達はクラスにいなくても、人間でなくても構わない。
「今日のホームルームを終わります」
「起立、礼」
放課後、クラスメイトは教室で友達とおしゃべりしたり、連れ立って部活に向かう。
その光景を尻目に僕は学園寮に向かって一直線に走った。
学園寮のこはる荘は端っこだが、一応は学園の敷地の中にあるのですぐに到着する。
「ただいまぁ」
「おかえりなさーい」
一◯一号室に飛び込むと白いプルプルした物体が僕を迎えてくれた。
僕の友達、白スライムのシズクだ。
「お風呂にしますか? ご飯にしますか? それともぉ~~~うふふっ」
シズクが薄い本で学んだお約束の挨拶をすると人の形に変化しはじめる。
あっという間にディーバロイド(歌姫ソフト)のキャラクターで僕の大好きな〝心音ミル〟になった。
現実には存在しないはずの美少女が微笑みながら僕にウインクをする。
仕草も心音ミルそのものだ。
「それともぉ~やっぱりダンジョンですか?」
実は白スライム族は飼われている人間(つまり僕)の好む姿形に変身する習性がある。
「もちろんダンジョンさ! でも、シズク。別にいつも心音ミルになってくれなくていいよ」
「そうですか?」
「うん。僕は白スライムのシズクも好きなんだから」
「ご、ご主人様、嬉しいです……でも……」
「でも?」
「心音ミルの姿になっておけばリュックサックを背負えるからダンジョンで便利ですよ」
「確かに」
スライムじゃリュックサックは背負えない。ダンジョンに行くなら心音ミル姿もいいか。
心音ミル姿のシズクが探検の必需品が既に入っているリュックサックを背負う。
僕は金属バットと懐中電灯を手に持った。
ダンジョンに行けば、モンスターを倒してレベルアップできる。
レベルアップすれば、筋力や知力のステータスも上がって、なんと学校の勉強も運動すらも有利になるのだ。
さらに白スライムのシズクや女騎士や女魔法使いの友達が出来たのもダンジョンだ。
ゲーマーの趣味と実益を兼ね、そしてコミュ障の僕でも冒険の中で友達ができる。それがダンジョン探索だ!
そんなダンジョンがあるわけないと思うだろう。
それがあるのだ。
二人で和室の押し入れの前に立ち、僕はふすまを勢いよくパッシーンと開ける。
出てきたのは石壁と鉄のドア。
「ドアを開けるよ」
「はい!」
寮の鍵をドアに差し込むとカチャリと鍵が開く。
目の前には闇に覆われた遺跡風の空間、ダンジョンが広がる。
懐中電灯を照らすと腰ぐらいまでの大きさの動くキノコがいた。
お化けキノコと名付けたモンスターだ。
「よしよし! また湧いているぞ!」
「ご主人様、そろそろレベルが上がるかもしれませんね!」
「ああ。頑張るぞ~」
こうして今日も放課後の異世界冒険部がはじまった。
WEBでコミカライズ0話も公開されています。
後ほどリンクを貼っておきます。