有人船団の奮闘。
戦闘シーンを時間に追われてかき上げるのはつらいのです。
でも頑張りましたよ。
楽しんで頂けたら幸いです。
先行して帰還することになったチェリー艦隊長のコーラル級巡航母艦とプラム艦長のアインホルン級重巡航艦は既に停泊地にいない。
作戦通りに、ヴィオラ提督の戦艦艦隊と教授の施設艦隊がGP6に残留し、引き続き周辺宙域の警戒や建設、資源の採掘に当たる。
その一方で、GP6から出発する水資源輸送艦隊は3万トンの水資源を積んだ護衛対象の4隻の輸送艦からなる輸送艦隊を中心に、その全周を軽巡航艦と駆逐艦からなる護衛艦隊でグルリと包む球形陣を展開している。
しかし、ソウジ提督の艦隊とアオイ艦隊長のリントヴルム級重レーザー重巡航艦、そして来援したルル大提督の操るケルベロス級高速重巡航艦といった主力艦は、すべて球形陣の外側にあり、自由に動いて敵艦隊迎撃の任にあたる。
それは攻勢型輪形陣と呼ばれる艦隊陣形だった。
しかし、敵艦隊との最初の接敵が発生したのは、囮であるはずの水資源輸送艦隊ではなく、航海演習中の有人船団だった。
戦闘前、武装調査船ビーナ号と海賊戦艦ブランシュ・ネージュ号を加えた7隻の有人船団は、無人のファーネ級有人武装船を仮想敵として、損傷により速力が半減しているという設定で、ビーナ号防衛戦という戦闘訓練を行っていた。
しかし、突如として告げられた複数の転移反応が訓練を終了させ―――。
空間震、次いで重力震をまき散らして出現した敵Evil高速駆逐艦群が、実戦の開始を告げる。
『敵艦急速接近、敵さんやる気だぜっ。』
『訓練通り、落ち着いてやれ。いいか、2隻1組で1隻づつ潰していけ。いくら早くとも数うちゃ当たる。ストーム号はビーナ号を護れっ。』
『了解している、そちらも撃ち漏らすなよ。』
『当然だ、此処まで来てやられるかよっ、全員、気合いれてかかれっ!』
ライブラ号の艦長、ベルク・シュタインがモニター越しに指示を飛ばす。
ソー号と接収したリップル号が、ライブラ号の戦闘管制を受けて、同一目標を狙って砲撃戦を開始し、ライブラ号はヴァールハイト号と組み、2基4門のレーザー砲による相互射撃を開始する。
『4時方向よりα1群3隻、目標は本艦。ストーム号が砲撃開始、敵艦隊レンジ5に侵入。ついで3時方向のα2群2隻は速度変わらず、ヴァールハイト号を目指してます。』
「デイジー交戦許可を発令、ビーナ号の全武装を展開承認、戦闘準備、いけるわねっ」
『了解でーす。艦長の指示を確認。ビーナ号全武装攻撃準備完了、皆さん、ガンガンうっちゃってくださーい。』
艦長であるマイア・ユースティティア調査士官の戦闘準備の発令を受けて、戦闘指揮所を担当するすべての乗員が、慌ただしくシートベルトで体を固定する。
武装担当の乗員はオペレータ席のモニター見据え、受け持ち担当の武装群から安全装置が解除されているのを確認し、トリガーボタンに指をかけた。
戦闘管制担当のオペレータは、刻一刻と変わる戦闘状況をレーダーや各種装置から読み取り、報告をあげていく。
有人武装調査船ビーナ号の船体各所で武装が展開されていく。
双胴船の両弦上部で、偽装シャッターで覆われ隠されていた連装レーザー砲塔4基8門の主砲がゆっくりと姿を現す。
その半分ほど船体にめり込む形で格納されていた4基の主砲塔を、偽装シャッターを収納して昇降機で持ち上げ、本来の位置で固定した。
次いで8基の高角レーザー砲塔と10基の防衛砲台が船体各所から持ち上がり、迫る敵を指向する。
戦闘準備完了。
機密保持の為、訓練時には隠してあった武装群を衆目に晒して、襲い掛かる敵艦隊に対して、ビーナ号も砲撃戦を開始した。
無人艦と比べれば、その防御力と総合火力は同級の巡航艦級には劣るものの、火器管制装置と6メートル口径の連装レーザー主砲の火力は巡航艦と全く同じものであり、防御力も戦闘艦基準の三層構造、1次装甲はもちろんナノマテリアル装甲仕様だった。
カタログスペックだけとはいえ、マイヤ嬢が知っている有人武装調査船ビーナ号の総合戦闘力は、周囲の有人護衛駆逐艦群よりも固くて強いはずだ。
そう信じればこそマイア嬢は、艦長として実戦に向き合えている。
『敵α3-1撃沈、駆逐艦ソー、右舷に被弾、損傷軽微。』
『プラズマキャノン発射準備完了。』
「各砲塔、敵艦をキャノンのレンジ内に追い立てて、対艦ミサイル1番2番、目標α3-2、次いで3番、4番、目標α3-3。撃ちなさいっ。」
マイヤ嬢の戦闘指揮に応え、武装担当官達が砲を動かし、トリガーボタンを押し込む。
ビーナ号が右舷と左舷の4基の発射管から艦対艦ミサイルを放ち、護衛を務めるストーム号に狙われ、レーザー光をばら撒く高角砲に追い立てられた敵艦に向けて、プラズマ砲弾が襲い掛かる。
『敵α6群、次いでα7群、ブランシュ・ネージュ号と交戦開始。敵α4群戦線離脱。跳躍しました。』
戦闘管制オペレータの声が聞こえる。
敵は襲撃開始から5分で撤退する。
その法則を守りつつ、次々と現れる敵艦隊が戦闘を終わらせない。
「デイジー、珠さんに救援要請、ちゃんと送ってる?」
『大丈夫、救援艦隊の出撃は確認してまーすっみんな、がんばれー♪』
デイジーからの救援要請を受けて、即座に珠ちゃんが援軍を出撃させていた。
既に泊地より緊急出撃したハウンド級高速要撃駆逐艦5隻からなる要撃艦隊が、泊地外周を覆うアステロイド・ベルトを駆け抜けて、この戦闘宙域に向かっている。
この要撃艦隊は、常人ならば正気を疑うような速度と軌道で、小惑星と小惑星の間を抜ける最短コースを駆け抜けていったのだ。
救援が来る、そう信じるからこそ戦える。
「対艦ミサイル各1基、目標α9群の4隻、撃ちなさいっ、各砲塔α9群に指向。やつらに仕事をさせないでっ」
α8群と交戦中のライブラ号とヴァールハイト号に迫るα9群に向けて、艦首を向けたビーナ号であったが、その支援は遅かった。
『敵α7群全滅、α6群戦線離脱、α10群、α11群、ブランシュ・ネージュ号と交戦開始。駆逐艦ヴァールハイト被弾、速力低下、艦隊から落伍します。』
『ヴァールハイトはファーネ級の陰に隠れろ。いいか、野郎どもここが正念場だ、撃ち負けるなっ!』
ベルク艦長の指揮の下、被弾したヴァールハイト号を庇い、ライブラ号が前に出る。
ヴァールハイトをやった敵艦とライブラ号が交戦距離を詰めた砲撃戦を展開する。
有人艦隊8隻の中で最も狙われたのは、クロスボーン級海賊戦艦ブランシュ・ネージュ号だった。
改装された海賊戦艦を操るブランシュ・ネージュ大提督が、接近する敵艦隊と有人艦隊との間に割り込み戦闘しているからだ。
もう一隻ある主力船、ファーネ級有人武装船は現在無人で運用しているため、敵の攻撃を防ぐ肉盾であり、攻撃が出来ない案山子だった。
クロスボーン級海賊戦艦ブランシュ・ネージュ号の奮戦は続く。
連装レーザー砲塔6基12門と連装レーザー速射砲4基8門を撃ち続け、味方艦からの攻撃さえ利用した交差射撃と偏差射撃を巧みに使い分け、次々とレーザー光が敵艦を捉え貫いていく。
10メートル口径の連装レーザー主砲の威力ならば、駆逐艦級の防御障壁など紙のようなもので、皮膚装甲が一瞬で焼失、宇宙に体液を撒き散らす敵艦を、遅れて到達したプラズマ砲弾が容赦なく呑み込み、宇宙から消し去っていく。
「すごい・・・。」
マイヤ嬢は感動で声も出ない。
言葉がでないとはこのことだろう。
敵が速いとか遅いとか関係なく、あえて言えば敵艦から当たりに行っているような命中率、複雑な回避機動をとって迫る敵艦隊が文字通りに溶けていく。
5分で逃げる敵艦隊が、その5分間を生き残れない。
「これが伝説の船、無敵の海賊船ブランシュ・ネージュ号・・・。」
子供のころ、ドラマや映画で見た情景に重なるような光景に、マイヤ嬢の胸も高鳴る。
『全艦隊、わたしの統制下に入れ、これより敵艦隊を撃滅する。たかだか駆逐艦級十数隻でわたしに挑む愚かさを、大提督に挑むというその意味を、教えてやる。』
正面モニターに映るブランシュ・ネージュ大提督の凛とした立ち姿に、マイヤ嬢の憧れが爆発した。
『マイヤ、マイヤってば、艦隊統制に入るの?』
「よろこんで・・・。」
『喜んでじゃないでしよ、マイヤ、マイヤ、マイヤ、しっかりしてーっトリップしないでーっ!』
デイジーの必死の叫びは、マイヤ嬢に届かない。
これが、後に戦友となるふたりの出会いだった。
憧れの対象と共同作業って浪漫じゃないですか。
いろいろ伏線を回収しつつクライマックスまでいけるといいな(笑い)




