到着しました。
ブックマ感謝です。
ようやく採掘開始。
読んで頂き感謝です。
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【報告】巡航艦コイン→ミズーリ級ミサイル巡航艦を受領しました。
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俺の予想通り、Evilからの襲来はなかった。
こちらの大規模な作戦行動に気づいたのだろう、潮が引くようにグレイトパール星系全体から敵高速駆逐艦の姿が消え、襲撃自体もパタリとやんだ。
そうパタリとである。
襲撃途中だった複数の敵艦隊群が、一斉に星系からの離脱軌道に変移して空間跳躍した。
それ以降、奴らによる星系侵犯もなくなった。
しかし、敵がいなくなったわけではない、ただ何処かに潜んで此方を観察しているのであろう。
そして俺も、ルル大提督に敵の襲来の対処を任せ、敵の襲撃パターンをずっと蓄積していた。
その結果として見えてきたものがある。
俺は敵の観測結果を並べた行動解析図から輸送船団出航直後に、一斉に反応した7つの敵集団を拾いだす。
観測結果が告げるタイムラグ無しの一斉離脱行動、これは明らかに異常である。
どれかの敵集団がこちらの輸送船団を発見したのならば、発見した敵集団から情報が発信され、徐々に共有されていくはずである。
その過程で各集団が行動していく以上、必ずその行動にはタイムラグが発生する。
特に泊地の近域にあるガス惑星GP4の陰に隠れて、直接こちらの動きを把握できないはずの敵2個集団も、他の集団とまったく同じタイミングで、タイムラグなしに離脱軌道に変移していた。
結論、情報の拡散速度が明らかに異常である。
俺はこの事実から推測できる生態系をひとつしか知らない。
それは命令を下す女王種と呼ばれる上位個体を頂点とする群体生命体である。
そしてこの女王種は、少なくとも星系ひとつ分程度の範囲ならば、タイムラグなしに複数同時交信可能な超空間通信能力を獲得していると推測出来る。
この推測が正しいと仮定するならば、末端である敵高速駆逐艦級をいくら沈めても無駄である。
討伐すべき対象は女王級個体のみ、命令系統を統括する女王種を捜しだし、これを撃滅せねば、この状況は終わらないであろう。
チャンスがあるとすれば、帰還する水資源輸送船団を敵が襲撃する往路であるな。
目標である女王級が放つであろう超空間通信波を捉えて、その発信源を特定する。
その為には女王級が放ったと思われる超空間通信波を特定しなければならない。
俺は超空間通信波の解析と選別作業を開始した。
過去に観測できた無数に飛び交う交信波形を比べ合い、延々と削除していく作業である。
襲撃の結果潰される事の多かった監視衛星群の喪失が解析作業を遅滞させている。
もしここまで先を読んで、襲撃目標を定めていたのならば、敵は恐ろしく悪辣な手際である。
問題はふたつ、ひとつ目は多くの波形が乱れ飛ぶ戦闘中にそれが可能かどうか、不確定要素も多くこればかりはやってみないと分からないのである。
ふたつ目は、敵の総戦力が分からない事。
あの高速駆逐艦級が敵の主力であったとしても、その総数は不明。
襲撃頻度と艦数から、少なく見積もっても50隻を下回ることはないであろうし、恐らく女王種を守る上位種も存在するはずである。
数が少ない主力艦群で討伐可能かどうかも、不確定要素が多すぎて予測不能であるな。
「勢い任せのアサルトになりそうですわね。」
ルル大提督の何気ない感想に、俺も同意する。
この強襲作戦はどれほどの保険を積み上げればよいか、分からないのであるな。
俺はモニターに視線を戻す。
水資源採掘輸送作戦は予定通り進み、水資源輸送船団は1隻も欠ける事なくGP6静止衛星軌道上まで到着している。
俺はモニターに映る氷惑星GP6とその衛星軌道上に浮かぶ、小惑星GP6S1を解析する。
氷惑星GP6は大気圏を持たない惑星であり、地表部分は氷結した気体や液体によって構成されている。
大気圏が存在しないため突入能力のない船でも地表まで降下可能であるな。
逆に小惑星GP6S1は全周100キロ弱の金属型惑星であり、鉄や金属資源を多く含む有望な鉱床が点在しているのである。
今後の資源採掘に大いに期待できる衛星であるな。
水資源輸送船団を映すいくつものモニターには、ヴィオラ提督の立案した計画に従い、教授が率いる施設艦隊が、氷惑星GP6の衛星軌道上に浮かぶ小惑星GP6S1で急ピッチで行われている、宙域観測所と資源採掘基地の建設作業の様子が映っている。
中小の輸送艦から運び出された建設資材を次々と輸送艇に乗せて運びだし、ブルーメ級大型工作艦を筆頭に工作艦や作業艇が地盤を均して固めた後、その土台の上に大まかに施設を組み上げていく。
内部の細かな作業は工作戦騎に混じり、建設隊やワーカーズが担当していた。
また違うモニターでは、GP6の氷結惑星に降下した採掘艦が、氷塊を切りだして破砕していく作業が映っている。
破砕した氷塊を呑み込んだ工作艦が、艦内で砕いた氷塊を溶かして液体に戻しつつ、抽出した水資源だけをタンクに集めて、残りの不純物を再冷却して固体化してから、ブロック状に固めて廃棄するという作業を繰り返していた。
モニターに表示されるトン当たりの水資源の確保量は悪くない。
事前調査どおり、この氷惑星は水資源の採掘に向いていた。
氷惑星にもいろいろな種類があるが、幸いにして降下地点付近の氷塊は不純物こそ多いが、精製して成分を抽出してやるだけで、水資源として利用可能だった。
同時に回収できた液体酸素と液体水素から水を合成する必要もないほど、水資源が豊富のようだ。
採掘作業中の工作艦群は艦内のタンクが満水になれば、いったん作業を中断して自ら輸送艦に納入しに移動するか、輸送艇に積み下ろしてから作業を再開するというルーチンワークを、これから終了を命令するまでずっと繰り返す事になる。
俺は各艦の作業工程をチャックして、すべて予定通りに進んでいる事を確認した。
ルル大提督、Evilの動向に変化の兆候はあるか?
「現在はありませんわ、哨戒艦隊並びに各監視衛星からの報告にもEvil艦隊の兆候は見つかりません。」
ならば、有人船団の動向はどうか?
「先ほど星系内に大規模船団が出現しましたが、既に長距離跳躍しましたわ。ただ小規模船団や1隻での単独航行は増加傾向にありますわね。それと有人船団からはいろいろな要求が来ておりますが・・・・。」
すべて拒否であるな、作戦行動中に不確定要素は不要である。
「ですわね、その様に対応しますわ。」
ヴィオラ提督、現場の状況はどうか?
『こちらは順調です。防衛艦隊の増強と基地から出撃する要撃艦隊の準備状況はどうなっていますか?』
順調である。
要撃艦は5隻完成、ついで10隻を建造中であるな。
そちらに送る防衛艦はこれからである。
『了解しました。』
短い交信の後、ヴィオラ提督がモニターを閉じた。




