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大提督は引き篭もる。  作者: ティム
災禍の討滅者編
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アリゼ連邦使節団2

アリゼ連邦の政治的なお話です。

読んで頂けて感謝です。


「せめて何か反応してくれませんかね、そもそもこちらの通信内容を理解しているのでしょうか?」

「試してみますか?」


 なんら変化のない状況に飽きたのだろう、悪戯っぽい口調でそう聞いてきた彼女に彼も許可をだす。


「こちらアリゼ連邦所属オルター号、私とお喋りしませんか?」

『作戦行動中につき、いかなる交渉にも応じない。貴官の要求を拒絶する。』


「こちらアリゼ連邦所属オルター号、長い夜のお相手はいりませんか?」

『作戦行動中につき、いかなる交渉にも応じない。貴官の要求を拒絶する。』


「こちらアリゼ連邦所属オルター号、いまなら艦長秘蔵の貴腐ワインも付いてきます。」

『作戦行動中につき、いかなる交渉にも応じない。貴官の要求を拒絶する。』


「こちらアリゼ連邦所属オルター号、巨乳と貧乳どちらが好みですか?」

『作戦行動中につき、いかなる交渉にも応じない。貴官の要求を拒絶する。』


「こちらアリゼ連邦所属オルター号、今夜あなたのベッドに忍び込んでもいいですか?」

『作戦行動中につき、いかなる交渉にも応じない。貴官の要求を拒絶する。』


 何度も同じ口調で、冗談を繰り返す女性オペレーター。

 そして変わらない返答。


「やはりこちらの声は届いてません。向こうの返答時の口調が全く同じで、台詞にブレもズレもありません。自動音声に近い感じです。」

「そこまでわかるのか?」

「私はオペレーターです。声もそうですが、耳も鍛えてますから。お疑いならば、音声解析を行ってください。」

「いや貴官を信じよう。だとするとだな・・・正攻法だと厳しいか・・・。」


 アーク大使は再度方針を検討する。


 この交渉には期限が決められている。

 謎の武装勢力によるネーエルン公国への侵略行為に対して、そのもたらされた情報を伝えられたアリゼ連邦評議会は、満場一致で徹底抗戦を採決した。

 この決定を受けた各アリゼ連邦所属国家は、戦時量産型の戦闘艦の建造を開始。

 同時に民間軍事派遣会社との個別交渉に入った。

 その議会上で問題とされたのが、現状唯一といってもよい、ネーエルン公国に至る星間航路を繋ぐN58星系。

 其処を実効支配する機械知性体への対応である。


 強硬派による占領策と穏健派と保守派による友好策のぶつかり合いは、有効投票数が過半数を超えた友好策を採択することになったのだが、強硬派への配慮として交渉には期限がつけられることになったのだ。

 当然のことながら、連邦軍本部は交渉期限切れ後の占領作戦の検討に入っている。


 そして問題が発生した。

 それは先ほど出撃した大型戦艦の形をしていた。


 その艦型は判明している。1500メートルクラス扶桑級重戦艦と呼ばれる戦闘艦で、こちらの戦艦級と比べてもやや小柄だが、その戦闘力はこちらの重戦艦や巨大戦艦に匹敵する。

 しかし問題なのはその戦闘力ではなく、この艦型が帝国でも使われている事であり、極秘裏に帝国がこの機械知性体と接触を持っており、密かに軍事支援を行っている可能性が浮かんできたからである。


 帝国―――。

 日輪を抱きしめる翼の乙女を国旗として掲げる日輪帝国は帝を頂点とする帝政国家であり、同時に泊地同盟とも関係が深く、同盟国家としてその恩恵を多大に享受していた。


 本当に、あの帝国と繋がっているのかはわからない。

 この件については、本国を介して帝国に説明を求めているが、その返答は此方まで届いていない。

 もし帝国と繋がりがあるのならば、今後の交渉は協和政策を掲げて機械知性にも人権を認めている帝国にも一定の配慮をしなければならないだろう。

 そうしなければ、現在交渉中の帝国への援軍派遣交渉にもおおきな暗雲が立ち込めることになるだろう。


「エーデルシュタイン社からの返答は、どうでしたか?」

「当社の業務活動中の艦艇に対して、いかなる妨害工作も受け入れない、との返答が届いています。」

「星間企業体らしい返答ですね。エーデルシュタイン社所属の船があったので、そちらから手を廻せるかと思ったのですが・・・・・。」


 エーデルシュタイン社との交渉を任せていた使節団のひとりにその結果を聞いてみたが、予想通りその方面からも望み薄らしい。


「アーク大使、駆逐艦ライブラ号が交信許可を求めています。」

「ライブラから?繋いでください。」


 民間傭兵会社プロミネンスの社長兼艦長のベルク・シュタインが通話モニターに映る。


『頑張るねぇ、いい加減諦めて帰ったらどうだい?』


 ベルク艦長の開口一番の言葉がこれだった。


「貴方が、取次をしてくれれば、すぐにでも帰りますよ。」


 アーク大使は、皮肉でもなんでもなく、そう答えた。


『出来るわけねぇだろ。交渉内容は守秘義務により明かせない、とにかく取り次げって言われてもな、こちらにだって守るべき義務ってやつがあるんだぜ。

 知ってるだろう、俺たちは傭兵だ。どんな旗の下でも戦うし、どんな仕事でも契約した以上はやり遂げる。

 そしてなによりも、クライアントの不利益に繋がる行為は慎まねえといけねえ。

 そのぐらい出来なきゃ、この業界では食ってけねぇんだよ。』


 誰が信用の置けない傭兵を雇いたがるもんか。

 そう言外に告げるベルク・シュタインに対して―――。


「では、どうすれば貴官の信頼を勝ち取れますか?」

『ひとりで来な。話ぐらいは聞いてやる。』

「いいでしょう、伺います。」


 遅々として進まない交渉を先に進める為に、彼はひとりで動くことにした。



作中のN58星系というのは、アリゼ連邦の星間航路に掲載されているグレイトパール星系の事です。

この時点では、公式に認められておりませんので、こういう表記となっております。


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