商談、誰が担当する?3
読んで頂き感謝です。
ベルク氏の苦労話、厄介事っていやですよね。
行間修正。
各艦にひとつづづ割り当てられたドックに、駆逐艦ライブラを係留作業中の艦長のベルク・シュタインが各種の計器を順番に確認していく。
「さぁ、鬼がでるか蛇がでるか、こうご期待っと。」
「どうします、船に誰か残しますかい?」
副官の忠告にベルクもしばし考える。
もしもに備えるならば、此処は残しておくべきだろう。
合法とはいえ避難民も連れている以上、安全確認もしていない場所で、多数の非戦闘員を連れての移動は避けるべきだ。
分断される可能性も考慮したが、これはあくまで商談である以上、相手を刺激しないように少人数で向かうべきだろうな。
「各艦に通達を、船長以下3名を選抜して下船させろ。残りのメンバーは総出で修理作業だ、いいな、短い間でも気密の保たれた安全なドックが使えるんだ、やれるかぎりやっとけ。それと部外者の2艦にも、くれぐれも余計な真似はするなと伝えとけよ。エーデルシュタインの嬢ちゃんはともかく、ドワイトって奴からは目を離すな。なんかやらかして一蓮托生で潰されたらたまったもんじゃないからな。」
「ですなぁ、もちろん自分も同行しますぜ。留守番はヤーベにまかせまっさ。」
「ヤーベか・・・いいだろう。あいつなら馬鹿な真似はさせないだろうからな。」
「ええ、そこらへんは信用できまさぁ。」
ベルクは副官と航海長を連れていくことを決めた。
各艦3名でも総勢15名である。
正直、これが多いと考えるか、少ないと考えるかは微妙なところだ。
既にソーとヴァールハイトの艦長たちは宇宙服姿でベルク達を待っていた。
ひとしきり拳をぶつけ合いあいさつをかわした後、ベルクが奇妙な装束の女とむき合う。
「グレイトパール泊地へようこそじゃん、あんたがこいつらのボスかじゃん?」
右手に巨大な金属籠手を装備した女。
ヘルメットもかぶらないその立ち姿に、ベルクは思わず外部酸素濃度を確認していた。
「そうだが、そういうあんたは?」
「うちの大将に買ってもらいたいものがあるって話じゃん、それは本気かじゃん?」
「本気だったら、どうする?」
「なんもしないじゃん、その商品に等しい価値あるものと交換するだけじゃん。ま、あんたらがおかしな真似をすれば、うちらが制圧する事になるじゃん。くれぐれも馬鹿なことは考えるなじゃん。」
きっと忠告なのだろう、彼女は馬鹿な真似はやめとけと釘を刺しにきたらしい。
「ご忠告感謝を、お嬢さん。俺はベルク・シュタイン。プロミネンスっていうちっぽけな会社を経営してる経営者だ。」
「ふーん、うちは鉄拳娘じゃん。とりあえず、あんたらとの商談を任されてる担当者のひとりじゃん。そして向こうから来る集団の先頭、日傘をさしてるのが要塞令嬢じゃん。うちと同じ担当者のひとりじゃん。これは忠告じゃん、長生きしたけりゃ、あの女を怒らせるなじゃん。」
「なるほど理解した。」
「さすが鉄拳娘さんですわ。わたくしの敗北のようですわね。」
「勝負なんかしてないじゃん、そっちはその6人かじゃん?」
「ええ、残りの方はそれぞれの船に残留しておりますわ。」
「此処にいる15人が代表者ってことで間違いないのかじゃん。」
「ああ、間違いない。私たちはあなた達と交渉しにきた。」
キリっとした表情のエーデルシュタインの堅物嬢ちゃんルーティシア・マリア・スカイライトとごつい体つきの中年ドワイトと他4人の同行者。
「こっちもそうだ。」
ベルク他2隻の船長とそのクルー合わせて9人。
「マイやん、こっちに誰か送ったじゃん?・・・そう、賢明じゃん。」
「要塞令嬢、ネズミが紛れ込んだみたいじゃん。」
「あらいやだわ、なんてことでしょう。鉄拳娘さん、お願いしてもよろしくて。」
「構わないじゃん、こういうのはうちの仕事じゃん。」
低重力環境下、その重力の影響をまるで無視して鉄拳娘が疾走する。
隠れ潜んでいた何者かが、物陰から顔を出した瞬間、不審者の頭を巨大な怪腕でつかみ持ち上げる。
その手に持っていた熱線銃は、銃本体を彼女の左手が掴み、そのまま握りつぶしていた。
「こんにちわじゃん、子ネズミちゃん。抵抗は無駄じゃん。降伏するなら抵抗はやめて、ゆっくりと両手を上にあげるじゃん。」
必死で抵抗していた相手がくぐもった声で何かいい、震える両手を上にあげた。
頭を掴んていた手を放し、床に落ちて蹲る相手に鉄拳娘が顔を近づける。
「グレイトパール泊地にようこそじゃん。これからあんたを捕虜として扱うじゃん。おかしな真似など考えず、うちの指示に従うじゃん。分かったかじゃん?」
「・・・はい、あの、わたし―――。」
「あんたの事情はあとで聞くじゃん、いまは黙ってついてこいじゃん。」
鉄拳娘が捕虜にした人物に自分の前を歩かせる。
その光景を見ていたベルクが頭を抱えていた。
交渉前から厄介事発生である。
あれだけ釘をさしたのにトラブル発生である。
あの不審者が自分の会社のものではないこともわかっており、同型の簡易宇宙服を支給されるエーデルシュタイン社の社員でないことも明らかだ。
なぜならば、ルーティシアたちグループの色違いの宇宙服ともまるで形状が違うからだ。
だとすれば―――。
「おいドワイト、てめえ、どういうつもりだ。俺はあんだけ釘をさしたよな。おかしな真似はすんなって、お前の行動ひとつで、此処にいる全員が危険に晒されるんだ、自分がなにしたかわかってんのか、おい、こら、なんとかいえよ、てめえっ。」
ベルクが威圧するかのに重苦しい声でドワイトを問い詰める。
しかしドワイトは無言だった。
無言のままベルクを蹴り飛ばし、彼の手が一瞬で引き抜いた拳銃を彼に向ける。
まさかの展開にベルクが反応しきれず、ドワイトが引き金を引く寸前に差し込まれた日傘が、至近距離で放たれた熱線を受け止めた。
「あらあらあら、なんのつもりかしら、こんな処でおもちゃ遊びなど、なさらないでくださいませ。わたくしどうすればいいか困ってしまいますわ。」
ベルクを押しのけ、しずしずと要塞令嬢が進む。
何度も何度も放たれる熱線の先には、必ず日傘があり、そのすべてを散らしてしまう。
しずしずと要塞令嬢が進む。
「ねえ、貴方、此処に何をしにいらしたの?」
あっけにとられていたベルクが慌てて周囲を見渡すと、ドワイトの連れのふたりは俺の所の副官と航海長が床に引き倒して制圧していた。
優秀な部下たちである。
しずしずと要塞令嬢が進む。
「わたくし、旦那様から商談があると伺っておりましたのよ。まさかわたくしの旦那様を謀ろうとなされたのかしら、ねえ、ねえ、ねえ・・・・・。」
いつの間にか壁際まで追い詰められていたドワイトを―――。
「答えてくださらないかしら?」
―――容赦なく要塞令嬢が日傘で押しつぶそうとする。
「やめるじゃん、大将からのお達しじゃん、聞こえてなかったのかじゃん。」
「え?あらいやだわ、わたくしとしたことが、恥ずかしい。鉄拳娘さん後はお任せしてもよろしくて。」
要塞令嬢が今までの所作を恥じる様に身をくねらせる。
「あーはいはい、そうだ、あんたベルクとか言ったかじゃん。こいつらの処分は、全部あんたにまかせるじゃん。それとサスケ団長、仕事じゃん―――。」
トラブルの解決に厄介な人物を投入。
うん、悪い予感しかしませんね。




