傭兵艦隊1
評価、ブックマ感謝です。
じわりじわりと増えていてちょっとびっくり。
明日の傭兵艦隊2で閑話もおわりです。
三章は・・・・頑張ってます。
行間修正。
「ついてた。じっちゃんの話は本当だったんだ。」
もし宇宙で悪魔と遭遇したら、迷わず亡霊艦隊に向かえと、船乗りになると決めた俺に口癖の様に言い続けていた言葉だ。
惑星リーヴェニから命からがら逃げだした民間軍事会社プロミネンスの社長兼艦隊長ベルク・シュタインは残存する自社艦隊に点呼をとる様に命じる。
残存する自社艦隊と言っても、もう3隻しか残ってないがな。
これでも俺の会社は、最新鋭巡航艦を含めて10隻の船が所属してたんだぜ、惑星リーヴェニの宇宙港警備依頼で駐留してたらこのざまだ。
俺たちだって戦闘ぐらいでグダグダいうつもりはねえ、実際海賊や不法船団との戦闘行為は何度かあったし、船が損傷したり社員が傷つき死んでいくのも日常業務だ。その程度仕事の内ってやつだろ。
だがな、ありゃなんだ?
暗黙のルールがある俺たちの戦闘と違う、ただ壊して、殺して、沈めて、潰していく。
壊しつくして奪い尽し、まるで降伏させるつもりがない。
そいつらは、こちらのルールがまるで通じない異質な連中だった。
戦争の仕方もまるで違った。
やつらは秩序だった戦いではなく、損害を顧みない物量で押しつぶすような戦い方で、味方を磨り潰していく。
俺もローンを組んでまで購入した最新鋭の巡航艦が沈んだ日はさ、もうやけ酒呑んで寝るしかなかったよ。
ともかく訳もわからないまま動員されて、社員や金で集められた同業者、それに惑星守備隊と一緒になって戦ってたんだが、正直に言えば、俺は見切りをつけるのが遅すぎた。
敵中を突破してリーヴェニから脱出するには、既に人も船も足りなくなっていたんだ。
戦闘艦はもとより民間人を運ぶ輸送船もだ、なにより船乗りの数がまったく足りねぇ。
逃げれる奴はとっくに逃げたか沈んじまったからな、廃艦寸前のオンボロ鈍足船まで導入したって、今度は動かせる船乗りの数が足りなくなるだけだったさ。
そもそもの話、いくらかき集めても全員載せられるほど船がねぇ。
避難出来る住人はいいとこ1万人か、多く見積もっても2万人が限界で、誰が避難するかで街では暴動騒ぎが頻発してたよ。
此処までいえばわかるだろ、それがどんな状態だったかなんてさ。
俺も大きな声じゃ言えないが、ライブラや他の船にも避難民を乗せている。
仕方ねぇだろ、任地が長くなると仕事上の付き合いや馴染みの店、世話になった知人や友人なんてのが増えちまうもんさ。
そいつらから、頭下げられてまで頼まれたら、何もしないって訳にはいかないからな。
ま、やり方としちゃ密航に近いが、書類上は現地採用の新入社員とその家族として、俺名義で乗船許可をだしてあるからな、何か問題が起きても、言い訳ならいくらでも出来るってもんさ。
もちろん、きちんと働いてもらうし報酬も払う、当然のことだが命の保障もしていない。
それでもいいって連中が、60人ほど俺の艦隊に分乗している訳さ。
たしか俺の乗るライブラには、2家族と姉妹1組がいて、生き残った僚艦であるソーには3家族、ヴァールハイトは1家族と子供が10名ほどだったはずだ。
そいつらが新天地でどうするのか、それは逃げ切ってから決めればいいだろう。
さすがに、そこまで面倒はみきれねぇよ。
ま、唯一の光明っていえば、救出艦隊が向かっているらしいってことぐらいで、俺は損傷の酷かった駆逐艦ナーベルを潰して部品をかき集め、残存する5隻に出来る限りの修理を施すように命令して、その時を待ったさ。
結論から言えば、俺たち脱出組は惑星リーヴェニに到着した救出艦隊の援護を受けて、なんとか船団の脱出には成功したものの、連続する襲撃から逃げ惑い、バラバラになっちまった。
組織だった撤退じゃない、文字通りの敗走だよ。
民間船や足の遅い輸送船がどうなったかはわからないが、運がよければ救出艦隊なりと合流出来たと信じたい。
分かっていることはひとつ、この宙域にいるたどり着いた残存艦は駆逐艦が5隻のみということだ。
「キャプテン、よそ者の2隻から通信が届いてますぜ、どうします?」
「どうしますって、繋げ、繋げ、とりあえず情報共有が先だろが。」
今は相手の艦名さえ分からない状況なんだ。相手から通信してきたならば、受けるしかないだろうがよ。
俺は軍隊的にいえば先任にあたる副官に、すぐに繋げるように指示を出し―――。
「なぁ、ソーとヴァールハイトから通信は来たか?」
―――ついでに僚艦の状況を確認した。
「もちろんでさ、どちらも損傷あれど、健在。ただし負傷者も多く、医療品が不足しているといってきてますぜ。」
「ライブラの薬をまわせるか?」
「大丈夫でさ、うちの船は若いのがひとり、腕の骨を折ったぐらいで、そっちの応急処置は終わってますぜ。廻しておきますかい?」
「ああ、余ってる分を送ってやれ、出し惜しみはすんなよ。」
「了解、手配しときますわ。」
「たった3隻か・・・。」
それとも3隻も生き残った事を喜ぶべきなのか。
残存する5隻の駆逐艦の内で、プロミネンスに所属する艦は、俺の乗るライブラ、そしてソーとヴァールハイトの3隻だけで、残りの2隻は偶然ついてきただけだろう。
この宙域までたどり着かなかった2隻のうち、フレイムは脱出途中で損傷を受けて落伍、以後消息を断ち、キトゥンはこの宙域に転移直後に爆沈した。
「気のいい連中ほど先に逝くな・・・・。」
俺は艦と共に消えていった自称退役将校やくいっばぐれのろくでなし連中を思い出す。
人生いろいろ、訳アリなんざ当たり前、そんな連中を雇って俺はプロミネンスを大きくしてきたんだ。
よそ者、いやお行儀よく同業者といい変えてもいいだろうが、民間軍事企業なんざ、負け組が集まった敗残者の寄合所帯だ、いまさら格式ばっても仕方ないだろ。
運が良かったかとか、不運だったかなんて、そんなの自分で決めちまえよ。
『こちら駆逐艦リップル号のキャプテン、ドワイトだ。そちらのキャプテンと話がしたい。』
『こちら星間軍事企業体エーデルシュタイン所属、駆逐艦ストーム号の艦長ルーティシア・マリア・スカイライトです。貴艦の責任者と会談を設けたい、取次を願う。』
通信画面に現れた体格のしっかりした中年のおっさんときりっとした顔立ちの女性士官。
彼女は民間企業の契約傭兵だな。
最初に所属会社を名乗らなかったドワイトは、個人契約傭兵か海賊あがりだろう。
逆にエーデルシュタイン社っていえば、大手も大手だ。
俺の作った寄合所帯のプロミネンスとは差がありすぎて、比べるのも馬鹿らしい。
だがな―――。
「こちら民間軍事会社プロミネンス所属の駆逐艦ライブラのキャプテン兼プロミネンスの社長ベルク・シュタインだ。若造だからってなめんなよ、おふたりさん。」
―――社長として、会社までなめられる訳にはいかないんだよ。
船乗りは専門職です。
当たり前ですが、紙切れ一枚で集められません。
人がおらず、船もない、惑星リーヴェニは末期的状況にあります。




