大規模武装船団(人類サイド)
評価、ブックマ感謝です。
おかげさまでブックマーク600件突破いたしました。
今回の閑話は人類サイドのお話となっております。
読んで頂き感謝です。
行間修正。
『この星系は現在、戦闘宙域に指定されております。貴船団の安全の保障は出来ません。貴船団は速やかに星系外へ退去してください。』
何度もこちらの事情を伝えて、説得を試みてきたのだが、帰ってくる返答はこれだけだ。
「くそったれの石頭どもめっ、退避できるならば、もうとっくにやっている!そんなこともわからんのかっ、参謀長あと何隻だ、全艦集結まで、いつまでかかる?」
ネーエルン公国避難民護衛艦隊群の司令官を務めるバリー・トンプソン提督は、八つ当たりで通信用マイクを床に叩きつける。
「壊れますからやめてください。依然、大型民間船ポーラン、リンドリンド、ジャニアス、ザラード、他13隻が転移完了待ちです。正直此処まで空間安定度が下がるとは予測出来ませんでした。」
苛立つバリー提督に応えたのは、この大船団の参謀を務めるジョニー・オークランだった。
「出来なかったで済むかねっ、これは君の責任でもあるんだぞっ!」
「承知しておりますとも、しかし、我々参謀部の反対を押し切って作戦を強行なされたのは、あなた方、艦隊司令部と内閣府ではありませんか。この程度の事で、いちいち騒ぎ立てないで頂きたい。」
「なんだと貴様、俺を誰だと思っているっ!」
「この艦隊の司令官です。そしてこの艦隊を指揮する提督でもあります。この程度で声を荒げるのが上に立つ者として、正しい在り方ですか。」
部下が見ているのですよとジョニーから言外に伝えられて―――。
「ち、分かっている。冷静に、冷静にだろう、分かっているとも。」
―――バリー提督は気持ちを落ち着かせるために沈黙する。
感情に流されるのはよくない。
俺はそんな苦言を何度告げられたことか。
そんなこと言われなくてもわかっている。
俺が指揮官の器じゃないってことぐらいな。
転移直後、俺はこちらを指向する所属不明艦隊を見た時に思わず、戦闘命令を下す処だった。この腹の座った参謀が止めなければ、間違いなく撃っていたはずだ。
絶対に撃つなと命じられ、狙われていた艦の乗組員は生きた心地もしなかっただろう。
此方が何もせず、敵対の意思を示さなかった為か、そのまま何もせずに不明艦隊が離れていったおかげで、何事もなく済んだだけだ。
「すくなくとも先ほどの艦隊は、こちらと敵対するつもりはないのでしょう。もし此方が攻撃していればどうなっていたか、分かりませんが・・・。」
「無駄な交戦が避けられたのだ、それでいいだろう。そんなことより、さっきの艦隊が亡霊艦隊か?」
「はい、識別結果によると間違いなく泊地同盟軍が多数運用しているバルシェム級駆逐艦です。他の艦についてはデータがなく詳細不明。新型艦か、いままで遭遇例の少なかった艦型なのでしょう。現在あの亡霊艦隊は、新たに出現した転移反応を示す座標に向かうルートをとっています。」
「やつらは戦うつもりなんだよな、あの化け物どもに勝てるのか?」
「分かりません。」
「一応確認するが、その転移反応は、味方艦隊ではないよな。」
「そのはずです。この星系に向かったのは本艦隊だけであり、転移による座標のズレとしては距離が離れすぎています。なにより規模が大きすぎる。」
「なら敵か。」
「肯定です。恐らく新手の艦隊かと。」
「あんだけいたんだぞ、まだいるってのか。」
バリー提督は苦虫を噛み潰したような渋面で吐き捨てる。
やつらは突如として、未調査宙域から現れた。
既にネーエルン公国は国家非常事態宣言を発令しており、その戦域は未調査宙域と接触する境界線上を越えて、主星イディナロークから繋がる主要ルート上にある星間航路のいたるところまで拡大していた。 幸いにして主星イディナローク周辺宙域までは到達していなかったが、未調査宙域に近い惑星リーヴェニの陥落は時間の問題と言われている。
送られた救援艦隊がどうなったのかは分からない。どうも軍司令部内に箝口令が敷かれているらしく、まるで情報が入ってこないからだ。
しかし彼らが成功と報じない以上、恐らく失敗したのだろう。
「思えば帝国が、中古とはいえ捨て値同然の価格で大量の巡航艦を売り払ったのも、こういう事態に備えさせるためだったのでしょう。もう輸送艦しかありませんが・・・・。」
「予算も含めて閣議決定したことだ。実際の話、大量の輸送艦が増えて流通が潤った。こうして多くの避難民を乗せられたのも潤沢な数の輸送艦があったからだ、違うか?」
「ですが、いまとなっては、一隻でも多くの戦闘艦を確保しておくべきでした。1割、いえせめて2割だけでも戦闘艦として残しておけば、まだなんとかなったかもしれません。」
参謀であるジョニーの気持ちはバリー提督にも分かるが、ないものはない。
結局のところ戦争は頭数が多い方が勝つのだ。
多方面で頻発する遭遇戦で、虎の子である戦闘艦を磨り潰されたネーエルン公国が、いまだ戦えているのもアリゼ連邦各国から来援した救援艦隊と大手、零細含めて複数の民間軍事企業と契約して、金で集めた傭兵たちあってのことだった。
そうバリー提督の指揮するこの大船団は、主星イディナロークから出発した避難民輸送艦隊だった。その第1陣というべきこの大船団には、40万人もの民間人が搭乗している。
しかしたった40万人だ。
主星イディナロークの人口は1000万人以上、入植がはじまったばかりの惑星リーヴェニにしても20万人は超えている。
その内のたった40万人が、こうして避難の途中にある。
避難先まで、この40万人を送り届ける事、そして艦隊を連れて帰還し、再び避難民を乗せてイディナロークを脱出すること。それがバリー提督の仕事だった。
「代わりに護衛艦の数は40隻もありません。さらに半数は国軍でもなく民間軍事会社の契約傭兵ですし、奴らは目的地に着き次第、違約金を払ってでも契約解除するでしょう。」
「今回だけでも戦ってくれると思うか?」
「わかりません、我が軍もそうですが、彼らも手酷くやられています。護衛艦といっても無傷な艦はいないでしょう。」
参謀の告げる嫌な予測に、バリー提督も頭が痛くなりそうだった。
「全艦隊に改めて、戦闘配置を発令。全艦隊の集結までこの宙域に駐留する。集結完了しだい、この星系外に退避する。いまは敵がこないことを神に祈ろう。」
未到着の17隻だけでも数万人規模の民間人が乗っているはずだ、見捨てることなど出来なかった。
「了解です、その旨全艦隊に通達します。」
そして、気まぐれな神様はバリー提督の祈りに応える事なく、護衛艦隊にいた彼の息子は船と運命を共にした。




