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大提督は引き篭もる。  作者: ティム
廃墟の眠り姫編
65/140

第2次グレイトパール泊地沖会戦7

突撃乙女プラムの戦闘回です。

彼女はルル大提督のような、理論と戦術に基づいた戦い方はしません。

単艦無双の世界をお楽しみください。

行間修正。


 反撃の狼煙はあがった。


『チェリー艦隊長、作戦目標に変更なし、仕掛けなさい。』

「了解しました、プラム、ガーベラさん、ムツハちゃん、始めます。」

『やーと出番だー♪チェリー、がっつりやっちゃうからねっ。』

『クツクツクツ、妾の初陣じゃな、派手で華やかな宴にせんとのう。』

『チェリーお姉ちゃん、ムツハいつでも行けます。』


 モニターに浮かぶ仲間達、心強い仮初の家族達の様子にチェリー艦隊長も応答を返した。


『ほらチェリー、表情が固いぞ、リラックスリラックス、肩の力を抜いて、すーはーすーはーだよ。』

『すーはーすーはー。』


 大げさなプラムの仕草をムツハも真似してやっている。


『そうそう、すーはーすーはー、ほらほらチェリーもガーベラさんも、ご一緒に。』

『すーはーすーはー。』

『すーはーすーはー、クツクツクツクなるほどのう、これは退屈せずに済みそうじゃ。』


 ひとしきり笑い合い、チェリー艦隊長もいい具合に肩の力が抜けていた。


「プラム、みんな行こう。アオイ家族艦隊第2機動艦隊出撃します。」


 艦隊長であるチェリーから出撃の号令が下る。


『いぇーい、光学迷彩解除、遮熱偽装膜、全排除。』


 モニターに映るプラム艦長の声が弾む。


 周囲の空間に溶け込む様に隠れていた、光学迷彩機能と断熱隠蔽機能を兼ね備えた遮熱偽装膜と呼ばれる鈍色の繭に包まれたものがふたつ、にじみでる様に現れる。

 ゆっくりと徐々に加速するふたつの金属の繭から、繭を構成していた装甲が変化したナノマテリアル構成体が、役目を終えてバラバラに解け散っていく。


「全主動力炉、出力標準値まで上昇、サブ動力炉、戦闘領域まで上昇。」


 ゆっくり確実に、チェリー艦隊長はひとつひとつの手順を確実に進める。


 現れるのは2隻の戦船。

 前方を往くは長方形の無骨な外殻を持つ重巡、アインホルン級重巡航艦。

 それを追って進むは上下二段に分かれた飛行甲板をもつ巡航母艦、コーラル級巡航母艦。


「88、92、95、98、100、第1亜光速度到達。全カタパルト展開。」


 コーラル級巡航母艦の上下2段の飛行甲板で、電磁カタパルト4基が稼働を始め―――。


「全カタパルト正常稼働、発艦準備完了、第1次攻撃隊、発艦始め。」


―――4基のカタパルトから次々に射出された戦闘機隊に続いて、攻撃機隊も発艦していく。


『チェリー、先に行くねっ。ちゃーんと通れる道を作ってあげる。』

「うん、やっちゃえプラム。」

『もちのろんよ、さーかっ飛ばすからね、遅れず、ちゃーんとついてきなさいっ!』


 モニターに映るチェリー艦長が、ウィンクひとつ残してアインホルン級重巡航艦を加速させた。


「第1次攻撃隊、発艦完了。続いて第2次攻撃隊、ガーベラさん、ムツハちゃん出撃です。」

『はいチェリーお姉ちゃん。ガーベラお姉ちゃん、ムツハ先に行きます。クリムゾン・タージェ、ムツハスペシャル、ムツハでます。』


 彼女の為だけに作られた大長物、電磁加速艦載狙撃砲サンダーボルトを抱えた重機動戦騎クリムゾン・タージェムツハ専用機に続いて、その僚機4騎が続く。


『クツクツクツ、真打とは最後にでるものじゃ、黄金銀剣ガーベラ、妾も往くぞ。』


 趣味悪く金ぴかに塗装されたガーベラ隊長の重戦騎シルバーソードを先頭にして、その僚機4騎が次々と射出されていく。


「全攻撃隊発艦完了。プラム、敵機動艦隊β2群に艦載機群発艦の兆候あり、第3次攻撃隊がくる。あと転移反応ふたつ。」

『予定通りだね、こっちもβ3群との交戦距離に到達、攻撃目標、敵揚陸艦隊β3群、同護衛艦隊群。全砲門敵艦隊を指向。一斉射、てぃっ!』


 輪形陣を解き、迎撃に出る敵巡航艦級6隻とアインホルン級重巡航艦が此処に激突した。


『さあ、死にたい奴からかかってきな、片っ端から落としてあげるっ!』


 濃密なレーザー光と降り注ぐ実体弾の嵐の中に、嬉々としてプラム艦長が挑む。

 幾度レーザーに撃たれても、実体弾の直撃を受けてナノマテリアル装甲を散らしても、アインホルン級重巡航艦は揺るがない。珠ちゃんをして病的と評価した頑丈頑健な外殻構造体はあらゆる衝撃を受け止め、一次装甲を形成するナノマテリアル装甲は特別厚く船体を包んでいる。

 電磁シールドを貫き、被弾によって生じた破孔や傷も、即座に損傷個所を流体化したナノマテリアル装甲が充填修復してしまう。


 当たる当たる当たる、そして撃ち返す。

 格下の巡航艦級が相手とはいえ、6隻相手に単艦突撃。

 理屈や理論をすっ飛ばし、プラム艦長が感性のままに最短距離を突き進む。

 その蛮勇に、その暴挙に、アインホルン級重巡航艦は応えてみせる。

 撃って、撃って、当たる。

 撃って、撃って、撃って、撃って、撃つ。

 距離を詰める毎に命中率被弾率共に上昇し、躊躇なく激突軌道をとるアインホルン級を避けようとして側面を晒した敵巡航艦級に艦首から激突し―――。


『まずひとつっ。』


―――真っ二つに叩き折った。


 正面からの撃ち合いは、恐怖に負けた奴から死ぬ。

 それを体現するような突撃戦術。

 そして狙いすました、いや最初から狙って最適な方角に主砲を向けていたアインホルン級重巡航艦から、最適な射角をもって放たれた至近距離からの一斉射。

 至近距離を交差した敵艦1隻が、片舷の有機対レーザー甲殻のみをボコボコに耕され、いたるところから体液を噴き出しながら通過した。


『次はっと、っとと。』


 下方から放たれた複数のレーザー照射をきっちり装甲で受け止め、電磁シールドを貫かれ、高熱でナノマテリアル装甲を抉られ散らしながら、お返しにレーザー速射砲をプレゼント。


 撃ち合いのさなかに方向転換して艦首を眼下の敵艦に向け―――。

『どっかーん。』

―――嬉々として突撃する。

 逃走か対決か一瞬の迷いが明暗を分け、逃げ遅れた敵巡航艦級がまたひとつ船体を叩き折られた。


『まだまだ行くよ。』


 此処はプラム艦長がもっとも得意とする戦場。

 艦隊巴戦という交戦距離一万メートルの世界。

 一瞬毎に、艦同士が交差と激突を繰り返し、削りあい、互いの喉元に食らいつく感性と蛮勇の支配する領域でこそ彼女は、その実力をいかんなく発揮する。

 後方で漂う止めを刺さずに見逃した敵艦の1隻が、不意に爆沈した。


『こちらムツハ、巡航艦級1隻撃沈しました。あの・・・。』

『ナイス、ムツハちゃん、いいのいいの、ガンガン落としちゃってっ。』

『はい、頑張ります。』


 モニターに映るはにかむような笑顔のムツハ隊長に、親指を立てて健闘を称えたプラム艦長が生き残りの3隻に牙を向ける。


「こちらチェリー、第1次、第2次攻撃隊、敵艦隊内に突入してください。プラム。」

『まっかせて、あいつら片したら援護するね、好きなだけ暴れておいで。』

「うん、頑張る。早く来てね。」

『もちのろん、そっこーマッハで片づけるね。』


 チェリー艦隊長の声援に、モニターに映るプラム艦長が親指を立てて返し、やる気に満ちたプラム艦長がアインホルン級重巡航艦を駆けさせた。



何気にお気に入りなのがチェリーの発艦シーンだったりもします。

宇宙戦闘では、機動兵器の一次加速による推進剤の消費を抑える為に、母艦とカタパルトの並列使用により速度を稼ぐ手法がよくとられます。

母船発艦時の速度は1.15亜光速度、機種によりさらに加速をかけながら、機動兵器群はレーザーの有効射程30万キロを数秒で駆け抜けます。



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