第2次グレイトパール泊地沖会戦1
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行間修正。
「それでは、所属不明の有人船団はどうなさいますか?」
ルル大提督の問いかけに、俺はデイジーを呼ぶ。
「珠さん、お呼びですか?」
貴官のデータベースに、所属不明有人船団のデータはあるか?あるいは生存するゲストの中に説明できる人物はいるであろうか?
「とりあえず、見てみないとわかりません。」
デイジーの返事を受けて、俺は宙域マップを拡大して表示させた有人武装船団を、彼女の近くにモニターを表示し、同時に3Dモデルとしてその周辺に船団の仮想モデルを浮かばせる。
「この特徴的な艦型はたしか・・・元帝国のコメート級戦時量産型巡航艦の改修輸送艦です。安価にかつ大量に調達出来たので、アリゼ連邦所属国家では改修後アムール級輸送艦として官民問わず、広く使われています。」
うーむ、所属はわかるであろうか?
帝国というキーワードについては、今は棚上げして所属を判明させねばなるまい。
「えーと、そうですね。民間の船舶だと会社のロゴマークか家紋だけで、国章までは描きませんから・・・。あ、この船のこの辺り、もっと拡大出来ますか?」
戦闘の後なのか、傷と汚れで削られて判別しずらかったものの、デイジーのもつ国章データを元に復元再生させてみる。
黄色の菱形に跳ねる馬、データによるとネーエルン公国の国章であるな。
「ネーエルン公国は16番目にアリゼ連邦に加盟した惑星国家です。」
ならば、この艦隊は貴官等の救出艦隊とみて間違いなかろうか。
「いいえ、それは考えにくいです。もし私たちの救助に来るならば、アリゼ王国か民間の救助委託船か、あるいはアリゼ連邦の連邦章がついた軍艦のはずです。」
それは、どう違うのか?
「少なくともこの船は、ネーエルン公国軍の軍艦ですから、同じ連邦に所属しているとはいっても、他国重要人物や有名人も乗っていない調査船の行方不明者捜索に駆り出される事はないはずです。しかもこれだけの大規模船団ですよ、ますますあり得ません。」
うむ、デイジーに感謝であるな。大変参考になったのである。また意見を求めることもあると思うが、その時はまた頼むのであるな。
「はい、新造艦に期待してます。」
貴官の改修プラン提出が先である、予定より遅れているのである、出来る限り早く提出せよ。
「誠心誠意努力してます。人は私たちとは違いますから、少しは大目にみてください。」
そう言い残してデイジーは歩いていった。
「さて、どうしましょう?」
うーむ、余計困惑する結果になったのであるが、この件も保留であるな。
これが平時であればいろいろ対応も出来るが、既に戦闘配備中である。今は戦闘に巻き込まれぬ様に、星系からの退去勧告のみに留めるべきであろう。
戦闘宙域に留まり、流れレーザーが直撃したとしてもこちらは責任は持てないのである。
「まぁそれしかありませんわね、泊地内に避難させるのは、こちらの被るリスクが高すぎますわ」
うむ、俺も許可出来ないのであるな。
「ルル大提督、わたしが情報分析の任務を引き継ごう。正直何かさせてくれ。」
ヴィオラ提督の意見具申を受けて、俺はルル大提督を促す。
「お任せましたわ。貴方、そろそろ第1先遣艦隊が敵先遣隊α群との交戦距離に入りますわ。戦闘開始のご命令をくださいませ。」
うむルル大提督、仕事の時間である。戦闘を開始せよ。
「了解しましたわ、第1先遣艦隊。機動砲撃戦始めなさい。」
「始まりましたわ。始まってしまいましたわ。教授、まだ見つからないのかしら?」
ドアの前に陣取った要塞令嬢がうろうろとしていた。
時折傾けた日傘で不可視のレーザーを受け止めて散らし、反撃に送り出した球体で通気口に潜んだ警戒ワーカーズごと天井を破砕する。
砕けた瓦礫が低重力にひかれてゆっくりと落ちてくる中、破壊された残骸が転がる荒れ果てた通路でまたうろうろする。
『ここも外れのようじゃのう、残念じゃが制御機構が死んでおる。』
室内に侵入して制御端末に張り付いていた複数のクモ型ワーカーズが、制御端末から床に滑り落ちて戻ってくる。
「鉄拳娘さんそっちはどうですの?」
『ダメこっちもハズレじゃん、なんか襲撃の密度が上がってないかじゃん。』
通信機から響く重音と圧壊する甲高い金属音が聞こえる。
「少し野蛮すぎではありませんか、もう少しお淑やかにやれませんの?」
『あんたにだけは言われたくないじゃんっ。』
猛然と抗議する声に要塞令嬢が溜息ひとつ漏らす。
邪魔しないでください―――。
どうかわたくしに、旦那様を助けさせてください―――。
どうして、こんなささやかな願いさえ、邪魔されるのか―――。
邪魔されなくてはいけないのか―――。
だから要塞令嬢は決断する。
「御免なさいませ、教授、最初に謝っておきましょう。このままではきっと、間に合いません。わたくしは旦那様の一助になれません。ですから―――。」
要塞令嬢の周囲で、ゆらりゆらりといくつもの球体が同時に形成され、立方体がクルクルと踊り、三角錐が周回する。
「ここからは本気で行かせていただきますわ。」
お邪魔虫も障害物も、邪魔するもの一切合切すべて纏めて更地に変えて進みましょう。
言外に告げられた要塞令嬢の宣告文に―――。
『や、やめろじゃん、施設ごとぶっ潰すなじゃんっ!』
―――通信機越しに鉄拳娘が盛大に抗議する。
「皆様、巻き添えにならぬよう、お気をつけくださいませ。」
しかし、要塞令嬢はやると決めたのだ。
『皆様、巻き添えにならぬよう、お気をつけくださいませ。』
「あーダメじゃん、あのアホぶちぎれやがったじゃんっ!」
通信機越しに聞こえた要塞令嬢の台詞と続く連続した破壊音に、鉄拳娘が手で顔を覆って嘆いた。
「何があったのですか?」
「あーマイヤん、みんなを集めるじゃん。教授の本体は・・・。」
『もう脱出を開始しておるぞ。もう少しで輸送艦に帰還する処じゃ。』
教授の逃げ足は速かった。
「なら、要塞令嬢に張り付いた子はそのまま継続で、こっちの子からお宝の座標はわかるかじゃん?」
『出来るぞい、これでよいかのう?』
そばにいたクモ型ワーカーが赤いポイントレーザーで床の一点を指し示す。
「鉄拳娘さん、全員集合しましたけど・・。」
マイヤ譲が不安げに報告してくる。
周囲に集まった耐熱シールドを装備した3機の機動外骨格と小銃を構えた兵士3名、そしてまいやん。
「よし全員いるじゃん。よく聞くじゃん、要塞令嬢がぶちぎれたじゃん、あのアホ何もかも全部更地にするつもりじゃん、今から逃走しても巻き添えは必須じゃん、ならば前に進むだけじゃん。」
「進むだけってなにを?」
鉄拳娘がエネルギーをチャージした鋼鉄の怪腕を振り上げ―――。
「テンション上げて、ぶち抜くじゃんっ!」
―――振り下ろす。
拳が床を粉砕し、足元から響く重低音、その衝撃で部屋全体の床パネルまで崩落する。
「きゃーーーーっ!」
可愛らしい悲鳴を上げたのが誰なのか、低重力環境化の巨大デブリ内で集まった全員が、崩落に巻き込まれて落ちていく。慌ててスラスターを吹かして浮かぶ兵士たちがあげる罵詈雑言が通信機からひっきりなしに届くが、それをものともせずに鉄拳娘が再び拳を振り上げ―――。
「おまえら、命惜しけりゃ、死ぬ気でついてこいじゃんっ!」
―――さらなる一撃で床を抜き落ちていく。躊躇する彼らの頭上を、壁を破砕しつつ見慣れた球体が貫通していった。




