調査船とは?
有人宇宙船設計話です。珠ちゃんとデイジーの条件交渉は書いてて面白かった。
読んで頂けて幸いです。
行間修正。
うむ、纏めて依頼が消化出来たのであるな。
俺はデイジーから必要な情報を取り込み、早速船体設計を始めることにした。
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【報告】艦艇設計を開始します。
設計コンセプトは安全性と長距離、長期間の無補給活動の両立。
船体サイズは220メートルの軽巡サイズ、生産速度を重視して、船体形状は長方形の箱型を基礎に、戦闘艦と同じく装甲は全周防御型三層装甲を採用。
主砲は軽巡準拠の砲塔型連装レーザー砲2基4門を船体上部中央に設置、副砲としてプラズマキャノン2基を船首下部、多目的ミサイル発射管8基を両弦に4基づづ設置。
推進器は主2基を船尾に横列配置、副4基を両弦後方に縦列設置。
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人類の生存空間を加味すると装備に廻せるスペースはこの辺が顕界であろう。
「これではダメです。ビーネ号は長距離調査船なんです。その代艦なら当然調査船じゃないとダメなんです。こんな軍艦モドキでは絶対ダメなんです。」
軍艦もどきではないのである。
デイジー嬢、俺は訂正を求めるのである。
これは有人武装船である。
泊地同盟は有人船を戦闘艦とは認めていないのであるな。
「そういうことじゃないんです。いいですか、調査船というのは未到達領域の宙域探査を目的とした船なんです。武装や頑丈なだけで、探索能力のない船が調査船と言えますか。」
しかしであるな、外殻強度はともかく総合火力は、泊地同盟が定めた軽巡準拠の半分にも届かないのである。これ以上の火力低減は容認出来ないのであるな。
「そもそも艦載艇がないのが問題なんです。安全の保証のない宙域調査に先行偵察もなく進入して、みすみす母船を危険に晒してどうするんですかっ!」
デイジーが調査船に掛ける思いの丈を熱くかたった。
言いたい事は理解したのであるが、残念ながらこの船には艦載艇を乗せる船内余剰空間はないのであるな。
「それでも、必要なんです。」
再度の要請をされても、であるな。
「必要なんです。」
むむむ、貴官が必要とする艦載艇のデータを送るのであるな。今一度検討してみるのである。
「はい、ありがとうございますっ。」
いやいや、まだ乗せると決まった訳ではないのであるぞ。
「ありがとうございます、ありがとうございます。」
デイジーがペコペコと頭を下げ、しきりに感謝をつげるが―――。
「あれがとうございます。ありがとうございます。」
―――いかん、このままだと、押し切られそうである。
俺はデイジーのありがとう攻撃と共に送り付けられてきた要望リストに引きつった。
そこには大型天文観測所を筆頭にして、隔離実験室、無人探査機、有人小型航宙機、有人作業艇、有人作業工機、有人大型揚陸艇、揚陸艇型基地施設、低重力装甲輸送車などなど、小型機ほど機数が多く、大型機は少数でも搭載には大きな容積を必要とする。
そんな装備がズラズラと並んでいる。
無茶苦茶である。どう計算しても軽巡クラスのサイズと容量では搭載不可能であり、これだけの艦載兵器を元のビーネ号も積んでいなかったはずである。
このリクエストは本気であるか?
「う、う~お願いします、お願いします、お願いしますぅ。」
どうやら本気らしい。
俺は中断していた艦体設計を再開するが、結果は芳しくない。
内部容量を多くとれるが戦闘艦向きではない双胴型の船体にしてみたものの、やはり無理であるな。
追加輸送スペースを確保するのに、船体上部に皿型の構造体を形成。
こちらにレーダー施設と天文観測所を移設してみたが、やはり全然足りないのである。
いっそのことデザイン無視の一辺220メートルの正方形型にしてみたのだが、装備が箱からあふれ出しているのであるな。
ダメである。
ダメダメである。
俺は仕方なく船体クラスを巡航艦級に変更、容積確保に必要とされる430メートルサイズを将来の拡張余地として50メートル延長して480メートルサイズとする。
そして、船体質量に占める装甲比率を大きく低下させて現状維持とし、主砲火力のみ巡航艦級に変更。そして、双胴船両弦船首上部に主砲として、6メートル口径連装レーザー砲塔を2基4門づつ計4基8門に変更する。
副砲のプラズマキャノン2基は砲塔型として船首下部から艦首側面に配置変更、多目的ミサイル発射管は8基から4基に削減し、両弦中央部に2基づづ再設置。それに従いミサイル格納庫を半減して余剰空間を確保する。
高角レーザー砲8基と防衛砲台10基を船体各所に分散配置。
さらに双胴船両弦船首下部に無人探査機、第1有人小型航宙機格納庫を配置。
船体中央上部には有人作業艇の格納庫と第2有人小型航宙機格納庫を配置。
さらに船体中央下部に有人大型揚陸艇の格納庫と、それに接続する有人作業工機と低重力装甲輸送車の駐機場、並びに貨物室を配置。
揚陸艇型基地施設は直径20メートル全長40メートルの円筒展開形変形船体とし、双胴船中央接続部後方に2基直列配置。
隔離実験室は両弦外側に2室づづ、計4室を船体に接続する形で配置し、非常時に簡単に放棄出来る設備とする。
ラウンジ等の人類生活空間は双胴船中央接続部に集中配備し、此処に非常時の脱出艇としての機能も付与する。
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うむ、余裕をもって収められたようであるな。
収められたのであるが、容量確保の為に外殻強度は軽巡級より薄く、マテリアル装甲で覆えない構造上の脆弱点となる開閉型ハッチ類も多すぎである。
重要区間防御こそなんとか固めてあるが、武装船としては脆すぎるのであるな。
これでは被弾時に高確率で装甲外殻を貫通されて被害を発生させるであろう。本当にこれで良いのか?
「はいこれでいいんです。後はですね。主砲を偽装して隠してください。」
うむ、これで良いか。
主砲下に昇降機機能を取り付け、下の格納区画を圧迫しないよう全ての砲塔を半分だけ沈めて稼働式の覆いで隠す仕様に変えたが、どうやっても砲塔下の重金属装甲は薄くなり、さらに弱点部位が増えたのであるな。
重ねて問う、本当にこんな欠陥船でよいのか?
俺は再検討を推奨するのである。
「いいんです。これは武装船であっても、あくまでも調査船なんですから、基本戦闘回避の方針で変わりません。最低限の自衛能力と逃げ足さえ確保できればいいんです。」
うむ、其処まで割り切って運用出来るのならば、この欠陥船も使い物になるであろうな。
貴官は想定外の運用を行わない様、留意せよ。
「はい、あのいつ頃から建造が出来そうですか?」
うむ、内部レイアウトの調整と仕様変更を確定してからであるな。
建造順位としては1号支援砲艦の改装後となるであろう。
「なら、それまでに内装のレイアウトと不都合のあぶり出しを終わらせます。クルーの方にも手伝って貰ってもいいですか?」
貴官の船である。船体調整は貴官に委細任せるのである。
「わぁ、ありがとうございますっ!」
さて有人船の基本設計も終わった事であるし、俺も本業に戻る時期である。貴官にはゲストIDを発行しておく、共に来るか、此処に残るか決めると良い。
「えーと、此処に残った場合どうなりますか?」
マイア・ユースティティア調査士官からのアクセスが来るまで、ずっと待機であるな。
「付いていった場合どうなりますか?」
騒がしい者達と一緒に帰還時間まで待機であるな。
「一緒にいきます。というか選択肢がないじゃないですかっ。」
であるか。ならば一緒に戻るのである。
有人宇宙船は内部容積と船体質量の60%以上を人類種の生存の為に使わないといけません。
その点においてデイジーは、かなり無茶を言ってますね。
それを叶えようとする珠ちゃんも大概ですが・・・。




