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大提督は引き篭もる。  作者: ティム
大宇宙の囚われ人編
3/140

大戦艦出撃せず

行間修正。

 新たなる【指令】も下り、俺は粛々と来襲するEvil艦隊迎撃戦の準備を開始する。


 ルル大提督『ルルでいいのに』の情報によれば、Evil強襲揚陸艦級が13隻、Evil護衛艦級が5隻、予想される格納陸戦兵級は400程度らしい。


 レーダー施設が使えないのは問題だが―――。


『そんなの私の索敵情報を送れば、エネルギー不足? なによこれ、しょうがないわね。』


―――ルル大提督から補助動力炉1基分に相当するエネルギー量が供給され、転送された索敵情報が別モニターに表示された。


 ルル大提督が大戦艦の動力炉を動かし、エネルギー供給を開始したからだ。


 しかし、これでは大戦艦は出撃出来ない。


『あら、私は出撃しないわ。戦騎と貴方の残存艦艇群で充分でしょう。そもそも私が必要とする補給物資を貴方は供給出来るの?』


 彼女の5000コンテナ分相当の要求物資量と俺の保有する物資量を比べると、要求量に桁が2つほど届かなかった。


 やはり大戦艦はコストが悪すぎる。


『馬鹿ね、駆逐艦動かすのもギリギリな貴方が、大戦艦を動かせる訳ないでしょう。』


 正論である。其処に反論の余地はない。


『もちろん1会戦分程度の物資はあるわ、でもその後はどうするの?』


 俺はますます反論出来ない。


『貴方は残存艦艇群、私は戦騎隊、今はそれで充分よ、私を信じて。』


 モニターに映る大戦艦。


 機密保持の為わざとぼかされた映像に映る艦影から、発艦する増設ブースターを装備した飛行形態の響の5騎4個編隊に続き、大型粒子砲と大盾、そして両肩に1基づつ計2基の対艦ミサイルを装備した砲撃戦仕様の雷の5騎2編隊が続く。最後は対艦突撃槍とレーザー速射砲を装備した決戦仕様暁の5騎1編隊である。


 そんな重戦騎隊を出迎えるのは、小ドックから出撃したゾロア級駆逐艦だった。


 ゾロア級駆逐艦はシャープに絞られた細長いダーツの様な姿をした汎用型駆逐艦であり、拡張性を捨てて、低コストと建造速度のみを重視した駆逐艦だ。


 性能は低く主砲こそ連装レーザー砲塔3基6門が配置されているが、泊地同盟が定める駆逐艦準拠の性能をギリギリで満たしている程度である。しかし、外縁部停泊中に襲撃を受けた主力艦隊と違い、入渠中であった為にまったく損害を受けておらず、即応可能な駆逐艦として出撃していた。


 そんな俺の駆逐艦を、ルル大提督はあっさりと召し上げ自艦隊に組み込んだ。


 彼女の命令に従いゾロア級駆逐艦が伸ばす3本の牽引索に、蒼海の紋章騎雷と深紅の紋章騎暁が次々と掴まり縦3列に整列する。


 可変型電子作戦騎の響隊5騎4編隊は、後発の駆逐艦に先駆けて先発する2個編隊と駆逐艦を護衛する2個編隊に分隊して出撃した。


 ルル大提督が立案した作戦はこうである。


 第1ポイント、最終防衛ラインとなる泊地外縁宙域にて、退避中の機雷敷設艦2隻の搭載爆雷と機雷をすべて放出。


 さらに同地点に残存する3号支援砲艦2隻と比較的損傷の軽いバルシェム級駆逐艦1隻を配備し、最終防衛ラインを形成する。


 また泊地より出撃した迎撃艦隊は増進しつつ楕円軌道をとり第2ポイントへ移動。


 第2ポイントで先発隊の【響】2個編隊は艦隊より分隊し、予想進路上の敵艦隊側面より襲撃を開始、広域ジャミング【ローレライ】を起動して情報攪乱に努める。


 続く第3ポイントにて艦隊主力は、最大船速にて迂回機動を実施。敵艦隊後方より前方まで突破しつつ殲滅する。


 戦闘開始から最終防衛ライン到達までの予想作戦時間は宇宙標準時間で20分の予定。


 俺も可能かどうか演算したが、情報不足によりシミュレーション結果は安定しない。


『そろそろ第2ポイントよ。敵の進路は変わらず、作戦は予定通り進行中。今はあの子達を信じましょう。』


 モニターに映る響隊の2個編隊が一斉回頭し、追加ブースターに点火する。


『そう、進路そのまま、さあ行きなさい。』


 目的地に近づき、減速を開始したEvil揚陸艦隊に向けて、猛然と加速する響隊が使い切った増設ブースターを切り離し、第1亜光速度(秒速3万メートル)を超える襲撃速度(秒速3万3千メートル)で迫る。


『対艦ミサイル、多弾頭推進誘導弾、敵艦隊に指向、よし、撃ち方はじめ。』


 響から10基の対艦ミサイルに続き20基の多弾頭ミサイルが放たれた。


 高速で疾走する対艦ミサイルの後方で、20基の多弾頭ミサイルが炸裂し1基あたり20発の多弾頭推進誘導弾を射出する。総計400発の多弾頭誘導弾は母機である響の管制誘導に従い内蔵されたオートジャイロを動かし敵艦隊へと殺到した。


 Evil護衛艦隊が展開する艦隊防衛射撃網。網の様に広がる迎撃のレーザー光が宇宙を彩り、ミサイルや誘導弾がレーザー照射に絡め取られ次々と破壊されていく。


 しかし戦闘艦の装甲と同じく電磁障壁と対レーザーコーティングで護られた対艦ミサイルを迎撃するにはわずか数秒とはいえ迎撃レーザーを照射し続ける必要があり、その間隙をついてレーザーの投網を潜り抜けた誘導弾が次々と着弾し―――。


『ローレライ起動 さあ歌いなさい。』


―――爆沈する敵護衛艦をバックコーラスにして、ローレライの歌声が響き渡る。


 対艦ミサイルも誘導弾もすべては囮だった。実体弾を囮にして距離を詰めた響隊は急速に速度を落としつつ人型へと変わり、そのまま艦隊巴戦へ移行する。


 実体弾でも外しようのない距離で響は歌う。


 次元、空間、重力、電波、精神に干渉するいくつもの波が重なり広がっていく。


 響は歌う。


 船乗りを狂わせるローレライの歌を―――。


 異なる響達の波が幾重にもEvil艦隊を包み込み、重なり合ういくつもの波は、人も物も関係なく音として知覚させ、そしてすべてを狂わせる。


 それが宙域ジャミングシステム【ローレライ】。


 それが響達の歌。


 その効果は劇的だった。


 感覚器官も狂ったのだろう、Evil艦隊の群れが千々に乱れ―――。


「さあ、フィナーレです。」


―――Evil艦隊後方から放たれた30基の対艦ミサイルがEvil艦に着弾、次々と広がる爆発光に飲み込まれていく。


 其処に突入する重戦騎隊。


 敵艦隊の後方から増設ブースターを切り離した響隊を先陣にして、障壁を纏い青く輝く雷隊と紅く輝く暁隊も突撃する。


 星の輝きにも負けない光量で、煌めく蒼海と深紅の星々が増設ブースターを切り離す。


 先発の響隊の合唱に後発の響隊も合流し、宙域に響くローレライの合唱がさらに広がる。


 その歌声が響く戦場で、青い輝きを纏う雷隊は大型粒子砲の肉薄射撃を敢行し、押し留めようとするEvil護衛艦級を貫き引き裂く暁隊の対艦突撃槍から伸びた閃光の槍。


 Evil艦の防衛射撃が響を墜とし、ゾロア駆逐艦とEvil護衛艦級が互いの主砲を撃ちあう戦場を駆け抜ける青と赤の流星群が、Evil艦隊を次々と貫き沈めていく。


 単艦が放つ疎らな防衛射撃では紋章騎たる雷と暁を墜とせない。青と赤の輝きは星々を護る次元傾斜障壁の輝き、護衛艦級程度の主砲火力では、たとえ直撃したとしても傷ひとつ与えることは出来ないからだ。


 響は歌う。


 それは沈み逝く船に捧げる葬送歌。


 響達は歌う。


 船乗りを惑わすローレライの歌を―――。


 そして、仕掛けられた罠に向かってEvil艦隊を追い立てる自軍の動き。


 追い立てられたEvil艦隊の最終防衛ライン到達のタイミングで、一斉に起動したレーザー機雷がエネルギーの続く限りレーザー砲を照射し続け、誘導爆雷が敵艦隊に殺到する。


 完全に巻き込まれた先頭艦隊を迂回する後続艦隊を、追撃する蒼海と深紅の流星が呑みこみ粉砕した。


 しかし、最後の艦船が沈んでも戦いは終わらない。


『残存する敵艦なし、これより残敵掃討にかかります。』


 何も残さない。艦隊を統率するルル大提督の冷厳の意志に、俺は同意する。


 うむ、やることが無かった。


 作戦通り、性能差で押し切った一方的なワンサイドゲームで進んだ為、ただ見てるだけで終わってしまったのである。


『兵器は兵器よ。使えば消耗するし、敵が知れば対策される。だから敵に与える情報を最小限にしたわ。この戦闘で敵が知ったのは、最初に襲撃した響隊についてだけね。それもローレライ起動後の情報はまったく送れなかったはずだわ。大丈夫、残敵掃討は入念に実行中、これ以上の情報は与えない。』


 ルル大提督から転送された戦闘ログを確認するが、通信不全に陥っている敵艦隊の状況が分かるくらいで、俺にも情報を送れたとは思えない。


 残敵掃討はいまも続いているが、俺にやれる事はない。


 俺はもの言わぬオブジェになっている―――。


『そして敵が未知の脅威に警戒して手控えてくれるならば、それだけ貴重な時間が稼げますわ。作戦上響隊に犠牲を強いましたが、今は電子作戦騎より時間こそが貴重です。今のうちに自前の防衛艦隊を再建しましょう。』


 ルル大提督が提案する。もの言わぬオブジェな俺は同意するだけだ。


『もう、仕方のない人』


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【報告】ルル・ビアンカ・セラム大提督が入室許可を求めています。

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 俺はルル大提督の入室を許可した。


「信じて、今度こそ一緒にいるわ、もうひとりになんてさせないから。」


 ルル大提督が俺を抱きしめた。いやそれぐらい近くから彼女の声と温もりを感じた。


 かくて、大提督は引き篭もった。


--------------------

【成功】初戦闘に勝利せよ。を達成しました。〔1/5〕

報酬として功績点100ポイント、駆逐艦コインを受領しました。


【成功】初防衛戦に勝利せよ。を達成しました。〔2/5〕

報酬として功績点100ポイント、施設Sコインを受領しました。


【成功】要救助者を救出せよ(5人以上で追加報酬あり)を達成しました。〔1/5〕

要救助者は10名です。追加報酬条件を達成しました。追加報酬が支給されます。

報酬として功績点200ポイント、雑務ワーカー100コイン、指揮ワーカーコインを受領しました。さらに追加報酬として功績点200ポイント、雑務ワーカー100コイン、施設Sコインを受領しました。


【成功】Evil艦隊を撃滅せよ。を達成しました。〔3/5〕

報酬として功績点100ポイント、艦隊長コインを受領しました。


【報告】戦果報酬を受領しました。

小型艇級     2隻  2×2     4ポイント

小型揚陸艦級  12隻 10×12  120ポイント

護衛艦級     5隻 20×5   100ポイント

陸戦兵級   478体  1×478 478ポイント

――――――計497体   功績点 +702ポイント

--------------------


「ふふふふふ・・・気づいてさえ貰えない。不幸なわたくし・・・・。」


 外郭部にとりついていたEvil揚陸艦級2隻をバラバラに解体した要塞令嬢の呟きは、モニターを流れる戦果ログに埋もれて消えた。


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