閑話 観戦者たち2
閑話の中編です、あと1話続きます。
読んでいただけて感謝です。
行間修正。
「マイやん達が帰還するには、乗ってきた船を直すか、新しい船を用意するしかないじゃん。その為には有人宇宙船の基礎技術、極論でいえばマイやんたちが宇宙を旅するのに必要なすべての要素を、船に組み入れる必要があるのじゃん。」
「必要な要素のすべてと言われても、水とか空気とか食糧とかの話ですよね。」
「そう考えて間違いないじゃん。でもそれだけじゃないはずじゃん。」
「そう言われても・・・・。」
「それだけではダメだろう。寝る場所とか通路とか操縦席とか、当たり前にあるものって事だよな。」
「人工重力もあるといいよな。」
「ビールも頼むわ。キーンと冷えた泡立ったやつをさ。」
「いいえ、嗜好品よりも、宇宙病よけの医薬品の方が大事です。」
「トイレ。」
端的に告げられた一言に、その場の全員が沈黙する。
そう、あげていけば切りがなく、宇宙船にはあって当然の常識すぎて、そのすべてを上げるのが逆に難しい。
しかし、出航してからアレがないでは遅すぎる。
「航路を決めるにも星間航路図が必要ですし・・・鉄拳娘さんは私たちに何をさせたいのですか?」
「大将からのお願いじゃん。ボロ船の解体調査許可と中央制御ユニットのアクセスコードそれにいろいろ相談出来るアドバイザーが欲しいそうじゃん。どうするマイやん?」
「それは・・・。」
「その対価としてうちらの大将は、軽巡クラスの有人武装船を建造して、そちらに提供するそうじゃん。マイやんは口約束じゃ信用できないかじゃん?」
「いまの船は直らないんですよね?」
鉄拳娘はしばし沈黙して首を振り、ついで現実を見せるべくタッチパネルを操作して、マイヤ達が乗ってきた船の外見映像と内部スキャンデータを3D画像で表示した。
「やっぱり難しいって話じゃん。調査にあたったチャンプによると、そもそも技術格差がありすぎて、想定外のトラブルで沈む可能性が捨てきれないそうじゃん。いつ沈むか分からない船で宇宙を旅してみるかじゃん?」
鉄拳娘が現実という、もうどうしようもない、理不尽なものをマイヤに押しやり決断を迫る。
「あの、制御ユニットは生きているのですか?」
「ん、言ってなかったかじゃん。多少の損壊はあっても、アクセスは可能らしいじゃん。」
「そうですか・・・・なら条件がひとつあります。制御ユニットの人格データのサルベージをお願い出来ませんか。彼女も私たちの仲間です。」
この条件だけは譲れないとマイヤが真っ直ぐ見据えている。
「んーそいつは聞いてみないと分からないじゃん。」
鉄拳娘は即答を避けたが―――。
「あら、宜しいのではありませんか。わたくしの旦那様ならばその程度のお強請り、容易くかなえてくださいますわ。」
―――やってきた要塞令嬢が軽く請け負った。
「そこのあなた、わたくしにもお茶をひとつお願いしますわ。」
そして当たり前の様に、そばにいた兵士に命じて、要塞令嬢が差していた日傘を優雅に畳むと椅子に腰掛ける。
「・・・・何しに来たじゃん?」
若干苦手意識のある要塞令嬢の登場に、鉄拳娘の声にもとげが生えるが―――。
「あらあら、そう邪険にしないでくださいませ。わたくしとあなたは同僚でありましょう。本日は鉄拳娘さんにお手伝いをお願いしに参りましたの。」
―――要塞令嬢は優雅に微笑み、一方的に話し始める。
「わたくし、さきほど旦那様から、お仕事を再開して欲しいとお願いされましたの。勿論お請け致しましたわ、それで貴方のお力もお貸りしたいとこうして参りましたの。」
「ちょっと待つじゃん、まだ手伝うとは言ってないじゃん、そもそも話が見えないじゃん。」
調査活動で自分の力が必要になるとはとても思えず、そもそも要塞令嬢ならばそこらの有象無象など単独で踏みつぶしてしまうだろう。
それだけの戦力を彼女は持っているからだ。
「わたくしだと少々・・いえきっとやり過ぎてしまいますわ。それでお宝を失う訳には参りませんの。」
「お宝って、何か見つけたじゃん?」
「はい、旦那様にも報告を入れましたが、お宝よりもわたくしの方が大事だと、そう仰って頂けまして、もの凄く、ええ、ええ、もの凄く幸せでしたわ。」
「あーそれはよかったじゃん。で?」
厄介な同僚の妄想話を軽く聞き流して鉄拳娘が先を促す。
「そうそう、これがお宝ですわ。」
要塞令嬢がはっきりと言い切った。
日常生活で必要な物、貴方はすべてあげられますか?
私は無理です(笑)




