第一次グレイトパール泊地沖会戦1
いよいよ艦隊戦の始まりです。楽しんでいただけると幸いです。
行間修正。
スズヤ ソウジ提督のコア回収作業は未だ終わらず、これ以上のタスクの進行はチャンプの作業完了を待たねばなるまい。ルル大提督、作戦状況はどうか?
「はい貴方、作戦は順調に進行中ですわ。敵大艦隊の予想進路は変わらず、こちらの戦力展開も順調で、遅れはありませんわ。」
ルル大提督の言葉を受けて、俺は情報不足で欠落だらけの星系図に重なる戦況図を拡大する。
「まず駆逐艦級8隻からなる分艦隊β群の相手は、リーフ遊撃艦隊が主攻を努めます。彼女の攻撃開始を合図に、追撃を受けている第4指揮艦隊を反転して支援させますわ。」
戦況図で交差する分艦隊β群とリーフ遊撃艦隊の進撃ライン、リーフ遊撃艦隊は戦闘終了後に補給艦隊と合流し、補給後に再出撃の予定であるな。
「ついで、駆逐艦24隻からなる前衛γ群の相手は総指揮官をわたしが努め、前衛指揮官はアオイ艦隊長が務めます。そして、前衛艦隊の主力はクロガネ艦隊とわたしの第1艦隊が担当しますわ。その支援に第2支援艦隊があたります。大艦隊α群には、わたしの第5遊撃艦隊とプラム遊撃艦が主攻を担当し、補給を完了したリーフ遊撃艦隊が助攻を務めますわ。」
ルル大提督の説明に従い、戦況図を進む味方マーカーを示す三角の青マーカーの予定進撃ルート。
「大艦隊α群から出撃するであろう敵艦載機群はチェリー艦隊長の戦闘機隊が対応予定ですわ。また万が一前線を抜かれた場合に備え、マルス隊長率いる紋章機中隊を泊地外縁部岩礁帯に展開、これを最終防衛ラインとします。最後になりますが、第3敷設艦隊による機雷散布は始めております。」
ふむ、24隻対11隻で艦隊決戦であるか、艦数では負けているが戦力は圧倒しているであるな、正面決戦となればクロガネ艦隊だけでも殲滅可能であろう。
「ええ、間違いなく大艦隊α群の艦載戦力を誘引出来るでしょう。でなければ、なにも出来ずに前衛γ群は全滅しますわ。」
であるか。皆の戦いぶりを観戦させて貰うのである。
「ふふふ、特等席からご覧下さいませ。」
では、続きをお願いするのであるな。
空間に広がる戦域図では、既に機雷散布を終えた第3敷設艦隊が戦闘領域外に向けて護衛退避を始めている。
後発の主力艦隊であるクロガネ艦隊、ルル大提督の第1艦隊、第2、第5艦隊とプラム遊撃艦は、予測される敵前衛艦隊γ群の侵攻ルートと交差軌道をとるクロガネ艦隊と第1指揮艦隊を先行させ、それに随行しつつ支援砲撃位置を保持し続ける第2支援艦隊が続く。
さらに後方にいる第5遊撃艦隊とプラム遊撃艦は速度を落とし、主力艦隊群と距離をとりつつあった。
また先行出撃していたリーフ遊撃艦隊は加速を続け、敵分艦隊β群の迎撃コースを辿っている。
「こちらの予測通りならば、最初に接敵するのはリーフ遊撃艦隊ですわ。」
2時間が経過した頃、動きがあった。
先行するリーフ遊撃艦隊に対して、敵分艦隊β群が全艦一斉回頭しつつ、離脱軌道に移りつつあり、それに対してリーフ遊撃艦隊は増速、追撃戦に移っている。
重巡クラスを誘引出来たのだから、敵の作戦としては成功であろうが、速力に定評のあるリーフ遊撃艦隊相手では、まず逃げ切れまい。
また、敵大艦隊α群は進路を大きくずらし、迂回機動に入りつつあるが、いまだ艦載機を出撃させておらず、敵巡航母艦級は沈黙を保ったまま、大艦隊α群を率いている。
こちらの方が問題であるか―――。
「ギリギリまで見せないつもりですね、なら少し揺さぶってさしあげましょう。チェリー予定を繰り上げます。艦載戦力を大艦隊α群の突入ルートに乗せなさい。出来るわね?」
「振りですか?」
「振りで良いわ、敵迎撃戦力を確認したいの。」
「了解しました。」
チェリー艦隊長の指揮下にある自軍艦載戦力が、編隊ごとに次々とグレイトパール泊地を出撃していく。
低速発進で泊地外縁部岩礁地帯を抜け、其処で待っていたノーム級哨戒母艦が両弦全面を占める電磁カタパルトを起動、平面甲板に舞い降りる事なく、両弦電磁カタパルトに乗って一気に戦闘速度まで加速していく。
「全機予定軌道に乗りました。接触までの予想時間を表示します。」
手早く正確に、チェリー艦隊長の繊手が動き、編隊を導いていく。
うむ、見事な編隊運用であるな、さすがはチェリー艦隊長である。
特等席から観戦する俺は、その妙技に惜しみない拍手を送ったが、どうも気づいて貰えなかったようだ。残念である。
第4ヴォルフ偵察機隊の先導機が映るモニターを拡大すると、その後方に第1ヘクセ戦闘機中隊25機と第2ドラッヘ重戦闘機隊5機を護衛機とした第3ブリッツ攻撃機隊20機が続いているのが確認出来る。
陽動としては大規模な、主力機のほとんどをつぎ込んだ第一次攻撃隊である。
もしこれを無視出来る様であれば、敵の脅威度を引き上げねばなるまい。
それはそれとして、チェリー艦隊長は思い切った用兵をするようであるな。陽動としては充分な戦力であろう。
「さあ、どうでるか、お手並み拝見ですわ。」
その用兵に満足げなルル大提督が笑みを浮かべている。
楽しそうでなによりである。
俺はリアルタイムで更新される戦況図に意識を向ける。
そろそろであるか―――。
『こちらリーフ、第4指揮艦隊並びに敵分艦隊β群を捕捉。ファイネル級の戦いぶり見せてあげる。』
モニターから息巻くリーフ艦長の声が響く。
別モニターでは、着色修正されたレーザー光の閃光に照らされた戦闘機と見紛うデザインのファイネル級旧型軽巡航艦が、使い切った4基の増設ブースターを切り離して突撃を開始する。その後方にピタリと随伴する僚艦のケルベロス級高速重巡航艦が、艦前部にある4基8門のレーザー主砲を逃げるEvil駆逐艦級に浴びせかけているのが見える。
双方共に第1亜光速度は越えており、未だ相対距離にして30万キロ以上は離れた状況では、レーザー砲でも到達まで1秒以上は必要である。この距離からいくら撃っても、1秒で3万キロ以上を動く、ランダム回避機動中の敵艦に命中させるのは至難であるな。
現にモニターに映る、不規則な機動変位を繰り返すファイネル級の動きに、敵艦の攻撃はかすりもせず、牽制にもなっていない様子が見てとれた。
逆にケルベロス級高速重巡航艦に狙われた目標が遂に捉えられ、一撃で爆沈する。
『敵β-3の撃沈を確認。下手くそども、攻撃ってのは、こうやるのっ!』
レーザー砲の有効射程まで後5秒、狙い澄ましたファイネル級が放つ連装レーザー砲2基4門の斉射がついにEvil駆逐艦級を貫く様子を確認してから、俺は補給艦隊の移動ルートを変更し、合流ポイントを再計算する。
そろそろ忙しくなりそうであるな。
戦況図全体から感じられる戦闘激化の兆候を受けて、俺は流れ込む観測データとの格闘を開始した。




