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大提督は引き篭もる。  作者: ティム
4章 絶望を蹴散らす者たち
138/140

ターニングポイント1

御免なさい。大幅追加加筆になってかなり遅れてしまいました。

お待たせしましたが更新します。

後半部分は数日中には上げれるかと汗。

いつの間にか60万PV達成、変わらぬ応援ありがとうございます。

楽しんでいただけたら幸いです。


 M73星系――――。


 ソウジ艦隊によるEvilの巣撃滅作戦が開始されていた。


 事前偵察の結果、シエル提督が示した攻撃目標は3箇所、13個の巣が固まって存在するΔ1、3個の巣があるΔ2、ぽつんと1個だけ孤立した座標にあるΔ3である。


 Δ1にはEvil防衛艦隊の主力ともいえる艦隊が集結しており、戦艦級と戦闘母艦級2隻の他、巡航艦級10隻と駆逐艦級16隻が展開を完了して泊地艦隊を待ち構えていた。

 残る2箇所には、Δ2に駆逐艦級6隻、Δ3に巡航艦1隻がそれぞれ守備に就いている。


 それに対して、ソウジ提督は指揮下にある2個艦隊を3つの攻略艦隊に振り分け、進撃を開始する。


 セオリーに従うならば攻め手はふたつ。


 敵主力を先に叩き、孤立している敵を順次潰していくか―――。


 孤立している敵を叩きつつ、敵の主力を誘引、または包囲殲滅を図るか―――。


 しかしソウジ提督はどちらも選ばなかった。

 彼が選んだのはどこまでも短期決戦、攻撃目標Δ3箇所の同時攻略だった。


 もっとも敵の主力が集結しているΔ1に、こちらも主力であるミスリル級戦艦とアインホルン級重巡航艦にソード級巡航艦と駆逐艦5隻からなる増強艦隊を送り込み、Δ2にはスフェール級高速巡航艦が単艦で対応する。

 もっとも遠いΔ3にはコーラル級巡航母艦とその搭載機動兵器群が向かった。


 戦力分散という愚を犯しても、ソウジ提督は短期決戦に拘ったのだ。


 既に戦端は開かれており、その結末がどうなるかは分からない。


 ソウジ提督は大胆にも旗艦であるミスリル級戦艦を囮に使い、敵戦艦級と巡航艦級10隻を相手取り派手な砲撃戦を展開する。


 それに対してΔ1に展開するEvil防衛艦隊は、戦闘母艦級2隻を巣の護衛として後方に残し、前衛艦隊として戦艦級を単艦配置、さらに巡航艦級10隻による包囲戦を敢行する。

 さらに分艦隊としてそれぞれ別ルートを移動する2個分艦隊に対して、駆逐艦群と機動兵器群を差し向けた。


 一見すると11対1で戦うミスリル級戦艦が不利にみえるが、戦力値計算ではEvil艦隊は合計しても戦艦級2隻分であり、ミスリル級戦艦1隻で充分に戦力拮抗を保てるとソウジ提督は推測していた。

さらに言えば、戦艦級を除けば巡航艦級しかないEvil防衛艦隊にとって、ミスリル級戦艦の砲撃力は脅威であり、巡航艦級が2隻も落ちれば戦力拮抗さえ保てなくなるはずだった。


 両艦隊ともそれが分かっているのであろう。双方が単艦運用する戦艦級を、攻撃誘因役としてぶつけ合うという決闘スタイルが成立していた。


 相対距離20万キロを保ち、両戦艦は激しく砲火を交わし合う。

 ミスリル級戦艦を中心として相対距離30万キロの半球状に展開した10隻の敵巡航艦級からの支援攻撃を受けつつ、Evil戦艦級がレーザー照射と飛翔体を放つ。


 戦艦級から放たれた飛翔体は、高性能な誘導能力と自立飛行能力を持つらしく、軌道を完全に外れた状況でも時間をかけて戻ってくる。


 ただ、目標であるミスリル級戦艦周辺は、30万キロから行われている巡航艦級10隻からのレーザー照射が集中しており、それに巻き込まれて焼失する個体も多く、大きな障害とはなりえなかった。


 状況は推移する―――。


 Δ1から迎撃に出撃してきた小型艦群を蹴散らし、迂回機動で巣に向かうアインホルン級重巡航艦にゾロア級駆逐艦3隻が続く。


 それとは別ルートを通り、ソード級巡航艦とバルシェム級駆逐艦2隻が敵艦隊後方にいる敵戦闘母艦級2隻に向かって進撃する。


 ソード級巡航艦を先頭にして縦一列に並ぶ単縦陣で迫る敵艦隊を迎撃するため、敵戦闘母艦級2隻が戦騎級と攻撃機級からなる第1次攻撃隊を放つ。

 さらに巣の防衛に1隻を残して、先行する第1次攻撃隊を支援する為、1隻だけが前進を開始した。

 

 状況は推移する―――。


 Δ2に向かって加速するスフェール級高速巡航艦。


 Δ3を目標にして、1亜光速度(秒速3万キロ)に到達したコーラル級巡航母艦から第一次攻撃隊が発艦していく。


 状況は推移する―――。


 戦闘開始早々、勝利をもぎとったのはΔ2攻略艦隊だった。

 駆逐艦級6隻からなる防衛線に飛び込み、針路を阻む2隻のみを撃破したスフェール級高速巡航艦が、残存する敵艦4隻を置き去りにしてΔ2にある3つの巣を焼き払い、Δ1に向かう軌道に転進する。

 巣を破壊され、放置される形となった駆逐艦級4隻が、怒り狂ったように離れていくスフェール級高速巡航艦を追撃する。


 しかし、その選択は間違っていた。


 スフェール級高速巡航艦の後部砲塔が、バラバラに追いすがる敵駆逐艦級の1隻を指向する。


 最初から全滅させる事は決まっており、両者の違いは優先順位だけだった。

 駆逐艦級を放置して巣を破壊したのも、敵艦隊を釣りだす為の手段であり、残存艦隊を移動中に撃沈することで、戦闘時間の短縮を図るというゲーマーの効率主義が生んだ戦術である。


 誘いに乗って追撃した敵艦4隻は、Δ1までの短い追走戦中にスフェール級高速巡航艦によってすべて撃沈されていた。


 しかし一方的な展開となったΔ2攻略艦隊とは逆に、Evil巡航艦級が護るΔ3攻略艦隊は苦戦していた。


 コーラル級巡航母艦から放たれた第一次攻撃隊が、敵巡航艦級が展開する艦隊防衛射撃網に捕らわれ撃墜されていく。

 突入を支援する突撃艦や駆逐艦もなく、同時に放たれたデコイも早期に全滅するような状況で行われている艦隊からの砲撃支援なき、機動兵器群のみによる強襲戦だからだ。


 戦力を補うため、戦闘機であるヘクセⅡにも可能な限りの対艦装備をして出撃した攻撃隊だったが、巡航艦級を攻略するには数が足りない。

 セオリー通りのアンチレーザーチャフ散布状況下であっても、レーザー照射と実体弾の入り混じったその迎撃力は、衰える事なく叩き落していく。


 デコイ群と共に艦隊防衛射撃網に飛び込んだ強襲攻撃機トネール5機が早々に砕け散り、接近を試みた戦闘機ヘクセⅡもその半数を失った。

 本命ともいえる攻撃機ブリッツこそ5機すべてが残っているが、絶え間なく広がる弾幕の厚さに近づけずにいた。


 しかし一見優勢に進めているように見えるEvil巡航艦級だったが、単艦でこの厚みの防衛射撃網を維持するのは容易な事ではなく、観測出来るエネルギー量は急下降を続けており、搭載できる実体弾の量にも限りがある以上、遠からず息切れすることは間違いなかった。


 状況は推移する―――。


 エネルギーが尽きる前に短期決戦にでた敵巡航艦級が、さらに攻撃密度を上げて第一次攻撃隊を追い詰める。


 Δ3戦闘宙域近郊に転移反応―――。


「転移完了。これより・・突入します。」


 ―――ごく短い空間震と重力震を散らして、2隻のホッパー級軽巡航艦が迎撃困難な座標に出現する。


 作戦にない行動。

 それは情報支援に当たっていたシエル提督の独断専行であった。


 彼女は空間跳躍時に情報管制が途絶するのを嫌って、ノービス級偵察艦に預けた情報管制権を再度引き継ぎ、ソウジ提督に向かって参戦の意思を告げると同時に、Δ3攻略艦隊の指揮権移譲を彼に求めた。


『やる気なんだな。』

「大丈夫・・・ホッパー級は戦える。駆逐艦よりは・・・強い」

『なら任せる。約束はちゃんと果たせよ。』

「そっちも・・・約束・・・・忘れないで。」


 Δ3攻略艦隊はシエル提督の参戦によって盛り返した。

 ホッパー級という、たった2隻の軽巡航艦を操りシエル提督が戦闘宙域に突入する。

超長距離跳躍機関というハンデを抱えるホッパー級軽巡航艦であったが、軽巡準拠の性能は満たしており、たとえ格上の巡航艦級相手であっても見劣りするものではない。

 なにより、それを操るのは提督コアであるシエル提督である。


 リーフ艦長がファイネル級を操るように―――。


 チェリー艦隊長が機動兵器を操るように―――


 ヴィオラ提督が戦艦級を操るように―――。


 シエル提督の特性は小型艦を操ることに特化していた―――。


 シエル提督を乗せたホッパー級が軽やかに舞う。


 それは性能の限界に挑むような荒々しいリーフ艦長の操縦と違う軽やかな動き。

 風に吹かれ、舞い散る木の葉のような回避軌道を描きホッパー級2隻がレーザー照射を掻い潜る。


 攻撃隊撃滅を目指す敵巡航艦級―――。


 交戦距離に突入するシエル艦隊―――。


 出現した2隻のホッパー級軽巡航艦が、敵巡航艦級との交差軌道上を突き進み、その予定軌道上を敵巡航艦級からのレーザー照射が抜けていく。


 散発的な牽制射撃を潜り抜け、徐々に相対距離を詰めていくシエル艦隊。

 回避行動を続けていた戦闘機ヘクセⅡが次々に撃墜されていく。


 敵巡航艦級は迫るシエル艦隊を放置してでも、第1次攻撃隊残存機の掃討を優先していた。

 なぜなら多方面攻撃を受けたくない敵巡航艦級にとって優先すべき目標は、撃沈しにくい艦船よりも確実に落とせる機動兵器だったからだ。


 状況は推移する―――。


 相対距離20万キロ―――。


 もう間に合わないと判断したのだろう、巣を護る敵巡航艦級の攻撃が対艦戦を意識したものに変わっていき、あれほど激しく厚みがあった艦隊防衛射撃網が、見る影もなく衰退していく。

 

 そうなると分かっていたのであろう、シエル提督は戦闘機ヘクセⅡを囮として退避させていた攻撃機ブリッツ5機に再突入の指示をだし、さらに艦隊を前進させる。


 散開していた攻撃隊が再集結を果たし突入軌道を進む。


 先頭を進むホッパー級軽巡航艦が、連装レーザー主砲5基10門の斉射を終えて速度を緩め、速度を上げた後続艦が追い抜いて前方に出る。

 

 縦一列で並ぶ単縦陣で迫るシエル艦隊に向けて、敵巡航艦級が砲撃を集中させる。

 シエル艦隊からのレーザー照射と敵巡航艦級のレーザー照射が幾度も交差し、傷つけあう。

 レーザー照射を受けて焼け散っていくナノマテリアル装甲の輝きを、遥か彼方に置き去りにして、先頭に踊り出たホッパー級軽巡航艦の一斉射が敵艦を捉える。


 相対距離15万キロ―――。

 

 別方向から迫る攻撃隊。

 激しい攻撃に晒され、それでも生き残った攻撃機ブリッツ5機が最適な攻撃位置をとり機首を敵艦に向ける。


 巣にこれ以上接近させるのは危険と判断したのか、あるいは挟撃される状況を嫌ったのか、いままで相対距離を保とうとしていた敵巡航艦級が初めてシエル艦隊との距離を詰めた。


 相対距離10万キロ―――。


 瞬く間に両艦隊の相対距離が詰まり、前方に突出したホッパー級軽巡航艦にレーザー照射が直撃する。

 焼け散るナノマテリアル装甲の煌めき、溶解し爆散するレーザー連装主砲を切り捨て、ホッパー級が残存主砲の一斉射を放つ。


 双方の攻撃がより苛烈さを増し、巡航艦級から次々に放たれる拡散する実体弾の波状攻撃を、ホッパー級のレーザー照射が撃ち抜き、焼き尽くす。


 幾十幾百の実体弾の波を突き破り、ホッパー級の一斉射。

 さらに完全充填した対艦プラズマキャノン2基を、2隻のホッパー級が偏差射撃で撃ち放つ。

 敵巡航艦級に迫る4発のプラズマ弾。

 その青白い球体を光の速度で抜き去り、後から放たれたレーザー照射が敵艦を護る障壁を圧迫し、迎撃に失敗した2発のプラズマ弾が其処に直撃した。


 幾たびも受け続けたレーザー光の負荷で弱った障壁を、遂にプラズマ弾が貫通する。

 艦首から側面にかけてプラズマ弾によって大きく船体外殻を削られた敵巡航艦級に、攻撃機ブリッツ5機から放たれた対艦ミサイルが迫り、さらにホッパー級の相互射撃が敵艦の回避軌道を潰しきる。


 しかし敵艦はあきらめない。

 被弾覚悟の強引な回避軌道と即座に展開した艦隊防衛射撃網が、すべての対艦ミサイルを絡めとり破壊するが、艦隊防衛射撃網を貫く幾条ものレーザー照射に焼かれ、艦首部分で発生した焼失爆発に巻き込まれて、主砲や高角砲が吹き飛んでいく。


 状況は推移する―――。


 苛烈な機動砲撃戦のさなかに、唐突に現れる転移反応。


 敵巡航艦級の近域、相対距離にして5万キロに中型艦の転移反応ひとつ、さらに相対距離2万キロに微小な転移反応3つが出現する。


 躊躇いは一瞬、満身創痍となった敵巡航艦級が、ホッパー級に向けていた主砲を中型転移反応に向けかけ、さらに出現の速い微小転移反応3つを撃ち抜く。


 しかし微弱な空間震と重力震を散らして現れたのは、敵巡航艦級が怖れた跳躍型対艦ミサイルでもなく、ただの探査プローブ。

 星系外縁にいたノービス級偵察艦3隻から放たれた囮だった。


 そして重力震を放って現れるコーラル級巡航母艦。


 相対距離8万キロ―――。


「全艦・・全力射撃・・・始め。」


 ―――騙し切ったシエル提督の勝利宣言。

 2隻のホッパー級軽巡航艦が残存するすべての砲を敵巡航艦級に叩き込んだ。



シエル提督の初戦闘シーンを入れてみたかったのです。

次回はソウジ提督と珠ちゃんのシーンかな。

ではまた、頑張ります。

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