第4次グレイトパール泊地沖会戦 艦隊決戦4
久しぶりの予約投稿にて、決戦4をお送りします。
やっとここまできたという感じですが、いよいよボスが見えてきました。
ブックマ等、感謝です。楽しんで頂ければ幸いです。
M46星系 第5惑星近隣宙域―――。
超空間から大ドック艦2隻が、無事に重力震を撒き散らして通常空間に出現する。
チェリー艦隊長はモニターに映るガス状大気が取り巻くM46星系第5惑星の位置から、現在座標を算出して跳躍予定座標に無事に出現出来た事を確認するが―――。
「転移完了。チェリーっ近隣宙域に高エネルギー反応多数確認!戦闘中だよ、キースさんも注意してっ!」
『おーおー、こいつは派手にやりあってやがるな、こちらキースグリフ提督。聞こえるかバーボン、状況を知らせろっ。』
プラム艦長の警告を受け、更新した戦況図で状況を確認したキースグリフ提督が、戦闘中の護衛艦隊に連絡を入れる。
そう、4回目の超空間転移を終えて彼女たちが訪れたM46星系は交戦中だった。
「プラム、ドック艦から離脱急いでっ戦闘準備!」
「もうやってるっ!」
交戦中の宙域より相対距離にして20万キロ―――。
大ドック艦が出現した座標は、完全に敵のレーザー照射の有効射程圏内にあり、出現直後に攻撃を受けなかったのは、護衛艦隊の奮闘と幸運以外のなにものでもなかった。
プラム艦長が跳躍直後に行う各種チェックをすべてキャンセルして、シサク重戦闘母艦の出撃準備を始める。同時に、全武装の安全装置を解除して、シサク重戦闘母艦を戦闘態勢に変えていく。
もともと戦闘艦ではない大ドック艦の防御力など、たかが知れている。
いかに大ドック艦にとって、ドック区画が船体の大部分を構成しているとはいえ、致命的箇所の多い重要区画でもない以上、その防御力は気休め程度でしかない。
そんな状況で攻撃を受ければ乗艦は無事でも、損壊した大ドック艦をさらに破壊して出撃する事態になりかねず、打算含みとはいえ好意で使わせてもらっている船を壊して返すのは避けたかったからだ。
ふたりともそれが分かっている以上、素早く離脱を始めるのは当然の流れだった。
『ようやく来たか、まってたぜ、色男!とっとと乗りなっ車の準備は出来てるぜっ!』
接続した超空間通信から威勢のいい掛け声が流れ出る。
『ようバーボン、出迎えご苦労。もうやつらはここまで来てるのか?』
『いや、こいつらは違う、餌を求めて流れてきたはぐれものだ。依然本隊は動かず、まだ最前線は変わってねえ、急ぎな。』
『なら援護は必要か?』
『なめんなよ、若造。てめえは嬢ちゃんたちとよろしくやってな。』
『仕事だ仕事、聞かれたらどうする、誤解を招く発言をするなっ。』
『ははは、どうだか、振られちまえ、色男。』
抗議するキースグリフ提督が映る通信パネルの横に並ぶ、パネルに映る金髪のおじさんが、とっとと行けと、待機中の大ドック艦を指し示す。
バーボン主力艦隊が接近する敵艦隊と交戦中―――。
彼の駆るアインホルン級重巡航艦が僚艦の重巡と並び、散発的に迫る敵艦隊に砲火を浴びせかけ、重巡2隻が撃ち漏らした小型艦級を、宙域を駆けまわるバルシェム級駆逐艦3隻が追撃している。
チェリー艦隊長から見る限り戦力は拮抗しており、戦況は予断を許さない。
迫る敵艦の数も多く、彼が口で言うほど楽勝には見えなかった。
そんなレーザー照射の飛び交う戦闘宙域―――。
相対距離にして20万キロ離れた第5惑星の静止衛星軌道上から、チェリー達の宙域到着に合わせて、ガス状大気が取り巻く惑星を離脱した大ドック艦2隻が移動を開始する。
大ドック艦2隻が合流軌道上を進み―――。
「あの、始めまして、チェリー艦隊長です。」
「チェリー、ドック艦からの離脱完了、各部問題なし。あ、おじさん。こんちープラムだよ。よろしくっ。騒がしくてゴメンねー♪」
『くあ~、妾はガーベラじゃ。暇すぎて寝ておったわ。』
『ムツハです。よろしく?』
『マルスだ、此度の助力に感謝する。』
『アポロだぜ、今度一杯奢らせてくれや。』
―――速度を上げた大型艦2隻が、それぞれ指定された大ドック艦との合流軌道を描き追走する。
護衛艦隊が作る防衛ラインを浸透突破した小型艦群が迫る―――。
「やっちゃえ、プラムっ」
「りょうかーい、やっちゃうねー♪」
シサク重戦闘母艦が連装レーザー速射砲と4連装レーザー高角砲を動かし、接近を試みる敵艦隊に対して、レーザー掃射を開始する。
「バイバーイっ御帰りはあちらーとっ♪」
駆逐艦級や大きくても巡航艦級程度の艦であれば、乱戦を意識して砲配置されたシサク重戦闘母艦にとってちょうどいい的でしかなく、多数の4連装レーザー高角砲に追い立てられた獲物を連装レーザー速射砲の弾幕が潰していく。
突撃の意思を敵艦ごと粉砕し、追い散らし、逃げる後ろからさんざんに追撃をかける。
目まぐるしく砲塔を旋回させ、それだけの攻撃を行いながらも、シサク重戦闘母艦はピタリと合流軌道上を進んで行く。
『こちらバーボンだ、艦隊長をやってる。ようこそお客人たちっ、いい腕だな、悪いが歓迎の挨拶だけで勘弁してくれ。見ての通り取り込み中でな。遊んでないで、あんたらもはやく乗り込みな!』
挨拶もそこそこに、戦闘中のバーボン艦隊長が早く合流しろと叫ぶ。
「はーい、だってチェリー、攻撃終わりっ大ドック艦に入渠するね。」
プラム艦長が攻撃態勢を解除して砲塔を定位置に戻し、排熱を行いつつ微細な位置修正一発で決めて入渠作業を終わらせる。
「チェリー、大ドック艦との合流に成功。艦体の固定に入るよ。キースさんはどう?」
『こっちも終わったぜ。さぁ、お嬢ちゃん出発だ!』
「はい、プラムお願いっ。」
「はいな、船体固定完了、超空間跳躍開始、みんなー行くよーっ。」
『またな、お客人たち。旅路の先で、良き酒に巡り合わんことを!』
「ありがとうございました、良き出会いに感謝をっ。」
見送るバーボン艦隊長にチェリー艦隊長が敬礼する。
それはチェリー艦隊長が、旅の途中で学んだ艦々酒場亭流の別れのあいさつ―――。
速度をあげた大ドック艦2隻が、5回目となる超空間跳躍を実行する。
グレイトパール星系まであと2回、彼らの挑戦はまだ続いていた―――。
グレイトパール星系 戦闘宙域―――。
珠ちゃんの命令に従い、リーフ艦隊とアオイ艦隊が戦闘宙域を離脱していく。
中破の判定を受けたリントヴルム級重レーザー重巡航艦に乗るアオイ艦隊長は素直に、まだ戦えると、ごねそうだったリーフ艦長も不本意ながら同意していた。
短期決戦を主軸において設計されているファイネル級は元々搭載できる推進剤と弾薬が少なく、今回のような長時間に及ぶ戦闘には対応していない。
いかに浪漫に生きるリーフ艦長といえども、残存する推進剤と弾薬量が10%を割り切った現状では、戦いたくとも戦えなかったからだ。
γ-57、γ-58、γ-59の予測出現時間が迫る―――。
時間に押されて攻撃を重視し過ぎたのか、蛸型重戦艦級3隻と交戦中だったルル大提督の扶桑級重戦艦が回避行動に失敗して、伸ばされた触手と接触してしまう。
振り払おうとする扶桑級重戦艦が速力を増して連続した軌道変更を敢行し、張り付く触手と本体を狙えるすべての主砲からレーザー照射を浴びせかけて引き剥がしにかかる。
しかし、蛸型重戦艦級も負けてはいない。
連続して軌道を変える扶桑級重戦艦に振り回されながらも、張り付いた触手を離さない。
扶桑級重戦艦から浴びせられるレーザー照射を貪欲に吸収しながら、ようやく捉えた獲物を逃すまいと、さらに複数の触手を伸ばし張り付かせていく。
相互連携、相互支援、機動砲撃戦のお手本のような戦い方をしていたルル大提督の重戦艦隊の連携が崩れていく。
状況の変化を敏感に感じたのだろう、他の獲物を追っていた2隻の蛸型重戦艦級の軌道が変わる。
即座に対応するルル大提督―――。
しかし、ガルディアン級重戦艦からの阻止砲撃や軌道上に割って入る2隻のケルベロス級高速重巡航艦さえ完全に無視して、残る2隻の蛸型重戦艦級も扶桑級重戦艦に向かう。
その蛸型重戦艦級の行動が決められた戦術だったのか、それとも生き物として備わった本能だったのかは分からない。
蛸型重戦艦級というお荷物に張り付かれ、速力の衰えた大型艦など、俊敏な彼らにとって絶好の獲物でしかなく、獲物に襲い掛かる蛸の様に触手を大きく広げ、2隻の蛸型重戦艦級が扶桑級重戦艦に覆いかぶさっていく。
扶桑級重戦艦の反応が鈍い―――。
振り払うことに集中するあまり、接近する2隻に気付かなかった扶桑級重戦艦が3隻もの蛸型重戦艦級に絡みつかれていた。
締め上げられる扶桑級重戦艦―――。
圧迫により扶桑級の主砲が圧壊する。
締め上げ絡みつく触手が電磁障壁からエネルギーを奪いつつ装甲内部へと沈んでいく。
締め付けられるような圧迫攻撃に対して、ナノ・マテリアル装甲は弱かった。
流体であるナノ・マテリアル装甲の特性上、一点に与えられる熱や打撃には強くとも、ゆっくりと掛かる圧力には弱かった。
なぜならば流動するナノ・マテリアル装甲が、圧力により周囲に逃れてしまうからだ。
遂に完全に埋没した複数の触手が、2次装甲である耐熱セラミック装甲まで到達する。
扶桑級重戦艦の抵抗は続く―――。
生き残っている砲塔から全力射撃を実行し、全力発揮した推進器のパワーによって更に船体を振り回す。
扶桑級重戦艦の抵抗は続く―――。
「頃合いですね。始めましょう。」
―――だからこそ気づかなかった。
扶桑級重戦艦に搭載されている10基すべての動力炉が、臨界爆発に向けての起爆準備に入っていた事に―――。
「扶桑級重戦艦、超空間跳躍開始。」
すべてがルル大提督の作戦だったことに―――。
跳躍先の設定座標は1光年先の深淵宇宙―――。
ルル大提督の命令に従い、扶桑級重戦艦が絡みつく3隻の巨大蛸ごと超空間に飛び込んでいく。
戦闘宙域に訪れる数舜の静寂―――。
1光年先に出現するであろう扶桑級重戦艦は、出現直後に敵艦3隻を巻き添えにして動力炉の臨界爆発を起こして自爆する。
貴重な重戦艦1隻を捨てて、重戦艦級3隻を排除する。
それが間に合わせる為に立案したルル大提督の献策であり、珠ちゃんが同意した作戦のすべてだった。
ようやくヴィオラ艦隊が戦闘中だった重戦艦隊と合流する。
貴重な重戦艦一隻を生贄にして強引に間に合わせた、たった数十秒の優位性をルル大提督は無駄にしない。
「ヴィオラ、艦隊統制射撃を行います。目標γ-57。」
『了解です。攻撃目標γ-57、全砲門照準固定。出現時間同期、砲撃準備完了。』
「全艦、攻撃開始。撃ち方、始め。」
ルル大提督の号令の下、残存する泊地艦隊が艦対艦ミサイルに続いてプラズマキャノンの斉射を行う。
放たれた艦対艦ミサイルとプラズマ弾の描く予測軌道の隙間―――。
光速のレーザーより遅い実体弾とプラズマ弾の到達タイミングに合わせ―――。
「全主砲一斉射。撃てっ!」
―――5隻の重戦艦が照準可能なすべての主砲を斉射する。
その砲撃タイミングに遅れる事なく残存する戦艦以下の戦闘艦もこれに続き、多数のレーザー照射が、ただ一点に向けて収束する。
予測通りの座標に、同時に重力震を伴って出現する3隻の海栗型重戦艦級。
その内の1隻であるγ-57と呼称された海栗型の重戦艦級に、放たれたすべての砲撃が炸裂した。
出現直後というもっとも無防備となるタイミングに、残存する泊地艦隊の最大火力を叩きこまれた海栗型重戦艦級が何も出来ずに轟沈する。
本来ならば追加装甲として機能するはずの子分たちも、飽和攻撃に込み込まれて本体ごと破壊しつくされていく。
焼失爆発の規模は最大、一瞬にして太陽の様に赤く灼熱した球体が弾け散った。
デブリと衝撃波を伴う爆発の余波が、敵味方の艦隊を揺るがせ、宙域に広がっていく。
一瞬で失われた味方の最後に触発されたのか、残り2隻の海栗型重戦艦級が、接続していた海栗型艦の展開を開始する。
浴びせかけられるレーザー照射―――。
比較的小型の海栗型駆逐艦が、レーザー照射に呑まれて燃え尽きる。
次々と撃沈していく子分達と共に、2隻の海栗型重戦艦級もまた、生き残りをかけて抗戦を開始した。
海栗型全艦から一斉に放たれる棘型飛翔体―――。
泊地艦隊も応戦する―――。
迎撃に放たれる迎撃ミサイルと小型プラズマ弾に続き、再装填を終えた艦隊艦ミサイルや大型プラズマ弾も射出される。
棘型飛翔体の再斉射―――。
それぞれの予測軌道がぶつかりあい、撃ち漏らしが描く予測軌道上を潜り抜け、敵味方の艦隊が主砲を向け合い、レーザー照射が交差する。
「γ-57の撃沈を確認。艦隊統制解除。ヴィオラはγ-58、私がγ-59をやるわ。γ-61の出現まで時間がありません。速攻で片づけましょう。」
『了解です、ルルさん。これよりγ-58を撃滅します。』
内心の不満を隠し、ヴィオラ提督が指示にしたがう。
彼女が不満を抱くのは仕方のないことだった。
ルル大提督が生贄にした扶桑級重戦艦はヴィオラ提督が初めて乗艦した重戦艦であり、初めて大戦艦級を撃破した思い出深い船だったからだ。
そんな記念艦の最後に、理性でなく、心情的に納得できない部分があったからだ。
「ヴィオラ、不満なのはわかるし、文句は後で聞くわ。今は勝ち切ることだけ考えなさい。勝利の為に。」
『ええ、勝利の為に。』
こみ上げる不満を押し殺し、ヴィオラ提督も復唱する。
彼に勝利を捧げる、その気持ちは同じだったからだ。
ワンクッション置いてボスキャラ戦の開始です。
いい加減、珠ちゃんにターンを廻したい(笑)
あと、今日の一冊に選ばれました。不思議な感じもしますが、楽しんでかけている感じが伝わっているならば幸いです。




