第4次グレイトパール泊地沖会戦 インターバル
ふー大変お待たせしました。
リアルでちょっとごたついてます。仕事仲間がひとり抜けて負担増・・・・。
いつの間にかブックマ1000人超えてました。
応援感謝です。
ちょっと予定を変えてチェリー達の方を先にしました。
この方が盛り上がりそうですから♪
楽しんで頂けたら、幸いです。
ビルネ星系―――。
艦々酒場亭・ゲートから、893光年先のイュース・ゲートへ―――。
イュース・ゲートから、947光年先のアスカ・ゲートへ―――。
アスカ・ゲートから、816光年先のズィーデン・ゲートへ―――。
3つのゲートを経由して、ようやくチェリー達6人はズィーデン・ゲートから、958光年先のビルネ星系にあるビルネ・ゲートに到着した。
「星系内に多数の船舶を確認。およそ17631隻。」
およそ17600隻―――。
それがチェリー艦隊長が乗るシサク重戦闘母艦の宙域レーダーが捉えた、50メートルサイズを超える船の数だった。
あくまでも航宙船として規定される船の数だけであって、連絡艇や作業艇といった49メートル以下の舟艇サイズを加えるならば、軽く40000隻は越えるだろう。
あくまでだろうな理由は、宙域レーダーにも当然死角や探知範囲があり、1隻で星系すべてを効果範囲に収める事は出来ないからである。
集結している艦隊群はアリゼ連邦に向かう予定だと思われるが、戦闘艦以外の民間船舶もかなり多く、光学観測で確認出来る範囲でも、哨戒中の艦隊など軍艦1隻に対し民間船2~3隻が活動しており、宇宙港や各種製造プラントなどの建築や拡張工事を行っている。
『大規模公共投資ってやつだな、まあ帝国がよくやる手だ。ああやって、人、物、金を動かす為に星系をまるごとひとつ開発するのさ。
公共事業として民間企業に大量発注した結果、仕事にあぶれた連中が、仕事を求めていろんな星系から集まって来る。さらに言えば戦火を逃れて避難してきた難民や逆に戦争を求めてやってきた自由契約傭兵なんかも捜せばいるはずだ。』
キースグリフ提督の解説を聞き、チェリー艦隊長もより注意深く周囲の状況を探った。
言われてみればよく分かる。
船舶の艦型に統一感のある帝国の艦隊群に比べると明らかに違う、艦型や大きさもバラバラの全く統一感のない民間船の群れが多い。
このすべてが帝国から仕事を受注した企業や仕事を求めてやってきた民間船なのだろう。
船舶の集まる宇宙港や臨時ステーションでは、ドックや桟橋に入渠しきれなかった船舶が周辺宙域にまで溢れている。
『まだまだこんなもんじゃないぜ、帝国の動員力ってやつはさ。今は序の口、宵の口ってね、何をやるにしても段取りってやつがある。本格的に始まれば、この10倍は集まってくるだろうよ。
軍艦にしても駐留してるのは、帝国軍のゲート守備艦隊と国境警備艦隊、それにビルネ星系を治めるビルネ伯の私設艦隊ぐらいだろうな。
アリゼ連邦への救援艦隊も俺たちみたいな外様や雇われ傭兵艦隊を除けば、先遣艦隊ぐらいしか来てないはずだぜ。』
帝国をよく知るキースグリフ提督が、アドバイザーとしての務めを果たす。
多くが有人船とはいえ、2000メートル級や3000メートル級の船が確認出来るだけでも300隻以上はいる。
そのすべてが戦艦ではないのだろうが、帝国の力を見せつけるような光景だった。
「それで間に合いますか?」
『間に合わせるだろうよ。何せ帝国だからな。』
何せ帝国だから、そう語るキースグリフ提督の声は至って平穏で、虚言や誇張しているような感じではなかった。
『クツクツクツ、それだけではなかろう。主の言うように、たしかにそういう一面もあるじゃろうな。
じゃが、帝国とやらはこの星系を、最前線を支える兵站基地にするつもりじゃろう。
いまだアリゼ連邦に侵攻しておるEvilの総数は不明、その本拠地も不明、いかほどの星系を支配しておるかも不明じゃ。
表向きアリゼ連邦を支援する基地として整備しておき、アリゼ連邦が陥落すれば前線基地として、アリゼ連邦が勝利したならば、交易の中継地として利用するのじゃろう。まこと良き差配をするものじゃよ。』
モニターに映るガーベラ隊長が、開いた扇子で口元を隠して己の見解を語って見せた。
『おー、凄いっガーベラお姉ちゃん、凄い!凄いっ!』
『うむうむ、そうじゃろう、そうじゃろう。もっと妾を褒めてたもれ。』
手放しで賞賛する義妹のムツハ隊長の声に、ガーベラ隊長が機嫌よく応じている。
「おーい、そういう小難しい事は置いといて、これからどこへ向かえばいいの?それっぽい集団がかなり多くて、さっきから通信もうるさいんだけど~。」
プラム艦長が宙域レーダーが捉えたそれっぽい艦隊をピックアップしてみせるが、艦々酒場亭泊地軍を示す識別マーカーだけでも10個集団はいる。
「ねぇ聞いてるー? 航路申請を求める交信とか来てるんですけどー。」
提出を求められた航路申請。それは目的地が分からないと答えられない内容だった。
翻る御旗泊地所属の無人艦隊や帝国艦隊、その他の同盟国家や企業艦隊、傭兵艦隊等を含めれば1000を越える所属組織を示すマーカーが宙域レーダー上に表示されており、このような状況で行先不明の船が存在するのだから、ビルネ星系中央航路管理センターからの問い合わせが来るのも当たり前だった。
『そう焦るなって、こっちの到着をいまラガーとバルク爺さんに伝えたところだ。すぐに迎えなり、合流座標が指示されるだろうぜ。・・・・ほら来た。プラム、この宙域座標に向かう、ついてきな。』
「はいはい、でもホントに此処なの? 待機中の艦隊、少なくない?」
プラム艦長が疑念を口にするが、その意見はチェリー艦隊長も同感だった。
予定通りであれば、この星系で増援艦隊と合流する手はずになっているのだが、指定座標で待機中の艦数はわずか8隻だけであり、宙域レーダーから読み取れる反応は超大型艦2、中小型艦6隻だった。
護衛艦隊として見るならば過剰な戦力だが、援軍としてみるとしょぼい8隻の艦隊。
それが表情に出ていたのだろう、キースグリフ提督が―――。
『ああ、その予定はキャンセルだ。此処で合流はしない。』
―――そう述べた。
「どういう意味ですか?」
キースグリフ提督に発言の意味を確認するチェリー艦隊長だったが、彼はその疑問に答えない。
『行けばわかるさ。急いでんだろ、ならついてこい。』
「ふーいいでしょう、チェリー、みんな行くよっ。」
「プラム。」
「いいからいいから、心配いらないって、どーんと任せてよ。」
『クツクツ、乙女のカンかや?』
「そそ、馬鹿な事したらメーティアさんにお知らせしまーす。」
『ちょ、おま、いつの間に仲良くなってるんだよ?』
「え、割とすぐだけど、メーティアさんともアドレス交換したから、メッセを送るのなんて簡単、簡単♪」
プラム艦長が名刺サイズの紙片に視覚化した個別アドレス情報をひらひらさせて、ニマニマ笑っている。
彼女がメーティア女史と知り合う切っ掛けになったのが、彼氏の浮気を心配するメーティア女史の可愛い嫉妬と独占欲であったことは、プラム艦長も口止めされているので教えるつもりもなかった。
『おっそろしい女だなお前、言っとくが俺はメーティアだけだからな、他の女はノーサンキューだ。』
「はいはい、ご馳走様、ご馳走様っと、んー見えてきたけど・・・あれってドック艦?」
『そうだ、大ドック艦を14隻用意させた。』
「14隻?」
ここには2隻しかいない。
少なくとも、宙域レーダーで確認できる反応は―――。
『ああ、14隻さ。』
この意味が分かるかと、キースグリフ提督が問いかける。
その問いに、プラム艦長が答える前に通信が届いた。
『こちらラガー提督だ。よお色男、女連れでドライブかい、いいご身分だな。』
モニターに映ったのは、ふてぶてしい態度のおっさんだった。
『こちらキースグリフ提督だ。こっちは恋人と引き離されて遠征任務だよ。そっちは相変わらず独身貴族を満喫中かい?』
『おう、酒とたばこがやめられなくてなあ。辺境はいいぜぇ、信じられん物から酒も煙草も作りやがる。どうだ一本、お前さん達もやってかないか?』
ラガー提督が咥え煙草に火をつけて、いい笑顔で煙草を進めるが―――。
『悪いな仕事中だ、遠慮しとく。・・・・で、連絡した準備は出来てるかい?』
キースグリフ提督が軽くながして、話題を変える。
『もちろん、祭りの準備は出来てるぜ。こちとら待機続きで暇してるんだ。そんな連中に声をかけたら、参加するにきまってるだろう。
おっと、お前さんの艦隊はジニーとエステラに任せて回送中だ。予定通りにいけば、一足早く現地入りしているはずだぜ。向こうで受け取りな。』
『ジニーとエステラか・・・・。』
キースグリフ提督がやっかいなと独り言を口に出し―――。
『おう、ふたりともお前さんをまだ諦めていないからな、せいぜい気をつけろよ。』
―――ラガー提督がニマニマとわらっいる。
『おまえ、わかってて選びやがったな。』
『ガハハハ、健闘を祈ってるぜ、色男。・・・つーわけだ嬢ちゃんたち、こっからは俺もつきあうぜ。短い間だが、よろしく頼む。』
ひとしきりキースグリフ提督で遊んだラガー提督が、すっと態度を改めてチェリー艦隊長に声をかけた。
「こちらこそお願いします。あの、この先の予定を教えてください。隠し事、ありますよね。何を隠しているのですか?」
いい年をした提督ふたりに対して、チェリー艦隊長は問いかける。
『おいキース、お前、まったく説明してないのか?』
『戦争にはドラマが必要だろう。ちがうか?』
ラガー提督に向かって、キースグリフ提督が不敵に笑って見せた。
『悪いな、これが俺らの流儀なんだ。』
そして、キースグリフ提督がチェリー艦隊長に語り掛ける。
『なぁ、お嬢ちゃん、いやチェリー艦隊長。お前さん、もう間に合わないって思ってるだろう? 違うか?』
「はい、そう思ってます。珠ちゃんも期待していません。」
チェリー艦隊長はそれを当然の事として受け入れている。
『だろうな、此処から最短ルートを経由しても7回の跳躍が必要だ。まともにやったら間に合わない。だから俺たちは、まともな方法は使わない。』
キースグリフ提督が一呼吸置き―――。
『俺たちは、こいつに乗って行く。』
―――2隻の大ドック艦を指し示した。
『悪いが航路はこちらで決めさせてもらった。既に2隻の大ドック艦を連れた艦隊を複数先行させている。
俺たちは跳躍先で待たせている大ドック艦に、跳躍ごとに乗り換え、再跳躍に必要な排熱や各種のチェック、エネルギーの再充電といた煩雑な作業をすべて投げ捨てて再跳躍を繰り返し、グレイトパール星系まで一気に駆け抜けるって寸法だ。
どうだ? 途中休憩も観光もなしだが、悪くないだろ。』
キースグリフ提督が語る内容は、作戦としては可能であり、間に合うかどうかは未知数で、彼らが其処までする価値があるかどうかは謎だった。
『なんと、そのような作戦があるのか?』
黙って聞き役に徹していた龍人マルス隊長が、こそっとモニターを近づけて部下の傭兵アポロに聞いている。
『旦那、旦那、こんなの古くからあるやり口だぜ。俺も参加した事があるが、決まると痛快だが、費用対効果は割りに合わない。
なにより準備に金も時間もかかる。指揮官の腕よりも、合流地点から根回しまで、すべての準備を差配する兵站部門の実力が試される作戦さ。その苦労は参加する側には分からないがな。』
青鬼アポロも空気を読んだのか、ガハハと豪快に笑うことなく、彼にしては小声で教えている。
そんな外野の声も聞いていたチェリー艦隊長に、キースグリフ提督がさらに言葉を重ねる。
『だからさ、度肝を抜いてやろうぜ。間に合わないって思っている連中の、それを期待さえしない主の、なにより諦めている自分自身の、度肝を抜いてやろうぜ。やればできるってことを見せつけに行こうぜ。』
キースグリフ提督が不敵に笑う。
それが14隻という謎の答えだった。
それでも間に合うかどうかは賭けである。
「そこまでする価値があるのですか?同じ泊地同盟に所属しているとはいえ、所属する泊地は違います。私たちは同盟関係にある訳でもありません。」
そこまでする価値はない、それはチェリー艦隊長の偽りない本音だった。
『分かってねぇな、俺とあんたらは酒を酌み交わした仲だ、もう他人じゃない。なにより戦争にはドラマが必要で、良い酒には良い肴が必要だ。そして語るならば、悲劇より美談が良い、そこに自分が関わるならば最高だ。違うか?』
そんなのどうでもいいだろうと、キースグリフ提督が言葉を続ける。
「違いません、違いませんが、それでも・・・。」
『それがいいのさ、祭りは派手に盛り上げる。それが俺達、艦々酒場亭泊地の生き様だ。』
困惑するチェリー艦隊長に、それが俺たちの生き様だとキースグリフ提督が語り切った。
「ストープッ、チェリーの負け、キースさんそれでよろしく、みんなもいいよね?」
良い雰囲気になりそうな、延々と続く言葉の交流をプラム艦長が止めた。
『クツクツクツ、なんじゃこれから面白くなりそうじゃったのに止めてしまうとは、お主も狭量じゃのう。』
開いた扇子で口元を隠し、ガーベラ隊長が笑い―――。
『プラムお姉ちゃん、狭量?』
―――ムツハ隊長が追従する。
「ふ・た・り・と・も、良いよねっ!」
もうこの話題は終わりと、プラム艦長が言葉尻を強めて宣言する。
『妾に異存はないぞ。お主の好きにせよ。』
『お任せします?』
好きにせよと、ガーベラ隊長がパチンと閉ざした扇を懐に戻し、ムツハ隊長がコテンと小首をかしげて肯定する。
「マルスさん、アポロさんもいいよね。」
『うむ、不本意な事とはいえ、遅参の汚名は雪がねばならぬ。此度の一戦、間に合うならば、此方からお頼み申す。』
『クライアントがそう決めたなら、俺はそれに従うだけだ。』
武人として、礼を重んじるマルス隊長が静かに頭を下げ、傭兵らしくアポロがいかつい顔で了承する。
「チェリー、下士官一同了承したよ。やるの?やらないの?どっちにする?」
最後にプラム艦長がチェリー艦隊長に問いかける。
「みんなの意見具申、了承しました。キースさん、私たちが間に合うように協力してください。」
『そうこなくっちゃな。いいぜ、やってみせよう。さあ野郎ども、祭りの始まりだ。気合入れろ―――っ!』
チェリー艦隊長の了承をとりつけたキースグリフ提督が、超空間通信網に祭りの開始を宣言する。
斯くして、祭りという名の挑戦が始まった―――。
次回は中断した戦闘シーンからスタート予定。
年末年始までにあと二・三回は更新出来たらいいなと思ってます。




