第4次グレイトパール泊地沖会戦 艦隊決戦1
ふーようやく残業感謝デーが終わって執筆を再開できました。
お待たせしてごめんなさい。
ちょっぴり増量してお届けします。
あと、多くの誤字報告ありがとうございます。
大変助かりました。評価、ブックマ感謝です。
楽しんで頂ければ幸いです。
サブタイトル、誤字ってました修正します。
誤字修正2/7
M73星系外縁部―――。
ホッパー級軽巡航艦の唯一の長所といえる超長距離跳躍により、攻略艦隊に先駆けて到着したシエル 提督の偵察艦隊が、M73星系にて先行偵察中だった現地戦力と合流して情報収集を行っていた。
『こちら、シエル偵察艦隊・・・シエル、どぞ。』
シエル提督がようやく出現したソウジ提督率いる主力艦隊を歓迎する。
「待たせたな、お嬢ちゃん。ソウジ主力艦隊の到着だ。ひとりで寂しかっただろう、今度一緒に飲もうぜ。」
振られるのが前提のいつもの軽口で、ソウジ提督はシエル提督を呑みに誘い―――。
『うん、いいよ。』
―――彼女は普通に受けた。
「え、マジでっ?」
『うん。一緒に飲も。』
モニターに映るシエル提督が微笑む。
「よーしっやる気出てきたーっ!」
感無量、人生で初めてのナンパ成功に、ソウジ提督は思わず吠えた。
『これ。』
「おっと、ありがとな、ちゃっちゃと片づけるか。」
シエル提督が提供してきた詳細情報と星系宙域図を受け取り、ソウジ提督は手早く概略を確認する。
ありがたいことに星系内には、航行に注意を要する危険宙域はないようだ。
まったく情報のない未知の星系に攻め込むのに比べれば、事前情報があるだけでもかなり恵まれていると言えるだろう。
『護衛艦、いる。でかいやつ。』
そんなソウジ提督にシエル提督が注意を促す。
「戦艦級1、戦闘母艦級2、巡航艦級以下の有象無象が31ってとこか、数は多いが、こんだけバラけてれば各個撃破出来るさ。心配すんなって。」
安心しろよと心配するシエル提督に、ソウジ提督は軽口で答えた。
ホッパー級軽巡航艦のカタログスペックを知るソウジ提督にとって、同艦を戦闘任務に投入するのは避けたかった。
「どっちかというと、小さな巣を見つけたって方が問題だろ。違うか?」
『うん、問題。』
シエル提督が追加で発見したEvilの巣は2グループ。
最初に発見された13個の巣がある座標以外の2か所は、1~3個の少数の巣が集まったグループだった。
「ここ以外には、いないんだな?」
『わからない、捜索継続中・・・でも見つけてない。援護・・・いる?』
捜しているが見つからない、それがシエル提督の言葉だった。
もうないのか、まだ見つけていないのか、その答えは神のみぞ知るである。
「シエルはホッパー級だろ、やめとけって。そいつは戦闘向きじゃない。それより宙域監視を頼んだぜ。後方から情報支援をしてくれた方がありがたい。」
『ん、分かった。・・・・頑張れ。』
「おう、見てな。そっこーマッハで終わらせる。」
口で言うほど容易いことではないが、それでも彼は獰猛に笑う。
此処がスズヤ・ソウジ提督というゲーマーが挑戦する新たなステージだからだ―――。
グレイトパール星系 外縁部交戦宙域―――。
『皆、失敗したわ。γ-61は健在よ。』
ルル大提督がモニターを開き、先ほどの攻撃結果を告げる。
γ-61は艦対艦移相魚雷を最初に10本、追加で2本を被雷してなお健在。
同時に被雷したγ-60は想定通り、9本目を被雷した段階で質量崩壊を起こしたらしく出現反応が拡散、撃沈したとみられる。
それがルル大提督が下した戦果報告だった。
「了解です。ルル大提督、12本も被雷して健在ならば、進化の過程で何らかの対策を獲得していたのでしょう。β群の残敵掃討を進めてください。」
『了解したわ。ヴィオラも気を付けて、珠ちゃんがγ-61の脅威度を20%引き上げたわ。残党を片付け次第そちらの応援に入るわね。』
「了解です。なるはやでお願いします。」
『なるはやって。』
ヴィオラ提督らしくない言葉遣いに、ルル大提督が疑問を投げかけ―――。
「言葉の響きが堅苦しくなくて素敵です。ダメですか?」
―――返ってきた返答に苦笑で答える。
『そう、なら私もなるはやで片づけるわ。』
「了解です。」
ルル大提督がモニターを閉ざし、ヴィオラ提督は戦闘に意識を向ける。
通信の最中でも戦闘は続いている。
敵戦艦級3隻を十字砲火に捉えたヴィオラ艦隊だったが、交戦の途中で遂に出現したEvil重戦艦級1隻の撃滅に、第2分艦隊を向かわせた。
状況の変化によって中断する事になったものの、重戦艦4隻による十字砲火は敵戦艦級相手に、充分な損傷を与えていたのだろう。
続けて放たれた重戦艦2隻による主砲一斉射で、敵戦艦級1隻が想定を超える焼失爆発を起こして爆沈、その余波に巻き込まれてもう1隻が大破した。
残骸が拡散するデブリの海で、大破した戦艦級がクルクルと回転しつつ軌道から外れていく。
「粘性爆薬?、それとも動力炉が生きていた?」
どちらともとれる異常爆発だった。
3隻とも金属比率が多い、恐らくEvil寄生種が大型艦の残骸に寄生しているからだろう。残骸の出処は考えるまでもない。
現在に至るまで、イディナローク星系近郊では大規模戦闘が頻発していたはずであり、人類側が戦闘の結果放棄した宇宙船などいくらでもあるはずだ。
それをEvilが利用しているからだろう。
ヴィオラ提督は情報分析を続けながら、残存する戦艦級2隻に攻撃を集中させる。
「第1世代の比率が増えているという証明です。人類側勢力におかしな武装がなければよいのですが・・・・。」
彼女はないことを祈る。
秘匿技術の流出はEvilに劇的な進化を促す。
過去の戦訓からその事実を知る泊地同盟にとって、技術情報の制限と秘匿はEvilと戦う上で、絶対に死守すべき一線であったが、人類側がそれを護るかは不透明だった。
国家あるいは種の存亡をかけた戦争は、容易く良心の枷を外し、技術開発を加速させるからであり、その行いが結果的にEvilを強くするからだ。
「規制兵器の使用は確認できず、それだけが救いです。」
敵戦艦級から放たれた艦対艦ミサイルを防衛レーザーで迎撃したヴィオラ提督はそれだけを心配する。
なぜならば、迎撃した艦対艦ミサイルにEvilが寄生していなかったからだ。
その元々搭載されていたはずの兵器が無事に残っているという事実が、あの戦艦級が寄生されて間もない第一世代という証明になり、確実に技術流出は起こっていると結論付ける証拠にもなるからだ。
「γ-45撃沈。」
ヴィオラ提督の考察は続く。
アリゼ連邦に、どんな兵器があるかはわからない―――。
戦争に引き寄せられた勢力が、どんな技術を持ち込むかもわからない―――。
それを知ったEvilが、どんな反応を示すかもわからない―――。
「本当に、世の中はわからない事だらけです。」
そう結論づけて、ヴィオラ提督は目前の戦争に集中する。
残存する重巡級は11、戦艦級4、大型母艦級4、重戦艦級1隻だったが、この時点で戦艦級以下の戦力はすべて出現している。残りは重戦艦級の反応が9個と大戦艦級と思われるγ-61のみであった。
第2分艦隊と敵重戦艦級1隻の砲撃戦は、数の上で優位にあるこちらが圧倒的優勢で進めているが、いまだ撃沈には至っていない。
テンペスター級重戦艦の誘導子機の散布は継続中、予定通りに進めば大戦艦級出現予想時間には間に合うはずだ。
敵大型母艦級4隻から一斉に発艦した5群からなる敵艦載機群が、第1分艦隊との交差軌道上にあり接近中、編成は―――。
戦闘機級ウィングアイと攻撃機級スパークヘッドの戦爆連合が2群―――。
足の速い重機動戦騎級キマイラの重機動戦騎群が1群―――。
戦闘機級レッドスカルの戦闘機群が2群―――。
ヴィオラ提督は解析結果が表示された戦況図から、敵編隊が戦闘機級ばかり多く、攻撃機級が少ないという点を重視する。
とくに対艦攻撃を得意とするシュリンプボムのような要注意種もいない。
その対艦戦を想定していない編成からすると、重爆撃機級といった対艦・対要塞攻撃機を満載した本命がいるはずであり、あの4隻の大型母艦級は、艦隊防衛を目的としていると考えるべきだろう。
その後方から接近する戦艦級4隻と連携されると多少は厄介だが、数が多くとも攻撃機群が少ない分その脅威度は低く、少なくとも重戦艦を主力とするヴィオラ艦隊の敵ではないと判断出来る。
その結論を証明するようにヴィオラ提督率いる第1分艦隊は、一斉に飛来する数百機のEvil機動兵器群を食い破りながら、艦隊陣形を整えた戦艦級4隻との交差軌道に移る。
敵戦艦級4隻から突撃艇級16艇が分離、迂回軌道をとりつつ第1分艦隊との交差軌道上を進むが、その動きに対応するように、攻撃を終えた攻撃艦隊から1個艦隊が軌道を変更して迎撃に向かう。
『ヴィオラはそのまま進みなさい。邪魔はさせないわ。』
「お任せします。」
『攻撃開始。蹴散らしなさい。』
ルル大提督の指揮に従い、攻撃艦隊が突撃艇群に襲い掛かる。
突撃艇の相手は任せてもよさそうだった。
ヴィオラ提督率いる第1分艦隊は最短ルートを突き進む。
途中何度も襲撃してくるEvil戦闘機群を艦隊防衛射撃網に絡めとり、次々と撃墜する。
多数の防衛レーザー照射や小型プラズマ弾が艦載機や飛翔物を叩き落とし、秒単位で増え続けるデブリを焼き尽くして迫る敵戦艦級からのレーザー照射に、ヴィオラ提督もレーザー照射で応戦した。
重戦艦2隻と戦艦級4隻が互いの主砲を向け合い砲火を交わす。
何もかもを焼き尽くして迫るレーザー光やプラズマ弾、艦対艦ミサイルや謎の飛翔物が飛び交う戦闘宙域は、両艦隊の接近に伴いその範囲を狭めていく。
急速に減り続ける保有エネルギー量を回復させるため、ヴィオラ提督は各艦の動力炉の出力を引き上げる。
消費を上回る発電により保有エネルギー量が上昇するが、各艦とも残留する熱量もじわりじわりと上昇していく。
「もう少しで、艦載機群の交差軌道を抜けます。本番はそれからです。」
ヴィオラ提督は狙いを定めている。
目標は戦艦級4隻に護られた大型母艦級4隻―――。
艦の集結を許して艦隊を形成された以上、その撃滅には時間がかかるだろうが、絶対に放置はできなかった。
『ヴィオラ、少し早いけど重戦艦隊を支援に送るわ。相互機動砲撃戦、いけるわね?』
「了解です。支援感謝します。」
持ち前の快速性能を活かし、2隻に増えたケルベロス級高速重巡航艦が大型母艦級に突撃していく。
それを阻止せんと動く敵戦艦級2隻に、ガルディアン級重戦艦と扶桑級重戦艦が1隻づつ対応し、さらにベローナ級戦艦が突撃するケルベロス級を援護するため、大型母艦級に対して支援砲撃を開始した。
ルル大提督の指揮は堅実で隙が無いが、ヴィオラ提督も負けてはいない。
残りの戦艦級2隻を早々に撃破し、大型母艦級4隻を交戦距離に捉えていた。
「目標、γ-51、52。砲撃開始。」
γ-53と54は既にケルベロス級高速重巡航艦との交戦を開始している為、残り2隻を目標として、重戦艦を1隻づつ割り振った。
ガルディアン級重戦艦と正面から撃ち合った敵戦艦級が、集中砲火を浴びて爆沈する。
しかし敵戦艦級のレーザー照射を受けたのだろう。
ガルディアン級重戦艦から剥離していくナノ・マテリアル装甲の煌めきが宇宙を彩り、流動するナノマテリアル装甲が損傷痕を埋め尽くしていく。
『被害は軽微、戦闘には支障なし。』
ルル大提督が短く損害報告し、手空きとなったガルディアン級重戦艦に僚艦である扶桑級重戦艦と交戦中の甲殻虫型戦艦級を攻撃させる。
『γ-36撃沈。γ-35に目標変更、潰れなさい。』
ルル大提督が重戦艦2隻の火力を集中させる。
いかに甲殻虫型が外殻装甲が厚く防御力が高いと言っても、格上の重戦艦2隻の十字砲火に晒されてはどうしようもない。
瞬く間にダース単位でレーザー照射を浴びて、途切れない焼失爆発に包まれ全身を撃ち砕かれていく。
『こちらアオイ、敵β橋頭堡防衛艦隊の撃滅を完了。γ群、敵重巡級残り6隻、突撃陣形を組んで第2分艦隊との交差軌道上を進軍中。きっちり妨害しとくね。』
『こちらリーフ、アオイさんひとりじゃ無理です、加勢しますっ。任せてくださいっ!』
意気盛んなリーフ艦長だったが、彼女の駆るファイネル級旧型軽巡航艦はかなり消耗している。
短期決戦をコンセプトにしているファイネル級は元々搭載弾薬量が少ない。
推進剤もそうだが、レーザー攻撃に対して高い耐性を獲得していたナマズもどきを狩り続けていた為に、半分以上を撃ち尽くし実体弾の弾切れも近い。
さらに十数個あるハードポイントすべてに懸架していた武装コンテナも4つしか残っていなかった。
それは僚艦であるファイネルⅡ級強襲軽巡航艦も変わらず、艦体上下面に懸架していた艦隊艦ミサイルをすべて撃ち尽くしていたが、ファイネル級に比べると艦体の大きなファイネルⅡ級強襲軽巡航艦は重武装であり、2基4門の重レーザー砲も、12基の単装レーザー砲も健在だった。
軽巡2隻で重巡級の相手は出来ない―――。
火力で負けている―――。
防御力で負けている―――。
そんな分かり切った説得では問題児は止まらない。
『仲間の窮地に駆けつけてこそ、ファイネルライダーですっ!』
リーフ艦長が吠える。
彼女に宿るファイネル魂が熱く燃えているからだ。
「ふたりともありがとう。すぐに支援を廻します。」
ヴィオラ提督は戦況を確認する。
アオイ艦隊長が操るリントヴルム級重レーザー重巡航艦以外では、重巡級との闘いは厳しく、リーフ艦隊の消耗も大きい。
敵艦隊と戦闘中の第1分艦隊を動かせない以上、第2分艦隊が相手どる重戦艦級を出来るだけ早く仕留め、援軍に向かうべきだろう。
そこまで判断して、彼女はその手段に迷う。
此処で艦載騎を使うべきだろうか、と―――。
幸いにして第1次攻撃後に帰還した可変戦騎隼は出撃した160騎中147騎が帰還、再出撃可能な132騎に対艦ミサイルの再装備が完了している。
重戦艦級相手となれば全滅もあり得るが、機動兵器と戦闘艦の連携攻撃ならば、早期に重戦艦級を沈める事も可能のはずだった。
損害を顧みないその一手に踏み切るかどうか―――。
彼女の迷いを打ち砕くように戦況図に3つの反応が出現する。
巨大な重力震を撒き散らし、同時に3隻の巨大な船が出現した。
特型母艦級と呼ばれる艦載兵器群を大量に展開する超大型母艦級3隻が、出現と同時に戦騎群を発艦させる。
その行動に迷いも躊躇もなく、3騎1組で発艦する敵戦騎群の隊列も奇麗に整っており遅滞がない。
その数およそ300騎、間違いなく実戦と訓練で鍛え上げられた歴戦の精鋭群のような動きだった。
艦隊を護る護衛なのだろう出撃した敵戦騎群が、艦隊の周囲に展開していく。
『どうやら本命の登場かしら。』
「そのようですね。あれは充分な訓練を受けてきた兵士の動きです。」
『熟練兵を食って、経験を獲得したっという処かしらね。動きが人間じみてるわ。』
「たしかに技術に振り回される危うさを感じません。獲得した技術をものにする為の訓練は終えているかと思います。」
『そう・・・前座は終わりで、真打の前に、主役の登場としておきましょう。』
モニターに映るルル大提督が、悪戯っぽく笑い―――。
『沈みなさい。』
―――ケルベロス級に追い立てられ、不用意に側面を晒した敵大型母艦級の1隻が、ガルディアン級重戦艦に撃ち抜かれる。
ずっと狙っていたのだろう、扶桑級重戦艦と共に甲殻虫型戦艦級と交戦している間も一部の主砲は常に敵大型母艦級に向けられていた。
放たれた極太のレーザー光4本の内、命中したものはたった1本だけだったが、重戦艦の主砲である。
戦艦級でも厳しい熱量の発生に、敵大型母艦級が悲鳴をあげる。
戦騎や艦載機といった多くの機動兵器を搭載する母艦級は、船体内部に格納庫という巨大な空洞を必要とする為、船体の大きさに比してどうしても外殻皮膚装甲が薄くなる。
仮に戦艦級と同サイズとするならば、格納庫のスペースを確保するために装甲や武装が少なくなるのも当然だった。
『ヴィオラ、此処は重戦艦隊が引き継ぎます。やつらの相手は任せるわ。重戦艦4隻で潰しなさい。』
「しかしアオイさんの支援が必要です。重巡1隻で6隻の相手は出来ません。」
『そちらには隼戦騎隊と2個要撃艦隊を廻すわ。私の80騎とヴィオラの132騎で飽和攻撃ができるでしょう。』
「確かに可能ですが・・・決定打になりません。」
ルル大提督の提案に、ヴィオラ提督は消極的賛成の立場をとるが、212騎の隼が懸架する212基の対艦ミサイルでは6隻の重巡級は潰し切れない。
良くて2隻、頑張って3隻を沈められれば儲けものである。
さらに6対1で戦う以上、いくらアオイさんでも1隻を潰すのがやっとのはずだ。
これだと残り2~3隻が潰せない。
かといって、駆逐艦級の火力しかない要撃艦隊で、重巡級の相手は―――。
「挺身攻撃。」
―――ヴィオラ提督の呟きにルル大提督がニコリと笑った。
『重巡級は私が始末するわ。ヴィオラは本命潰しに集中しなさい。』
ルル大提督がそう命令を下した。
ボスキャラ戦は順延となりました。
次あたりとなりそうです。




