第4次グレイトパール泊地沖会戦 前哨戦2
御免なさい、恐ろしく遅れました。
戦闘は継続中ですが、援軍はまだ来ません(笑)
評価等ありがとうごさいます。
読んで頂けて感謝です。
ヴィオラ提督が広く散開する先遣艦隊の両端に向かって重戦艦2隻を進軍させる。
それは遅滞戦闘を続けていた敵艦隊に、さらなる行動を強要する彼女の一手だった。
しかし、距離を詰める重戦艦2隻の重圧を受けても、散兵戦術をとる敵艦隊はもう距離を離そうとはしなかった。
「さぁ、どう動く?」
ヴィオラ提督は敵艦隊の動向に注視する。
この局面で、いまさら逃げるとは思えなかったが、距離をとるか、迂回するかは、率いている指揮官次第でいくらでも変わる。
しかし、敵艦隊はいずれも選択しなかった。
広く散開した陣形から、進軍する重戦艦2隻に向かって一斉に殺到する。
散兵突撃―――。
Evil艦隊は古来からそう呼ばれる敵からの攻撃を分散させつつ、こちらの攻撃は集中させる突撃戦術を用いてきた。
「つまらない。」
その勇猛とも蛮勇とも言える行動を、ヴィオラ提督は短慮と切り捨てる。
たしかに主戦力だった10隻の巡航艦級を失ったとはいえ、まだ60隻近くも残っており、残存艦を最後の一隻まで使い潰して時間稼ぎに徹すれば、いましばらくの時間が稼げるはずだ。
それをやらずに挺身攻撃に踏み切る敵司令官など、彼女には自殺行為以前に艦隊を任された者の責任放棄としか思えなかったからだ。
「警告? 浸食個体っ。」
そんな彼女に、泊地の主珠ちゃんからの警告が届く。
示された戦術情報に出現した警告表示と優先破壊目標として指示された小型艦級3隻の情報。
珠ちゃんが破壊せよと指示したのは、その3隻に張り付き、存在を隠蔽していたスライム状の浸食種だった。
それを見て、ヴィオラ提督は嬉しくなった。
敵は自暴自棄になったのではなく、最後の一瞬まで勝利を諦めていなかったからだ。
おそらく敵艦隊は、切り札であるその3隻をこちらの重戦艦2隻に接触させて、浸食個体を乗り移らせ、内部から重戦艦を破壊乃至は乗っ取りを仕掛けるつもりなのだろう。
その作戦を成功させる為に、3隻以外のすべての船を、攻撃を引き付ける為の囮としたのだ。
「攻撃目標再設定、各艦攻撃開始。」
ヴィオラ提督は速やかに目標として表示された3隻と、その周辺に存在する17隻に攻撃を集中させるが、それは先頭を進む敵艦隊を無視するという事であり、先頭集団からのレーザー照射が何度も2隻の重戦艦に浴びせられる事になった。
重戦艦にとって軽巡級や駆逐艦級といった小型艦のレーザー照射の威力など大したことはないが、まったくの無傷というわけにはいかない。
ナノ・マテリアル装甲が焼け散り、宇宙を彩る塵となり―――。
溶け落ちる高角砲を躊躇いなく切り捨てる―――。
レーザーを照射しつつ、突き進む敵先頭集団に向けて―――。
『ヴィオラ提督は攻撃を継続、支援砲撃を始めるわ。』
―――ルル大提督が、修理待ちで待機中だった3隻のホワイトパール級戦艦を動かし、主砲と4連装高角砲のレーザーを敵先頭集団に照射する。
光に捉えられ次々と轟沈していく敵先頭集団―――。
重戦艦2隻に狙われた17隻の優先攻撃目標群―――。
そして―――。
空間震と重力震を伴い、次々と短距離跳躍してくるハウンド級高速要撃駆逐艦からなる要撃艦隊が、残敵掃討を終えて敵艦隊後方に出現、敵艦隊を追い立て包囲網を形成していく。
5個要撃艦隊には遅れたもののリーフ艦隊や3個哨戒艦隊も予定通り包囲網に参加し、その圧力を増していく。
さらに修理を終えたリントヴルム級重レーザー重巡航艦に乗艦するアオイ艦隊長が、2隻のミストラル級軽巡航艦を引き連れて参戦する。
交差するレーザー光―――。
焼失爆発を起こした駆逐艦級が、集中砲火に晒されて沈められていく。
交差するレーザー光―――。
突撃を敢行した突撃艦級が、正面から重戦艦の主砲に撃ち抜かれて爆散する。
交差するレーザー光―――。
駆逐艦級を率いて包囲網突破を図った軽巡航艦級が、飽和攻撃の前に燃え尽きる。
損害を怖れず、包囲網を継続するグレイトパール泊地艦隊は、ルル大提督の作戦通りに敵艦隊を絞り潰していく。
主力を失い、切り札も失った先遣艦隊α4群は、ついに攻勢を断念して進路を変更、戦域離脱を試みるものの、一部の空間跳躍で離脱した敵艦群を除き撃滅した。
『こちらルル大提督、みんなご苦労様。敵先遣艦隊α群の壊滅を確認、残敵掃討は泊地防衛艦隊が行います。要撃艦隊は補給の為にGP6へ移動中、ヴィオラ提督率いる主力艦隊はこのまま進軍し、敵橋頭保を撃滅します。リーフ、アオイ、そのまま艦隊を率いてヴィオラ提督を支援なさい。いいわね。』
モニターを開いたルル大提督が、次なる戦いの指示を飛ばす。
『ルルさん、任せてくださいっファイネル魂みせつけてやりますっ!』
もう一戦やれますとリーフ艦長が吠え―――。
『家族の帰る場所は守って見せるわ。』
―――家族の無事を知らされたアオイ艦隊長が奮起している。
彼女のやる気に感化されているのか、乗艦であるリントヴルム級重レーザー重巡航艦が翼をはためかせ落ち着きなく尻尾を振っていた。
『全員よく聞いて、偵察中のアイン提督から悪い情報が入ったわ。』
ルル大提督が、増援艦隊か主力艦隊に相当する数千隻規模のEvil大艦隊が、陥落したイディナローク星系の近隣星系F13星系に集結しつつありとの情報を、イディナローク方面で偵察活動中のアイン提督からもたらされた事を告げる。
その報告には、集結済みの大艦隊には少なくとも10隻の大戦艦級を確認したとの情報も添付されていた。
その大艦隊群がイディナローク星系に向かうのか、グレイトパール星系に向かうのかは現時点では分からないが、どちらに向かうにしても激戦となるのは確定していた。
しかし、悪い情報ばかりではない。
チャンプが建築中だった特型ドックの建築が完了したとの報告とその稼働に必要な1万機のワーカーズを調達するために、戦果報酬を稼がねばならない。
つまり、目前の敵艦隊を早期に撃滅する必要ができたのだ。
モニターに映るルル大提督が宙域図を広げる。
『敵の橋頭堡は、進撃せずに残留した41隻の小型艦級と出現したばかりの巡航艦級83隻が防衛中よ。巡航艦級の中には対レーザー防御に特化したナマズもどきが26隻確認されているわ。
他の小型艦級やナマズもどきを除いた残りの巡航艦級に警戒すべき敵はいないみたい、油断はダメだけど安心できる情報だわ。』
ヴィオラ提督も戦域図を確認する。
戦域図に記された敵戦力配置によれば、ナマズもどきはすべて最前線に配置されているらしい。橋頭堡攻略の為には、あのめんどくさいナマズもどきを最優先で無力化する必要があるだろう。
『ありがたいことに、難敵となりそうなナマズもどきは最前線に配置されているわ。
これに対して跳躍型艦対艦ミサイルによる先制攻撃を仕掛けます。ヴィオラ提督は残敵を撃破して、敵の防衛ラインに風穴を開けなさい。
突破口確保の後、攻撃艦隊を突入させます。
幸いにして敵は大きなミスを犯したわ、私たちは其処につけ込み、敵主力艦級出現前に敵の頭を抑えます。』
ルル大提督は敵橋頭堡を突破して、敵主力艦級を叩くつもりらしいが、間に合うかどうかは分からない。
元々通常空間の出現までに時間の掛かる重巡級や戦艦級、機動母艦級といった大型~超大型級だったが、Evil艦隊は同一宙域において同時に300隻以上を出現させようとした結果、空間安定度の大幅な低下を発生させて、跳躍完了までの時間を大幅に遅延させてしまっている。
この時点で空間震を発生させている出現待ちの艦数は63隻、その内で大戦艦級と思われる反応は2隻もあり、定石通りの編成ならば、そのすべてが主力戦闘艦のはずだった。
『間違いなく大戦艦級も出てくるでしょうが、その前に敵の防衛ラインを崩壊させます。
さらにヴィオラ提督には増援として重戦艦2隻を編入するわ。初期起動と調整は分担して済ませておいたから、そのまま使えるわよ。受け取りなさい。』
モニターに映るグレイトパール泊地のふたつの大ドックから2隻の扶桑級重戦艦が出撃する。
この2隻もまた使い古された中古艦なのだろう、所々に残る擦過傷や塗装剥がれが目に付いた。
「了解です。ルル大提督、司令官ありがとうございます。」
新たに現れた扶桑級重戦艦2隻をヴィオラ提督が受領する。
加入したばかりの2隻の扶桑級重戦艦は、基本のセッティングが前回使っていた扶桑級重戦艦と同じ仕様になっており、ほとんど微調整だけで済ます事ができた。
これで重戦艦4隻が彼女の指揮下にあり、戦力的にはEvil巡航艦級216隻分に相当する。この戦力であれば、ルル大提督の提示した橋頭堡攻略は充分可能だった。
モニターに映る大ドックが閉ざされていく。
最後に残った重戦艦コインを投入するのだろう。扶桑級重戦艦を出撃させたふたつの大ドックの片方が空のまま閉じていき、解放されたままになっていた大ドックには、ベローナ級戦艦が入渠していく。
さらに修理中のケルベロス級高速重巡航艦に代わって、弾薬の補給を完了したミズーリ級ミサイル巡航艦2隻が、臨時砲撃艦隊として中ドックから出撃していく。
『砲撃支援の為に、臨時砲撃艦隊を出撃させました。ヴィオラ提督も艦隊の合流を急ぎなさい。リーフ、アオイも分かっているわね。』
『もちろんですっお任せくださいっ!』
『ヴィオラ提督に合わせます。』
ふたりが作戦を了承する。
ルル大提督が―――。
リーフ艦長が―――。
アオイ艦隊長が―――。
開かれた三つのモニターからヴィオラ提督を見ていた。
『了解です。合流後、短距離跳躍を実行します。』
ヴィオラ提督が作戦の了承を告げる。
戦闘は前哨戦を終えて、橋頭堡攻略に移行する―――。
後続艦隊として星系内に侵攻せずに残留していたEvil小型~中型艦級が、後続の巡航艦級と合流して橋頭堡の守りについている。
先行して出現した150隻余りの小型艦~中型艦級の喪失と引き換えにして実行された時間稼ぎの結果、80隻余りの巡航艦級が無事に揃ったことにより、グレイトパール星系外縁部に橋頭堡を確保したEvil侵攻艦隊であったが、主力ともいえる重巡級以降の大型艦出現まではまだまだ時間が必要であり、120隻を超える橋頭堡防衛艦隊β群は、主力艦隊γ群の出現まで時間を稼がなければならなかった。
そんな防衛艦隊β群の最前線、次々と短距離跳躍で現れた艦対艦ミサイル群が、ナマズもどきに突撃する。
橋頭堡攻略戦はルル大提督が動かす、ミズーリ級ミサイル巡航艦2隻からなる臨時砲撃艦隊の攻撃から始まった。
ヴィオラ提督率いる4隻の重戦艦がグレイトパール星系外縁部に出現した時、敵防衛艦隊β群は交戦状態にあった。
2隻のミズーリ級ミサイル巡航艦から前回の会戦で撃ち残していた残弾に補充分を足して跳躍型デコイや跳躍型艦対艦ミサイルを次々に送り込んでおり、それの対応に敵艦隊は追われているらしい。
ミサイルが集中して狙っているのはナマズもどきであったが、その後方にある橋頭堡に出現する跳躍型デコイにも対応させられていた。
これはルル大提督が仕掛けた嫌がらせである。
短距離跳躍型デコイを短距離跳躍させて敵艦隊の跳躍座標に送り込むだけで、ただでさえ下がっている空間安定度がさらに下がり、それに比例して大型艦~超大型艦出現までの時間が伸びていく。
この方法では流石に、女王種のような空間安定度をめちゃくちゃにして、転移事故を誘発させるようなことは出来ず、あくまでも時間稼ぎにしかならない手法だったが、どちらにとっても今はその時間こそが重要だった。
『こちらルル大提督、ヴィオラ提督、ミズーリ級ミサイル巡航艦による支援砲撃は終了、跳躍型デコイもミサイルも今ので最後よ。後退させた要撃艦隊の補給完了にはいましばらくの時間が必要。任せたわ。』
『はい、任されました。』
『引き続き、3個哨戒艦隊で援護します。リーフ、アオイ攻撃開始。』
『了解、アオイ艦隊先行します。』
『アオイさん、援護しますっ。』
臨時で随伴艦隊として編入されたアオイ艦隊長のリントヴルム級重レーザー重巡航艦が、2隻のミストラル級軽巡航艦を伴って先行する。
その後方につけたリーフ艦隊は、アオイ艦隊の支援にまわり―――。
「全艦敵艦隊を指向。目標橋頭堡防衛艦隊β群、砲撃開始。」
―――ヴィオラ提督率いる4隻の重戦艦が、一斉砲撃を開始した。
重戦艦コインで、扶桑級重戦艦がよく出現するのは、帝国(翻る御旗泊地)が戦力更新の為に中古艦を払い下げているからです。
次回は橋頭保攻略戦となります。




