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大提督は引き篭もる。  作者: ティム
4章 絶望を蹴散らす者たち
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艦々酒場亭泊地2

お待たせしました。

後半部分が出来たので更新します。

久しぶりに予約投稿5分前だけど・・・。

宴会パートは今回で終了です。次回は珠ちゃんサイドで戦闘中の予定でいます。

評価、ブックマなど応援ありがとう。

楽しんで頂ければ幸いです。

「さ~てと帰り道についてなんだが、嬢ちゃんたちがくれたグレイトパール星系座標が此処、俺たちの艦々酒場亭泊地が此処だ。まぁ、ざっと3700光年ってとこだな。普通に超空間跳躍してたらいつ帰れるか分からねえぜ。」

「3700光年・・・。」


チェリーも突き付けられた余りの距離にめまいがした。

しかし運が良かったというべきだろう。


 かなりの距離こそ飛ばされたものの、少なくとも同じ時間軸に飛ばされたのだから、最悪の可能性を上げるならば、時間軸上の過去か未来の何処かに飛ばされる可能性もあったのだから―――。


「さらに言えば、現在お嬢ちゃん達の泊地は交戦状態にある。まぁ、こいつは帝国経由の情報だが、嬢ちゃんとこの泊地は女王種と大戦艦をぶっ潰したみたいだぜ。

 お嬢ちゃん達の転移事故も討伐された女王種の仕込みらしい、まー運悪く初見殺しを食らっちまった、て奴よ。よくあるよくある。」


 がははと笑い、悪くなった雰囲気をぶち壊し、酔いどれバッカスが話を続ける。


「まだ確証はとれてないが、いま嬢ちゃんたちの泊地が戦っているEvilは主星イディナローク攻勢中のEvil群の一部がそっちに流れ込んでいるようだぜ。」

「敵の主戦力の一部を相手にしているという事ですか?」

「そう考えておけばいい。まー待て待て、泣くんじゃない。悲観するのは後にして、話は最後まで聞きな。幸いこの星系には帝国行きのゲートがある。

 帝国は広大な版図を行き来するために、多くのゲートを設置した星系同士を繋いで作る回廊の整備に力を入れているからな、こいつを使わせてもらう。」


 バッカスが宙域図を空間に広げ、第5惑星周辺を拡大する。

そこには、月くらいの大きさをした円筒型の人工天体が20基、第5惑星衛星軌道上に等間隔に並んでいた。


 正式名称は超長距離超空間跳躍中継基地スターゲート―――。

 通称ゲートと呼ばれる1000光年の距離を安全に跳躍可能な跳躍装置だった。


 使用には入口側のゲートと出口側のゲートがひとつづつ必要であり、モニターに映る20基あるゲートの内、順番待ちをしているゲートは10基だけ、残りの10基からは時折大型船が出現している。


「こう見えて俺は帝国にも顔が利く。そいつを使えば優先使用権をもぎ取れるだろう。

 嬢ちゃんたちは、この艦々酒場亭・ゲートから、893光年先の帝国領の入口であるイュース星系、イュース・ゲートへ―――。」


 続けて開かれた星間航路図から伸びる線をバッカスがなぞる。


「イュース・ゲートから947光年先、帝国本星があるアスカ星系、アスカ・ゲートを経由して、816光年先のズィーデン星系、ズィーデン・ゲートへ―――。」


 跳躍航路をなぞるバッカスの指は止まらない。


「そこから、さらに958光年先にあるビルネ星系、ビルネ・ゲートまで飛べ、此処まではゲートで行ける。問題はこの先だ―――。」


 バッカスがビルネ星系を示すマーカーをトントンと叩き、周辺星系を拡大させる。

 星間航路図によれば、此処から先はアリゼ連邦の領域となり、ゲートは存在しなかった。


「ビルネ星系からグレイトパール星系までは、およそ193光年、考えられるルートはいくつかあるが、通常跳躍だと最短でも7回は必要になる計算だ。

 嬢ちゃんたちがどのルートを選択するにしても、ビルネ星系に到着した段階で、戦局がどう推移しているかは分からねぇ、こっから先は嬢ちゃんたちしだいってことさ。」


 理解してるかと問われ、チェリー艦隊長が頷く。


「さっき帝国からの返答が届いたぜ。お嬢ちゃん達の領域の通過とゲートの優先使用権は了承された。

 さらに条件さえ呑んでくれるならば、アリゼ連邦に送る増援艦隊とは別に、グレイトパール泊地にも増援を送ってもいいそうだ。帝国からの条件は3つだな。」


 バッカスが指折りひとつずつ条件を上げる。


「その1、帝国との国交樹立を目指す事。」


 これはお互いの国に、外交官を派遣する必要があるだろう。


「その2、帝国に繋がるゲートの設置に協力する事。」


 バッカスが星間航路図に戻り、ズィーデン・ゲートからアルシペル星系、アルシペルゲートへ続く跳躍航路を指でなぞり、アルシペル・ゲートから679光年先のグレイトパール星系に続く仮想ルートを設置する。

 これが開通すれば、今後は泊地同士の交易も行えるようになるだろう。


「その3は友達になりましょうって事だな。」


 最後の条件だけは意味が分からない。

 少なくともチェリー艦隊長は其処に隠された意図を見つけられなかった。


「そう難しくかんがえんなよ。単純に翼の乙女はさみしんぼでな。あの女はひとりぼっちでは生きられないんだよ。この帝国の提案、受けるかい?」

「お受けします。」

「いい覚悟だ、なら俺も応援しないとな。おい、キース、キースグリフっ!」


 バッカスに呼ばれ、離れたご座で男女のカップルで飲んでいた青年が、女に断りをいれてから立ち上がる。


「親父、呼んだかい?」

「おう、まずは一献やってくれ。」


 酔いどれ親父バッカスが向けた徳利を、キースグリフ提督が持ってきていたお猪口で受け―――。


「いただきやす。」


―――それを一気に飲み干した。


「さぁ、親父も一献。」


 キースグリフ提督がバッカスの杯に酌をする。


「で、ご用件は?」

「せっかちだねぇ、ちったあ楽しんだらどうだい?」

「連れを待たせてますので。」


 彼が座っていたご座から女が早く早くと呼んでいる。


「かーあっついねー。・・・おっと、メーティア女史が睨んでやがる。やべえ、やべえ、手早く大事な事だけ伝えるぜ。」

「はい、お聞きします。」

「おまえさんは、ちょいっとお嬢ちゃん達に付き合って、グレイトパール泊地まで行ってきな。」

「はぁ?、いいのか親父、俺の艦はオスティナート級重戦艦だぞ。援軍として重戦艦は参加させないって、そういう話じゃなかったのか?」


 艦々酒場亭泊地に配備されている何十隻もあるオスティナート級重戦艦に乗艦する艦隊コアのひとり、キースグリフ提督が矛盾した命令に疑念を告げる。


「間違っちゃいねぇよ、そいつはアリゼ連邦向けの援軍の話さ、あっちは帝国の顔を立てとかねえといけねえからな。だが、こっちは別だ。

 お前さんはお嬢ちゃん達の案内人として付いていきな。なに、出先でちょいと暴れるくらいよくあることだ、だろ?」

「なるほど、艦隊を連れてってもいいですかい?」

「そいつはダメだ、こっからはださねぇよ。だが、ビルネ星系に集結中のアリゼ連邦への増援艦隊から2個艦隊ほど連れてきな。ラガーとバルク爺さんにはこっちから連絡入れとく、お前さんも後で連れてきたい艦のリクエストはおくっとけや。

 つーわけでだ嬢ちゃん。案内人としてこいつをつける。帝国領内はいろいろ面倒事や決まり事も多くてなぁ、わからない時は道々こいつに聞いとくれ。」

「ありがとうございます。キースグリフ提督もご迷惑をおかけします。」


 チェリー艦隊長がペコリと軽くお辞儀をした。


「なに、こうして酒を酌み交わすダチに、ちょいとおせっかいを焼くだけよ。よくあることだろ。」


 がははと笑う酔っ払いに、チェリー艦隊長がお酌をする。


「キースグリフ提督も受けて頂けますか?」


 チェリー艦隊長が徳利を向けると―――


「いただきましょう。」


―――躊躇うことなくキースグリフ提督が一息に飲み干して杯を空けた。


「親父はこういう性格ですからね。ご指名とあらば、せいぜい道案内兼援軍としてお供しますよ。では、俺の酒も受けてくれますか。」


 今度はキースグリフ提督がチェリー艦隊長に徳利を向ける。


「いただきます。」


 チェリー艦隊長もまた杯を空けて、受け入れた。


「おーい、チェリー大丈夫?もうほっぺどころが顔まで真っ赤だよ。」

「プラム。」


 チェリー艦隊長がプラム艦長に徳利を向ける。


「えーとほら、まだ仕事中だし、今日は飲まない日―――。」

「プ~ラ~ム~飲も♪」


 グイっと渋るプラム艦長に陽気なチェリー艦隊長が迫る。


「もう、一杯だけだからね。」


 どうぞと、いつの間にかプラム艦長の隣に座っていた龍人の女性が、慣れた手つきで杯を握らせ―――。


「おいしくな~れ、おいしくな~れ♪」


―――トクトクトクとチェリー艦隊長が注ぎ込む。


 完全に出来上がってるな~これ、とチェリー艦隊長の痴態を見て楽しむプラム艦長が、くいっと一息に飲み干した。

 あ、これダメな奴だと、プラム艦長も味わってみて初めて分かった。

 この酒は口当たりがとても柔らかいのに、やたら酒精が強い。


「プラム、注いで♪」

「チェリー、今日はこれで終わり、OK?」

「うん♪」


 嬉しそうにプラムが注いだ杯に軽く口をつけ―――。


「はい、お終い。」


―――くらりと傾くチェリー艦隊長の手から杯を抜き取り、プラム艦長が膝枕をしてあげる。

 そしてチェリー艦隊長の手から抜き取った杯に残っていた彼女の飲み残しを、プラム艦長がきっちりお腹に収めた。


「いよ、いい飲みっぷりだねぇ、嬢ちゃんもいける口だろ、ささ、おっちゃんとも一杯付きあってくれや。」

「それはいいけど、後ろの連中はなに?」


 ジト目になって問いかけるプラム艦長に―――。


「順番待ちだな、客人を酔い潰すのも艦々酒場亭の伝統でな。親父の後は俺だ。当然付き合ってくれるよな。」


―――キースグリフ提督が朗らかに笑った。


 まわりを見ると龍人武将マルス隊長が、同じ種族の龍人女性といい雰囲気を作っていたり、青鬼傭兵アポロが美女の接待を受けて相好を崩している。

 ガーベラ隊長にいたっては、気崩れた和装を直そうともせず、獲物と見定めた青年将校に誘いをかけていた。

 ふぅと溜息ひとつついて、プラム艦長がいいでしょうと笑みを浮かべた。


「いいんですか、私、けっこういける口だよ。」


 酔いつぶれたことがない彼女が酔っ払いたちの挑戦を受けて立った。


そして―――。


「なんともはや、全員から一杯もらってまだ飲めるたぁ、大したもんだ。どうでい?いまからでも俺らの泊地に鞍替えしねぇか?」

「しない、チェリーがいないから。」


 酔いつぶされて真っ赤な顔で横たわるチェリー艦隊長に膝枕をするプラム艦長が、にっこりとわらった。

 結構な回数、飲んで、飲まさしてを繰り返したが、プラム艦長はうっすらと頬を赤く染めているだけだった。

「私たちみたいな、こんな欠陥持ちふたりまとめて受け入れてくれたの、珠ちゃんだけだよ。そんな主、うらぎれないって。」


 クスクスと笑う彼女の隣では、盗み飲みをして倒れたムツハ隊長が横たわっている。


「かー、いー主みたいじゃねえか、安心したぜ。なによりお嬢ちゃんは心配してねぇ。自分の主が負けるなんてこれっぽっちも考えてねぇだろ。」

「うーん、そりゃ珠ちゃんだけなら心配したかもだけど、ルル大提督が負けるなんて思えないし、なにより、元気娘の役割ぐらい心得てるよ。

 おっちゃんだって見た目通りって訳じゃないでしょ?」

「がっはっは、なんとも肝の据わった譲ちゃんだねぇ、ま、内緒にしとけよ。」


 差し向かいで飲んでいる酔いどれ親父が、プラム艦長の酌を受けている。


「で、いつ頃修理は終わりそう?」

「おうよ、待たせたな。いま終わった処だぜ、もう超空間通信も使えるはずだ。早いとこ無事を知らせてやんな。」

「うん、そうする。ありがとね。おっちゃん♪」

「がはは、良いってことよ。遠慮せずにまた飲みにこい。艦々酒場亭はいつだって来客大歓迎だ。」

「遠いって♪3700光年だよ。」

「何言ってやがる、たった3700光年じゃねぇか、やれる、やれる、お嬢ちゃんなら通えるさ。」

「うわーなんて無責任な。」

「がはは、酔いどれ親父バッカスだからなっ。」


 こうして、疑似的に宴会場の日が暮れて、空が夕焼け色に染まっていった―――。


 終わらない酒宴から抜け出した6人が出撃準備を整えて、グレイトパール泊地にいる珠ちゃんに連絡を入れる。

 向こうの戦闘はいまも継続中らしく、戦闘経過を告げる報告が、通信中に何度も織り交ざる。

 なんの相談もなく決めてしまった帝国との約束にも怒ることなく、珠ちゃんはすべての条件を呑み、チェリー艦隊長達に、無事で何よりであったとだけ伝えてきた。

 そして、土産話を楽しみにしているという言葉を最後に通信が終わった。


 そして―――。


『こちら艦々酒場亭・ゲート中央管制室。シサク重戦闘母艦指揮官チェリー艦隊長、応答願います。』


 チェリー艦隊長達は巨大な円筒状の人工天体ゲートを前にして、最後の準備を行っていた。

 ひとつ隣のゲートには、この旅に同行するキースグリフ提督のオスティナート級重戦艦が長方形型の4隻の船が合体したような独特の形を晒している。

 彼もまた、此方と同じように準備を進めているのだろう。


「こちらチェリー艦隊長です、感度良好。」

『こんにちわ、チェリー艦隊長。イュース・ゲート行き、6番ゲートの準備が完了しました。空間安定度+1、超長距離跳躍に支障はありません。ゲートからの指示に従い超空間跳躍機関を同期させてください。』

「了解しました。プラム。」

「はいはい、うん、事前情報通りだね、チェリー同期完了。」

「同期完了しました。確認願います。」

『確認しました。準備出来次第跳躍してください。よい旅を―――。』

「ありがとう、行ってきます。」

『先に行く。イュース・ゲートで落ち合おう。』


 モニターに映るキースグリフ提督が先に行く旨を告げてモニターを閉ざし、一足先にオスティナート級重戦艦がゲートに侵入して跳躍する。


「プラム、出発。」

「了解、みんな行くよー。跳躍開始っ。」


 プラム艦長もまたシサク重戦闘母艦でゲートを潜らせて跳躍した。





オスティナート級重戦艦―――。

 一番巨大な中央部分が重戦艦としての本体であり、本体の両舷及び艦体下部から伸びた3つの接続橋に一隻づつの重巡が接弦しており、正面から見るとTの字に見える他、接続橋本体は艦内部に収容可能です。

 この状態での通常運行や跳躍も可能ですが、戦闘時は接弦中の重巡3隻を切り離して、艦隊として戦うのがオスティナート級重戦艦の基本的な戦闘方法となります。

 また任務に応じて接弦させる重巡や随伴艦1隻を変更する事で、幅広い任務に対応出来る艦隊旗艦として建造されており、他の重戦艦級と比べて武装面では貧弱なものの、代わりに重巡級の大型艦を輸送可能な戦闘艦輸送母艦として運用出来る強みがあります。

 今回の遠征でキースグリフ提督が随伴させるのは、バレンティア級要撃重巡3隻です。要撃の名が示す通り、短距離跳躍機関を備えています。




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