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大提督は引き篭もる。  作者: ティム
4章 絶望を蹴散らす者たち
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艦々酒場亭泊地1

お待たせしました。久しぶりに予約投稿です。

今回はチェリーたちの回、初めて訪れた泊地来訪話となります。

長くなったので分割となりました。

読んで頂き感謝です。

 艦々酒場亭泊地―――。


 あれから戦闘宙域に突入したチェリー艦隊長達が、交戦中だったEvil艦隊を蹴散らして接触に成功したのは、艦々酒場亭泊地から派遣された1個護衛艦隊を随伴した調査艦隊からなるBF41星系資源調査艦隊だった。


 幸いにして調査艦隊を率いるグレッグ艦隊長は話の分かる艦隊コアだったため、両者の話し合いの結果、追加の護衛艦隊が到着までの護衛と引き換えに、チェリー艦隊長達は大ドック艦の派遣と艦々酒場亭泊地での補給と修理を受けられる事になった。


 チェリー艦隊長達からすれば、星系座標さえ分かれば良かったのだが、グレッグ艦隊長から事故を起こした超空間跳躍機関で空間跳躍は避けるべきだと言われたら、納得せざる得なかったからだ。


 そして、3隻の戦艦級を含む4個からなる追加の護衛艦隊と共に現れた、大ドック艦とその護衛艦隊に収容されて通常跳躍で3回、彼女達はおよそ72光年先にある艦々酒場亭星系にある艦々酒場亭泊地に帰港することになった。


 泊地に寄航した時も、特に調べられることもなく入港が許可され、彼女たちは入港後すぐに全員にゲストIDが発行されて泊地コアの処まで招かれたのだった。

 彼女たちをもっとも驚かせた事は、現れた場所が縁日屋台が立ち並ぶ宴会場だったことだろう。


 賑やかな音楽と笑い声―――。


 所々に寝転がる酔いつぶれたソウルコア達―――。


 何よりも屋台から広がる焼かれ、煮られ、蒸される食べ物の匂いと漂う酒気―――。


 何もかもかもが、グレイトパール泊地とは違っていた。


 なにより―――。


「若い奴らから話は聞いたぜっ、そいつは災難だったなぁ。まずは一献やっとくれっ。」


―――がははと豪快に笑い、6人を招き入れた張本人が徳利を向ける。


 宴会の中心部、ひときわ大きなご座を占拠して飲んで騒いでいる酔っ払い親父こそが、この艦々酒場亭泊地の泊地コアバッカスだった。


 彼の指示に従い、大ドック艦から艦々酒場亭泊地の大ドックに入渠したシサク重戦闘母艦は、既に問題のある装置の検査と交換作業に入っていた。


「いえ、わざわざ大ドック艦まで派遣していただきありがとうございました。私はグレイトパール泊地所属、1500メートル級シサク重戦闘母艦試験運用艦隊を率いるチェリー艦隊長です。」

「がっはっはっはっ、いいってことよ。肩ぐるしい挨拶は抜きにして、まずは一献呑みながら話そうじゃねぇか。」


 そう言って、バッカスがチェリー艦隊長に徳利を向ける。

 とうやら飲みにケーションが此処のルールらしい。

 これは断れないかなと考えて、チェリー艦隊長は杯を受け取り口をつけた。


「プラムだよ、みんな、よろしくー♪」


 おーと歓声と杯を掲げて歓迎を示す酔っ払い集団に向かって、プラム艦長がパタパタと両手を振ってあいさつしている。


「ほんとうに・・・・私たちの泊地とは大分ちがう。」


 それが来訪したチェリー艦隊長の偽らざる感想だった。


「おいおい、そんなの、違って当然だろうが。嬢ちゃんの処と、俺の泊地、どっちがいいかなんて比べてどうするんだって話だ。気に入らないところがあれば、誰かじゃなく自分で変えていくもんだぜ。嬢ちゃんたちもそうすりゃいいのさ。」


 酔っ払い親父バッカスが無責任にご高説を垂れ流し、チェリー艦隊長から返ってきた返杯に、酌をしてもらっている。


「おー、地面だ。これが草原?」


 ムツハ隊長が両手を地面について、手のひらで生えている草の感触を確かめている。


「ムツハ、先に挨拶しなきゃダメ。」


 チェリー艦隊長に窘められたムツハ隊長が立ち上がり、ペコリとお辞儀した。


「ムツハです。えと、あの、よろしく?」

「なんでぃ、ちっちぇえ嬢ちゃん。地上は初めてかい。」

「うん、宇宙育ち、戦場が仕事場。地上戦は、なかった。うん、なかった。」

「そうかい、そうかい、そいつは大変だったなぁ、地上はいいぜぇ。何より匂いがすげえ、此処じゃあ、疑似的に作った環境を再現しているだけだがよう、本物はもっと複雑で雑多に混じり合ったもんなのさ。ちょいと歩くだけで音も匂いもコロコロ変わりやがってよう。嬢ちゃんも機会があったら体験してみなって、案外気に入るかもしれねぇぜ。」

「うん、今度、頼んでみる。」


 酔っ払いバッカスと喋るムツハ隊長が、二パっとほころんだ笑みを浮かべた。


「うんうん、笑顔の可愛いお嬢ちゃんは、おじさんも大好きだ。酒はいける口かい?」


 酔いどれ親父が差し出す徳利に、ムツハ隊長がふるふると首を振る。


「ムツハ、飲んだことない。」

「かー、そうかい、そうかい、ならいい機会じゃねぇか、ちょいと飲んでいかねえか?」


 悪い親父が酒に誘うが―――。


「ダメです。」


―――過保護な姉チェリー艦隊長がきっぱりとお断りした。


「チェリー、いろいろ貰ってきたよー、一緒に食べよ♪」


 物おじしない元気っ娘プラム艦長が、屋台巡りで入手した屋台飯が盛られた皿を、両手と両腕に乗せたまま、さらに頭の上に乗せて持ち帰ってきた。

 さらに彼女は、道中の酔っ払い達が無責任にあげる喝采やお願いに応える余裕まで見せつける。


 プラム艦長にとって普通にできることでも、チェリー艦隊長にとってはとても難しく、落ちそうで落ちない、そのバランス感覚は正直うらやましいかぎりだった。


「どーよ、このラインナップ、チェリーの好きな物、こんなにあったよ♪」


 チェリー艦隊長とムツハ隊長に皿を受けってもらい―――。


「ふっふーん、ムツハちゃんのは、これこれ、オムライス、たっくさん旗立ててもらいましたー♪」

「おー、すごい、すごい。」


―――最後にプラム艦長が、頭の上に乗っけていたザクザク旗の刺さったオムライスを、ムツハ隊長に手渡した。


 ひょいと手を伸ばし、歓声をあげるムツハ隊長のもつ皿から、唐揚げをひとつ掻っ攫ったガーベラ隊長がペロリと指先を舐めとり―――。


「ガーベラじゃ、此処は良き香りと漂う酒気が心地よいのう。」


―――次なる獲物を物色する。


「お、新入りかい、別嬪さんだねぇ、酒の良さが分かる奴は大歓迎だ。こっちで一杯やってきなっ。」


 赤ら顔で陽気に誘うお兄さんに誘われて、ガーベラ隊長がご座に屈み込み、両膝を揃えて着ける。

 手渡されるままに杯を受け取り、注がれた清酒を軽く口をつけ、味を確かめるように唇を湿らせると一息に飲み干した。


「悪くはないのう、もう一杯所望じゃ。今度はその大杯にで頂けるかのう♪」

「ガーベラさん。」

「クツクツクツ、小難しい話はチェリーに任せるのじゃ。ほれ、龍に青鬼も付きあえ、うまい酒じゃぞ。呑まぬのはもったいなかろう。」

「おう、ならご相伴にあずかるとするかね。アポロだ、しがない傭兵って奴さ、よろしくな。」


 ご座にずしんと腰を落ち着け、青鬼アポロがまずは一杯とジョッキを受け取る。


「不作法ものに代わって謝罪する。我は銀鱗の血脈に連なるマルス、貴き龍の導きに従うもの、バッカス殿、此度は我らの窮地に救いの手を差し伸べて頂き感謝します。」

「かー武人らしくていいねー。龍人なら酒もいける口だろ、好きなだけやってきな。」

「うむ、此処は良き酒の匂いがただよっておる、期待させてもらおう。」

「もちろん、俺の一献も受けてもらえるよな。」

「うむ、頂こう。」


 女性の龍人から手渡された大杯に、なみなみと注がれた透明な清酒を龍人マルスは一息に呷ってみせた。そして―――。


「良き酒である。ささ一献。」


―――大杯を差し出して返杯した。


「いいねぇ、いいねぇ、そうこなくっちゃなぁ、皆の者、乾杯だーっ!グレイトパール泊地の客人達、艦々酒場亭泊地にようこそ、歓迎するぜっ乾杯っ!」

「「「「「カンパーイっ!」」」」」


 酒宴に参加する全員が手にした杯を持ち上げ、打ち合わせては飲み干していく。


 此処は艦々酒場亭泊地―――。


 仕事前に一杯ひっかけ―――。


 仕事帰りにどんちゃん騒ぎ―――。


 そんな酒飲みたちが集う場所だった―――。


「でだ、ちょいっと真面目な話をするがな。お前さんらの船、俺らでも作っていいか?」


 口調通り、バッカスが少しだけ真面目な顔をして話題を変えた。


「別に構いません。私たちの主、珠ちゃんはそういった小さなことには拘りません。ただ、まだまだ実働試験運用中の試作艦です。シュミレーション試験では問題なくとも、何処かに想定外のトラブルが隠れているかもしれませんし、乗艦中の私とプラムの特性に合わせた専用艦ですから、一般向けの調整はまったくしてません。それでも良ければ、どうぞ作ってください。」

「はー気前のいいこった。なら俺らからもお礼しないとな。お前さんらの船、艦載兵器が足りてねぇだろ。俺らの使ってるので良ければ、好きなだけ積んできな。」


 チェリー艦隊長の小気味よい返答を聞いたバッカスが、返礼とばかりに気前よく5種類の3Dモデルを空間に投影して、チェリー艦隊長の前まで移動させた。


「好きなだけですか?」

「おうよ、俺に二言はないぜ。」


 重戦騎、重機動戦騎、重可変戦騎、重砲撃戦機、重強襲戦騎がずらりと並ぶラインナップに、少し酔いが回ってきたチェリー艦隊長の口元もほころぶ。


 シサク重戦闘母艦には、後45騎分搭載できる余地があった。

 チェリー艦隊長は、ひとつひとつの3Dデータとカタログスペックを見比べる。


 追加武装が豊富な汎用型の重戦騎ウルバリン。


 空間機動戦に特化した重機動戦騎シャープエッジ。


 重戦闘機と重戦騎に変形可能な重可変戦騎ホークアイ。


 中~長距離の攻撃力に特化した重砲撃戦騎ヘルティーガー。


 脱着可能な大型武装外装を装備する重強襲戦騎パイレーツ。


 どれも癖の強い大型戦騎だったが、真っ先に候補から外れたのはパイレーツだった。

 それは性能の問題ではなく、単純にサイズが大きすぎて搭載不能だったからだ。


 次に候補から外れたのは、ウルバリンだった。

 これは武装点数が多く、搭載に必要とされるスペースが多すぎて積みきれないと判断したからだ。


 さらに、隼と役割が被るホークアイが候補から外れた。

 いくら隼の上位互換といっても、大型可変騎であるホークアイは、隼の艦載スペースに載せられなかったからだ。


 残されたのは2機種―――。


「シャープエッジかヘルティーガー・・・。」


―――どちらを乗せても後悔しないとチェリー艦隊長は判断していた。

 しかし、その先を決められずにいた。


「チェリー、あ~ん♪」


 プラム艦長の要求に応えて、無意識にチェリー艦隊長が口を開けると―――。


「熱々だから気をつけてねー♪」


―――カリっと揚げられた香ばしいものが放り込まれた。


 あつい?そう告げたプラム艦長を見れば、同じような揚げた丸い物体を口にしている。

 チェリー艦隊長も口の中にある丸い物体を、注意深く軽く咬み―――。


「はふ、はふ・・・プラムっ!」


―――あふれ出した熱々スープに口内を蹂躙された。


「あははは、だから熱いっていったじゃん♪ムツハちゃんもあーん♪」

「あーん。」


 パクっと一口にいったムツハ隊長が、口元を両手で抑えてびっくりしている。


「あははは、おっちゃん、これおいしくて、面白いっ!」

「だろだろ、ぜってえ気に入ると思ったぜ。これがうちの名物の揚げ丸君さ。たっぷり食ってけよっ!」


 バッカスもプラムの皿から揚げ丸君をひとつ摘み取り、口に放り込む。

 そして、かみしめ溢れだしたスープを堪能した後、グイっと呷った酒で洗い流した。


「どうでい、嬢ちゃんも飲みたくなったかい?」

「ダメでーす。運転手は呑めませーん。」


 虹色のソフトドリンクを口にして、バッカスの誘いを断り―――。


「ふーん、悩むくらいなら両方乗せちゃえば?」


―――2機種の選定で悩むチェリー艦隊長に助言する。


「それもあり、かな?」

「うん、ありあり♪」

「あり、あり?」


 プラム艦長が自分の真似をするムツハ隊長の頭を軽く撫でている。


 ムツハ隊長が率いるクリムゾン・タージェ部隊の支援騎隊として、最適な重機動戦騎シャープエッジと使いどころが難しいものの、待ち伏せや対艦砲撃向きな重砲撃戦騎ヘルティーガー。

 チェリー艦隊長も、2機種とも搭載するのはありだと思った。


「騎数は・・・うーん、シャープエッジ30騎、ヘルティーガー15騎にします。」

「お、決まったかい。ならさっそく準備させとくぜ。おーとっ杯が空じゃないか、いけねえ、いけねえ、ささ一杯やってくれ。」


酔っ払い親父が、再びチェリー艦隊長の杯に酒を注いだ。




次回はこの続き、いろいろ思惑が絡みつく帰還ルートの話となります。

酒宴上で真面目な話・・・・。

うん、頑張ろう。

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