シサク重戦闘母艦現る2
ふーようやく完成かな。
お待たせしました。続きを投稿します。
ブックマ、評価ありがとです。
楽しんで頂ければ幸いですね。
Evil戦艦級、そう分類されていても性格の違いか、育った環境か、あるいは生物としての習性事態が違うのか戦い方にムラがある。
積極的に砲撃をしてくるのは前列に立つ1隻。
全体的な艦影は大型有人武装船の特徴を残しており、恐らくどこかの古戦場か船の墓場で生まれたのだろう、生体皮膚装甲よりも金属装甲部分が多く、その様子から難破船に寄生している第一世代だと思われた。
依り代にしている船の動力炉もまだ生きており、保有エネルギーも豊富なのだろう。
レーザー照射に躊躇がなく、積極的に砲撃してくる。
丁度中間あたりで、此方を狙ってくる戦艦は狙いが丁寧だが、砲撃回数が一番少ない。
船というよりは魚、戦艦サイズの鮫といった感じだ。
一番、厄介そうなのが、ジリジリと距離を離しつつある最後尾の1隻だろう。
艦影こそ1隻目の戦艦級に似てはいるが、その大きさが子供と大人ほどに違う。
しかし、図体のデカさこそ他の戦艦級とされた2隻を遥かに超えているが、保有するエネルギー量が妙に小さかった。
恐らくは進化した直後なのだろう、何らかの能力を追加で獲得したとみるべきだった。
これらの情報を突撃中に取得したプラム艦長が、狙いを最後尾の大型艦に定めた。
「全員出撃準備、敵戦艦の上に落とすから後ヨロシクっ!」
「「「「了解。」」」」
出番があるよと伝えるだけで奇麗に了解の声が揃う。
その様子にチェリー艦隊長も苦笑いを浮かべ―――。
「チェリーも準備ヨロシクっ。」
「まかせて。」
―――と答えた。
砲撃パターンBにより、シサク重戦闘母艦は艦前方の空間に艦首集中障壁を展開し続け突撃する。
このため障壁の背後にある1、2、4、5番砲塔は展開された障壁の傘にすっぽりと覆われる形になり、正面の敵は射線が阻害されて撃てなくなるが、階段配置された上下主砲塔の最後尾、3、6番砲塔である3連装重レーザー砲と花びら型装甲スカート装備の単装レーザー主砲は射線が通っていた。
その姿を真正面から見ると、遮蔽物に籠る戦車が砲塔だけ出しているようでもあった。
この工夫も突撃大好きっ子のプラム艦長の為に、珠ちゃんが構造計算からやり直して構築したものである。
すべては彼女の猛威から母艦という脆弱な船を護るためである。
「障壁強度65%まで低下。プラムっ。」
「まだ。」
相対距離26万キロ―――。
「此処っ!」
この瞬間を狙っていたのだろう、プラム艦長が敵戦艦群の一斉砲火を姿勢制御スラスターを全開にして艦体を横回転させつつ位置をズラす。
至近距離を通過するレーザー光の残照をナノマテリアル装甲は問題なく吸収し―――。
「お返しっ」
―――外れない、絶対に外さない26万キロから2基6門の重レーザー主砲を斉射した。
大戦艦の主砲口径に匹敵する重レーザー砲6門の照射を受け、先頭の戦艦級が艦首から艦中央部にかけて融解、そして内部から爆散した。
破損した融合炉が爆発したのだろう、派手な花火が上がり、周囲を巻き込む衝撃波が数秒遅れて到達する。
重レーザー砲再チャージ。
シサク重戦闘母艦が横回転を維持しつつ、単装レーザー砲を速射する。
照射→終了→冷却→充填の順で8秒で一回転。
最初からこういう使い方を想定して、照射時間と排熱、再チャージ時間まで計算されて配置された8基の単装レーザー主砲は、途切れることなく光を伸ばし空間を嘗め尽くす。
目標となった敵2番艦はエネルギーを前方に集中し、障壁で耐え、皮膚装甲で耐え、船体を抉られつつも耐え忍ぶ。
鮫に似た船体から突き出したフィンがちぎれ飛び、流線形の船体に深々と傷を残し、歪に溶かされ加工されていく。
皮膚装甲の下から体液が噴き出し、戦艦級が苦痛に身をよじる度に宇宙に散っていく。
しかし、このまま押し切るつもりだったプラム艦長も、止めまでは刺せなかった。
牽制目的なのだろう、後方の戦艦級から連続したレーザー照射に続き、大量の物体が分離―――。
「誘導弾多数、3群合わせて371発。プラムっ!」
「任せてっ、全員出撃準備、寄せるよ(・・・)。」
「了解した。」
「能書きはよいのじゃ、はようせい。」
皆を代表して、マルス隊長が答え、付け足すようにガーベラ隊長が催促する。
牽制と分かっていても対応せざる得ない攻撃。
明らかに通すと不味そうな誘導弾の雨に、プラム艦長も仕切り直しを決める。
着弾までのカウントダウン―――。
プラム艦長が単装レーザー主砲による回転連続砲撃を中断し、四連装レーザー高角砲による艦隊防衛射撃に変更する。
さらに相手の思惑に乗るかのように、突撃軌道をずらして見せた。
「さあ、こいこい。」
彼女が餌を投げ入れ反応を待つ。
「誘導弾、第一波飛来。続けて2群同時に来る。」
チェリー艦隊長が冷静に告げる。
彼女が誘導弾と判定した3群の群れのひとつ、もっとも到達の速い飛翔物体に向けて、プラム艦長が、四連装高角レーザー砲と小型プラズマ弾を指向する。
飛翔体―――。
宇宙を飛翔する翼を広げた鳥っぽいものが、投網のように広がるレーザー照射に捕らわれて、焼き溶かされ、プラズマ弾に呑まれて爆散していく。
艦隊防衛射撃は継続中―――。
最初の一群を殲滅したところで、追い打ちとばかりに2群合わせた倍以上の数が飛来する。
しかし、プラム艦長は怯まず、突っ込んで来る誘導弾に艦体を晒しつつも、艦を突撃させていく。
相対距離にして15万キロに到達した時、一時は止まっていた敵艦隊からのレーザー照射が再開される。
それも一度は躱された全艦一斉射ではなく、明らかにこちらの誘導を目的とした連続照射だった。
罠を仕掛けたのはどっちで―――。
罠を食い破るのはどっちか―――。
互いの思惑が絡み合う突撃戦が続く。
「障壁強度34%まで低下。プラム、後方敵艦隊、迂回機動をとりつつ増速、18秒で交戦距離に来るわ。」
このままではダメだと判断したのだろう、追撃を諦めていた後続艦隊が動き出す。
チェリー艦隊長から報告を兼ねた警告が飛び、同時に避けられなかったレーザー照射が障壁に当たり、激しい反応光を生じさせる。
流石に相対距離15万キロまでくると、レーザー光は0.5秒で目標に到達する。
さらに突撃中となれば、回避時間など瞬きほどの時間もないだろう。
それでもプラム艦長は3回に1回は躱していた。
「余裕、余裕っ、このまま決めちゃうねーと。」
レーザーの投網を広げ、飛来する怪鳥の群れのような誘導弾を、順調に処理しつつ迫るシサク重戦闘母艦に向かって―――。
「敵2番艦、軌道変更っ激突コース!」
―――耐え忍んでいた戦艦級大型鮫が襲い掛かる。
「掛かったっ、皆、出番だよ!」
口を広げて食らいつこうとする敵艦の上方すれすれを、プラム艦長が掠めるような衝突回避コースに軌道変更し、下方配置の四連装レーザー高角砲で牽制しつつ、後方大型ハッチを解放する。
眼下に広がる敵戦艦の姿。
大きく開かれたその口の中に、重戦騎隊がありったけの対艦ミサイルを叩き込む。
『大物釣りじゃ、逃すでないぞ。』
『全騎、我に続け―――っ!』
必殺の一撃をすかされ、呑み込まされたミサイルの爆発が口内を蹂躙する。
下顎から喉あたりまでを吹き飛ばされた手負いの敵戦艦級の直上から、万を持して飛び出した重戦騎群が強襲した。
『一気に潰すぜ。肉薄攻撃と行こうじゃないかっ。』
『ムツハ、行きます。』
対艦ミサイルこそ使ったものの、対艦兵装はまだまだある。
何よりも敵艦に取り付けるような肉薄距離こそ、対艦戦における戦騎の距離である。
「そいつの始末は任せたっ。」
鬱憤を晴らすかのようにサンドバック代わりにボコボコにされていく敵戦艦の始末を丸投げして、シサク重戦闘母艦が艦首を最後に残された敵戦艦級に向ける。
『任されたっ!』
マルス隊長が駆る紋章重戦騎【暁】が赤い輝きに包まれ突撃していく。
彼に続く赤と青の流星群が容赦なく手負いの戦艦級に襲い掛かる。
もっとも被害の出る接近する段階をすっ飛ばした重戦騎隊にとって、まさに寄せてもらった戦場だった。
「敵後続艦隊群、交戦中の重戦騎隊に攻撃開始。」
沈みかけの戦艦級を援護する為なのだろうが、戦艦ごと撃つような砲撃では止めを刺すだけだろう。
味方の重戦騎隊が、素早く敵戦艦級の影に隠れて砲撃をやり過ごしている。
「一気に決めるねーっ!」
一対一ならば、もう負けはない。
そう判断したプラム艦長が一気に勝負を決めに行く。
シサク重戦闘母艦から単装レーザー主砲8基とチャージの終わった重レーザー砲2基6門の同時斉射が放たれ―――。
「どっかーんっ♪」
―――最大船速と全周障壁展開からの体当たりである。
突撃娘プラム艦長は当初の狙い通り、シサク重戦闘母艦が体当たりを敢行した。
相対距離5万キロから放たれた14門のレーザー主砲の照射が敵艦を捉え、敵戦艦級を護る障壁を容易く貫通して、皮膚装甲を焼き溶かし、船体内部を蹂躙する。
さらに内部で発生した蒸発爆発により被害が拡大し、爆発で生じた衝撃波で体液や肉片を撒き散らす。
もはや死に体となった敵戦艦に、嬉々としてプラム艦長がぶつかりに行き、わずかばかりの障壁に万全な全周障壁を叩きつけて押し砕き、シサク重戦闘母艦がその艦首を敵戦艦に押し込み叩き割った。
「おっしまーい♪」
「プラム、あっちがまだだよ、片づけないと。」
『プラムお姉ちゃん、砲撃支援お願いします。』
ムツハ隊長の通信を受けて、ふたりが現状を確認する。
ふたりの予想より早く、重戦騎隊は敵戦艦級の撃破には成功したものの、追い付いてきた敵残存艦隊の砲撃に晒されていたが、撃沈した残骸を遮蔽物代わりにして耐えている。
ボロボロになったとはいえ軽く1000メートルは超える戦艦級の残骸である。
20メートルもない重戦騎が隠れるスペースなどいくらでもあったからだ。
「まってて、すぐ片づけるから♪」
そして、敵の最大戦力であった3隻の戦艦級を葬ったシサク重戦闘母艦が、クルリと反転し、その艦首を残存艦隊に向けた。
「全主砲、敵艦隊を指向、総力射撃、いっきまーすっ!」
プラム艦長がフィナーレを飾るべく、総力者撃を宣言する。
対戦艦戦では使われることなく沈黙していた連装レーザー速射砲が―――。
圧倒的な破壊力をもつ重レーザー砲が―――。
高角砲や単装レーザー砲と共に敵艦隊を蹴散らしにかかる。
緊急排熱にかかる時間は考えなくていい、戦闘そのものを終わらせる総力砲撃―――。
その猛威の前には重巡も駆逐艦も大差ない。
沈むまでに掛かる時間が違うだけだ。
戦艦級という鉾にして盾を失った時に、彼らの勝機は喪失していた。
その時点で逃げる事をせず、戦闘宙域に留まり続けた選択が、この運命を決していた。
戦闘終了後、シサク重戦闘母艦が強制排熱に追われていた。
「チェリー、こっちのチェックは終わりっおおむね問題なしかな。体当たりで潰れない船っていいよね。」
「こっちも終わり、戦闘経過も各砲の威力や連動性にも問題なし、後は―――。」
「此処何処だろね。」
彼、彼女達にとって最大の問題が残されている。
今回の戦闘も、攻撃を受けたから反撃にでただけで、此処が目標だった戦闘宙域とは違う事は全員が分かっていた。
問題は、現在座標を完全に喪失していることである。
ただ幸いにして、人類側の星間航路図は入手出来ているため、記載されている恒星の位置と方角、その光度を見比べて該当する恒星がないか調べていくという、膨大な時間が掛かる作業を分担して継続中だった。
「今のところはヒットなし・・・・。」
「だよね、超空間通信網も復帰しないし・・・・。」
ふたりのため息がはもっていた。
それが可笑しくて、くすくすと笑いあう。
『それよりも見よ。あそこで祭りが開かれておるぞ。』
ガーベラ隊長が参加せぬかと誘いをかける。
超空間レーダーが機能不全で使えなくなっている状況では、宙域レーダーで捉えられない向こう側の状況はわからない。
しかし、戦闘らしき爆発光が確認できる以上、誰かがあそこで戦っているのだろう。
Evil同士の抗争でもない限り、話し合いの余地はあると信じたい。
道が分からなければ、現地民に聞けばいいよね。
気分的にはそんな感じで、さらなる戦闘介入を決めていた。
次回は珠ちゃんの方になります。
4章は珠ちゃん編とチェリー&プラム達との間で、ちょくちょく変わる形でお届けする予定です。




