チェリーとプラム
初期メンバーのふたりがようやく復帰です。
行間修正。
―――何処から見てもゴミであるな。
俺はルル大提督に軽口を返し、入室許可をだしたチェリー艦隊長とプラム艦長のダメージチェックを開始する一方で、モニターに映った艦首を失いかろうじて船体中央部付近だけが残った構造体・・・ノルデン級戦艦だったものの損壊状況の解析を始めた。
見事に潰れた船体内から、ソウジ提督の識別ビーコンが確認出来る以上、存命はしているのであろうが、どう計算しても構造体を解体して救出するしか手がないのである。
「貴方、あちらも終わりましたわ。」
うむ、ふたりともよく戻ったのである。
「チェリーです、いま帰還しました。」
地に足をつけず、ふわりと浮かぶチェリー艦隊長が前髪で目元まで隠された顔を向ける。
物静かな彼女は、体をう浮かばせている細い腰に巻き付けた浮遊ユニットにまで届く薄桃色の長髪を、横髪を編んで造った三つ編みで纏めていた。
「プラムもたーだいま、帰りましたー。やーありがとね司令官、ちょーとやり過ぎちゃったけど、ばっちり修理ヨロシクっ」
ふわりと浮かぶチェリー艦隊長に片手で抱きつき、ご機嫌な様子なのがボーイッシュなプラム艦長だ。
少年っぽい背格好の女子がとても軽い感じで敬礼する。
うむ、出逢った頃と変わらず、ふたりの関係は良好のようであるな。
「ふふーん、わかる、わかっちゃう、さすが司令官っよく見てる~。」
うむ、見ての通りソウジ提督の救出には、もうしばらく時間が掛かりそうであるが、3人が無事で良かったのである。さっそくであるが、報告を願いたい。
「んー報告と言っても、戦況ログは見たんでしょ?」
プラムの発言に俺は同意する。戦闘開始前後にノルデン級戦艦が轟沈した事は確認済みである。
「えーと次元転移したら、目前にEvil艦がいて、あっという間に囲まれて、艦載機を展開する暇もなく、ああなった。」
モニターに映る破壊された乗艦を指し示すチェリー艦隊長の言葉に、俺はひとつうなずき、続いてプラム艦長に報告を促す。
「あたしはほら、チェリーがボコられてたから、ついカッとなって、割って入って叩きのめしてやったかな。まーいくら雑魚ばっかりでも、さすがに数が多いとキツいキツい。周り囲まれて、至近距離で叩き合いになっちゃってもーボロボロにされちゃったよ。いーぱいぶちかましもしたし、されたしねー。」
あはははは、とプラム艦長が軽く笑うが、彼女は秒単位で損壊するアインホルン級重巡航艦を操り、ほぼすべての砲が潰され、スラスターが焼き切れるその瞬間まで戦い抜いたのだ。最後は肉薄攻撃に来た敵駆逐艦級を逆に自艦を叩きつけて撃沈している。
その凄まじい暴れっぷりは戦闘ログが証明していた。
「ごめんね、私が足手まといで・・・。」
お気楽なプラム艦長とは反対にチェリー艦隊長はしょんぼりとしている。
「いいのいいの、気にしない気にしない、生き残った奴が勝者だよ。」
プラムがそんなチェリーをぎゅーと抱きしめて、ふたりでグルグルと廻っている。
「という訳で司令官、あたしが頑張るから、新しい船を頂戴っ、もち頑丈なのでよろしくっ。」
「違うわプラム。私も頑張るから、ふたりで頑張るのっ。」
「ふ、ふたりでっ、それってつまり・・・、司令官っ、あたしもふたりで戦える船がいい、ないなら造ってっ今すぐにっ!」
これも初陣帰りの影響であろうか、プラム艦長がおかしいのであるな。もう一度診断プログラムを実行すべきであろうか?
「必要ないっ、とにかく作って、お願いしたからねっ!」
まぁ、ふたりの要望は理解したのである。
俺はデータベースを漁り、ひとつの技術データと実験データを参照する。
現状、コアを2基搭載するタイプの戦闘艦は現存していないのであるな。しかし過去には研究開発もされており、その技術情報は公開されているのである。
「お蔵入りですか?」
「ええそのようですわ。チェリー艦隊長でしたわね。初めまして、わたしは秘書官を努めるルル・ビアンカ・セラムですわ。その当時の艦性能では、貴重で高価なコアをふたつ使ってまで動かすような艦が無く、現在はフェイクコア自体の性能が上がって、2機搭載型にするメリットが無くなった為に、そのまま死蔵されたのですわ。」
俺はふたりの会話を聞き流しつつ、さらにアインホルン級重巡航艦とリュミエール級巡航母艦の設計図を空間に展開し、各部品毎に解体しつつ空間全体に展開していく。
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【報告】艦艇設計を開始します。
コンセプトは艦隊コア2基搭載型。
等級は火力と艦載数を両立した1500メートル級重戦闘母艦。
主砲火力は重戦艦準拠とする。
アインホルン級の船体構造理論を流用しつつ、耐久性に優れた機動艦載機搭載艦とする。
艦首から艦中央部にかけて火力・砲力を集中。
艦首先端部は八角錐型、先端部に局所集中防御式障壁発生器1基を配置。さらに艦首構造体に円環構造体を3基巻き付け三連円環とし、環状防衛レーザー砲台群を集中配備。
艦首付近から艦中央部にかけて、八角柱型を採用。
八面の内、斜面四面に電磁カタパルトを各1基計4基を配置。さらに下面に大型電磁カタパルトを1基配置。すべて誘導砲弾、対艦ミサイル、発艦用カタパルトを共用とする。
側面にプラズマキャノン発射基を4基づつ、両面併せて8基を配置。さらに側面障壁発生器を配置。
主砲として3連装重レーザー砲砲塔型3基を艦首上面~艦中央上面前部にかけて段差直列配置。
艦中央後部にある格納庫を護る為に、前面5枚、後面6枚の装甲スカートを円周配置。
さらに副砲として、前面5枚の装甲スカート部に単装レーザー主砲内蔵型各1基と防衛レーザー砲塔各2基を配置。
後面装甲スカート6枚には、局所障壁発生器各1基を表面に、裏面に主プラズマ推進器を1基を配備。
艦中央~後部にかけて格納庫と整備機構を集中配備、さらに艦体後部下面に大型着艦デッキを配置。発艦は電磁カタパルトを使用。
艦尾に円錐構造体を追加し、後方警戒用の防御砲台群としてレーザー速射砲6基を配置。
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「かわいい、お花みたい・・・。」
チェリー艦隊長の呟きが俺にも聞こえた。
ふむ花であるか。たしかにチェリー艦隊長の言葉通り、全体の印象としては6分咲きの切り花であるな。
艦首から艦中央部までが茎、花被にあたる外側の部分が膨らんだ格納庫を護る計11枚の装甲スカート、そして膨らんだつぼみが格納庫で、開きかけた先端部が防御砲台である。
うむ、そう考察するとよりいっそう切り花に見えるようになったのである。
俺は軽くデザインを弄くり、よりそれっぽく見えるようにした。
「お願い司令官、もっともっとスラスタを増やして機動力をあげて、それと主砲は3連装砲3基を連装砲3基に落として、代わりに前部装甲スカートを5枚から8枚に増やして!」
しばし黙考していたプラム艦長の意見を採用し、俺は設計を変更する。
「うんうん、これがいい、これでいけるよっ重戦艦準拠の単装レーザー砲が8基。チャージ3秒、冷却5秒、8基あれば1秒1射で連射出来る。連射で崩して、斉射で潰してもいいし、斉射で崩して、連射で端から墜とすのも有り、あたし好みな主砲配置かな。局所障壁だってそう、障壁が射線を遮らないように配慮してる。反応の鈍いフェイクコアじゃ無理でも、あたしならやれるって考えてる。司令官、あたしはこの艦がいい、この艦で戦いたいっ」
プラム艦長は興奮しすぎであるな、もう少し落ち着くべきであろう。
俺はプラム艦長を窘め、仮想データを概算し、艦性能を分析する。
うむ、火力低下分を計算しても、重戦闘母艦の性能準拠は満たしているのであるな。
「艦載機は何機積めますか?」
チェリー艦隊長の疑問に、俺は8ブロックに分割された格納庫部分を拡大する。
搭載機種にもよるが、120~240機程度であろう。下面大型カタパルトならば20メートル級大型戦騎も発艦可能である。ただし電磁カタパルトの機構上の問題で、誘導砲弾、対艦ミサイル用の弾薬庫も共用である。故に実数は3~5機種程度で160機ほどであろう。
「貴方、問題がふたつありますわ。いつ頃から着工出来るかが現段階では不明な事、そしてユニゾン艦の運用実績が、我が泊地にはありませんわ。実データなき新技術を主軸にした艦は危険ではなくて?」
その疑問には肯定であるが、ユニゾン艦とは?
「コア2基搭載艦の俗称ですわ、他にもダブルコアシップとかW艦など、当時はいろいろあったみたいですわね。」
うむ、何か心に響く呼称であるな。
俺はルル大提督の意見を採用し、完成した試作1500メートル級重戦闘母艦ユニゾン仕様の設計データを、書き込み可能なデータクリスタルに変換してコピーを2つ作り、チェリー艦隊長とプラム艦長に渡す。
その上で、修理予定のエクレール級高速巡航艦を改装し、ユニゾン艦の試験運用艦にする事をふたりに告げる。当然の事であるが、最初の被験者は彼女達に頼みたい。
「試験結果が良好だったら、正式採用されるって認識でOK?」
俺はプラム艦長に同意を示す。
「あの、私の艦載機は召し上げですか?」
否である。艦載機はすべて泊地から出撃、貴官の指揮下で運用されるのである。
「つまり当面の任務はユニゾン艦の運用データ蓄積と艦載機を率いての泊地近郊の迎撃戦って処かな?」
「戦闘管制任務ね。わかった私、頑張る。」
細かい仕様変更については、データクリスタルに書き込み提出の事であるな。ふたりの働きに期待するのである。
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【依頼】ユニゾン艦運用実績を蓄積せよ。が発令されました。(0%)
【依頼】試作1500メートル重戦闘母艦ユニゾン仕様を建造せよ。が発令されました。
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「ね、ね、司令官、ルルさんみたいな美人、いつ口説いたの?」
俺に近寄ってきたプラム艦長が小声で聞いてくるが、本人の了解もなしに、ルルさんは問題発言であろう。彼女はルル・ビアンカ・セラム大提督である。貴官より階級が上である。
「な、なな、なんでっそんな雲上人が、こんな所にいるのよっ。」
「あらあらプラム艦長、たとえわたしが大提督といえども、あなたと同じ泊地に所属する艦隊コアのひとりですわ。ならばわたしが戦場にいても、何の不思議もないでしょう。」
ね、と同意を促すように、プラム艦長の背後からルル大提督が彼女の両肩に手を添える。
「ソウデスネー、あたしが間違ってましたー。」
思いっきり棒読みの台詞で喋るプラム艦長が、引きつった愛想笑いを浮かべている。
「ええ、わかって頂けて良かったですわ。今後とも同じ職場で働く同僚として、よろしくお願いしますね。」
「はい、こちらこそ、よろしく、です。」
うむ、さすがであるな。もうふたりは仲良しになったようである。それでこそルル大提督であるな。
俺は現実から軽く意識を逸らし、そう結論づけた。
「珠ちゃん、V」
「負けてないっおいら負けてないからなっ!」
タマゴの勝利宣言とジャラジャラうるさい負け犬の遠吠えに、俺はじゃれあいの終了を認識する。
「負け犬、よこせ。」
「うわーんっ頭領ー、何とかしてくれよ~おいら仕事が出来なくなっちまうよ~!」
負け犬チャンプの懇願に、俺は仲裁案を提示する。
「頭領・・・・。」
「珠ちゃん・・・。」
うむ、ふたりが俺の話を聞かなかったのであるな。
俺はチャリンチャリンと手早くコインを投入する。
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【報告】指揮ワーカーコイン4枚→リペアワーカー4機を受領しました。
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交換で入手したリペアワーカー4機と倉庫で発見したビルドワーカー2機に60機のワーカーズを加えて、修理隊2隊と保全隊2隊と建築隊2隊を編成する。
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【成功】建築隊を5隊編成せよ。を達成しました。(46/60)
報酬として、功績点50点、雑務艇コインを受領しました。
【依頼】建築隊を10隊編成せよ。が発令されました。
【成功】修理隊を5隊編成せよ。を達成しました。(47/60)
報酬として、功績点50点、雑務艇コインを受領しました。
【依頼】修理隊を10隊編成せよ。が発令されました。
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建築隊とワーカーズ100機をチャンプに、保全隊と同じくワーカーズ100機をタマゴにそれぞれ預けて、修理隊は湾港配置とした。
ふたりにワーカーズを100機づつ増援したのは迷惑料ではなく、作業効率を上げる為の支援である。ふたりにはそのまま頑張ってもらいたい。
俺にジトっとしたふたりの視線が突き刺さるが、まぁいつもの事である。俺は構わず仕事を進めるのであるな。
チャリンチャリンとコインを投入・・・いい音である。
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【報告】雑務艇コイン7枚→作業艇3艇を受領しました。
→掃海艇4艇を受領しました。
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いまある雑務艇コイン7枚を作業艇3艇と掃海艇4艇と交換して残存船艇と合流させ、作業隊と掃海隊を編成する。
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【成功】作業艇5艇からなる作業隊を編成せよ。を達成しました。(48/60)
報酬として、功績点50点、資材10コインを受領しました。
【依頼】作業隊3隊編成せよ。が発令されました。
【成功】掃海艇5艇からなる掃海隊を編成せよ。を達成しました。(49/60)
報酬として、功績点50点、資材10コインを受領しました。
【依頼】掃海隊3隊編成せよ。が発令されました。
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所属はそのまま変更なしで、お掃除を頑張ってもらいたい。
うむ、積みあがったタスクもだいぶ減ってきたであるな。
「では貴方、そろそろ契約を進めましょう。」
ま、待つのである。
まだやれる事があるのであるな。
俺は120機のワーカーズを船艇ドック専従隊と小ドック専従隊として編成する。
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【成功】ワーカーズ20機からなる船艇ドック専従隊を編成せよ。を達成しました。(50/60)
報酬として、功績点50点、雑務艇コインを受領しました。
【成功】ワーカーズ100機からなる小ドック専従隊を編成せよ。を達成しました。(51/60)
報酬として、功績点50点、小ドック艦コインを受領しました。
【依頼】船艇ドック専従隊を3隊編成せよ。が発令されました。
【依頼】小ドック専従隊を3隊編成せよ。が発令されました。
【依頼】艦艇を建造せよ。が発令されました。(0/5)
【依頼】艦艇を廃艦せよ。が発令されました。(0/5)
【依頼】艦艇を修理せよ。が発令されました。(0/5)
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建造、廃艦、修理であるか、丁度よいラインナップであるな。
俺はチャリンと小ドック艦コインを投入しておく。
戦力としてはまったく期待出来ないが、戦闘艦の補給や修理、損傷艦の曳航や回収など、この艦種でしか出来ない事も多いのであるな。
などと感慨にふける暇も無く俺は仕事を進めるのである。
まず大破した掃海艇と3号支援砲艦は廃艦として解体とする。さらに小破したゾロア級とバルシェム級駆逐艦に修理を行うよう指令をだしたが、各1隊しかない専従隊の都合により、小型艦3隻は順番待ちである。
むぅ、やはりワーカーズ不足で仕事が廻らなくなってきたようであるな。
3人の支援に廻したワーカーズを回収すべきであろうか?
いやいや、それは早計である。
仕事が廻らないのは今だけであり、これから時間経過と共にワーカーズは増えていくのであるから、今は積みあがったタスクの見直しでなんとかすべきであろう。
俺はドック関連と艦隊スケジュールの見直しを始める。
補給については出撃させたホエール級大型補給艦の活動により、問題なくタスクは消費されている。突発的な事態が発生しない限り予定終了時刻で終わるだろう。
その反面、専従隊の不足で修理と廃艦作業は停滞中である。
この状況をなんとかしなければならないのだが、ワーカーズ不足は深刻であるな。
必ずしも要員を必要としない補給作業と違い、整備と修理には修理隊、建造と廃艦には造船隊が必要となるからだ。そしてひとつの専従隊につけられる隊の数は決まっており、船艇と小ドック専従隊には専従隊ひとつにつき1隊しかつけられない。
つまり隊が余っているのであるな。
ルル大提督、船艇2艇分の建造余地があるのである。希望する船艇ユニットはあるか?
「そうですわね。2艇程度では突撃艇だと囮にも使えませんし、あえてあげるならば哨戒艇ですかしら、どちらかといえば駆逐艦か偵察艦だと嬉しいですわね、それより―――。」
了承したのである。
俺はルル大提督の意見を最後まで聞かずに作業を再開する。
ワーカーズ40機を使って、船艇ドック専従隊2隊を編成。
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【成功】船艇ドック専従隊を3隊編成せよ。を達成しました。(52/60)
報酬として、功績点50点、雑務艇コインを受領しました。
【依頼】船艇ドック専従隊を5隊編成せよ。が発令されました。
【報告】小型ドック艦コイン→小型ドック艦1隻を受領しました。
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そして、哨戒艇2艇の建造を開始である。
やはり何をするにもワーカーズが足りないのであるな。
「なら契約を進めましょう。」
まだである。
ルル大提督、そのタスクはまだ早いのであるな。
まだ出来る事があるのである。
俺はルル大提督の提案を拒絶し、チャンプに計画変更を告げた。
重戦闘母艦の建造は二章の後半以降になる予定。




