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大提督は引き篭もる。  作者: ティム
災禍の討滅者編
119/140

閑話 帝国とは―――。

ようやく仕上がりましたので、投稿します。

4章を語るうえで、帝国の事を話しておかないといけなくて、

なんとかまとめるのに時間が掛かってしまいました。

おまたせして申し訳ありません。


帝国―――。


 日輪を抱きしめる翼の乙女を国旗として掲げる日輪帝国は、翼の乙女教を国教とする帝を頂点とする帝政国家であり、同時に他種族多民族が集う議会制民主主義国家でもある。

 その支配領域は広く、およそ2000光年に広がる星間領域を実効支配しており、その版図には200を超える星系と64個の居住惑星、数千基の宇宙コロニー群や衛星都市があり、千数百万隻の航宙船が日々その領域を行き交っている。


 また帝国の庇護を求めて従属する星間国家や自治惑星も多く、帝国国籍をもつ登録市民こそ1000億人程度であるが、国籍を持たない未登録市民を含めるならば、総人口は2000億~3000臆とも言われており、正確な数値は分からない。

 もちろん機械知性体の権利も認められており、帝国を形成する多民族社会の一員として社会に参加していた。


 そして外交関係に目を向ければ、およそ60ヶ国の星間国家と通商条約や同盟条約を締結しており、泊地同盟とも関係が深く、同盟国家としてその恩恵を多大に享受していた。


 そんな日輪帝国のアスカ星系の主星アスカには惑星行政府はあっても、外交や国政を司る国としての星間政府はない。

 各省庁を含めて、すべての政府機能は宇宙に浮かぶ金属で作られた巨大な人工天体、翻る御旗泊地と呼ばれる無人艦隊の本拠地に集約されており、帝の居住地も翼の乙女教団の本殿もすべて此処にあった。


「これより定例報告会を行います。」


 議会進行役を司る議長が、慣例に従い帝を除く全員に起立を促し―――。


「一同、礼。」


―――帝を除く全員が一斉にお辞儀をした。


 同時に壁際や扉を護る近衛兵たちが、一斉に踵を鳴らし帝に対して敬礼をする。

 揃いの軍服に身を包んだ近衛兵達は、多種多様な種族や民族から選ばれた戦士たちと兵器コアから選抜された生粋の戦闘員たちである。

特に兵器コアはすべて、個人合わせの専用機として特別に調整されたバトル・ワーカーに搭載されており、ひとたび有事となれば、単騎で完全武装の一個歩兵中隊を殲滅できる戦力を有していた。

 そんな近衛隊が護る会議場に、お辞儀を終えた出席者全員が一斉に椅子に座った。


 伝統と慣例により代替わりしたばかりの第53代帝が集まった者たちを見渡す。


 艦隊コアからなる帝国近衛艦隊第3群を率いる大提督クラウス。

 兵器コアからなる帝室近衛隊第3群を率いる大団長ナムタダ。

 大使として同盟泊地から派遣されている艦々酒場亭泊地の提督ジャックポット。

 それに進行役を司る議長や帝国各省庁から定時報告の為に集まってきた各省庁の役員に、翼の乙女教団からは巫女と呼ばれる女性たちが一歩離れた位置で待機している。


 一段高い場所に座る帝は、ひとりひとりと目を合わせてから、始めようと声をかける。

 それを受けて議長が、事前に提出された資料を基に、発言者を指名していく。


 帝の仕事は、報告者ひとりひとりに声をかけることである。

 帝国を動かす国策は、各省庁が企画立案して報告会に持ち込まれるが、帝自体が国策を立案することはない。

 あくまで帝は報告者の話を聞き、最終的な決定のみを下すだけである。

 そんな帝の傍には巫女が侍り、帝のよき相談役として支えていた。


 帝国を語るうえで、帝と巫女の関係が重要な意味をもつ。

 そもそも帝の一族とはもっとも古くから泊地コアと交流のあった一族の末裔であり、その直系の子孫から選ばれている。

 その任期は20年~30年前後であり、子供の成人に合わせて代替わりするのが慣例となっていた。


 その一方で翼の乙女教団の巫女達は違った。

 巫女というのは血統ではなく、民間から選ばれた帝と同年代の女性たちであり、その任期は3年~5年。

独身の帝と教団が認めた優秀な女性とのお見合い的な側面が強く、事実として帝に選ばれた巫女が后妃となるケースが多い。

 たとえ帝に選ばれなくとも任期満了後に各業界の有名人や著名人と婚約や結婚する事も多いくらいに、女性にとって巫女を務めあげたという実績は大きな付加価値をもち、男性にとっても有力な結婚相手としてみなされるからだ。


 帝と巫女により、帝国は政教分離ではなく、政教合一という極めて異様な政治体系を形成していた。


「新しい泊地か、今度は友となれるかな。」


 帝国設立より1000年、他の泊地と接触をもつ機会は少なくなかった。

 一時的でも歩調を合わせ、共に戦い、協力し合い、泊地コア同士の意見の違いから断交したり、戦いの結果として泊地が失われる事もあった。


 現在泊地コアとして帝国と同盟関係にあるのは、ふたりだけ―――。

 ひとりは帝国中枢である超巨大天体、翻る御旗泊地の泊地コアであり、翼の乙女教団の教祖である翼の乙女と、もうひとりは、遠く2400光年離れた酒とイベント大好きな艦隊コアが集う艦々酒場亭泊地の泊地コアであるバッカスだけである。


 通例に従い、重要度の低い案件や報告から先に終わらせ、重要度の高い案件に推移していく。


「御前会議の取り決めに従い、エーデルシュタイン社他、有力な民間軍事会社各社には助成金を出し、アリゼ連邦から依頼があれば格安でも引き受けるようにと、通達しました。」


 緊急の命令を受けた行政庁の役員がそう報告する。


「従ってくれそうですか?」

「はい、既にエーデルシュタイン社はアリゼ連邦各国といくつかの契約を締結して、艦隊派遣の準備に入っております。またそれに続くように有力各社も営業活動を開始しました。」


 帝国の思惑を受け取って動いてくれている民間傭兵会社に帝は密かに感謝をささげる。


「使節団を乗せた親善艦隊には、オーロ提督を指揮官とした50隻からなる5個護衛艦隊(有人艦隊)を同行させる予定です。」

「オーロ提督だけですか?」


 帝の問いかけに―――。


「いえ、近衛艦隊第3群よりアルマティア艦隊長とカスミ艦隊長が各1個艦隊(無人艦隊)を率いて、同行します。」


―――クラウス大提督が起立して答えた。


 親善艦隊含めて8個艦隊、平時に派遣する戦力としては過剰でも、最前線に近い戦闘宙域に派遣する艦隊としてみるならば妥当な処だろう。

 万が一、向こうで助力を請われることがあったとしても、充分対応できるはずである。

 それが、クラウス大提督の考えだった。


「我が国によるアリゼ連邦に対する救援艦隊派遣は決定事項としても、派遣艦隊の規模とその期間、報酬の支払いについて、財務省を交えて外務省において、今もアリゼ連邦交渉団との折衝が続いています。」


 外務省の報告に続き、予想される費用の論拠を財務省が述べていく。


「出来るだけ早く、どちらにも損がないように取り計らってください。」

「了解しております。我ら一同、全力をもって聖務を遂行いたします。」


 日々の報告としてはそれが最後だったのだろう、各省庁の代表者が帝に対して深く頭を垂れてから退出していった。


「やれやれ、ようやく終わったか、あいかわらず堅苦しくていけねえやー。」


 酒保によっクラウス大提督て買い付けてきた地酒を持ち込み、軽く一杯やっていたジャックポット提督が不謹慎な感想を漏らす。


そして―――。


「酔いどれ親父も艦隊派遣は了承してる。始めるならば言ってくれってよ。」


―――隠れていた護衛にそう告げた。


「此処におられましたか、探しました。」


 手酌でチビチビやっていたジャックポット提督が、すっと寄ってきた巫女のひとりに酌をされている。


「嬢ちゃんは、帝の傍に侍らなくていいのかい?」

「これもまた巫女の務めです。」


 注がれた酒を一息に飲み干し、酒の酌をした巫女の手に返杯を握らせる。


「なら、一杯付きあえや。」

「喜んで。」


 巫女が差しだされた杯に、とくとくと酒を注ぎこむ。


「俺にも一杯頂けるか。」


 やってきたクラウス大提督が、ジャックポット提督の対面に腰を下ろし―――。


「聞いたぞ、親父さんは、何隻だすつもりだ?」


―――要件だけを切り出した。


「戦艦含めて300隻ってところらしいぜ、率いるのは古参のラガー提督だ。こっちは顔見せ程度とはいえ、戦力としては期待してくれていい失望はさせないってよ。

 ま、抱えてる戦域ひとつが、ちょいときな臭いから、酔いどれ親父は重戦艦級以上の主力艦は温存するつもりらしいぜ。そっちは?」

「第3群からは大戦艦級を含めて1000~2000隻、それに派遣艦隊本隊として10000隻程度の帝国軍が随伴する予定だ。

 ただどの方面艦隊が動くのか、本国艦隊が動くのか、特別編成の任務艦隊とするのかで、軍内部の調整が難航している。

 戦力規模についても、派遣条件という大元が決まらなければ何も決められん。」

「あーいつもの希望者多数による意見具申の山か、俺がやる、俺がやるって、ちっとは酒でも飲んで頭を冷やせって言ってやるべきだろ。なあ、嬢ちゃん。」

「皆、何かをしたいのです。聖務を承るという事は大変名誉なことですから。」


 そう語った巫女が、飲み干して空になった杯を彼に戻し、再度酒を注ぐ。


「彼らにとってみれば、聖務を果たす事が一種のステータスシンボルになるからな、俺も気負いすぎるのもどうかと思うが。」


 まだ仕事中であるクラウス大提督は、軽く口をつけるだけに留めている。


「で、向こうさんの状況は?あんたらの事だ、もう手のものを送ってるんだろ?」

「潜伏中の偵察艦隊からの報告によれば、侵攻中のEvil艦隊を撃滅したとのことだ。以後急速に戦力を回復しつつある。」

「やる気充分てやつか、で、泊地名ぐらいわかったのか?」

「全然だな。彼らには余り名乗りを上げる習慣はないらしい。」


 光学観測と超空間通信の傍受という姿を隠しての諜報活動では、入手できる情報にも限りがあり、短期間で成果を期待するのは無茶というものだろう。


「少し待て・・・。」

「どうした、貴官がこのぐらいでギブアップか?艦々酒場亭の名が泣くぞ。」


 飲み比べに突入していた両者を止めたのは、不意に届いた超空間通信だった。


「いや、酔いどれ親父から伝言だ、帝国はこの星系に艦を派遣したか?」


 ジャックポットが問題となっている星系名と座標をメモ書きにして渡す。


「いや、一応問い合わせてみるが、俺の知る限りにおいて、該当する星系に俺たちからは艦隊を派遣していないはずだ。なにがあった?」

「どうも所属不明の無人戦闘艦が単艦で、Evil艦隊相手に暴れているらしい。」

「別口か、あの戦域には艦々酒場亭以外の泊地はなかったはずだが、勢力を拡大した何処かの泊地が担当戦域を広げたかもしれんな。」


 敵を求めて担当戦域を拡大させるのは泊地にとって良くあることだ。

その結果として他の泊地と担当戦域が被ることになり、その折衝を発端として泊地同士が交流を始める流れが生まれる。

 同じ経緯で翻る御旗泊地も他の泊地と知り合い、交流を始めていたからだ。


「どうかな、無人戦闘艦には違いないが、艦型データにない大型艦らしい。」

「なるほどな、試作艦か新鋭艦か、だから真っ先にこっちに確認してきたのか。親父さんらしい。」

「とりあえず、接触してから考えるってよ。」

「おやじさんらしいな。何か掴めたら報告してくれ。」

「わかったわかった、伝えとくからもう一杯つきあえや。」


 ジャックポット提督が催促するように酒瓶を、クラウス大提督に向けるのだった。



これにて3章は終了です。

次からは、4章となります。

プロットがまだできていませんが、アリゼ連邦の攻防戦となるでしょうね。

頑張ります。


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