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大提督は引き篭もる。  作者: ティム
災禍の討滅者編
118/140

閑話 交渉の行方3

お待たせしました、ようやく完成です。

交渉の行方はこれにて終わり、まだ閑話は続きます。

評価、ブックマ感謝です。ブックマ1000人は超えたいかな。

楽しんで頂けると幸いです。


『此処は、N58などという名前ではなりませんわ。グレイトパール星系、私たちの主たる珠ちゃんがいるグレイトパール泊地ですわ。』


 そう言って、ルル大提督がアーク全権大使に発言の訂正を求める。


「失礼しました。グレイトパール星系となります。」


 アーク全権大使が訂正する。

 全権大使である彼が星系名を認めるという事は、対外的に言えばアリゼ連邦がその実効支配を認めたという事になる。

 それを承知の上で、彼はルル大提督の訂正を受け入れた。


「アリゼ連邦の即応可能な艦隊はすべて実効支配中の泊地同盟軍を無用に刺激しないため、イディナローク星系を本拠地として、周辺5星系に展開しており、現在も戦闘継続中です。」

「それにしちゃ、グレイトパール星系には来ていないのはどういう事だ。」

「その質問には自分がお答えします。この星系に進出していないのは、実効支配中の泊地同盟軍を無用に刺激するなという軍令部の通達に従ったからです。

 展開する艦隊を少数の船団護衛兼監視艦隊だけに留め、削減出来た艦隊は戦力予備としてイディナローク星系に留まり、各星系への増援任務に当たっております。」


 ライブラ号艦長ベルク・シュタインの質問に答えたのは、アーク全権大使ではなく彼の副官だった。


「戦闘エリア以外の敵戦力の浸透は確認されていますか?」


 ストーム号の艦長ルーティシア・マリア・スカイライトの質問に―――。


「少数ですが、発見や遭遇報告は上がってきています。しかし雇い入れた傭兵艦隊の投入により、撃退しております。」


―――副官がすらすらと答えた。


「そうですか、ありがとうございました。」


 護衛任務の不確定要素がひとつ減った事に、ルーティシアが安堵した。


『あなた方の情勢は理解しました。そのうえで返答しますわ。貴官の要求を拒否します。有人艦隊という不確定要素を、泊地内に駐留させるリスクが高すぎますわ。』


 純白の背景を背にしたルル大提督が、彼の要求を拒否する。

 当然といえば当然であるが、裏切らないという保証のない他国の軍隊を受け入れる国はなく、同盟国であろうとも他国の軍隊の駐留は、さまざまな問題を発生させるからだ。

 ましてや泊地駐留となれば、自国の首都に他国の軍隊を招き入れるようなものである。

 そんな暴挙を容易く許可出来る訳がなかった。


「あなた方の懸念も当然のものと承知しています。その上で拒否するかどうかは、アリゼ連邦があなた方に提示する対価を検討してみてから、再度お答えください。」

『つまり、これからあなたがあげる対価は、私たちが懸念するリスクを打ち消した上で、私たちの泊地にメリットをもたらせる自信があると、そう受け取ってもいいのかしら?』

「はい、それだけのものを用意したつもりです。」


 アーク全権大使がはっきりと肯定する。

―――もちろん、はったりである。

 用意した手札をどの順番で切っていくか、彼は思考を巡らせる。


「まず、提供出来るものとして、アリゼ連邦はN58星系の所有権を放棄し、以後グレイトパール星系として、あなた方の主権を認めます。」


 これは空手形のようなものである。

 アリゼ連邦としては、なにひとつ失うものがないからだ。


「次に、同星系について此方が調査していた全資料を提供します。」


 これも関係各所からは良い顔はされなかったが、アーク全権大使が各国に働きかけて集めさせたものだ。

放棄する星系の資料ならば提供しても問題なく、相手側の調査が進めば時間経過と共に情報の価値が下がっていく為、価値が高いうちに売り抜けた方がいいという理由からだ。


『どちらも微妙ですわね。』

「いえいえ、これはあくまで手土産です。交渉の成否に関係なく提供いたします。」


 アーク全権大使が少し大げさなジェスチャーを加えながら、無償で差し上げますよと口にした。

 手土産ひとつで相手に好印象を与えられるならば安いものである。

 この程度の条件では、代価の足しにもならない以上、彼は贈り物として使い捨てる事に決めていたのだ。


『そう、ならばありがたくいただくわ。』


 しかし、それは向こうも承知の上なのだろう。顔色ひとつ変えずに受け取っていく。

 彼女は手ごわいな。

 それがルル大提督に抱くアーク全権大使の印象だった。


「アリゼ連邦の参加国と認めた上で、連邦圏内の無条件通過許可。交易上の優遇処置、施設の賃貸料の支払い。さらに埋蔵量が優良な鉱山衛星の譲渡。といった処ですが・・。」

『要らないわね。まだ手土産の方が価値があったわよ。』

「でしょうね、私もそう思います。」


 ルル大提督の意見を受けて、アーク全権大使が手に持った資料をテーブルに置く。

 彼女は間違いなく気づいているのだろう。この条件で問題となるのは、前文として組み込まれたアリゼ連邦の参加国として認めるという一文である。

 後々拡大解釈しようとする意図が多分に込められたこの一文が、すべての交換材料をダメにしていた。


「では、ここからは本当の話し合いを進めましょう。」


 そう言ってアーク全権大使が仕切りなおす。

 彼の立場上、上からの命令には従わねばならなかっただけで、提案した結果として相手に断わられたという事実があれば名目も立ち、彼自身も受け入れるはずがないと判断していた条件に拘る理由がなかった。


「ルル大提督、少しいいか?」


 中立の立場としてこの会場を提供し、交渉の仲介役をしていたネージュ大提督が、ふたりの交渉を中断させる。


『なにかしら、ネージュ大提督?』

「手ごわい交渉相手との腹の探り合いが楽しいのも分かるが、こうして会議場を用意したんだ。もう少し本音で話さないか?」

『そうね、ここはあなたの船、ならばあなたの流儀に従いましょうか。』

「私もそうしましょう。手ごわい交渉ほど楽しく感じますが、今回ばかりは余り時間がかけられません。」

「裏で動いている連中がいるんだろう。何、よくある話さ。」


 したり顔で、ネージュ大提督が語る。


「否定はしません。」


 アーク全権大使も否定はしない。

 事実として、軍の一部がそういう動きをしているからだ。


「アーク全権大使、アリゼ連邦は帝国とも付き合いがあったはずだ。それなのに泊地同盟に仕掛けるつもりなのか?」


 ルーティシア艦長が、わざわざ手を上げて、律義に発言の許可を求めてから発言した。


「あー乙女教団か、やつらが絡めば帝国も動くかもな。」

「ベルク艦長、かも?じゃない、間違いなく帝国は動く。もし帝国関連で仕事を請け負うつもりがあるならば、翼の乙女教団の意向は常に意識しておくべきだ。帝国と教団はひとつに繋がっていると考えておくといい。」

「つまりズブズブの関係ってことか?」


 ベルク艦長が指で丸を作り、軽く振る。


「あーその編は説明しにくい事なんだが、相互扶助関係が一番近いだろうな。金で繋がるような安い関係ではないと思ってくれ。」

「なんとなく分かった、もっとめんどくさい関係な訳だ。」

「ルーティシア艦長、やはり帝国は動きますか?」


 会話の合間をついてアーク全権大使が問いかける。


「間違いなく動く、此処に泊地があると知ったならば、すぐに使節団の派遣くらいはするはずだ。・・・どうした、アーク全権大使?」

「ああ、失礼、ルーティシア艦長、帝国は知っています。いえ別件で帝国に確認をとる必要に迫られまして、本国経由ですが、私が此処の事を伝えています。」


 まさか扶桑級重戦艦の件が、こんなところに波及するとは思ってもいなかったアーク全権大使であったが、やらかした以上は仕方がないと割り切った。


「なるほど、ならアリゼ連邦としても、良い感じの落としどころで交渉を妥結しないと駄目な訳だな。」


 ベルク艦長の発言にアーク全権大使も同意する。


「そうなりますね。ルル大提督、あなた方の泊地に艦隊駐留が無理だとしても、この星系に防衛艦隊の駐留を認めていただきたい。現状このグレイトパール星系を経由する形で、アリゼ連邦各国はイディナローク星系に艦隊や補給物資を送っている。

 そして、民間輸送船も多くがこの星系を経由してアリゼ連邦各国に向かっており、この星系防衛は、アリゼ連邦としても戦略上重要視されている。」


 モニターに映るルル大提督が、横を向き誰かと相談しているらしい。やがて相談がまとまったのだろうこちらに向き直った。


『補給や整備施設は必要かしら?』

「出来れば、あると嬉しい。」

『貴方、何・・・分かったわ。現在GP6(第6惑星)に建築予定の要撃艦隊出撃基地兼資源採掘基地でよければ、共同使用してもよいそうよ。ただ、問題がふたつほどあるわね。』

「聞こう。」

『ひとつは艦のサイズ、1000メートル以下の艦ならば空ドックも用意出来るけれど、2000~3000メートル級のあなた方の戦艦が入渠可能な空きドックとなれば、すぐに用意しますとは言えないわ。

 1000メートル級以下の空きドックにしても、数が多くなれば用意する時間も必要になるわ。』


 彼女の問いに答えたのは副官だった。


「当面ではありますが、1000メートル級の重巡航艦を10隻前後、500メートル級以下の軽巡、駆逐艦を30~50隻が派遣されるでしょう。」

「その話は初耳なんだが、何処の軍が守りに着く予定だ?」

「傭兵です。エーデルシュタイン社が格安で引き受けてくれました。」


 その答えに酷くむせたのはルーティシア艦長だった。


「失礼・・・・あー、その、アーク全権大使、とても言いずらいことなんだが、エーデルシュタイン社の筆頭株主は翼の乙女教団なんだ。つまり、もう帝国は動いてる。」

「貴重な情報ありがとう。前向きに考えようか。ルル大提督、もう一つの問題点とは?」

『武器・弾薬の提供についてかしら、推進剤や食料はともかくとして、実体弾の口径が問題になるわね。ミサイルや砲弾、機動兵器や機銃座の弾薬なんかもそうね。

 あなた方の規格と泊地同盟の標準規格が違うらしくて、仲間から弾薬まで此方が用意するとなれば、生産量が不足すると指摘されたわ。』


 ルル大提督の懸念を払ったのはルーティシア艦長だった。


「ルル大提督、来訪する艦隊がエーデルシュタイン社の艦隊ならば、ストーム号と同じく泊地同盟の規格サイズでいけるはずだ。他国向け輸出モデルでない限り、エーデルシュタイン社ではすべて泊地同盟基準のはずだ。」

「副官、派遣される防衛艦隊は間違いなくエーデルシュタイン傭兵艦隊なんだね。」


 彼女の意見を聞きアーク全権大使は今一度副官に確認する。


「間違いありません。各国とも即応可能な艦隊はすべて投入しています。」

『ならば当面の補給はこちらが請け負いましょう。』

「ありがたい、対価として何を支払えばよい?」

『資源ですね。それ以上に情報を求めます。』

「了解した。出来る限り便宜を図るように手配しよう。」


 出来る人の参加する会議ほど動き出すと早く進む、その凡例の様に物事が決まっていく。


「意見いいですか?」

「なにかな、マイア・ユースティティア調査士官。」


 交渉の流れについていけず、いままで発言を控えていたマイヤ嬢が手を上げていた。


「有力な鉱床についてです。ビーナに確認した処、提供してほしい情報になかったとの事で開示していなかったのですが、私たちのチームは今回の調査活動中に3箇所ほど有力な鉱床候補を見つけています。念のため、提供される星系資料を確認してもいいですか?」


 泊地に提供される資料を確認して―――。


「1か所は記載がありましたが、二か所、未発見の場所があります。その情報も使ってください。」


―――マイヤ嬢が話し合いに花を添えた。




明日は祭り当番で、長々と拘束される予定です。

次の閑話は帝国の話になります。

4章開始はその後ですね。

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