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大提督は引き篭もる。  作者: ティム
災禍の討滅者編
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閑話 交渉の行方2

ああ、やっぱり遅れました。

交渉の行方2をお届けします。予想以上に長くなりそうな気配がしますが、3で終わらせる予定です。

お待たせして申し訳ありません。

現在の戦況はこんな感じになっております。


 アリゼ連邦使節団の旗艦グレイス型巡航艦オルター号から発艦した4人乗りの連絡艇に乗り込み、アーク全権大使と副官のふたりは指定された大型艦に向かった。


「やはりこの船は、グレイス号より大きいですね。」


操縦桿を握る副官が、これから向かう大型艦について話しだす。


「そうなのかい?」


暇つぶしと緊張の緩和を目的とした会話を求めている副官に気づき、アーク全権大使も彼の暇つぶしにつき合うことにした。


「ええ、詳細は軍機により明かせませんが、グレイス号は800メートル級、この船は全長1018メートル、全高788メートル、全幅820メートルと測定されています。」

「1000メートル級か、アリゼ連邦では大型巡航艦クラス、たしか泊地同盟では重巡クラスだったはずだ。」


 アーク全権大使は資料として持ってきた泊地同盟の情報に、そういう情報があったことを思い出す。


「船の大きさは戦闘力に直結します。少なくともこの船はグレイス号より強いという事です。」

「君は我が国の戦艦よりも強いと思うかね?」

「分かりません。我が国の2000メートル級のシャルルー型や3000メートル級のジェネルー型が負けるとは思いたくありませんが・・・・。」


 副官が自分の主観に基づいて感想を告げる。


「私もそうしんじているよ。」


 戦艦は貴重だ。

 それも3000メートル級ともなれば、1隻の建造費用を賄うのに国家予算の半分をつぎ込まねばならないくらいお高く、当然、その維持費もばか高いものになる。

 アリゼ王国でも2000メートルを超える戦艦クラスは8隻、アリゼ連邦の所属国家全体を合わせても30隻もない。

 箝口令により報道こそされていないものの、この大戦でネーエルン公国所属の2000メートル級戦艦クレスト号が、惑星リーヴェニの救援作戦で失われた事をアリゼ連邦軍令部は隠している。


「・・・大使、勝算はありますか?」

「正直、難しいだろうな。各国から引き出せた条件も芳しいものではない。」


 アーク全権大使は交渉の難しさを認めた。

 いくら友好、友好と口にしても自国の思惑が第一に来るのは仕方ないことだ。

 ましてや全体の為と称して、身銭を切らされるとなれば、なおの事である。

 それは盟主国であるアリゼ王国も変わらない。

 むしろ、盟主国であるアリゼ王国が渋ったことで、全体がそういう流れになったとも言えるくらいだ。


「それでもやり遂げる、その為に此処まで来たのだからな。」

「大使、ガイドビーコン捉えました。指示に従って乗艦します。」


 連絡艇が副官の操縦に従い、ゆっくりと機首をビーコンに向けて移動する。

 キャノピー越しに大型艦の外部ハッチが開かれているのが見えた。


「どうやらあそこから入るようですね。では大使、行きましょうか。」

「ああ、任せる。」


 アーク全権大使は副官に了承を告げ、これからの交渉の流れをシュミレーションする。

 彼を口説き落とし、その背後にいるクライアントとの交渉を成功させる。

 その為に何をすべきか、あの男との話し合いの中で、探っていかねばならないだろう。



 連絡艇が艦内に入ると、その後方でゆっくりと外部ハッチが閉ざされる。

 どうやら、私たちが最後に到着したらしい。

 発着場らしきスペースには、数機の連絡艇が先に並んでいた。


「重力0.5G、大使、格納庫内には大気はありません。ノーマルスーツの着用と酸素供給機の作動確認をお忘れなく。」

「了解した・・・準備よし、貴官は?」


 副官の注意を受けたアーク全権大使は、手早くノーマルスーツの空気漏れの有無と酸素供給機の酸素残量と稼働状況を確認する。


「問題なしです。ではキャノピーを開けます。」


 薄く空いたキャノピーの隙間から、連絡艇内に残っていた空気が漏れ出し、その流れが無くなった時点で副官はキャノピーを完全に開放した。


『海賊戦艦ブランシュ・ネージュ号へようこそ、歓迎するぜ。』


 エアロックらしき扉を開けて、男が手を振っている。

 遠目では分からないが、通信機越しに聞こえるその声は、モニター越しに何度も話し合ったあの男ベルク・シュタイン艦長に間違いないだろう。


『こちらもだ、こうして直接会えてうれしいよ。君とは実りある交渉を期待する。』

『そうなることを期待しますよ。』


 ベルクとアークがあいさつ代わりにがっちりと握手を交わした。



 3人は昇降機に乗り込み上階を目指す。


『もうノーマルスーツは脱いでもいいぜ。』


 ベルクが此処が安全である証明として、ノーマルスーツのヘルメットを脱いでみせる。


「しかし、驚いたな。泊地同盟にも有人艦があるとは思わなかった。」

「こいつはそういう時代の船ですからね。嬢ちゃんの話だとアリゼ連邦の歴史の教科書にも乗ってるそうですよ。」

「まて・・・ブランシュ・ネージュ・・・海賊戦艦ブランシュ・ネージュ号か、これがあの船なのかっ。」

「ん?、貴官は知ってるのか?」

「アーク全権大使、ブランシュ・ネージュ号ですよ、自由海賊船団の旗艦の名前です。映画やドラマにもなったあの船ですよっ!」

「ベルク氏、その話は本当かい、正直信じられないんだが・・・・。」

「まぁ、船自体は発見、回収したクライアントの手で修復されたらしいですね。ただこの船のメインシステムは当時のままだそうで、詳しい話は本人から直接聞いてください。」

「本人・・・対話可能なインターフェースがあるのかね?」

「正確には、それが出来る人型ユニットですが、おっとそろそろ着きますよ。」


 ベルクが2人を前にして会話を打ち切る。

 そして開かれたドアの先に続く通路へと案内していく。


「さあ、此処が会場となる艦橋です。」

「艦橋?てっきりゲストルームかブリーフィングルームに案内されると思ったんだが?」

「設備の都合って奴でね、ここが一番都合が良かったってだけですよ。」


 先頭を行くベルクに従い、ふたりが艦橋に入る。


「クロスボーン級海賊戦艦ブランシュ・ネージュ号にようこそ、私がこの艦のソウルコアブランシュ・ネージュ大提督だ。話は其処にいるベルク・シュタインから聞いている。」


 艦長席に坐した人型インターフェースユニット(メイドワーカーの原型モデル)がクルリと椅子を廻して3人に向き直る。


 自らをブランシュ・ネージュ大提督と名乗った艦長席に座る深紅に染まるロングコートを羽織った銀髪の女性。

 透けるような白い肌、女性が羨むグラマラスなわがままボディを、白を基調とした膝丈までのワンピースで隠しており、彼女の凛として立つその雰囲気に台無しにするような、猫柄のワンポイントが入った紫のヘアバンドを付けていた。

 アーク全権大使には、どう見ても生身の女性にしか見えなかった。


「さて、役者も揃ったようだし、始めるとしよう。」


 ネージュ大提督が立てかけていた指揮杖で軽く床を叩くと、何もなかった空きスペースの床が開き、作戦会議用の長方形型の仮想デバイス付きテーブルと椅子が表れた。


「海賊らしく席順は定めない。適当に席につきたまえ。」


 彼女は集まった人たちに着席を促す。


 艦長席に座るネージュ大提督から見て―――。

 右の手前から、ライブラ号艦長兼プロミネンス社社長のベルク・シュタイン。

 2番目に、ソー号艦長。

 3番目に、ヴァールハイト号艦長。

 4番目に、リップル号艦長が席についている。


 対面には、ストーム号艦長ルーティシア・マリア・スカイライト。

 その右隣りに、マイア・ユースティティア調査士官。


 左の手前から、アリゼ連邦全権大使アーク・ストレイジ。

 2番目に副官が座った。


 後は―――。


『ルル・ビアンカ・セラム大提督です。お話聞かせてもらいましょうか。』


 白一色に染まった背景を背にして立つ、金髪の女性が正面モニターに映っていた。

 ルル大提督は黄金の髪を軽くかき上げて、座席に座る人間たちを睥睨する。


 聞いてないという顔をしたアーク全権大使に―――。


「なんだ?そっちには時間がないんだろ、クライアントの許可も取ったし、その意向でもある。手間を省いてやったんだ、感謝しろよ。」


―――ベルクが、ふてぶてしく言い切った。


「さて、どんな話を持ってきたのか、聞かせてもらおう。」


 ネージュ大提督がアーク全権大使に発言を促す。

 交渉を任された彼にとって、想定外の出来事であったが、シュタイン氏の言うように手間が省けたことは間違いない。

 こうして直接交渉できる機会が得られた以上は最大限に活用すべきだろう。

 主導権をとられかけたアーク全権大使が、大きく息を吸って気持ちを立て直す。


「私はアリゼ連邦から全権大使として派遣されたアーク・ストレイジです。こうして会談する機会を頂けた事に感謝いたします。さて、単刀直入に申します。」


 恐らく交渉内容も、こちらの交換条件についても、あの男からクライアントに伝えられているはずだ。


 そう予測したアーク全権大使が―――。


「設備の整った宇宙港を無期限でお借りしたい。」


―――みずからの要求をまず口にした。


「断られると分かっていて、その条件を口にするのか?」


 ネージュ大提督の言葉にアーク全権大使が頷く。


「はい、代価として此方が用意したものをお話する前に、まずアリゼ連邦の置かれている状況をお話します。これはあなた方にとっても有益な情報のはずです。星間航路図を・・・・。」

「これで、いいかな。」


 長方形テーブル備え付けのデバイスを操作して、立体映像化した星間航路図をテーブル上に表示する。


「ええ、丁度いいサイズですね。まずは現在の交戦エリアについてです。」


 アーク全権大使が、一つの星系を拡大する。


「この星系がネーエルン公国の入植惑星リーヴェニがあるリーヴェニ星系です。」


 最初に入植した惑星名を星系名とする伝統に沿い、リーヴェニ星系と名付けられた星系に陥落を示すバツマークを付けた。


「居住惑星としてはリーヴェニが最初に陥落しました。死者・行方不明者の総数は不明、とり残された住民の安否も不明です。」


 続いてアーク大使が、30光年圏内にあるふたつの星系にバツマークをつける。


「このふたつの星系には居住惑星こそありませんが、こちらのM18星系には四基の宇宙コロニーと施設防衛艦隊が存在しました。戦争を避けるために全コロニーから住民の避難は成功しており、防衛兼監視の任を帯びていた防衛艦隊が展開していましたが、敵艦隊との交戦開始の知らせを最後に、連絡は途絶、軍令部は全滅したものと判断しています。」


 最後にアーク大使がひとつの星系を指す。


「此処がネーエルン公国の主星イディナロークがあるイディナローク星系です。現在の戦闘宙域はイディナローク星系と同星系から30光年以内にある5つの星系であり、その5つの星系のひとつが此処、N58星系となります。」


 アーク大使が説明を区切る。

 全員の様子をうかがう彼にルル大提督が静かに告げた。



残念なお知らせがひとつ、明日、台風の暴風雨の中、出勤です。

・・・安全って何でしょうね。



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