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大提督は引き篭もる。  作者: ティム
災禍の討滅者編
116/140

閑話 交渉の行方1

お待たせしました。

1日遅れましたが、投稿します。

アリゼ連邦との交渉と周辺星域の情勢が語られる予定です。

 アリゼ連邦から派遣された使節団の旗艦グレイス型巡航艦オルター号が、護衛艦として2隻の駆逐艦を率いて、N58星系(グレイトパール星系)に侵入していく。

残りの護衛艦隊には、この宙域を通る宇宙船団の監視と護衛の任が与えられた。


「機械知性より、本艦隊に向けて星系退去勧告が出されています。」

「無視しろ、第二戦闘配置発令、これより本艦隊は交戦宙域に侵入する。各艦隊の観測員は超空間観測並びに宙域監視を厳とせよ。」


 グレイス型巡航艦オルター号の艦長から艦隊に向けて発令がだされ、艦橋の雰囲気も引き締まったものに変わった。


「念のため、電磁障壁の出力をあげます。」


 副官の意見にオルター号艦長が了承を告げる。


 宇宙という世界は厄介だ。

 光速で飛び交うレーザー光はエネルギーが完全に消失する最後の一瞬まで飛び続け、ミサイルや実体弾は推進剤を使い切っても何かに衝突するまで止まらない。

 数時間前、或いは数日前に起こった交戦の結果、大量に発生した流れ弾がデブリとなって艦隊を襲撃することもある。

 たとえ確率的には、100万分の1であったとしても、言い換えれば100万回に1回はあたるという事であり、その当たった1回で自分が死なない保証は誰にも出来ない。


 そして、これから進む宙域は交戦宙域。

 こうしている今も数百万キロ~数千万キロ先では異性文明種同士の戦闘が起こっており、たとえ戦闘宙域から1000万キロ離れていたとしても、理論上レーザー兵器ならば34秒で到達する。

 もちろん到達前に減衰しきって消滅する可能性もあるが、艦長として乗組員の安全を守るつもりがあるならば、留意すべき案件だった。


「本艦隊への星系退去勧告、引き続き受信中。返答しますか?」


 通信オペレータからの声が響く。


「通信手、発信源に向けて返信送れ、本艦隊に交戦の意思なし、と。」

「了解しました。こちらアリゼ連邦使節艦隊旗艦オルター号、以下2隻、本艦隊に交戦の意思なし、繰り返す、本艦隊に交戦の意思なし―――。」

「アーク全権大使、これから先は貴官の安全の保障は出来ません。それでも進みますか?」


 オルター号艦長がアーク全権大使に問いかける。

 それは、星系退去勧告を無視するという決定と、いまならばまだ引き返せるという二重の意味での最終確認だった。


 星系退去勧告とは戦闘宙域で生じた大量のデブリや偶発的な戦闘に巻き込まれない様に配慮する為に行うのであり、それを無視して航行した場合、たとえ交戦に巻き込まれて被害を受けたとしても、なんらかの保障や賠償が受けられる事もなく、最悪の場合、敵対的行動とみなされる事もある。

 その危険を覚悟した上での星系侵入である。


「頼む、アリゼ連邦の未来の為、貴官等の力を私に貸していただきたい。」

「微力を尽して。」


 オルター号艦長とアーク全権大使ががっちりと握手を交わし合う。

 それがアリゼ連邦使節艦隊が危険を犯すと決めた瞬間だった。


 グレイス型巡航艦オルター号は進む。


「空間震感知、感3、6時方向、距離52万キロ。」

「船速一杯、振り切れっ!」


 出現するのはすべて敵、その考えの元、使節艦隊を率いるオルター号艦長は、確認よりもまず距離を離す事を徹底していた。

 予測通り、重力震を起こしつつ出現した3隻の小型艦、敵味方識別をするまでもなく敵艦隊と断定できる艦隊の出現を後方モニターで確認し―――。


「敵艦隊進路変更、離脱軌道に移ります。」


―――距離を離したのが良かったのだろう、敵艦隊は襲撃を諦め艦隊から離れていった。


 アーク全権大使もほっと胸をなでおろす。

 2度目の交戦も避けられた。


「警戒は厳に、第二警戒配置のまま、各員交代で休憩せよ。先は長いぞ、へばるなよ。」


 航海長に命じて速力を巡航速度に戻させた後、オルター号艦長が全艦隊に休息を入れさせる。


「アーク全権大使、どうぞ。」

「ありがとう。流石に精鋭揃いと呼ばれる第8艦隊だな。安心して任せられるよ。」

「恐縮です。」


 既に顔なじみになりつつある副官から珈琲を受け取り、一口飲む。


「空間震感知、感2、本艦正面、距離28万キロっ。」

「艦隊60度回頭、主砲1番、2番、エネルギー充填開始、砲塔旋回、出現位置を指向せよ。まだ撃つなっ。」


 万が一もある。

 固唾をのんで見守るアーク全権大使も艦長の様子を見守っている。


「空間震感知、感1、2時方向、距離32万キロ。正面所属不明艦隊、重力震感知、来ますっ。」

「第1船速、第一戦闘配置発令、交戦準備。」


 逃げきれないと判断したのだろう、オルター号艦長が第一戦闘配備を発令するが、休息を命じたばかりで、艦橋要員の戻りが悪い。

 アーク全権大使も受け取った珈琲をまだ飲み終わっていないぐらいの時間しか経ってないからだ。

 正面に現れた小型艦2隻が、艦首をこちらに向けて交差軌道に入る。


「敵艦発砲、レーザー照射きます。」


 観測員が告げる声とほぼ同時に、着弾を示すアラームが鳴る。

 だが、オルター号への命中は1射のみであり、艦を護る電磁障壁でほぼ減衰に成功したらしく艦体ステータスにダメージシグナルは灯っていない。

 しかし、護衛駆逐艦に当たった分はそううまくはいかなかった。

 きっちり電磁障壁を貫通して被害も生じたらしく、被弾箇所らしき場所に爆発が生じている。


「護衛艦レオパール号左舷に被弾小破、戦闘に支障なし。」


 いまレオパール号では、あの爆発で生じた被害を軽減する為に、ダメコン要員が必死に走り回わっているのだろう。

 情報解析によると、敵艦から放たれたレーザー照射は8射、1艦あたり4門のレーザー砲を照射したということになる。


「目標敵1番艦、主砲1番、2番、撃てぃ、主砲3番、4番エネルギー充填。全副砲目標敵2番艦、進路上を掃射せよ。」


 オルター号艦長からの指示が矢継ぎ早に飛ぶ。

 先制攻撃こそ許したものの、充分に引き寄せてからの砲撃はレーザー砲2門の命中を発生させ、一呼吸遅れて放たれた2隻の駆逐艦からの一斉砲撃により、幸先よく先頭の1隻を片づけることが出来た。

 しかし、残り1隻が進路を変更しない。


「交差軌道、いや、このままだと追撃戦か巴戦になるか。」


 アーク全権大使が自分なりに戦況を分析している。

 正式な要員ではない彼が、戦闘中に出来る事は神に祈るぐらいだ。


「所属不明艦1、重力震確認、来ますっ。」

「お代わり来るぞっ1~4番、艦対艦ミサイル装填。」


 艦長の指示が飛ぶ。

 主砲の1番、2番は排熱中、副砲群は接近中の敵2番艦を攻撃中で使えず、3番、4番主砲は発射に向けてエネルギーを充電中。

 残りの主砲は射角の都合で撃てず、3番、4番主砲の充填完了までを、彼はミサイルでしのぐつもりなのだろう。


「所属不明艦は敵にあらず、艦型確認、泊地同盟の軽巡クラス、スピリット級要撃軽巡航艦です。」


 即座に軌道変更して離脱に掛かる小型艦1隻を追いかけて、双胴型戦闘機のようなスピリット級要撃軽巡航艦が追いすがる。

 レーザー照射に追い立てられるように離脱軌道に移った敵艦が速力をあげて離れていく。

 こちらを完全に無視して、そのまま2隻がほぼ同時タイミングで超空間転移に入り消えていった。


「第一戦闘配備解除、第二戦闘配置に移行、引き続き宙域監視を厳とせよ。」


 了解の声が並び、休憩し損ねたクルーが再び席を立つ。

 ライブラ号の艦長ベルク・シュタイン氏が指定した会合座標までは最短でも1日、最長でも3日はかかるだろう。

 短距離超空間跳躍を行うか否かは、艦隊司令官であるオルター号艦長が決めることであり、どちらの方法を選択しても会合予定時間には間に合うはずだった。


 不思議な事に3度目の襲撃を最後に、敵艦隊からの襲撃はパタリとやんでいた。

 此方を監視する目的なのだろう、泊地同盟の哨戒艦隊と思われる小艦隊が、つかず離れずの距離を保ちつつ同行している。

 監視役の艦隊を引き連れた旗艦グレイス型巡航艦オルター号以下2隻の駆逐艦からなる使節艦隊が指定座標に到達した時、既に交渉人である有人船団は到着していた。


「艦長、駆逐艦ライブラ号以下5隻、並びに、その後方に不明中型艦1隻、同大型艦1隻を確認。どちらも艦型データにはありません。」

「ここにきて、さらに新型艦が出てきたのか。データの収集を急がせろ。」

「艦長、ライブラ号から通常回線にて通信が届いています。」

「繋いでくれ。」


 アーク全権大使が頷いたのを確認してから、オルター号艦長が通信オペレータに繋ぐ様に指示を出す。


『よく来たな、歓迎するぜ。』

「言われた通り、やってきたぞ。貴艦への乗船許可を求める。」


 正面モニターに映る男ベルク・シュタイン艦長に、アーク全権大使が席を立ち向かい合う。


『まぁ、そう急ぐなって、後ろの大型艦が見えるだろう。会合場所はあそこだ。連絡艇か艦載機できな。いいもの見せてやるよ。』

「いいだろう、艦長、連絡艇を借りるぞ。」

「シュタイン氏、護衛をつけてもいいか?」


 アーク全権大使の要請に応えず、オルター号艦長が質問をぶつける。


「当然だな、ただ2~3人にしとけよ、それと節度をもって行動できる奴にしろ、暴れられたら俺たちも迷惑する。」


 モニターに映るベルク艦長が軽く肩をすくめて言った。


「こちらから交渉の糸口を潰す馬鹿はいない。艦長、護衛はひとりでいい、何を言われても自制出来る者を紹介してくれ。」

「ならうちの副官を連れていくといい。艦隊の内情にも詳しく護衛兼オブザーバーにもなれるだろう。」


 アーク全権大使の言葉に頷き、オルター号艦長が彼ならばと、自分のもっとも信頼する副官を紹介する。


「助かる。ここからは私の戦いだ、貴官らの奮闘に感謝を。必ず成果を持ち帰る。」


 アーク全権大使が艦橋にいる全員に向かって深々と頭を下げ、副官を伴って艦橋を後にした。




次は10月11に出来れば投稿予定です。

また遅れたらご容赦を・・・・。

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