失うという事。
三章本編のエピローグとなります。
いつもと違うグルグル案件の顛末笑ってください。
評価、ブックマ感謝です。
楽しんで頂ければ幸いです。
ブンっと音を立てて、盛大に空振る木槌。
「貴方、わたしは一撃勝負と言いましたわよね。そう言われて何故そんな名前をつけようとなさるのかしら?」
ルル大提督に首根っこを掴まれたうさぎのぬいぐるみが、手だけで木槌をブンブン振り回している。
やる気である、こいつは徹底的にやる気である。
俺は荒ぶるぬいぐるみを警戒しつつ、ルル大提督の質問に回答する。
うむ、シンプルイズベストであるな。
外見的特徴として、そのうさぎのぬいぐるみは、かわいいとされるジャンルに入るものである。故にかわいいうさぎのぬいぐるみであるな。
完璧である。
「却下です。貴方、かわいいは名前にはなりませんわ。」
俺はルル大提督の指摘を受け、作成された命名候補からかわいいを含む名前を削除する。
がっつりと減ったのであるな。残された選択肢はふたつ、ここまで厳選された以上は正解があるはずである。
木槌うさぎ―――。
ブンブン、と荒ぶるうさぎが木槌を振るう。
ぬいぐるみうさぎ―――。
より激しく振り回して、荒ぶるうさぎが怒りを主張する。
なんと、両方不正解であるか、
「貴方、その命名も却下ですわ。いい加減バージョンアップしたらどうですの?」
失礼であるぞ、ルル大提督、常にバージョンアップは続けているのであるな。えー嘘でしょうみたいな表情はやめるのである。
ぐぬぬ、何がいけない。
グルグル、グルグル―――。
「もっと、もっとだ棟梁、男になれっ!」
「珠ちゃん、ガンバ。」
うさぴょん―――。
ガツンと、荒ぶるうさぎが投げた木槌が、俺に直撃する。
どうやら気に入らなかったらしい、俺に当たって床に落ちた木槌が光に変わり、燐光となって散っていく。
そして、うさぎの手には再び木槌が現れ、何の躊躇もなく投げつけてきた。
やめるのである。
やめるのであるぞ。
傷が、傷がつくのである。
5投目を投げつけようとしたうさぎのぬいぐるみを―――。
「あなたも調子に乗り過ぎです。」
―――容赦なくルル大提督が膝蹴りを叩き込み、おとなしくさせた。
彼女に掴まれたうさぎのぬいぐるみが、ぐったりとした様子で四肢を垂れ下げている。
「うわぁ、さすがルル大提督、過激だー。」
「あなたもですっ!」
ルル大提督が手首だけで投げるクイックモーションで、手に持ったぬいぐるみを投げつける。
「キャッチ。」
前に飛び出したパピオン隊長が、飛んできたうさぎのぬいぐるみを両手でキャッチして散歩で踏み切る。
「アンド。」
たわわな胸を躍らせ、ジャンプ力だけで高々と舞い上がった彼女から―――。
「シュート!」
―――放たれるぬいぐるみが、俺に向かって飛んできた。
俺は見た。
ぐったりとした様子だったうさぎのぬいぐるみが、クワっと顔を上げて力いっぱい木槌を振り上げた瞬間を―――。
「カット。」
しかし、周回軌道中だった暴君タマゴがその軌道を変えて激突、むりやり軌道を変えられたうさぎのぬいぐるみが―――。
「ゴ~ル♪」
「ゴール」
―――仕事中だった喋る工具箱チャンプの中に飛び込んだ。
ご丁寧にも工具箱の蓋をフェザーとシエル提督がふたりして抑え込み、開かないように封印している。
中でぬいぐるみが暴れているのか、巻き添えを食らったチャンプが抗議しているのかは分からないがガタガタと動く工具箱は一向に動きを止めない。
・・・・ひとまず危機は去ったのであるな。
俺は出撃準備が完了していた第2次水資源輸送艦隊が、いつの間にか出航しているのを確認する。
ついでにウェスタ救援艦隊も短距離転移を終えて通常空間を加速しつつ、戦闘宙域だった超空間通信網障害宙域に向かっているところだった。
経過ログ上で確認できる記録からは、トラブルらしいトラブルもなく順調そうである。
さすがグルグル案件である。
時間経過がおかしいのであるな。
「旦那様、命名がまだですが、あれはどうしますか?」
うむ、残念であるが泊地運営委員会に返却するのである。
さすがに不確定要素を身内に抱える余裕が俺にはないのであるな。
「やはり、そうなされますか。」
む、ウルにしては残念そうであるな。
「いえ、広がった休憩広場にマスコットキャラがいれば、少しは華やかになるかと考えただけです。ほら、見てください。人がいないとガランとしてて寂しく感じませんか?」
寂しくであるか・・・・・たしかに人のいない場所はそう感じるものであるな。
しかしあの凶暴なうさぎがマスコットになれるのであろうか?
思案する俺の様子を伺っているか、あれほど騒がしくガタガタ動いていた工具箱が静かになっている。
ならばこの件は、ウルに委細任せるのであるな、責任をもって面倒をみるのである。
「はい、この完璧執事ウルにお任せください。」
完璧執事ウルが軽いお辞儀をして、了承を伝えてくる。
そして俺は再びグルグル案件に取り掛かることになった。
生もの、白い悪魔、ちびうさ、うさ太郎、ハンマーラビット、うさぎ・・・。
思い出したようにガタガタ動いていた工具箱チャンプだったが、フェザーとシエル提督に抑え込まれた状態では中身が飛び出ることもなかった。
やがて俺の酷すぎるネーミングセンスに抗議する気力も失ったのか、最終的にはおとなしくうささ子と命名され、ぐったりとした様子でウルによって救出されていた。
そして普段は動かないことも多いが、ふと気が付くといる場所が変わっているという不思議なうさぎのぬいぐるみうさ子が、休憩広場に置かれることになったのである。
「さて貴方、どの施設を担当管理させるのですか?」
施設?・・・おお、そうである、うさ子は施設コアであった。
ならば、前々から要請のあった食料施設を任せるべきであろう。
俺は、うさ子を食料施設管理コアとして配備した。
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【指令】食糧施設コアを設置せよ。が発令されました。(10/10)
報酬として、功績点100点、大型輸送艦コインを受領しました。
【泊地運営委員会】おめでとうございます。指令達成数が10に達しましたので、特別報酬が支払われます。
特別報酬として、惑星改造基礎理論を受領しました。
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ようやくグルグル案件も終わったのであるな。
そして、星系外に向かった討伐艦隊の一部が、やっと超空間通信網障害宙域から脱出できたらしく、着々と超空間接続が回復しつつあった。
同時に転送されてくる情報によって、通信遮断されていた時間帯の戦闘詳報が更新されつつある。
しかし、戦闘の全貌が判明するのには、まだ時間が掛かりそうであるな。
また、自力で帰還可能な損傷艦は既に超空間跳躍の準備に入っており、こちらも損傷艦の受け入れ準備もしなければならないだろう。
俺は新たに加わった4人の配下を見渡す。
トンボ羽の小妖精シエル提督、黒服の企業戦士アイン提督、人馬騎士ディアナ隊長、何かと問題を起こしそうな悪魔っ娘パピオン隊長。
「やーん、照れるー、そんなに見つめちゃ、い・や。」
パピオン隊長が身体をくねらせ、露出過剰なビキニ姿を漆黒の蝙蝠羽で隠す。
・・・・これも個性であるな。
泊地の主たる俺は、貴官等の配属を歓迎するのである。
特にシエル提督とアイン提督のどちらかには、主星イディナローク方面に向かう強行偵察艦隊を率いてもらわねばならない。
その上で問いたい、貴官等の配属を決めねばならないのであるが、なにか希望はあるか?
「小柄で早い船がいいです。ちょっと大きいのは苦手です。」
最初に声を上げたのはシエル提督だった。
「艦種は問いません、指示される任務にあった最適な船を支給してください。」
次に希望を告げたのはアイン提督だった。
「人馬型の戦機を所望したい。」
そして人馬騎士ディアナ隊長が続き―――。
「えーとあたしみたいに~、セクシーでキュートな機体にしてね♪」
悪魔っ娘パピオン隊長がウインクひとつして、最後を締めくくった。
「いま使用可能の艦となると、補給修理中のファイネルⅡ級高速軽巡航艦、元プラム艦長の乗艦だったアインホルン級重巡航艦、あとチェリー艦隊長の乗艦だったコーラル級巡航母艦かしら、残りの主力艦はまだ帰還していないわ。」
ルル大提督の説明に俺も同意する。
現状戦力において、偵察向きの艦はファイネルⅡ級高速軽巡航艦であろう。
この船を旗艦として、軽巡と駆逐艦、偵察艦で編成した2~3個艦隊が妥当であろうか?
「ですわね、また要請頼みになるのが悔しいですが・・・・。」
其処は妥協するしかあるまい。ハウンド級高速要撃駆逐艦を増産配備した代償であるな。
俺は残された功績点を使い要請を―――。
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【報告】戦果報酬を受領しました。
駆逐艦級 64隻 50×64 3200ポイント
巡航艦級 43隻 300×43 12900ポイント
重巡航艦級 4隻 500× 4 2000ポイント
戦艦級 6隻 1000× 6 6000ポイント
女王種級 1隻 3000× 1 3000ポイント
大戦艦級 1隻 5000× 1 5000ポイント
―――計 119体 功績点 +32100ポイント
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―――その前に集まった戦果報告と損害報告が届いた。
そして俺は、チェリー艦隊長以下6名の乗るシサク重戦闘母艦が戦闘宙域に到着しなかった事実を知ったのだった。
俺が経験する初めての、同時にグレイトパール泊地初の、戦闘中行方不明だという報告だった。
閑話を2~3話挟んで、4章ですね。
4章ではいよいよ帝国が絡んできます。
次回は10/8日ごろ公開予定です。




