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大提督は引き篭もる。  作者: ティム
災禍の討滅者編
113/140

新たなる仲間を1

久しぶりに予約投稿できました。

ブックマ900件突破感謝です。

楽しんで頂けば幸いです。

 ふたつの赤いクリスタルから現れたのは、地味な紺色メイド服に身を包んだ犬耳メイド娘と床に落ちてドロリと広がった銀色をした金属生命体だった。

 ドロドロの液体がグルグルと渦を巻いて小さくなり、銀色の球体となってピタリと停止する。

 つかつかとふたりに近づいたルル大提督が、犬耳メイド女の桃色の長髪をかき分けて、その耳の形状をじっと確認する。


「な、なんでしょう。」

「黙って質問に答えなさい。あなたのケモミミは猫かしら?」

「い、いえ犬です。」


 質問の意図が分からず、正直に答えたらしい犬耳メイド娘に―――。


「そう、ならばよし、今日からウェスタと名乗りなさい。貴方!」


―――ルル大提督が抱きしめて命名した。


 何が良しなのか、ルル大提督がその理由を語ることなく、俺は彼女のお願いに応えて、名前入力パネルにウェスタと入力する。

 うむ、何もしないうちにグルグル案件がひとつ消えたのであるな。

 良きことである。


「始めまして、ウェスタ艦隊長です。今日からお世話になります。」


 うむ、よく来たのである。俺はグレイトパール泊地の主、珠ちゃんである。呼びかけは好きに呼ぶとよい。


「ご主人様と呼んでもいいですか?」


 貴官の好きにせよ。これより貴官には救援艦隊を率いて、主力艦隊の救援活動にあたってもらいたい。乗艦並びに任務において、何か希望はあるか?


「出来れば、戦闘任務はご容赦ください。それ以外ならばなんなりとお引き受けします。」


 了解である。


 とりあえず、ホエール級大型補給艦を乗艦とし、各ドック艦と護衛艦兼曳航艦として駆逐艦をつけるのであるな。

 フェザー、ウル両名はウェスタ艦隊長の出撃を支援せよ。


「任せて、任せて~♪」

「旦那様のご用命確かにお引き受けいたしました。ウェスタお嬢様のご仕度、この完璧執事ウルに万事お任せください。」


 完璧執事ウルが、胸に手を当てて完璧な所作でお辞儀をするが―――。


「ウル様、ウェスタの事はどうか、ウェスタと呼び捨てにしてください。」

「いえいえ、完璧執事たるこのボクが、目上の人を呼び捨てになど出来ません。それだけはどうかご容赦ください。」

「それは出来ません。ウェスタはメイドです。執事にお嬢様呼びされるメイドが何処にいますか。どうかウェスタと呼んでください。」

「それは出来ません。いいですかウェスタお嬢様、この泊地に集う女性はボクにとって等しく仕えるべきお嬢様です。それを呼び捨てになど出来ません。」


 決して主張を曲げないウルとウェスタがにらみ合う。

 執事とメイドという職業に違いはあれど、どちらも自分の職業に拘りがあるのだろう、その話し合いは何処までいっても平行線のままだった。


「いい加減になさいっ! ふたりともプライベートの問題を任務に持ち込まない。この続きは仕事の後で決着をつけなさい。分かりましたわね、分かったならば速やかに出撃準備に入りなさい!」


 切れたルル大提督が一喝する。


「「分かりましたっ!」」


 ふたりが同時に返答を返し、慌てた様子で―――。


「ご主人様、行ってきます。」


―――ウェスタ艦隊長が駆け出した。


--------------------

【退出】ウェスタ艦隊長が退出しました。

--------------------


 うむ、とにかく艦隊編成であるな。

 俺は入手したばかりの戦艦コインと駆逐艦コイン3枚をチャリリンと投入する。

 残念ながら、大戦艦コインも特型ドックが必要らしく投入が出来なかったのである。

 チャンプの頑張りに期待であるな。


「大船に乗ったつもりで待ってろって。建築ならおいらの出番だろっ。」


 足元で黙々と作業していた喋る工具箱が声をあげる。

 うむ、チャンプに任せるのであるな。


 俺は積み下ろし作業を終えて、補給作業中の水資源輸送艦隊に補給終了次第出撃するように、命令を下す。

 まだグレイトパール泊地宙域内の安全が確認できないため、輸送船は随伴させず、そのままの艦隊編成で向かわせる予定だ。

 さらに、ウェスタ艦隊長が乗艦するホエール級大型補給艦に随伴する小ドック艦2隻と中ドック艦1隻、さらに曳航作業用に駆逐艦を用意するのであるな。

 駆逐艦は入手したばかりの駆逐艦コイン3枚から出現した分を当てるのである。

 ドック艦という支援艦艇は、小ドック艦なら軽巡級以下の艦船1隻、中ドック艦なら重巡級か巡航艦級を1隻か軽巡級以下2隻を艦内ドックに入渠させて修理や補給をしたり、入渠したまま空間跳躍も可能である。

 船と船を繋ぎ移動させる曳航では、通常空間しか移動させることが出来ない為、時間も掛かり、遠隔地となれば自沈させる事もある。しかし、このドック艦を使うことで空間跳躍も出来るようになり、より迅速な回収作業が可能となるからだ。

 艦隊運営にとって、補給艦や輸送艦と並ぶ、なくてはならない支援艦艇であった。

 俺は現在泊地に所属する3隻すべてのドック艦をウェスタ艦隊長に預ける事にした。


--------------------

【報告】駆逐艦コイン3枚→ゾロア級駆逐艦を受領しました。

            →バルシェム級駆逐艦を受領しました。

            →ソーシェム級防衛駆逐艦を受領しました。


【報告】ハウンド級高速要撃駆逐艦10隻を受領しました。

--------------------


 ぐぬ、駆逐艦にソーシェム級防衛駆逐艦が混じったのであるな。

 空間跳躍可能な2隻だけ、ウェスタ艦隊に編入するのである。


「ハウンド級は投入しませんの?」


 ルル大提督の問いかけに俺は否定の意思を伝える。


 ハウンド級10隻はGP6宙域の防衛と哨戒に当てるのである。

 防衛任務に当たっていたヴィオラ艦隊を引っこ抜いた以上、GP6の防衛戦力が低下しているのであるな。建設完了までの安全確保は必要であろう。


「ですわね。ならば早急に出撃準備を整えて出撃させましょう。ところで・・・・。」


 ルル大提督、下を見てはいけないのである。


「貴方、現実逃避はやめて、現実と向き合いましょう。」


 ふールル大提督、このアバターは艦長コアで間違いないのであるか?


「ええ、間違いなく赤いクリスタルから出現しましたわ。」


 俺の淡い期待を、ルル大提督があっさりと踏みにじった。

 自分が見られていると感じたのであろう、ふにゃって半分溶けて潰れていた銀色の球体がビシッと真球の形状に戻る。

 モデルは液体生命体か金属生命体であろうか。

 先ほどから一言も喋らないが、このアバターとは意思疎通が可能なのであろうか?


[出来る。]


 出来るであるか。液体の表面に文字が浮かんだのであるな。


[名前、頂戴、名前、名前、名前―――。]


 みょんと伸びた球体が、連続で文字を表示して、右から左へと流していく。

 うむ、銀の玉なので銀「貴方」ダメらしい。ならばシルバーでどうであろう。

 反対はないようであるな。

 本当に反対しないのであるか?

 シルバーであるぞ。


「貴方いくら私でも、これに洒落た名前をつけるのは難しいですわ。貴方はよくよく変なものと縁がありますわね。」


 照れるのであるな。


「褒めてません。ではシルバー、ようこそグレイトパール泊地へ、歓迎しますわ。」


 ルル大提督がしゃがみ込み、銀の球体シルバー艦長に向けて手を差し出し―――。


[よろしく、ルル。]


 ―――何処が正面かも分からない球体から触手を伸ばし、シルバー艦長がルル大提督の握手に応じた。


 問題は貴官の乗艦であるな。希望はあるか?


[なんでも。]


 なんでもであるか?


[駆逐艦、軽巡航艦、巡航艦、重巡航艦・・・。]


 なるほど理解したのであるな。

 しかし、現状泊地にある船は損傷艦や雑務艦、後は母艦級であるな。


 俺は現在乗艦として選べる艦船を3Dモデルとして表示する。

 シルバー艦長がまわりを見渡すようにゆっくりと廻る。


[これ。]


 触手を伸ばして絡めとった3Dモデルはパシオン級機動母艦だった。


[これがいい。]


 帰還の希望は理解したのであるが、現状パシオン級機動母艦は再戦力化待ちである。

 しばらく使用不能であるが、それでもよいのか?


[問題なし。]


 であるか・・・・タマゴ、隼の生産数はどうなっている。


「第2ロット、69機。」


 周回軌道を巡るタマゴが短く報告する。


 艦載機も不足しているが、それでも良いのであるか?


[問題なし。]


 シルバーの答えは変わらない。

 俺は彼?彼女?の意見を受け入れ、シルバー隊長にパシオン級機動母艦を進呈した。


「ねえ、シルバーは何故、パシオン級機動母艦にしたのかしら?」

[ルル、形、一緒、一緒。]


 そう表示してシルバー艦長が丸くなった。

 そして、3Dモデルのパシオン級機動母艦も球形型をしている。

 うむ、確かに一緒であるな。

 納得したのである。


--------------------

【報告】戦艦コイン→ミスリル級戦艦を受領しました。

--------------------


 ミスリル級戦艦であるか。

 これは損害艦の代艦として使うのであるな。


「貴方、残りのコアとの契約も済ましましょう。」


 まだ良かろう。現状、戦闘艦にも余裕がないのであるな。

 どれだけの損害を受けたか分からぬ以上は、急いで準備する必要もないのである。


「戦果報告があがるのは、まだかかりますわ。戦闘宙域はいまだ超空間通信網が復帰してませんから、そこから艦隊が抜け出して超空間通信網に再接続して、データ転送を受けないと集計も出来ないでしょう。という訳で、いま貴方は暇ですわよね?」


 ルル大提督がニコリと笑った。


 ルル大提督、笑顔で脅迫するのはやめるのであるな。


「貴方、暇なうちに頑張って終わらせましょうね。」


 優しくいっても無駄である。

 グルグル案件であるぞ。

 断固拒否である。


「貴方、だしなさい。」


 俺はしぶしぶと提督コインと施設Sコインをチャリンする。

 契約前の赤いクリスタルと青いクリスタルが表れる。


「貴方、まだありますわよね。」


 ルル大提督が情け容赦なく、わかっていますわ、早く出しなさいとばかりに催促してくるが、俺は拒否する。

 さすがに隊長コアに割り振れる機動兵器がないのであるな。

 現状での投入に意味がないのである。


「貴方。」


 俺は2枚の隊長コインをチャリンした。

 やはり俺は、グルグル案件からは逃れられない様である―――。



ルル大提督は猫耳以外ならセーフです。

猫耳アウトなお人です。

もしウェスタ艦隊長が猫耳だったならば、早々にお亡くなりになったでしょうね。

次回は10/5に投稿予定です。

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