表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大提督は引き篭もる。  作者: ティム
災禍の討滅者編
111/140

復讐女王の罠5

やっと完成しました。

おまたせして申し訳ありません。

読んで頂き感謝です。

 それは、女王種の発した引き裂けんばかりの慟哭だった。


 女王種が体を素材に構成した、無数のヒレのような構造体を震わせている。

 その構造体こそ、女王種の持つ事象界面干渉器官であり、通常空間になんら干渉する事なく、発生させた事象界面さえ揺さぶる女王種の絶叫が、超空間通信網を大きく乱れさせていく。


 各艦に搭載している超空間通信機器を通じて、耳を塞ぎたくなるような不協和音が響き渡り、艦隊決戦に参戦していたグレイトパール泊地艦隊に装備されている各艦の超空間通信機器や超空間探信機が、とんでもない高負荷に晒されて軒並みダウンしていった。


 被害はそれだけに留まらない。

 いや、発生した通信障害など前座でしかなかった。

 揺さぶられた事象界面の大きなうねりが、通常空間にも影響を与え、急速に低下する空間安定度に引きずり込まれるように、出現の兆候である空間震を発生させていた物体が出現できずに消えていく。

 その現象は事象界面の突破に失敗した時と同じものだった。

 空間跳躍の失敗という大事故を、人為的に引き起こす能力。

 それこそが、この女王種の獲得した力だったのだ。


 事象界面の突破に失敗して超空間に呑み込まれた物体がどうなるかは分からない。

 運よく想定外の座標に飛ばされるも脱出に成功するのか、それとも運悪くそのまま未来永劫、超空間にとり残される事になるのか。

 すべては神の振る賽の目しだいだからだ。


 そして、現実は非情だった―――。

 空間跳躍に失敗した第9波の艦対艦ミサイル群が、通常空間に出現することなく消えていた。

 通信障害が発生する前に、その兆候を捉えていたはずの多数の大型艦級も出現しなかった。

 そして、この戦闘宙域に向かって短距離跳躍を実行したチェリー艦隊長とプラム艦長が操るシサク重戦闘母艦もまた、この宙域に出現することはなかったのだ。


「超空間通信網ダウン、超空間通信機並びに超空間探信機、再起動するも高負荷により再度ダウン・・各艦に短距離レーザー回線により、艦隊再統合命令、成功。ヴィオラ提督より各艦に通達、短距離レーザー回線により各艦隊はリンクを確立せよ。

 現在、超空間通信網はダウンしている。グレイトパール泊地との接続は完全に途絶、珠ちゃんの情報支援は受けられない。各艦隊はこれより個別戦闘により、敵艦隊を撃滅せよ。」


 いち早く艦隊を掌握したヴィオラ提督だったが、不可解な行動を続ける女王種の行動には、疑問しか感じない。

 女王種の攻撃は、敵味方問わず大きな被害を与えていたが、来援するはずだった敵増援艦隊を事象界面の向こう側に放逐した敵艦隊の方が、その被害は大きいはずだ。

 いまの攻撃はタイミング的におかしかったと言える。

 新型シサク重戦闘母艦と共に6人の仲間が一瞬で失われたが、ヴィオラ提督は嘆くことよりも仕事を優先し、感情を理性で押さえつけ戦いを継続する。

 

 珠ちゃんがヴィオラ提督を見て、最初に冷たい印象を抱いたのは、さほど間違った判断ではなかったようである。


 女王種の行った攻撃は、技術的にはローレライシステムに近いが、ローレライの歌と違い、通常空間においては、間接的に空間安定度を低下させるという事象以外はまるで影響を及ぼさず、広範囲かつ超空間に限定した広域ジャミング攻撃として作用している。

 ただし消費するエネルギー量を賄う為なのか、己の生命力さえエネルギーに変換しているらしい女王種の生体波形が急速に衰えていくのが観測機器の反応から判明している事実だった。


 そんな女王種に、合流するつもりなのかデカ海栗型大戦艦が向かっていく。


「何処に行くつもりかしら、貴方の相手は私でしょう。全艦隊、稼働可能な全砲塔を敵大戦艦級に指向、総力砲撃、開始っ。」


 そうはさせじと、合流阻止に動くヴィオラ無敵艦隊は、十字砲列陣形から機動砲撃陣形に艦隊陣形を変更して、デカ海栗の移動ルート上の遮断にかかる。


 女王種を護るように残存する女王艦隊α群が、回避を意識した散開陣形から多方向からの同時突撃戦を敢行する。

 目標はデカ海栗型大戦艦級と交戦中のヴィオラ無敵艦隊ではなく、味方であるはずのデカ海栗型大戦艦級だった。

 しかし、1隻しか残存していない重巡級と6隻まで激減した高速駆逐艦級ではまるで相手にならず、敵味方問わずレーザー砲撃に晒されて、1隻また1隻と破壊され、沈んでいく。


 女王種からの攻撃はない。

 ジャミングに持ちうるリソースのすべてを費やしているのだろう。

 その絶叫は今も、事象界面を揺るがし空間安定度を引き下げ続けている。


 そして、残存した女王艦隊を潰しきったデカ海栗大戦艦級のレ―ザー攻撃が、女王種にも向かいだした時、女王種が温存していた戦力が、この宙域に到着した。

 それは深淵宇宙のはるか彼方から、第2亜光速度(秒速6万キロ)で突撃してきた小型艦級の群れだった。

 短距離跳躍を使わないことで、まったくジャミングの影響を受けなかったのだろう。

 命令をいつ下したのかは分からないが、光学観測や宙域レーダーで捕捉する限り、その艦隊機動には遅滞も遅延も感じられない。

 第2亜光速度(秒速6万キロ)で突撃する高速駆逐艦級の群れが突き進む。

 生体波形が語るこの艦隊の正体は、有人船団防衛戦の終盤において一斉に離脱撤退した後、そのまま所在不明になっていた高速駆逐艦級だった。

 おそらく戦闘途中で撤退した艦隊や出撃しなかった艦も艦隊に合流したのだろう。

 宙域レーダーが捉えた敵艦隊数は60隻を超えていた。


「小型艦ばかり67隻、このタイミングで出てきたの?」


 デカ海栗に対する攻撃の手を緩めないヴィオラ提督が、唐突に同士討ちを始めたEvil艦隊に困惑している。

 その小型艦群も、ヴィオラ無敵艦隊を無視してデカ海栗大戦艦級を目指し、躊躇なく突撃していったからだ。

 迎撃されることを怖れない無人艦隊のような散開突撃が始まる。

 デカ海栗大戦艦級からの攻撃に晒されて、次々に僚艦を失うが、その群れはさらに速度を増しながら突撃していき―――。


「まさか、挺身攻撃っ。」


―――ミサイルの様に激突した。


 実体のない光エネルギーであるレーザーの様な重量の存在しない兵器では、衝突してくる船という巨大質量物体を止めるのは難しい。

 なぜならば、船はミサイルと違い脆弱でもなく、実体弾よりも巨大な質量兵器となりうるからだ。


 当然の帰結として、激突の衝撃で高速駆逐艦級がバラバラに破砕されるが、体当たりによる衝撃と発生した衝撃波により、デカ海栗にも被害が発生する。

 その被害は。ヴィオラ無敵艦隊からの砲撃と合わさって、確実にその命数を縮めていった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 許せない。


 許せるはずがない。


 こんな結末は認めない。


 アオイのいるこの宙域で行われた凶事。


 女王種によって、6人の仲間が、4人の家族が殺された。


 許せないと、アオイ艦隊長の放つ悲しみも怒りもゴチャゴチャに混ざり合った激情に、機械仕掛けの荒ぶる竜が応えて翼を広げる。


 許す必要などないと、機械仕掛けの竜がその咢を開き―――。

 出力を大幅に増大させた四基の動力炉が、膨大なエネルギーを発生させる。

 荒ぶる竜が狙いを定め―――。

 アオイ艦隊長が激情のままに引き金を引く―――。


 ドラゴンブレス。

 竜の如くあれ、その設計思想に従い、リントヴルム級重レーザー重巡航艦の決戦兵器として竜頭内に搭載された重レーザー内蔵砲に膨大なエネルギーが注ぎ込まれ、極大なレーザー光が解き放たれる。

 それは後先を考えない、リントヴルム級重レーザー重巡航艦による全力砲撃だった。


 規定時間に達してもレーザー照射が途切れない。

 全力で稼働する熱変換発電機構が、発生した輻射熱さえ貪欲に電力に再変換して内蔵砲に注ぎ込む。

 しかしすべての発熱量を電力に変換できる訳ではない。

 熱変換発電機構が1秒間で処理できる限界量を超えた熱量が、艦内を循環する冷却液に残留して艦内温度を上昇させる。

 ドラゴン型のリントヴルム級が、広げられた両翼から強制排熱を開始するが、それでも艦内温度の上昇が止まらない。


「焼き尽くせリントヴルムっ!」


 アオイ艦隊長が吠える。

 リントヴルム級から放たれた女王種を襲った極大のレーザー照射が、女王種が張り巡らせた障壁とぶつかり合う。

 拮抗する争いは、両者の内封する総エネルギー量を削り続ける。

 このまま押し切るつもりなのだろう、アオイ艦隊長が操るリントヴルム級重レーザー重巡航艦が、ドラゴンブレスの出力をさらに上げる。


 耐えしのぐ女王種。


 この拮抗する両者の争いに介入したのは、リーフ艦長が操るファイネル級旧型軽巡航艦だった。

 突撃するファイネル級が、艦首横に2基搭載しているリニアカノンから障壁破砕弾を速射する。

 立て続けに女王を護る障壁に着弾した障壁破砕弾は、障壁に弾かれることなく潰れてへばり付き、排除しようとする障壁と激しくせめぎ合う。


 負荷の増大により弱体化する障壁を貫き、容赦なくドラゴンブレスの閃光が女王種に到達する。

とっさの判断なのだろう、ドラゴンブレスを受け止めた女王種の左腕を焼き尽くし、炭化させていく。

 さらにデカ海栗の棘ミサイルが降り注ぎ、女王の体を貫き―――。


『ここですっファイネル・フルバーストっ!』


 ―――好機をとらえたリーフ艦長が、ファイネル級の全力砲撃、ファイネル・フルバーストを敢行した。


 それはファイネル級がすべてを捨ててまで求めた瞬間最大火力の発現だった。

 女王種がファイネル級が向ける2基4門のレーザー主砲と6基のレーザー速射砲の照射に焼かれ、遅れて着弾したプラズマ弾とリニアカノンの砲弾の雨に撃たれる。

 焼かれ傷つき、その体を抉られても女王種の絶叫はとまらない。

 噴き出す体液が宇宙を染め上げ、通過するレーザー光で蒸発していく。


『海賊らしく、とどめは頂くよ。なに、戦果はあげるよ、わたしには必要ないからね。』


 ネージュ大提督が赤いコートの裾を払い、片手を女王種に向ける。

 彼女が操るクロスボーン級海賊戦艦ブランシュ・ネージュ号が艦首の保護機構を開き、空間破砕砲に代わって艦首内蔵砲として搭載された重力破砕砲を展開する。


『グラビトン・ブラストっ!』


 ネージュ大提督が女王種に向けた手を握りしめる。

 それは重力破砕砲による不可視の一撃が、女王種を呑み込んだ瞬間だった。




明日28日は、送別会に参加するため執筆できません。

29日は投稿、できるといいな・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ