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大提督は引き篭もる。  作者: ティム
災禍の討滅者編
101/140

有人船団の奮闘2

戦闘シーンの予定だったのですが・・・・ハウンド級が活躍しきれてないですね。

後半にいろいろ持ってかれてますが、楽しんでいただければ幸いです。


 完成したばかりの5隻の新型駆逐艦が、螺旋機動を描いて敵艦隊に切り込んでいく。

 その艦型はハウンド級、ルル大提督によって名付けられた、敵高速駆逐艦級を追い立て食い殺す為に開発された高速要撃駆逐艦である。


 三角錐型の引き締まった艦体を翻し、鋭く切り込むような旋回機動と艦尾に6基あるプラズマ推進器の膨大な推進力を武器にして、敵艦隊に突入していく。

 艦と艦の間がみるみる広がり、しだいに螺旋の輪が大きくなり、その螺旋内に捕らわれた敵艦を全周囲から袋叩きにして沈めていく。


 ハウンド級は駆逐艦準拠の主砲こそ3基6門しかなくとも、5隻で運用すれば15基30門になる。

 少ない火力を集中運用することで威力を高める機動襲撃陣。その中でも敵艦隊より速力が優越しているからこそ行えるのが、螺旋陣形と呼ばれる艦隊機動戦術だった。

 

 ネージュ大提督の指揮下で、ハウンド級要撃高速艦隊はα14群に続き、迂回機動をとってブランシュ・ネージュ号に近づくα17群に食らいつく。


 いかにハウンド級が速くとも、これほど早く敵艦群に接近するとこは出来ない。それが可能なのは、獲物に食らいつきやすいように、ネージュ大提督が敵艦を攻撃しつつ誘導しているからだ。


 すべてはネージュ大提督の采配である。


『ネージュ大提督、悪いが頼みがある。ヴァールハイトはもうダメだっ。乗員をファーネ級に移乗させてくれっ!』


 通信モニター越しにベルクが、そう告げてきたのは、ネージュ大提督が丁度敵α16群を撃破、その残存艦を撤退に追いやった頃だった。


『了解したわ。出来るだけ艦のベクトルを一定に保ちなさい。接続はこちらでやるわ。』

『ありがたいっ。ヴァールハイトにはこちらから伝える。』


 総員退艦。

 それがプロミネンス社長ベルク・シュタインが、ヴァールハイト号に下した結論だった。

 ヴァールハイト号の受けた損害は船体を構成する装甲外殻を貫き、その先にある動力炉制御室を破壊していた。

 動力炉制御室の喪失、それは戦闘中の総員退艦を決めるほどの致命的な損害であり、いずれ制御を失った融合炉が臨界爆発に至る結果を招く。


そうなる前に融合炉を停止させれば良いのだが、動力炉制御室が破壊されている為、自動停止処理は行えず、たとえ手動で緊急停止に成功したとしても、戦闘中に融合炉が停止すれば、同時に艦の生命線ともいえる電磁障壁も失うことになり、その艦の生存率は著しく低下するからだ。


 どちらにしてもこの艦の命脈は尽きている。

 ゆえにベルクは、ヴァールハイトの放棄を決めたのだった。


『総員退艦だ。聞こえたな、アンドレ、ヴァールハイト号は放棄する。総員退艦しろ。生存者を集めて、エアロックからファーネ級に移乗するんだ。いいか、向こうとは話がついてる。焦らず冷静に、やるべきことをやれっ!』


「イエスっボス!」


 ヴァールハイト艦長のアンドレが、ライブラ号の艦長にして社長であるベルクの命令を受諾した。


「聞こえたな、総員退艦命令だ。全員持ち場を離れてエアロックに向かえ、負傷者も残らず連れて行け、ノーマルスーツは着用しろ、まさか着ていないなんてアホはいないだろうな。最悪宇宙遊泳もあり得るぞ。さあ、動けっ!」


 年齢故か、若干下腹が出てくる中年太り体型に近づきつつあったアンドレだが、総員退艦命令をだしてすぐに、胸元まで下ろしていたノーマルスーツのファスナーをあげてヘルメットを被り、気密の確認を始めている。

 職場の同僚たちも同様にノーマルスーツの確認をし、シート備え付けの緊急装備鞄を肩に掛けた。

 そして、まだ不慣れな者や、慌てて失敗する者を手伝い、脱出の準備を整えていく。


『こちらは泊地同盟軍所属、ファーネ級有人武装船、仮想人格ファーネ0156です。

 貴艦とのランデブーに成功。エアロックの相対位置固定しました。仮設桟橋の設置も終了しています。

 エアロックを解放して速やかに移乗してください。

 なお本艦は戦闘状況にあります。速やかに乗船を完了してください。』

 

 流暢な女性の声で、艦内アナウンスが流れ出す。


 待ちに待った救助が来たのだ。

 しかし、ここで慌ててはいけない。

 エアロックの外は真空の宇宙。

 何の準備もなしにエアロックを開ければ、噴出する空気に押されて船外に放り出されることになる。


 そうならない為に、船と船との間に仮設桟橋が設置されるのだが、桟橋内の気圧がこちらの船と同等になっているか確認してからでないと、エアロックを解放した瞬間に、空気圧によって人が押し出され、桟橋自体を破壊してしまう恐れがあるからだ。


 船と船との間に渡された、気密の保たれた円筒状の仮設通路の長さは10メートルもなく、渡り切るのは簡単だろう。

 しかし電磁シールドで守られている訳ではない通路が、戦闘の余波で破壊される可能性は決して低くはない。

 そうなる前に、全員が向こう側に移乗しなくてはいけなかった。


 脱出の心得はただひとつ、焦らず急げである。


『いいな、敵さんを近寄らせるな。撃って撃って撃ちまくれっ!』


 ヴァールハイト号からファーネ級有人武装船へ仮設桟橋が渡され、乗員の移乗を開始しているのは、ライブラ号からも確認している。

 そして、ベルクはライブラ号の艦長として、敵の注意を引き付ける誘因役をライブラ号に命令した。


「全員いるか、各班ごとに確認しろっ!入口に固まるなっ早く奥に行けっ!」


 どうやっても狭いエアロック付近は渋滞する。

 貨物コンテナ搬入口や機動兵器の出撃ハッチでもないかぎり、乗船用エアロック付近は、人ふたりがギリギリ通れるくらいの通路しか繋がっていないからだ。

 その分奥のメイン通路まで進めば、数人が並んで歩けるくらいの道幅があるのだが、そこまで進んだ乗員から、順次各班長に到着を告げていく。


「機関部要員欠員3名、全員の脱出を確認しました。」


 欠員3名・・・・制御室担当班は全滅したということだろう。

 

『ファーネ級有人武装船へ、ようこそ。ヴァールハイト艦長アンドレさん以下各乗員の皆さま、歓迎します。仮設桟橋を切り離しても構いませんか?』


 ファーネ0156が流暢な言葉で、搭乗員に歓迎のあいさつを告げ、仮設桟橋の切り離し許可を求める。


「ああ、かまわ―――。」


 そう言いかけたアンドレの言葉を―――。


『こちら機関部制御室担当班、ボス、アンドレ、応答してくれっ』


 ―――通信機が告げる生存者の声が途切れさせた。


「こちらアンドレだ、何してやがったこのボケどもっ。総員退艦命令が聞こえなかったのかっ!なんでもいいからエアロックに急げ、置いてっちまうぞっ」

『無理だ、隔壁が降りて出られない、何とかしてくれっ、死にたくねぇ!』

『アンドレ艦長、仮設桟橋を切り離してかまいませんか?』


 ファーネ0156が、変わらぬ流暢な言葉で、残酷な決断を迫る。


「待ってくれ、まだ部下が残ってるんだ。これから助けに行く。」

『本艦は戦闘中です。これ以上の行動遅延は本艦を危険に晒します。』


 ファーネ0156が、まるで変わらぬ流暢な言葉で警告する。


『敵艦、急速に接近中、アンドレ艦長お戻りください。危険回避の為、エアロックを閉鎖します。エアロック付近の方は、速やかにエアロックから離れてください。』


 最後まで、ファーネ0156の口調は変わらなかった。


「俺の事はいい、とっとと閉めろ。」


 そう言い残し、アンドレ艦長は、沈み逝くヴァールハイト号に再び乗り込んだ。


 その背後で、敵の攻撃の余波で仮設桟橋が砕け散り、強制的に隔壁が閉ざされた―――。




アンドレ艦長の行動は勇気?それとも無謀?

それは読み手が決めてください。


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